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取り敢えず橙くんはひとりで寝られない理由を さっさと話してくれませんか(怒)

橙くんはひとりで寝られない 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
安理 由香(あんり ゆか)
橙くんはひとりで寝られない(だいくんはひとりでねられない)
第03巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

隣家の憧れの人・橙くんと付き合う事になった莉子。でも莉子は“どうして彼がプレイボーイになってしまったのか”“謎の美少女・結衣との関係”など、聞きたいことだらけ。橙は「全部話すから」と言ってくれるが、思いがけない事が起きて…!? 年上幼なじみ男子ラブ。

簡潔完結感想文

  • 今回も「話す話す詐欺」。橙は恋愛や結婚を迫ると はぐらかすホストや結婚詐欺師と同類。
  • 莉子に過去を話したくないから素敵な彼氏を演じて莉子の追及心を幸福で相殺させる橙。
  • 眠れない夜を一緒に過ごす相手は愛のない異性が最適? 同じ症状の者同士、同病相憐れむ。

米では心療内科の利用が一般的です、の 3巻。

失礼ながら長編連載を暗くしすぎて失敗するというのは駆け出しの作家さんにありがちな傾向だろうか。トラウマはあるけどカタルシスがない 本書のような雰囲気は、加賀やっこ さん『一礼して、キス』や吉岡李々子さん『彼はトモダチ』を思い出した。病んでいることや話が重くなることが その作品の価値に変換される訳ではない。そういうバランス感覚も作家のセンスと言えよう。
しかも『彼はトモダチ』はヒロインを含めて壊れていったけれど、本書はヒロインだけは純粋な位置に置いたまま、周囲の人間だけ病んでいる様子を描くから性質(タチ)が悪い気がした。

そして雰囲気や出来事は暗くなる一方、その暗さの原因は『3巻』でもまた話されない。『3巻』でもトラウマヒーロー・橙(だい)は過去を話すと言いながら話さない。それの繰り返し。そこまで大事にするネタなのか…。

交際相手となった莉子(りこ)が知りたいことを知れない代わりに、橙は追及の手から逃れるように彼女との仲を進展していく。自分の触れられたくないこと以外では全力を出せるのが橙という人間。だから莉子の前では完璧彼氏になる。彼女がキスを望めば、オレも我慢してたんだぞ、と飛び上がるほど嬉しくなるようなセリフと共に唇を重ねる。また過去を追及されそうになるとデートをして、自分たちの関係性を親にオープンにしようと誠実な交際であることをアピールする。

橙にとって過去に触れられるぐらいなら このぐらいのサービスは簡単なのだろう。しかし それがサービスに見える時点で2人の関係は造り物めいていて、橙が本気で莉子に恋をしていないのではないかと思える。この橙の胡散臭さはホストや結婚詐欺師のそれと同じ。自分にとっての面倒を上手に避け、お互いに楽しい時を過ごせれば それでいいじゃん、という刹那的な関係を望んでいるように見える。

過去を話す以外なら望むこと全てする完璧彼氏。読者「…いいから過去 話せ」

回、橙と過去を共有する結衣(ゆい)も橙と同じく夜を一緒に過ごしてくれる人を募集している節が見えた。橙の場合、綺麗な女性ばかり選んでいるように見えたが、彼らにとって大切なのは容姿や年齢ではなく実在だろう。結衣の場合、集めやすいのがパパ活がしたい中年男だから そうなっているのだろう。でも結衣が中年OKだと、橙も実は莉子の母親と…という過去の妄想が現実味を帯びてくる。

こうしてトラウマが同じ症例を発するという共通点が見えてきたが、以前も書いたけど、自分の精神の変調に気づいたのなら解決に動けと言いたい。橙は特に金銭的に困っている様子が無いのだから、心療内科を受診し、自分を立て直すべきだ。この2年間はトラウマを理由に過去から逃げていた時間で、橙は だいぶダサい。
今回、結衣も同じ症例に悩まされていると分かって、彼女に対して負い目を感じるぐらいなら、心療内科の受診を勧めた方がいい。逃避するでもなく支えるでもなく、トラウマという重い荷物を軽くするという第三の選択をしないことが、遅々として進まない物語と相まって苛立ちに変わる。

橙のトラウマが幼少期の出来事で、今が高校生なら上手にトラウマに向き合えない理由になるが、橙の場合、トラウマは18歳前後で それから2年間という月日が流れている。なのに彼は自分のメンタルの変調に向き合わない。一応、交際相手に選んだ莉子が望んでいるのに それを話さないのも情けない。莉子を心配させ、結衣を傷つけ、遊びの女性も勘違いさせた橙の罪は深い。顔が良いだけのメンタル激弱ヒーローに魅力は皆無である。


頭は またも過去を聞き出せないという驚くほど中身のない1話(そして『3巻』全体がそれで終わる)。その虚無を2人の交際開始の初々しさで誤魔化そうとする魂胆が見えるから楽しめない。

秘密を話す姿勢だった橙のもとに警察から連絡が入る。結衣(ゆい)が制服姿でホテル街を うろうろしており、身元引受人に橙を指定したために呼び出された。ちなみに結衣は居住地から高速バスで3時間ぐらいかけて移動しているらしい。

まさか いくら作者でも橙が今の住まいから通っている(らしい)大学に その土地から通い続けていた設定には していないだろう。となると2年前の大学進学時に その土地を離れて、大学3年生前後で元の部屋に戻ったのだろうか。じゃあ逆に この2年間は どうしてマンションに戻らなかったのか。謎は深まるばかり。
『1巻』でも気になったが、そもそも橙は なぜ このマンションに戻ってきたのだろうか。部屋ごと橙が所有しているのか、それとも家族用の賃貸マンションを わざわざ借りているのか。所有しているなら人に貸した方が収入になるだろうに。学費・生活費などなど どう捻出しているのか改めて気になるところ。


衣は来年の高校卒業後(ということは莉子の1つ上の学年か)は、この土地に出て働いて、橙から離れないという構想を打ち明ける。そこで橙から作らないはずの特定の彼女を作ったと言われ、結衣は莉子だと直感する。

橙が結衣を迎えに行ったことで過去の話は聞きだせずに終わる。莉子も結衣に会った後は橙の様子が変になるため さすがに踏み込めない。それでも莉子は橙を一人にしたくないと彼と一緒に夜を過ごそうとするが、橙は親バレやベランダ転落など様々なリスクを理由に拒絶。その淡白な様子に莉子は次に恋愛感情について踏み込む。間接的にキスがしたかったことを伝えることになり橙は莉子の願望を叶える。彼女が望むことをすることで彼女から追及の口を封じる。誠実な恋愛をしている振りをしたホストのようなメンタルとしか思えない。

その後は近距離恋愛のドキドキが描かれる。親に内緒で橙の部屋に居る際に母親が訪問してピンチとか、親に秘密の交際の緊張感に加えて、親の質問に答える形で橙が自分の「彼女」について話すなどシチュエーションを楽しむ内容となっている。


去追及から目を逸らす恋愛編は続き、次は犬の散歩デートとなる。その際に橙から莉子の両親への交際発表が打診され、莉子は自分が大事にされていることに喜ぶ。莉子を骨抜きにする結婚詐欺師のような言動にしか思えない。
また橙は交際発表の際に過去を話すと自分は前向きであることをアピール。橙が話さなかったのは莉子に重い話を聞かせて引かれるのがこわいから。情けなさをアピールして莉子の庇護欲をそそらせる(読み方が ひねくれ過ぎか…?)


『1巻』でも似たようなケースがあったけれど、橙が花束を買うと悪いことが起きるようで2種類のアレンジメントを買った橙は2つの事件に立て続けに遭遇する。

1つは平日に いるはずのない結衣を この土地を見かけたこと。結衣が中年男性とラブホテルに入る直前に確保するが、彼女は常習的に「パパ活」らしきことをしていることが判明する。それに対し結衣は橙と同じことをしているだけと反論。そして莉子によって救われようとしている橙に対して涙を見せる。

橙が心療内科を受けて早期に回復してれば結衣から逃避せず助けられたものを…

橙が自宅マンションに帰ると莉子から連絡があり、彼女の飼い犬が息を引き取ったと知らされる。莉子が学校から帰ってきたら既に息をしておらず、莉子は登校したことすら後悔するが、その言っても詮のないことを橙が慰める。身近な人の死を経験しているからこそ、莉子を前に向かせる言葉が紡げるのだろう。


の夜、マンションに一人で帰宅した橙は自分が莉子に優しく接し、結衣とは接触すら避けていることが頭を巡る。だから結衣のことが気にかかり、橙は結衣に連絡を取り、今 彼女が住んでいるという古いアパートに足を運ぶ。これは結衣の地元で実家とは別に家を借りているのか、それとも橙の住む場所の近くに家を借りているのか。説明が無さすぎる。結衣の住まいが橙も かつて住んでいた土地なら その土地に足を踏み入れることだけでも彼にとって大きな意味がある。そういう大事な場面なら読者に分かりにくくなっているのは残念だ。

女性が一人で住むには危険の多い環境を橙は心配し、地元に帰るよう勧める。だが結衣は拒否。橙が手を差しのべてくれない限り彼女の心の傷は癒されないらしい。橙は結衣と一緒にいると互いにトラウマを想起してしまい、2人とも救われないと考え距離を置いた。でも結衣にとっては橙は違う場所に行く金銭と自由があり、そうではない自分を際立たせる結果になったようだ。

結衣は莉子に危害を加えることを示唆するが橙は結衣に初めて謝罪をし、彼女本来の優しさを指摘することで結衣に涙を流させる。そして橙の方から傷ついている人に手を差しのべようとする…。