《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

王子様には元ネタがある。弟キャラのオリジナルが出現し颯太のレゾンデートル崩壊寸前

王子様には毒がある。(6) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
王子様には毒がある(おうじさまにはどくがある)
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ついに恋人同士になった りずと颯太! イチャイチャしたいふたりだけど、学校のアイドル・颯太に彼女ができたというビッグニュースは校内に広がり――!? さらに、“あの男”も帰ってきてドキドキの新章突入☆ 美しすぎる颯太くん、暗躍。あざとかわいい幼なじみラブ!

簡潔完結感想文

  • 交際で浮かれて颯太は りず の危機を見逃す。自分を恥じて恐怖政治はじめます(刹那)
  • 幼い りず が大事にしていた達海は、この10年で順調にワイルドイケメンに成長した異性。
  • 颯太は椅子取りゲームで達海の不在後に その席を奪ったに過ぎない。排除はじめます。

ノマネ芸人の後ろから ご本人様登場、の 6巻。

『6巻』は まさに一文目のような内容である。これまで あざとカワイイとドSの無敵の二面性で本書のヒーローとして君臨してきた颯太(そうた)だったけど、彼のキャラの半分はモノマネによって後天的に習得したもの。その元ネタとなったのが、幼なじみ・りず の弟的存在だった達海(たつみ)という男。

少女漫画的に恐ろしいのは、達海は複雑な家庭事情や経歴がトラウマになっておりヒーローの資格を有している。しかも稀有な才能もある。しかも年頃の男女の同居という少女漫画における絶対カップル成立条件が整っている。もちろんグッドルッキングガイである。

これに対して颯太は隣に住む幼なじみという絶対武器を所持している。そして極端な性格という特に掲載誌「別冊フレンド」で優遇されるヒーロー像も付与されている。また幼い頃の性格や 今のこじらせ具合からトラウマも用意できるだろう。カッコ可愛い容姿は本書の中でも颯太だけが有するスキルだ。

いきなり「ご本人登場」で交際直後の颯太の幸福感は一気に砕け散る。10年越しのライバル

この2人の諸条件は どちらもヒーローに相応しい。というか同居という条件がある限り達海の方に軍配が上がりそうだ。だから颯太は同居を早く崩したかったのだろうか?
まぁ達海は『6巻』からの正式参戦で、1話に登場していない時点で圧倒的に不利なんだけど。ただ りず の記憶においては達海の方が早く存在している。りず の記憶が回復し、混乱が収束したら正式な幼なじみの座は達海になるかもしれない。『6巻』から登場したキャラが恋愛の勝者になったら、それはそれで伝説的な作品になったと思う。

これまで私が読んできた200作品余りの作品で恋愛が成就することになったヒーローが遅れて登場したのは1作のみだろう。しかも初登場は『2巻』。それだけで伝説的な作品だと思うけど、もっと遅い作品は生まれないものか。明らかに後発キャラ、当て馬キャラが最後にヒロインを かっさらっていく作品を読んでみたい。やっぱり炎上しちゃうのかな。作家人生に関わるのかな。


もそもは、りず が一時期 一緒に暮らしていた達海の別居という喪失感に心が整理できずに壊れかけてしまった時、颯太は彼女の心を守るため達海のキャラを踏襲したのが始まりだった。これまで幼稚園児ながら世の中の全てを恨んでいるような目をしていた颯太が一転、「なにもできない かわいい颯太くん」というキャラを獲得した。これにより颯太は その後の10年間ずっと りず の隣にいる権利を確保し、モノマネ芸人に過ぎない自分に葛藤しつつも りず と両想いになった。

けれど『6巻』から正式に達海が加入し、颯太は再び自分の存在意義の危機となる。オリジナルが この世界から居なくなったから、モノマネ芸人の自分が後釜として認知されてきた。しかし達海のカムバックは颯太の これまでの人生の空虚さを炙り出す危険もある。
だから颯太は、りず が交流の断絶によって達海の成長に戸惑って彼を拒絶している内に達海の排除を試みる。達海が自分にとっても、自分たちの交際にとっても障害になることが聡明な颯太には分かっているのだ。りず に接近する異性と颯太による排除計画、というのは基本的に『2巻』の吾妻(あづま)との対決に似ている。

達海は颯太が一番 恐れる存在といって いいだろう。そして颯太は りず に元来の自分の性格である冷酷さを見せられない。それを見せて拒絶されるのが怖いから、両想いになっても弟キャラでい続ける。そうしてキャラを演じることで辛うじて2人の交際は成立している。

当初は場を完全に支配している雰囲気のあった颯太だが、彼の方が りず よりも葛藤していて、本当の幸福を模索しているように思う。自分で演じた二重人格に後々苦しむという展開は池山田剛さん『萌えカレ!!』の展開に似ている気がする。「俺様」キャラに理由が ちゃんと用意されているところも2作品は似ているかもしれない。


ず が学校内で颯太との交際を宣言したことで、多くの人がショックを受ける結果となる。
ここで これまでの登場人物が再登場し、ショックを受ける様子が語られる。その再登場組の中で、りず を愛する みゆ と、颯太の親衛隊メンバーの利害が一致し、彼らは誰も傷つかない、颯太が吾妻(あづま)エンドになるよう画策する。

その吾妻は りず が校内で嫌がらせを受けているのを察知し彼女に親身に接する。それを颯太が目撃し、しかも嫌がらせの事実を隠匿したい りず が自分と距離を取っていることを感じる。

みゆ たちによって颯太は吾妻と軟禁され、そこで颯太は りず への嫌がらせを知る。よりによって吾妻から、りず との両想いで浮かれていた自分を指摘された颯太は全校集会の途中に乱入し、りず への嫌がらせに容赦しないことを裏の顔丸出しで宣言する。久しぶりに見せる裏の顔を、自信のキュートさで相殺し、生徒たちの印象は今まで通りになる(もはや魔術)。その一方、嫌がらせをした生徒たちは颯太の怒りがダイレクトに刺さり、行動を反省する。


うして交際の余波を乗り越えた2人だったが、その後に本当の波乱が到来する。
りず たちの前に登場したのは朝倉 達海(あさくら たつみ)。りず の親戚で、一時期 姉弟のように一緒に暮らした人。表の颯太の人格のオリジナルといえる存在である。

「かわいくて なにもできない達海」だったが、今は颯太よりも背の高い青年に育っていた。
けれど10数年のブランクと彼の成長具合に りず の理解は追いつかない。りず にとって達海の成長後は、今の颯太のようなイメージだったのだ。自分の目の前にいる男性が達海であるとは思えず、りず は達海を拒絶する。だが彼は確かに幼い頃の記憶を持っていた。そして その記憶は颯太が いくら欲しても得られない、彼だけのオリジナルの記憶。

それでも達海の笑顔に昔の面影を、自分への信頼を感じ取る りず。だからこそ混乱する。

しかも りず の母親は親戚でもある達海を自宅に宿泊させる。その認めたくない現実から目を背けるため、りず は颯太の家をベランダづたいで訪問する。颯太のベッドを借りて眠ろうとするが、そこで思い出すのは達海と別れた時の喪失感。そこで颯太のそばにいき、ようやく安心して眠ることが出来た。


れでも目覚めると現実は続く。りず の家には達海がいるのだ。

その達海は お弁当を届けに りず の学校に現れる。そこで達海と同棲していると勘違いされ、颯太の彼女であるはずの りず は吊るしあげられる。その場を収拾するのは颯太。誤解を解き、りず を暴動から守ろうとする。そして達海にも自分が りず の彼氏だと達海を牽制する。今でも颯太は りず に近づく異性を許さない。

達海が りず に与えた傷は颯太が癒やした。今更カムバックしても達海の席はない

2人の交際の事実に達海はショックを受ける。達海にしてみれば颯太は、かつての自分が持っていた可愛さを未だに保持している存在。成長してしまった自分には手の出せないキュートさである。もちろんショックを受けるのは達海が ずっと りず を好きだったから。彼もまた弟ではなく、一人の男として りず に好意を寄せていた。


かし それは弟として大事に思っていた りず を傷つける想いだった。

最近になって りず は達海の存在を思い出した。それなのに今 目の前にいる達海は外見も、そして内面も自分が想像していた彼とは全く違う存在になっていた。だから りず は達海を思い出そうとした時と同じように混乱する。

今の りず の逃避先は颯太の胸の中。その颯太は りず を困らせる達海のカムバックを快く思わない。そして混乱する りず に対しても、達海が酷いと囁いて、思考を誘導する。

ただ一緒に暮らしていると、達海の中に昔の彼がダブることがある。そして彼が自分のことを本当に好きであることも伝わる。そこには今の りず の混乱を収束させる気配がある。


海はアメリカで才能を認められたアーティストだった。

そのことを知った颯太は その情報を糸口に、達海の現状を把握する(電話越しでも無敵の颯太くん☆)。達海は契約している事務所に無断で日本に来ていた。だから颯太は達海の後見人に居場所を伝え、アメリカへの帰国を強制させるよう仕向けた。

こうして颯太は達海の排除に成功する。その動機は彼が邪魔であるという現実的な側面の他に、達海を模倣した自分のキャラがオリジナルの登場によって無意味になることへの怖れもあるのだろう。颯太にとって、りず の中の達海は封印されていればいい存在なのだ。

一方、りず は幼い頃に達海と一緒に暮らしたのは、達海が両親に育児放棄されていたからだと母親に聞かされる。その状態はアメリカの両親のもとに戻っても続いた。両親は離婚し、引き取ったはずの母親も行方知れずとなり、達海は ひとりで生きてきた。
彼が この10年 連絡が出来なかったのは自分の周囲が落ち着かなかったから。アーティストとして注目され、自活が出来る状態になったから りず にコンタクトが取れたのだろう。達海の孤独と想いを知った りず は…。