
安理 由香(あんり ゆか)
橙くんはひとりで寝られない(だいくんはひとりでねられない)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
6年ぶりに再会した隣のお家の橙くんは超プレイボーイの大学生になっていた!! 彼が変わってしまった理由が気になる莉子。橙くんの秘密を知っている美少女も登場し焦った莉子は橙くんに「今夜は私が隣で寝る」と夜這い(!?)をかけちゃって…!! 色っぽ年上男子に夢中。
簡潔完結感想文
- トラウマヒーロが本音を隠し続けるから対症療法として莉子が心の安定剤になろうとする。
- ヒロインが いつ傷ついてもいいように当て馬が名乗りを上げ、先にセーフティネットを設置。
- 結衣で始まり結衣で終わる。つまりトラウマ問題は一歩も進んでいないということ(虚無)。
トラウマ解消前から恋愛が解禁になる 2巻。
色々と順序がおかしい。ヒロインの莉子(りこ)は憧れの お兄さん・橙(だい)に暗い過去があることを予感する。そして彼との関係において そのトラウマを解決しない限り自分が安心できないと分かっていながら、橙の乱れた性生活を見ないようにするために、自分が彼女になろうとする。
莉子は、自分が橙が恐れる夜を一緒に過ごせないことが精神的(性的)にも物理的にも無理だと分かりながら彼との交際を優先する。これは特定の個人が橙の彼女になれば、彼が精神的に落ち着きを見せるという考えでの行動なのだろうか。橙に無理させることになり、より精神状態が悪化しそうな気がする。
そんな未来を予感させるのが当て馬・秀一(しゅういち)の言動だ。手遅れになるまで動かないタイプの男性かと思われた秀一が早くも行動する。しかし それが きっかけで莉子が破滅型の恋愛に邁進してしまう。賢い秀一は莉子の未来が見えているのか、彼女が傷ついた時に羽を休める場所として自分がいることを告げる。これは莉子が橙を選んでも、また秀一に頼るフラグとしか思えない。
分からないのが橙の心境。元々 精神的に危うい人で何を考えているか分からないが、なぜ彼は莉子の告白に対して交際の申し出をしたのだろうか。そこに説明がまるでない。莉子から橙への恋愛感情も過去の貯金や現在の乱れた生活を直したいという、飼い犬を拾った時と同様の莉子の優しさにしか見えない。それにも増して橙にとって莉子が どうして恋愛対象になり得るのかが全く分からない。行きずりの女性ではなく、トラウマ発症前の過去を共有できる莉子なら救いになると思ったのだろうか。
しかし莉子が知りたい過去を何度も、男女の雰囲気が苦手な彼女の弱点を突く形で はぐらかしてきたのに、その答えを述べる前から莉子と交際をするという気持ちの流れも よく分からない。作品として橙の過去を保管しておくために、先に交際して物語を動かしちゃいましょう という理由以外に橙の気持ちを察するヒントが無い。
状況だけが進むが過去のことも現在の気持ちも語られないから物語に入り込めずに傍観している気持ちになる。
肝心のトラウマが何なのかは『2巻』で少しも発表されない。恋愛面が なぜか動いているから1冊分の価値はあるけれど、トラウマ発表は先延ばししている。果たして それが家宝のように大事に取っておくネタなのか今から心配である。
『2巻』は橙と過去を共有するらしい結衣(ゆい)から始まり結衣で終わる。不気味な存在感を醸し出しているものの、結衣の同じような登場の仕方は全く話が進んでいないことを意味していて溜息をつきたくなる。
橙や結衣が何かを語ろうとして語らないまま終わる展開は既に飽き飽きしている。特に橙は自分に厳しい存在(結衣や過去を追及する莉子)から逃避する傾向がある。そう考えると橙が莉子と交際するのは、彼女の好意を利用して、自分に嫌われるような過去を探る言動を封じるためではないかと思えてくる。
これまでもキスを迫ったり性的な関係を匂わせたり、莉子の追及をかわすために彼女の弱点を利用してきた橙。そこに彼女からの好意が分かったから、今度は それを利用して逃げ道にしようとしている卑怯者なのではないかと、橙への不信感は止まらない。


橙と訳ありな関係らしい結衣(ゆい)と接触する莉子。しかし結衣は莉子にマウントを取るだけで何も話してくれない。だから橙のことを知りたいと思った莉子は自分から動いて橙に接触する。『4巻』で2人の住むフロアは8回だと判明するが、その8階の高さでベランダを伝って、彼に質問。そして今夜も女性を呼んで一緒に寝てもらおうとする橙に自分が添い寝するから話をして欲しいと告げる。
それでも橙は以前 話した以上のことを話してくれず、話を逸らすために莉子を押し倒す。これは『1巻』1話のキス未遂と同じ主導権を握る彼のテクニックだろう。莉子は貞操を捧げてでも情報を聞き出したいが橙は応じない。彼なりに遊びの女性と それ以外は区別しているのだろう。
そのまま橙は莉子を家に帰らせようとするが、ベランダから侵入した莉子は自分の家に入れない。頭を抱える莉子に橙は彼女の母親から預かった合鍵を取り出す。引っ越して間もなくの元隣人を信用し過ぎだ。しかも橙が本当にクズなら、莉子母と関係を持って、その逢瀬のために鍵を貰ったのではないかと勘繰ってしまう。
こうして家に帰れた莉子は橙を呼び止め、リビングで彼と並んで眠る。莉子の両親は会社に泊まりの残業で朝まで帰らないという設定。少女漫画にありがちな健在だけど不在な両親に成り果てている。それでも男女の空気が流れないために、飼い犬が安全弁として配置されているのだろう。
これまで以上に親密な空気の中、橙は莉子と思い出話をする。離れていた6年間、彼が時々 自分を思い出すと知り、莉子は やっぱり橙のことを知りたいと思う。
何の情報も得られない2話が終わって ようやく橙が重い口を開くが、そこに結衣からの連絡が入り話は中断。そして橙は結衣も夜がダメだと告げ、そのまま部屋を出ていく。引き留めようとする莉子に また性の匂いを発して怯ませるのが橙のズルいところ。
秀一(しゅういち)は莉子が橙のことで頭がいっぱいの様子が我慢ならず、自分の好意を口にして莉子の気持ちを こちらに向かわせる。橙のトラウマがある限り動かない恋模様を、第三者の当て馬で違う方向に動かそうとしている。
幼なじみとしてしか認識していなかった秀一の告白に莉子は当惑する。6年前は莉子を守れない自分だったけど今の自分は あの頃コンプレックスを抱いた橙よりも大きくなった。秀一は莉子が理想とする一途な人との恋愛を叶えてくれる人。でも気持ちは動かない。莉子が返事をする前に彼らが一緒にいることを認めていた橙が現れ莉子を連れ去っていく。
橙は行きずり女性と一緒にいたけど、その女性は放置。莉子も自分の意志で橙が女性に戻るのを阻止する。橙が自分の都合の良いように、つまり自分を最優先に守りながら色々な人を傷つけていて読んでいて不快。
莉子は自分が橙の手を取って走り出した動機を、彼に自分だけを想って欲しかったという願望だと遅れて分析。だから橙に その想いをぶつける。秀一の告白から始まって莉子の告白で終わる、本書の中で一番動きのある回かもしれない。


莉子の想いに対して橙は交際を軽く承諾するが、真剣に話す前に橙に放置した女性から連絡が入り、その間に莉子は逃亡する。その理由は幻滅ではなく気恥ずかしさ。その後、ベランダで顔を合わせた橙に莉子は改めて彼女になりたいと伝えるが、またも邪魔が入って話は進まない。ただし この日は橙が、目星は付いていたのに女性と一夜を共にしないことが彼なりの誠実な対応なのかもしれない。
自分は橙の望むような夜伽(よとぎ)は出来ない。交際を承諾されても恋愛対象外の自分に莉子は悩む。しかし莉子は橙が女性と関係を切る動きを察知する。お隣さん同士は遭遇機会が多いしプライバシーもないようだ。
昨日 橙に連れ去られた際に莉子が放置したバッグを秀一から返却してもらいに行くと知った橙は独占欲を見せ、莉子が早く帰ってくるようエサを用意する。万が一にでも秀一になびかないようにする保険だろう。
一方で莉子は橙の過去、夜がダメな理由を知らない限り自分が安心できないと直感する。『2巻』全部をかけても何も分からない状況。
秀一の豪華すぎる家で莉子は彼に改めて お断りを入れる。莉子の橙との進展を聞いて秀一は不安視するが莉子の決意は固い。別れ際、莉子は自分勝手に秀一との関係性を友だちに戻したいと願うが、秀一の恋愛感情は簡単に消えない。そして莉子に「この先 つらいことがあったり悩んだりした時はオレのこと頼って」と不吉な予言をする。橙に傷つけられるフラグだろうか。
