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王子様には毒親がいる。そのラスボスに立ち向かう前にカップルの関係を強固にする

王子様には毒がある。(9) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
王子様には毒がある(おうじさまにはどくがある)
第09巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

颯太はりずに本性がバレてしまい、自ら身をひくことに。颯太のことが諦めきれないりずの猛アピールが叶って颯太のそばにいられることになたけど、今度の2人の関係はまさかのアニキと舎弟!! 恋人関係に戻りたいりずはバレンタインに一大決心をして…!?

簡潔完結感想文

  • 『4巻』と同じかと思った及び腰だけど、今回の颯太は りず の押しに負けない。
  • 拳で語り10数年で初めて本音を漏らす男たち。以前より強い絆が生まれた元サヤ。
  • 颯太と同等の美貌の他、権力・財力・政治力を持ち合わせた最強イケメン登場。

想いは新キャラ召喚の儀式、の 9巻。

『5巻』で両想いになった後に達海(たつみ)が登場したように、今回2人が復縁した後に新キャラが召喚される。達海も新キャラも どちらも颯太(そうた)にとって天敵と言える存在なのが困ったところだ。

達海が当て馬として正式に動くのも りず の幸せを願ってのこと。男性陣の愛が深い

そして この天敵の登場によって揺らぐのは颯太の心理や立ち位置というのも達海登場の時と同じ。やっぱり本書の真のヒロインは颯太なのかもしれない。逆にヒロイン・りず は少しも揺らがなかったのが良かった。『9巻』の りず は過去最大に落ち込んでいるのだけど、ここで当て馬の達海を都合よく利用したり、自分の寂しさを紛らわして結果的に彼を傷つけたりしないのが良い。りず はアホの子だけど、バカではない。精神力は実は強くて、少々鈍感だったけれど自分が颯太を好きだと理解してからは、その初恋を大切にし続けている。

『8巻』から『9巻』にかけての内容は、『4巻』から『5巻』の再放送である部分が多く、しかも いかにも脱線としか思えない「ヤンキー女子高校生編」が始まって幻滅した。しかし作者が空気を読んだのか、空気を読まざるを得ないぐらい不評だったのか分からないが脱線は速攻で終わった。

そして内容の重複についても意味があることが ようやく私にも理解できた。今回、2人が もう一度 両想いになることで、最後にして最大の問題に2人で挑む姿勢が生まれた。もう揺るがないこと、相手を(自分を)心から信じられることで新しい選択肢を選べるようになったと言えよう。
もし『9巻』以前の颯太に この問題が起きたら、颯太は りず のために彼女から離れる選択をしただろう。しかし一度 別れたことで颯太は りず と絶対に離れられないことを思い知るし、りず が自分の本性の一端を理解しても離れないほどに颯太を想っていてくれることを知った。だから颯太は今回は りず と手を取り合って問題に対処する。

ラスボスの登場は突然だったものの、その存在は当然 知られているし、りず と上手くいっていない状態の時から予告されていた。なので やはり今回の別離はラスボスに対処するためのレベルアップのための修業期間と言うべきものだったのだろう。

達海は颯太のキャラにとってのオリジナルの存在だったけれど、ラスボスは颯太の上位存在と言っていい。いくら眉目秀麗な颯太でも まだ手にすることの出来ない年齢と経験によるスキルを持っている。

そういえば このラスボスは絶対に颯太のキャラが通用しない、という点で最強と言える。ここも天敵要素か。例えば吾妻(あづま)や達海は颯太が全力を出せば もしかしたら本当にBLエンドもあったかもしれないが、このラスボスだけは倫理的に無理か。作中の颯太をネタにする腐女子の皆様は この関係性でも萌えを見い出すのだろうか。


者に不評だったのか、颯太に舎弟として近づく りず の「ヤンキー女子高生編」は早々に終了する。掲載誌「別冊フレンド」なら この脱線を長期間 続ける恐れがあるので怖かったが本書では大丈夫だった。これで颯太の存在を無視したままヤンキーの犬飼(いぬかい)先輩と2巻分ぐらい彼の事情に振り回されたりしたら目も当てられなかった。ちなみに そういう脱線を繰り返した別フレ作品といえば清野静流さん『純愛特攻隊長!』である。りず は犬飼にも達海にも少しも揺らいだことがない優秀なヒロインである。正式な当て馬の達海より、吾妻の方が りず の心を大いに動かしている。

こうして一気に漂白された りず はバレンタインに颯太に手作りチョコを渡す、という正当なアプローチを試みる。颯太はヤンキー化しても高い人気を誇るが、その荒波をくぐり抜け、りず は颯太にチョコを渡し、颯太も受け取ってくれる。

そんな颯太のブレブレの態度を非難するのが達海。颯太が りず の傍にいないのなら全力を出して彼女を奪うことを宣言する。達海が ここまで本気になるのは本書で初めてだろう。


に りず は、颯太が居候する吾妻の家を突き止め、今度は舎弟ではなく家政婦として乗り込むことで距離を縮めようとする。

吾妻の配慮で2人きりになり、失敗続きの りず の料理を颯太がアシストし一緒に料理と食事をする。颯太が料理上手という情報は りず にとって初耳。そして自分が彼の能力を見くびり、苦しめていたと反省する。だから りず は本当の颯太が知りたい。どんな颯太でも自分は受け止める。それぐらい颯太が好きな気持ちは変わらないから。

でも颯太にも「本当の颯太」が分からなくなっていた。この会話中に出た、今の自分には りず を幸せにできない、という颯太の言葉を りず は拒絶だと理解してしまう。こうして りず は絶望し、そこに登場するのが達海である。りず が寒空の下、コートを着ずに飛び出したことを心配した颯太だったが、そこで見たのは抱き合う りず と達海の姿だった。


太は自暴自棄となり、吾妻の家からも出ていこうとするが、吾妻は そうなれば颯太の保護者である父親の介入を余儀なくされると告げる。

颯太にとって父親は育児放棄した存在。その父親の登場だけは嫌な颯太は吾妻の家に留まり、彼に本音を話す。りず を幸せに出来ないのは自分が達海のコピーだから。颯太は颯太自身になるために変わることを決意する。

一方、落ち込む りず を達海は外に誘い出し、遊園地で気晴らしをさせようとする。帰る頃には自分の気持ちが軽くなっていることを感じた りず は達海に感謝を伝える。そして達海は自分にとって どれだけ りず の存在が大切か、どれだけ好きかを きちんと伝える。でも その返事は りず の今の状況や精神状態を考えて達海自身が保留にする。

達海は弟ではなく恋人候補としてスタートラインに立つために告白した。『2巻』での吾妻は告白しなかったから、りず にとって颯太以外の人間からの初めての告白である。2人の素敵な男性に告白されたことで真のヒロインとなり、どちらを選ぶかが最終的な答えとなる。

達海、血の繋がらない弟との10年ぶりのドキドキ同居生活を描いた別の世界線で会おう!

宅に帰ると、家の前に颯太がいた。しかし颯太を完全に敵視する達海によって りず は家に入れられ、颯太を無視する形となる。りず は颯太に拒絶されたと思い込んでいるから今度は颯太から離れた方がいいという結論に至っている。

逆に颯太は生まれ変わった自分を見せたい。どうも2人のタイミングは ことごとくズレている。教室に久々に登場した颯太は りず との会話の機会を模索するが、達海が邪魔をする。この達海の動きはは かつての颯太のそれだろう。颯太の罪が罰になって返ってきたとも言える。

りず に近づく男性を排除したいのは、りず を思慕する みゆ も同じ。以前は颯太と吾妻の軟禁によって漁夫の利を得ようとした みゆ が、今度は達海の排除のために颯太と手を組む。みゆ の今度の目標は颯太&達海エンド。途中で颯太も出し抜いて みゆ は恋のために生きる。


ゆ に騙し打ちにあった形となった颯太だが、軟禁されたことで達海とサシで話し合う。りず を傷つける中途半端な颯太の態度に苛立つ達海は彼を殴り、颯太もまた反撃。しかし殴り合うことで その後2人は本音を吐露する。達海は りず が幼い頃から颯太のことだけは異性として見ていたこと、そして颯太は りず の前で素直に感情を表現できる達海の性格が羨ましかった。
こうして颯太たちは知り合ってから10年以上が経過して初めて本音を言い合うことが出来た。

それもまた颯太の成長で、その勢いのまま颯太は りず に謝罪し、自分の気持ちを素直に伝える。りず は颯太に もう二度と離れないことを確認して、2人は よりを戻す。

りず は達海に少しも揺るがなかったが、それでも改めて彼に お断りをする。それも達海の想定内。ずっと達海は りず の恋愛対象ではなかったことを誰よりも理解しているのだ。


が その頃、学校に颯太の父親が来校しており、息子の退学届を提出していた。父親の来校を知った颯太は りず を父親から遠ざけようとするが、今の りず は颯太を独りになんてさせない。颯太の毒も全部一緒に分かち合うのだ。

りず は颯太の父親の顔も知らない。彼女が知っているのは颯太がずっと独りだったこと。だから りず は父親に一言いうつもりだったが、颯太の父親は 颯太の父親であった。トンビがタカを生んだ結果の颯太ではなく、颯太はタカの子供であって、その美貌は父親から引き継がれたものだった。

父親が退学届を提出したのは颯太のヤンキー化、家出のことを聞き及んだから。問題行動を起こすなら全寮制の名門私立校へ転入させるというのが父親の方針。息子の反論を聞こうともしない父親に対し吾妻が助け舟を出し、校長は退学届を保留にする。
しかし女性の校長に対して颯太の父親は魔性の魅力を発揮、退学届は受理されることになる。


こへ退学届を食べて消滅させようとしたのが りず。これにより この件は ようやく保留になる。

だが父親は有無を言わさず事を進めていた。家政婦を退職させ、颯太の住む家を引き払う準備を進めていた。父親には颯太にはない権力と財力と政治力がある。そして りず の存在が目障りだと理解した父親は、りず の母親の実家の会社を脅迫材料にして息子を自分の意に従うよう誘導する。

その夜、りず の部屋を訪ねた颯太は りず に ある提案をする…。ここで再度 別れると言い出したら颯太も作品も嫌いになったが、同じ展開にしない、颯太をしっかりと成長させていたことに安心した。