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あの人のために選んだ靴ではなく、普段のままの靴で 初めて自分の想いを男性に伝える

シンデレラ クロゼット 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
柳井 わかな(やない わかな)
シンデレラ クロゼット
第05巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

心が言ってる――光じゃなきゃ、ダメなんだって。女装男子・光の魔法で自信をつけ、黒滝と付き合えた春香だが、結局失恋してしまう。でも、立ち直れたのも、やはり光が居てくれたから。そこへ、光の専門学校の男友達・シウが現れる。何だか親密な雰囲気のふたりを見て、春香の心に湧いたモヤモヤは、親友を取られた嫉妬? それとも…? そして、光の秘めた恋心がついに…!? 想い花開く、第5巻!

簡潔完結感想文

  • 光への恋心を自覚してからライバル関係になるのは男性。さすが多様性シンデレラ。
  • 同じように大切で同じように好きだから、実は はるか と同じぐらいテンパってる光。
  • キスしてない恋人を家に呼ぶ(2回目)。でも今回の恋は一生一緒にいる人だからキス解禁。

子様の正体は当て馬だった!? の 5巻。

タイトルにもあるように本書のモチーフはシンデレラだろう。しかし この二段ロケットとも言える、1人の男性から別の男性へのシフトは『アナと雪の女王』のアナの恋のようである。
アナは一緒に冒険することでクリストフに惹かれていったが、本書のヒロイン・はるか には これまでの光(ひかる)と過ごした数か月がある。光への気持ちが恋であることに気づくのが遅かっただけで、彼に惹かれる期間は十分あったと言えよう。

確かに はるか も懸念している通り、前の彼氏・黒滝(くろたき)との恋を終えると決断した直後の次の恋は「軽い人間」だと思われる危険性もある。だから私は もっともっと両片想いが長い期間続くものだと思っていた。
作品が その予想を裏切ってきたのは、時間をかけると光から告白する確率が高くなってしまうからではないか。現代シンデレラとして、おそらく本書は はるか からの告白を狙っていたはず。男性である光から告白されて女性が幸せになるのではなく、はるか が自分が誰を好きかを明確にして、恋を知った最初の日から培ってきた自信と勇気を奮って光の前に立つのが重要なのだろう。

光との関係で重要なのは嘘のないこと。だから はるか は恐怖を乗り越えて光に向き合う

おそらく黒滝と付き合うことになった『3巻』で、自分で選んだシンデレラになれる靴を履いて黒滝の前に はるか は立ったが、交際の提案は彼の方からされたのも、作者の入念な配慮だろう。『4巻』の感想文でも書いたけど、本書は ほぼ全てのことを黒滝ではなく光と初めて行うように気を付けていた。デートも はるか の部屋に入るのも、手料理を振る舞うのも、そしてキスも。全てが光が先に行い、光のためにイベントを残していた。

告白もまた その一つ。はるか が自分から告白する相手は光だけ。黒滝に するのはもちろん、光から告白される事態も避けなければならない。だから はるか は自分のプライドや逡巡を振り切って、一直線に光に告白する。彼が異国に行ってしまうのも、彼が自分を嫌うのも はるか にとっては絶望に値すること。だから光から受け取った言葉と光が育んでくれた自信と、そして自分の これまでの成長を携えて はるか は光の前に立つ。私は告白よりも、それまでの流れ、はるか からの告白を大事にしてくれた作者に感動を覚えた。

この時の はるか が背伸びするような形になるハイヒールではなくスニーカーであることも意味があるように思える。光には素顔の自分も着飾った自分も見せていて、等身大の自分でいられた。その心地良さの続きとして今度は恋人になりたい。だから この時の靴は、黒滝のために用意した靴ではなく、自分の普段の靴なのではないか。

そして初読は はるか の言動や心情に思いを馳せるが、この日 告白することを決意していた光の緊張や焦燥、余裕の無さを追うのも楽しい読書体験になるだろう。男ヒロインとして大変よく頑張りました!


哀想なのは、作品の王子様と位置付けられながら、実は徹底的に当て馬扱いされている黒滝だろう。彼が はるか たちの両想いに対して何を思い、どんな言葉を掛けるのか その時が来るのを楽しみに待ちたいと思う。一般的な恋愛なら元カレに次の恋の報告などしないが、本書は黒滝とも普通に会話できる下地が用意されている。

出来れば即時 知ることのないことを祈るばかりだ。交際時期を誤魔化せるぐらい時間が経過してからの報告ならいいが、自分と別れた直後とも言える時期に はるか と光が交際していたと知れば、これは黒滝の新たな恋愛トラウマ事案になりかねない。実は自分は二股されていて、光との交際の目途がついたから嘘の理由を並べて はるか は別れたがったのではないか、と勘繰っても おかしくない状況である。そしてミオリンの言う通り、男はかっこつけたがるし、繊細で、言葉を額面通りに受け取ってはいけない。黒滝が はるか に祝福を述べても彼の本心は どういう状態なのかは彼しか分からないだろう。

黒滝がショックを受けなくても はるか との交際の真剣度を疑われるし、ショックを受けると はるか が黒滝の恋愛トラウマ加害者の一員に名を連ねてしまう。なかなか難しい立ち位置である。ミオリンの光への気持ちも無かったことになっているし、色々 配慮した結果、色々と中途半端な恋心になっている面も否めない。作品全体が黒滝への恋は憧れで本物ではなく前座に過ぎない、と言っているようである。

ミオリンと黒滝の接近は、ミオリンと光の接近にモヤモヤした気持ちを誤魔化すための方便のようにも思えてしまう。今までは光が不憫だったが、ここまでくると黒滝が不憫になってくる。もう少し良いバランスは無かったものか。


るか は鈍感ヒロインのスキルを発揮して光の好きな人が時宇(シウ)なのではないかと勘違いする。そういう視点で見ると2人の距離感は近く、モヤモヤした感情が溢れ出す。

花火大会の日に行われる専門学校のショーの打ち上げに はるか も呼ばれる。光が彼女を呼んだのは花火大会を見るという項目が「やりたいことリスト」にあったから。もしかして光が項目をクリアするのは「彼氏を作る」という項目を早く自分で達成したいという気持ちがあるからかもしれない。
だから光は このところずっと はるか の前では男装。前半戦は光が はるか の世界(主に黒滝だけだが)に入っていったが、今回は光の世界を はるか が垣間見る。そうしてシウと会話すると彼からは確かにマウントの存在を感じる。シウは学校卒業後、母国である韓国に帰る予定。そして本当は光を連れて行きたい。そこに光への思慕を感じ取った はるか は光が遠くに行ってしまうことに焦燥を覚える。シウが母国に帰るというフラグは、一定時間を過ぎれば恋のライバルは撤退するということなのか。

光がいなくなる、もう気軽に会えないかもしれない、そう思っただけで涙が溢れる。その後にシウに騙されたと分かって安堵する その気持ちは確かに光を求める、友情以外の感情であることを はるか は自覚する。

ミオリンと違って明らかに光への好意と はるか へのマウント圧力を持っているシウ

揺する はるか に光は自分が好きな相手が女の子であることを告げる。それが誰だか分からな鈍感さんは、その相手に羨望を覚える。

光にとってシウは自分の恋愛対象が男か女かを分からせてくれた存在。泥酔した光はシウとホテルに行ったが、お断りした。シウは光のことを よく理解していて、男女の垣根がない光のファッションは武装であることが分かっている。素顔の自分に自信がないから、フリーとなった はるか にも告白できない。光が足踏みするのは彼の自信の問題だった。魔法使い自身には魔法は効力を発揮しないのだろうか。シウは自分を愛することから始めなければ、他者に自信を与えられる提案は出来ないと言う。


れぞれ一番の友人だった人には もう恋愛相談が出来ない状態になるから、光はシウに、はるか はミオリンに話を聞いてもらう。はるか は黒滝の時のような分かりやすいトキメキを感じない。光は既に身近にいすぎて分からない。そして つい先日 失恋して泣いて髪を切った自分が早くも次の恋愛対象を見つけたことが自分でも信じられない。そんな はるか に綺麗に進行しないのが恋だとミオリンは言う。これは読者に対するエクスキューズのようにも聞こえる。
はるか の気掛かりは光の恋の相手のこと、そして告白で今の関係性が崩壊する不安。だから はるか は現状維持の女友達を望む。


んな はるか に光はデートを提案する。この時ちゃんと男の恰好(というか裸だけど)をしているのが彼の決意の表れだろう。
デート当日も男装。この日は光が全てのプランを立てる。さり気ないリードをしたいという年相応の男の子の素顔が見える。デートスポットに連れられて はるか は一層 光のことを意識する。

動き出しそうになる気持ちと、女子力皆無だった自分を知られている今までの2人の経緯と、光の好きな人を考えるで はるか は混乱する。そして光から誰かから告白されたら付き合うのか?と問われ、自分が軽い人間に思われたくないから、絶対にないと断言してしまう。その発言が自分の幸せを先延ばしにしてしまうとも知らずに。

光を男性と意識すると、今までは2人で平気で出来ていたことが出来なくなる。そこに光は はるか との距離を感じ、冷静さを失ってしまう。両片想いなのに上手くいかない2人が もどかしい。


けど はるか は これまで光から貰った助言と自信を思い出し、光に向き合い 自分の気持ちを ちゃんと伝える。無理だろうと軽いと思われようと、光とは嘘をついたままの関係でいたくない。その切実で誠実な想いこそ はるか の光への愛情である。光と お揃いのリップを塗った口で伝えるのは光への恋心。

予想外の展開に今度は光が混乱。この日、一生懸命 光がデートプランを考えたのは告白をするつもりでいたから。なのに はるか に先を越されて光は参っていた。でも この誤算は嬉しい。ずっと一緒にいたいと思うのは はるか なのだ。

光のデートプランは まだ残っていて その後も一緒に行動する2人。だけど はるか は緊張と混乱で上手く身体が動かない。これまでも、そして これからも友達でいたいと願っていた人が あっという間に恋人になってしまった。これまでの時間があるから動き出しはスムーズじゃなくても、2人は時間をかけて恋人であることに馴染んでいこうとする。


想いをミオリンに報告すると、ミオリンから自分が出会った時から光は はるか に恋をしていたと聞かされ、はるか は自分の無神経さ、そして光の優しさに感謝を覚える。

そして黒滝と同様、光とも まともにキスをしていないのに、彼を自宅に呼ぶ。その自分の一足飛びの行動に緊張しながら、はるか は等身大の自分で光と接する。改めて気取らなくていい、普段の自分を受け入れてくれる、それが光だろう。

そして光は はるか の警戒を理解してくれるし、光も また両想いになって浮かれた あの日の言動が悪影響を与えているのではと不安になっていた。彼らは気持ちの歩幅も、相手に対する下心も同じ。その想いを重ねるように二人は唇を重ねる。