
松月 滉(まつづき こう)
王子と魔女と姫君と(おうじとまじょとひめぎみと)
第09巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
文化祭の演劇で熱演中の昴。舞台は裏台本に突入して予測不能な展開に! 訳もわからずドレスアップさせられた昴の姿に元・姫たちは大興奮☆ そして、裏台本のラストは「王子と魔女のキス」──!? 「幸福喫茶3丁目」のカフェ・ボヌールの店員たちが登場する番外編も収録!
簡潔完結感想文
- 魔法と呪いの二重掛け、という仕組みが よく分からないのに大盛況で終わる演劇。
- 学校イベント → 風邪回 → 学校イベント → 風邪回。まだ風邪 引いてない人 誰~?
- 体育祭の限定後夜祭と同様、昴の お見舞いもプリンスたちの勝負。勝者は いつも仁。
体育祭も文化祭も1巻以上の分量を費やす、の 9巻。
『9巻』にして初めてヒロインの昴(すばる)が女性らしい格好をしている。ウィッグを付けて伸びたように見える黒髪は仁(めぐみ)の好み。仁は昴のことを家族以上の感情で見ていると恋愛戦線に参加しない意向を見せ続けているが、その仁が昴に髪を伸ばすように言うのは、彼女を女性として見ている証拠だろう。仁が定義する大切な者に対しては恋愛感情を持ってはいけないと思っているのは彼だけで、そう思うのは彼の中のトラウマという呪いが現在進行形で発動しているからだ。


そして王子と魔女の呪いと魔法について触れられるのが『8巻』から続く文化祭での演劇。『9巻』は物語の真相に肉薄している裏台本がメインとなる。しかし なぜ前世関係者ではない昴の叔父が これを書けたのか謎である。プロの作家の想像力の賜物か、それとも米子(こめこ)が何かしら知っているのか。その辺の説明はない。
しかも この演劇があるから最終巻の衝撃が軽減されてしまう。ここまで肉薄させるなら、ここで真相披露すればいいのに。エピソードの順番が残念な並べ方である。その上、最終巻でも今回の劇中の説明ぐらいの分量と大雑把な内容しか明かされないから評判を落とす。
今回、最も大事なのは王子と魔女である昴と仁には「魔法と呪い 二重の術」が かかっているという点だろう。読者である私が何度か読み返しても ぼんやりとしか理解できない内容を観客は理解しているようで、演劇は大盛況に終わる。私なりの考察は後述する。
見極めが難しいのは作者は この説明不足を わざとやっているのか、それとも これで伝わると思っていたのか、という点。これは本当に分からない。全てを理解している作者にとっては今回も最終盤の種明かしも含め ちゃんと説明しているつもりなのかもしれない。その一方で、作者も上手く説明が出来きそうにないから いつまでも誤魔化していると、作者の力量を信じ切れない私は思ってしまう。
また、真相に90%以上肉薄している この演劇から一気に物語を畳めば良かったのにダラダラと続くのも変な構成だと思う。少女漫画の作法としてヒーローのトラウマ解消や恋愛解禁による告白までの道程、当て馬たちの処理など色々と準備はあるのだろうけど、準備と処理に費やす時間が長すぎる。
それは今回の演劇後も同じ。劇が終わったら一気に昴の風邪回まで飛んでも問題ないと思うが、演技を見た人たちの感想や打ち上げ、風邪回での見舞いの参加者決めなどでページを浪費していく。6人の男性たちの騒がしさが本書の魅力の一つなのだろうけど、その割に会話が特別面白い訳でもない。1巻で核に触れたと思う部分が少なすぎる。体育祭もそうだったが、単純に長すぎる。そこまで大人気の作品じゃないのだから1巻分の分量に収めて欲しい。
前巻に引き続き文化祭で上演している演劇。冒頭から再び「裏台本」に突入し、本来の運命の相手だった米子(こめこ)は劇中で裏切り者となり恋の候補から外れる。
この裏台本では米子は全ての事情を知る「大魔女」になる。そして大魔女の魔法により現在は魔女として生きる者(仁の役)こそ この国の本物の王子だという。大魔女という言葉は『1巻』の前世の説明の頃から登場している言葉で、作者は「魔女」と「大魔女」を きちんと分けている。魔女と呼ばれる者が本来の王子ならば、王子と呼ばれる者(昴の役)が魔女ということになる。
ここで演劇の前半は終了。後半は30分後(大作だけど観客は飽きるだろう)。この幕間に昴と仁だけ呼び出されて衣装替えがある。姫役のプリンスたちは蚊帳の外。本書らしい無慈悲だ。
昴はウィッグにメイク、そしてドレスを着せられ、本書で初めて女性らしい格好をする。その自分の姿に羞恥した昴は逃亡するが、その途中で仁に遭遇する。長い黒髪は仁が希望していた髪型。仁は演劇の展開に疑問を抱いたプリンスたちの追跡をまいて昴と2人きりで隠れる。そこで自分が女の子らしい姿をすることに抵抗とトラウマがある昴の心を仁は解(ほど)く。ただ昴には仁の態度が自分のいない世界を見据えたような突き放した行動に感じられた。だから彼に それを伝える。実際に仁が感じているのは昴に突き放される恐怖だった。
後半から昴が魔女役となる。魔女ということは女性である。


この魔女には呪いと魔法の二重の術が かけられていた。
おそらく呪いとは性転換のこと。王子だった昴が夜に女性に姿になり、こうして王子は女性と恋仲になること、そして子孫を望めなくなった。これは魔女であることを思い出した今の昴にも有効。今度は男性になり、望む相手と添い遂げられないようだ。
一方で魔法は大魔女が施したもので2人の記憶の入れ替わりのことだろう。魔女の昴は王子・仁を慕ったが、王子の周辺から王子を たぶらかした忌まわしい魔女だと決めつけられ襲撃を受けた。その襲撃を知り王子が魔女を見つけ出した時には虫の息だった。そこで王子は大魔女に助けを求め、弟子である魔女が王子と関わったことで不幸になったと考える大魔女は2人の姿を変え、記憶を消すことにした。その魔法が解けるのは どちらか一人が真実を思い出せた時であった。
今回、仁の王子が真実を思い出せたので記憶は戻り、元の姿となった。
残る呪いの解除の条件は本物の運命、愛を知ること。そこで大魔女は魔女に、愛する者の口づけで目覚める魔法をかけた。眠る魔女に対し王子がキスした時、魔女が王子を想っていれば目が覚めるという。ならば魔女が自分の想いに従って王子にキスをする/しない という選択をすればいいのだが、それでは演じる昴が拒否してしまうからか、そういう筋書きにはならない。
仁は昴に顔を近づけ、手でガードする形でキスをする。それが本当なのか演技で終わったのかは当事者しか分からないから物議を醸す。演劇は魔女が目を覚ますことで愛が証明され、2人は結ばれるというエンディングを迎える。
それにしても呪いと魔法の二重掛けについてが分かりにくく、私は何度も読んで上記のような理解したけれど観劇していた観客が すぐに これが分かるとは思えない。作中では大盛況で終わっているが…。
上演後は観客として見に来ていたキャストの親族の挨拶回りがある。兄弟のいる真白(ましろ)や零時(れいじ)の兄弟が順々に登場しページを埋めていく。また吉野(よしの)が隼人(はやと)に望まれて彼の写真を初めて撮るエピソードがある。吉野の辛くても この恋を頑張る姿は昴よりも よっぽどヒロインしている。メインの恋が動かないならサブの恋を動かすのが白泉社作品。見たいのは そっちじゃない、という声を私たちは いつまで上げるのだろうか…。
夢路(ゆめじ)は眠気がピークに達した際に告白回と風邪回みたいなことを まとめて消化される。夢路回は ようやく3回目か。昴が身体的接触などでドキドキするのは夢路エンドのミスリードなのかと思ったら別の理由が用意されていた。どこまでいっても夢路は端役。
演劇を薦めた家庭部の人たちや関係者で打ち上げをして長かった一日が終わる。かと思いきや、文化祭前後で張り切り過ぎた昴の風邪回が始まる。昴の変調を仁は気付かないで父親が気づくという展開が意外だった。何年も離れて暮らしていても分かり合えるのが親子なのだろうか。風邪回は人を替えて3回目。少女漫画読者は普段 見られない表情を見せるキャラたちにフェチズムを刺激されるのだろうか。
昴は翌日、学校を休むことになり それを知ったプリンスたちによって見舞い争奪戦が繰り広げられる。見舞いに来たのは仁・零時・真白・隼人と米子の5人(選抜の割に人数が多いよ)。この4人の男性が現時点の上位4人という意味は、ないか…。作者の お気に入り または 性格的に描きやすい順は あるかもしれない。
集団での風邪回かと思いきや、その夜、昴の父親が仕事のため家を空けなければならなくなり、仁は看病を頼まれる。仁回の11回目ぐらいだろうか。昴が学校にいないことに仁は居心地の悪さを感じたようだ。仁の大きすぎる愛が恋愛感情になるには呪いの解除が必要か。
「王子と魔女と姫君と 番外編」…
前作『幸福喫茶3丁目』とのコラボ漫画。人を笑顔にさせることが得意なヒロイン同士の出会いとなるが、前作のヒロイン・潤(うる)の方が笑顔のパワーが大きいように思えた。まぁ一番の感想は、結局 本書はキャラのデザインも立ち位置も結局 前作の二番煎じだよね、という根本的な批評でしたが。
