
松月 滉(まつづき こう)
王子と魔女と姫君と(おうじとまじょとひめぎみと)
第04巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
イケメン男子たちから前世の責任を取れと迫られている、王子系女子・昴。女の子ラブな昴も、彼らのせいで男子を意識し始めてしまって…。そんな中突入した夏休み、理事長が計画したドキドキ臨海学校がスタート! 恋のイベント目白押しで、昴は卒倒寸前!!
簡潔完結感想文
- 個人回の2回目が発生しないプリンスがいる中で、仁だけ個人回5回目という不均衡。
- 他者の心の傷を救う 素晴らしい お言葉を紡がれる教祖・昴という個人崇拝の宗教。
- 名ばかりのプリンス5名に告白されたりスキンシップされたりしてドキドキを確保。
効果が現れるまで個人差があります、の 4巻。
以前も書いたけれど、物語は宿命のヒロイン・昴(すばる)が誰を選ぶか ではなくて、皆に愛されていく様子を描くことを目的としてしまっている。その前提が まず間違っているのだけど、昴に惹かれるプリンス5人の様子を順次 描くことによって、ヒロインが ずっとモテモテのターンという少女漫画読者の承認欲求を常に満たし続ける。
けれど それは同じことが5回以上繰り返されることを意味している。好きになるスピードに個人差があるから、今回のように隼人(はやと)が最初の告白イベントを終わらせる一方で、零時(れいじ)のように素直に想いを口にするまで時間を要する人もいる。その時間差を利用して、全員が告白を終えるまで日常回が続いていく。最早 前世とか関係なくて、モテモテな日常である。
本書で逆ハーレムと逆ハーレム状態は違うのだな、と思わせられた。中条比紗也さん『花ざかりの君たちへ』や葉月ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』を例に引くまでもなく、白泉社には逆ハーレム状態の作品が少なくないが、本書のように登場する男性キャラ全員がヒロインを大事に想っている、という作品は多くない。その逆ハーレム状態は主要キャラの個人回が全部モテに繋がるワンパターン防止に役立っていたことを本書を読んで痛感する。
せめて余り役に立っていない先輩組2人は理由を作って現世では恋愛争奪戦から降りていることにして、王子の行く末を見守る立場で仲良くしているとかの方が良かったのではないか。6人から好きになられるのは いくら何でも多すぎる。
それでいてプリンスたちと仁(めぐみ)との間に登場回数に偏りがあるのも嫌だ。例え仁エンドが決まっていたとしても、せめてプリンスたちと横並びにして欲しい。仁1人 VS. その他プリンス、という比重に見えてならない。
その5回以上の繰り返しの宿命に加えて、作者の お話作りのワンパターンがある。どうも ヒロインの笑顔と説法は絶対、という傾向のある作者は、毎回 プリンスや米子(こめこ)が昴を好きになる際に昴に その心を救わせる。これによって心の傷 → 昴の言葉で救われました、という一種の宗教宣伝が連続していて、本書が昴を教祖とした宗教説話集に見えてくる。ヒロイン至上主義の究極形といえる変な宗教臭さを脱して欲しい。


これも以前に描いたことだけど、昴に心を救わせるために全キャラが そこそこ病んでいるという絶対 付随する不幸も読んでいて楽しくない。傷ついていることを何度も反復されても困る。
本書におけるワンパターンは、ヒロインを崇める話しか作れない自分や、繰り返しのもたらす副作用を予測できなかった作者の落ち度だろう。早い内に人気作家になってしまったが故に作家としての力量を鍛え切れずにいるように思う。
夏休みが視界に入った頃から少しずつ男性を異性として意識し始めた昴。彼女の也に進歩しているようだけど進みが半歩だから読者は飽きる。
本書初の夏は臨海学校から始まる。その準備をするために女友達と、母親から その護衛として命じられた仁とで買い物に行く。実質 仁回で4回目か。
この買い物回は途中から米子(こめこ)の個人回に移行する。ショッピングモール内で米子は失恋した元婚約者と遭遇。婚約破棄を自分に都合よく話す男性に対して米子の代わりに仁が怒りを露わにする。これは彼の態度が置いていかれた側の気持ちを考えておらず、自分勝手に思えたから。そういう姿勢が父親に出ていかれた仁のトラウマを刺激したらしい。
制御不能になりかけた仁を昴がコントロールし、その上 米子の心を救う言葉を述べるという いつもの展開が始まる。これで米子は過去に踏ん切りを付けられるのだろう。しかし米子もまた昴の聖女エピソードの踏み台である。
臨海学校は当然 海回で水着回である。本来は昴たち2年生の希望者だけが参加する学校イベントなのだが、他の3人のプリンスたちも参加する。各話の前半はページ稼ぎか各キャラが暴れるだけで本筋と関係のない話が延々と続く。
海回なので元 人魚姫の隼人の個人回(2回目?)となる。おばけが苦手で肝試しが嫌な昴が逃避行動として泳いでいる最中に足がつって それを隼人が助ける。海から岩場に緊急避難した隼人は昴と一緒にいる光景が前世を思い出させ、恋心が加速させる。ここまで明確に告白したのは隼人が初めてか。でも隼人は吉野(よしの)の存在によって最初に脱落している人だから盛り上がらない。


その夜、苦手な肝試しを零時(れいじ)とペアになって回ることになった昴。零時回(3回目)である。弱みを見せたら付け込まれることが分かっているから平常心を保とうとする昴だったが、零時に見破られてしまう。だが零時は昴と しのぎを削ることはあっても、弱点を突こうとは思わないようだ。
少女漫画は森に入ったら遭難するもの。例に漏れず遭難し、昴のメンタルは限界を迎えようとしていた。そんな昴に零時なりに手を差しのべ、彼女に服を掴ませることを許可する。その遭難中に零時はフェアな精神で自分の弱みを明かす。そのトラウマを聞いた後、零時が大事なアイテムである お守を道中で落としたことを知った昴は、その捜索に意欲を見せ、それを零時の手に渡す。こうして攻略が難しい零時の心も奪っていく。だから今度は手を繋いで2人で暗い森を歩く。
夜は夢路(ゆめじ)のターンかと思いきや早寝の宿命で彼の出番は終了。好きな人には申し訳ないけど いらないなー。
臨海学校は1日目に遊んで2日目が勉強という謎の日程。この日は結局 仁回だろうか(5回目)。昴が男性に頬を赤らめる自分を認めて、また一歩 恋愛の準備が整ったという話なのだけど、タイパを求める21世紀の読者たちにとって非常に効率の悪い話の進み方だと実感する。
