《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

りず を苦しめる全てのものから守りたいのに、今の彼女の害毒はオレ自身。だから…

王子様には毒がある。(8) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
王子様には毒がある(おうじさまにはどくがある)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

颯太の本性がついにバレた! りずへの気持ちが抑えきれなくなって、暗躍を告発した達海。動揺しながらも真相を訊ねるりずに、颯太は自分がしたことを認める。焦った颯太は独占欲からりずを押し倒して…!?

簡潔完結感想文

  • 颯太からの嫌がらせを告発する達海によって、動揺するのは りず ではなく颯太。
  • 自分自身の「毒」で りず が穢れることを許せない、誰よりも純真に彼女を愛する男。
  • 颯太がヤンキー化しているものの大体『4巻』の再放送。このターンは褒められない。

女を傷つけるのが怖いから彼女を遠ざける臆病ヒーロー、の 8巻。

俺様やドSなど、キャラづけ で人気が出た少女漫画ヒーローは大抵 弱体化する。特に終盤は その傾向が強く、カップル間で強さが逆転する。本書も その御多分に漏れず、無敵のヒーローかと思われた颯太(そうた)は弱くなっていく。
単純な俺様キャラの弱体化、標準化とは違い、颯太の場合、自分の中で二重の人格が存在し、達海(たつみ)というモノマネの原点が登場したことで、無理が生じ始めたという理由付けがある。だから颯太が悩むのは必定と言える。

自分の立ち位置やキャラを颯太に奪われた達海の告発によって りず は颯太の本性を聞く

けれど そうやって颯太が悩んで、一時期 ヒロイン・りず を遠ざけるという展開は『4巻』で見た。今回は達海という颯太にとって最大の脅威がいるとはいえ、基本的に再放送で、しかも この場面で後半はネタに走るような内容になっているため、読者は呆れてしまったのではないか。りず らしいアプローチだし、本書らしい重めの空気を軽減する展開とはいえ、この部分を膨らまされて嬉しい読者は いないだろう。むしろ再放送だから重複する部分を上手にカットして、前回とは違う部分だけ一気に伝えてくれれば良かったのに。全体的によく出来ていると思う本書の構成で注文を付けるとしたら ここだ。吾妻(あづま)の家に逃避するというのも既に見た展開で変わり映えがしなかった。


の いまいちな遠回りの中でも良かったのは颯太の抱える切なさ。特に彼は自分のキャラ作りや りず への欲望など、自分の中にある「毒」で りず を穢してしまうことを過剰に恐れている。
本当の自分を曝け出せない、または達海の登場によって本当の自分が分からなくなってきているから颯太も りず に対しての接し方に逡巡する。

颯太の人生は りず を守ること、と同義と言っていい。しかし今の りず に危害を与える存在がいるとするならば、それは自分なのである。だから颯太は りず から離れる。

達海が未登場だった『4巻』前後では りず が どんな颯太を受け入れることで颯太は りず への気持ちを隠さないようになった。けれど それは りず の中の「颯太」というキャラのまま接することを意味していた。
しかし達海がカムバックしたことで一生 隠し続けていくはずの「弟キャラ」が達海の代役だったことが露呈する。それは自我崩壊が起きかねない出来事で颯太は苦悩し、そして その苦悩を抱えたまま りず と接することは彼女を怖がらせることを意味すると結論付けた。

そこにあるのは変わらない りず への愛と誠意である。けれど多くのヒーローがそうであるように、彼女のためと思いながら、何の説明もなく颯太は りず から離れる。そういう格好つけた自分勝手さがヒーローにはある。

前半で りず が颯太の恋心に遅まきながら気づいたように、今度は颯太が自分の立ち位置に葛藤し、決着を付ける番なのだろう。彼の性格が、本性に傾くのか、それとも現状維持か、はたまた2つの人格が統合し新たな、そして本当の颯太になるのか。心の問題は唯一の正解がないから難しいテーマだが、そこを作者が どう描くのか見届けたい。願わくは誰も望んでいないヤンキー物語が一刻も早く終わることを…。


熱で体調が悪いこともあり、達海は颯太の これまでの悪事を洗いざらい りず に暴露する。

達海の心配を優先し、クリスマスデート中に颯太を放置してしまった りず だが、颯太に どう対応していいか悩む。そこで手作りケーキを作ることで謝罪と和解をしようとする りず。颯太は そんな りず の雰囲気を察し、いつも通り りず に気持ちよく過ごしてもらう演技をする。その様子を見て安心した りず は、達海から聞かされた颯太の裏の顔を直接 尋ねる。当然のように颯太は否定し、りず の一安心。だが達海の強制退去させられそうになったという事実が頭から離れない。

幼い頃を思い出しても、3人で遊んだ記憶はあっても颯太と達海が仲良かった記憶がない。だから りず は3人の友情を再度 深めるために一緒に出掛けることを提案する。しかし それは達海を出来るだけ排除したい颯太の気持ちを逆撫でする提案。颯太の言う通り、2人の男の気持ちを知っている りず のデリカシーのない行動なのだ。達海を好きではないこと、強制退去を画策したことを颯太は認める。でも後者は混乱の中にあった りず の気持ちを軽減するため。自分のしたこと、これまでの偽りの人生を破壊しようとする達海は颯太にとって脅威なのだ。

颯太の焦燥を初めて りず は感じ取り、自分が無自覚に彼を傷つけていたことを痛感する。


から颯太の全てを受け入れ、自分の全てを捧げようとするが、颯太は りず が未だに本当の自分を見ていないと思い、別れを切り出す。その後 颯太は家出をする。これは大切な りず を壊してしまうと感じた『4巻』と同じ現象だろう。

同じように颯太が身を寄せるのは吾妻の家。世界で唯一、自分の素を曝け出せる相手かもしれない。だから吾妻の家では颯太は自分のスキルをフル活用して、実は料理が出来ることを明かしている。

年明け、颯太との関係に落ち込みながら登校する りず の手を引くのは達海だった。それを目撃した颯太は機嫌が悪く、自分に因縁を付けてきた男子生徒をボコボコにする。こうして颯太は学校のアイドルを卒業し、一気にグレる。そして不良グループのボスとなる。

この颯太の豹変に学校全体が お通夜状態。学校のアイドル・颯太は死んだのだ。生徒たちは その責任を彼女である りず に押し付ける。ここで りず を悪評から守るヒーローとなるのは達海。彼に任せていれば りず の周囲は平和である。

アイドルには喫煙者が多いとか。やっぱり八方美人はストレスが溜まるのだろうか

太の不良化は りず を遠ざけるため。りず を苦しめるもの全てから、颯太は彼女を守りたい。でも りず を苦しめているのは自分自身だから、颯太は彼女から離れようとする。

それでも りず は颯太に干渉し続ける。弟ではなく不良キャラになってしまっても ずっと彼女は颯太が心配なのだ。そして その気持ちは颯太も同じ。りず を守り続けるために存在し、身体が勝手に動いてしまう。

りず は諦めないことを示すため、自分も不良化する。この辺はネタと笑いに走っている部分があるが、その気持ちは颯太に届いている。遠ざけようとしても無理なのは以前と変わらない。