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少女漫画と小説の感想ブログです

あの日 感じたのは膝の痛みよりも視線の痛さ。今日 感じたのは痛み出す心。

ふつうな僕らの 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
湯木 のじん(ゆき のじん)
ふつうな僕らの(ふつうなぼくらの)
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

「ふつう」に恋をするってむずかしい。「君と僕は合わないよ」。一颯(いぶき)にそう伝えられ落ち込む椿。でも一颯の幼なじみ、桜介(おうすけ)に背中を押され、あらためて「好き」と伝える。まっすぐな椿の思いにふれ、一颯は中学時代の苦い記憶を呼び起こしてしまうが…?

簡潔完結感想文

  • 大好きな先輩と距離が出来た時に交流するクラスメイト。三角関係は どういう構図?
  • 元カノとの交際は、一颯に罪の意識を覚えたさせた。だから簡単に好意に甘えられない。
  • これまで手話を覚えようとした3人は全員 一颯への執着がある。波乱の夏合宿 in 金沢。

1話で工夫してメインの4人を登場させた意味が分かる 2巻。

いよいよ椿(つばき)・一颯(いぶき)・桜介(おうすけ)・日高(ひだか)の4人の群像劇の色合いが強くなってきた。ヒロインの椿以外は誰もが面倒臭い性格をしていて、恋がままならない。そして椿もまた存在がチートなので、その圧倒的正しさが圧力となり人の心を いたずらに波立たせてしまう。
物語が椿中心の話で構成されているのではなく、椿が登場する前の過去がちゃんとあって、彼女が居なかった時の人間関係が用意されているところが好きだった。ヒロイン至上主義じゃないところに作品世界の平等性を感じる。

『1巻』の中盤あたりから一颯の心情が理解できないところがあったけれども、『2巻』まで読んで彼のことが ようやく分かった気がする。最近は読者のためか作品人気を短絡的に手に入れたいためか親切設計の作品が多い。けれど ちゃんと整合性が取れているのであれば、読み返すと理解が深まる本書のような作品の方が読み応えがある。最初から作者の中でキャラの存在が確立していることが分かって、どの登場人物も好きになってきた。

今回は中でも日高に肩入れした。本編中では椿の届きそうで届かない想いに焦点が当てられるけど、実は日高の過去も現在も切ない。そして一颯は椿だけじゃなく、日高にとってもズルい存在だと思う。
少女漫画は片想いこそ作品の華だと思っている私ですが、本書は「好き」が分からない一颯を除く3人の片想いが それぞれに切ない。存在的には椿がチートだけど、恋愛的には一颯がチート状態といえる。自分は好きが理解できないのに好かれたく、そしてメインキャラは彼を好ましく思う。ある意味で魔性の男性と言えるだろう。


テモテ状態の一颯だけど忘れてはいけないのは、この世界の全てといえる学校中の生徒の99%は一颯に興味がないということ。その圧倒的な孤独の中に一颯はいて、だからこそ自分と手話でコミュニケーションを取ってくれる存在は貴重なのだ。一颯が勉強を追いつきたいと思ったら、元カノであっても優秀で手話を駆使できる日高を頼るしかない。一颯が「普通」ならば友達を頼ればいいけれど、彼には それが出来ない。桜介は下級生だし、椿は手話を学習中。一颯の自分の世界の中で選択肢は日高だけなのだ。たった1%の人との繋がりを断つような真似を出来ない一颯の心境も理解できる。

一颯が日高と交流を続ける理由は振られた被害者意識と人間関係の選択肢の少なさか

そして日高が一颯の要請に応えるのは まだ彼が好きだから。ここまででは日高はビッチみたいな描かれ方をしているけれど、考えてみれば『2巻』中盤の一颯の独白は、日高のプライドを傷つけるものである。思いが通じて両想いになったと思った中学生の日高が交際中に感じていたのは、好きな人からの恋愛的な無関心だろう。自分が愛されていないと思い続ける交際が長続きする訳もなく一颯は振られた。だが本当に交際を終わらせたのは どちらなのだろうか。

一颯が再度 孤独の海に放り出されるのが嫌で日高の好意を受け入れたように、日高は2人でいる孤独から逃亡するために別れを選んだのだろう。それでも一颯のことを好きでい続けるから、彼女は見た目も交際関係も派手にして、学校も部活も同じにして一颯の視界に入り続ける。派手であることは日高の声にならない声の届かなかった一颯への唯一のアプローチなのかもしれない。

今回、一颯は椿に対しての過去の言動を謝罪したけれども、椿だけじゃなく日高に対しても謝るべきところはあると思う。『2巻』ラストで一颯と日高の恋愛面が蒸し返されよう解いているけれど、どうなるか。そして もちろん桜介の動きも気になる。
聴覚障害者との恋と聞くと勝手に純愛を想像してしまうけれど、「普通」の恋愛よりも ざわざわと胸が落ち着かない作品だとは思わなかった。これは良い裏切りで目が離せない。


一颯を追いかけて転んだ椿のケガは桜介が手当てする(バイト先で絆創膏もらってきただけだけど)。流れで一緒に帰ることになり、椿は桜介に一方的に話を聞いてもらう。椿は桜介から日高との交際について詳細を聞こうとするが、男友達は恋バナをしないので桜介は交際していた事実以上のことを何も知らない。自分と日高を比べてしまい、セルフ陥落していく椿に、桜介は救う/救えないことを結果にしない恋愛が椿には出来るのではないかと椿を救う言葉を掛ける。

何度、一颯との距離を感じても立ち直るのが椿。しかし見た目や印象に反して賢い日高が、中学時代に続いて今も一颯に勉強を教えているシーンを見て さすがに落ち込む。部活が休みのテスト期間前と重なって一颯との接触はゼロになる。

本命との距離が出来たからか桜介との接触が多くなる椿。日高との差を埋めようと勉学に奮闘中の椿だったが、事故により電車が止まる。心臓移植者を寒空の下に放置できないと考えたこともあって、一緒に帰っていた桜介は椿を自宅に招く。そこで桜介の家には母親がいないこと、彼が家事を担っていることを知るが、椿は それを自然に受け止める。母親が不在の理由とか、家事をやって偉いとか言わないのが椿の心地良さなのだろう。ちなみに桜介の弟妹は双子。そして後半で母親は子供を捨てて恋に生きたことが明かされる。


椿は30分と集中力が持たず爆睡。その睡眠中に一颯が桜介の家に届け物をし、桜介の妹に「彼女」だと認識された椿の寝姿を見る。恋バナはしない男性2人だけど、桜介が女性を家にあげるのは一颯が知る限り初めてのこと。そうして踏みこんできた一颯に、桜介も彼の椿への態度が冷淡なこと、真剣に向き合わないこと、一貫していないことを伝える。

その会話中、改めて一颯から合わないと思われていることを起床した椿は知る。打ちのめされてばかりの椿は その場から逃亡するが一颯が その腕を掴む。一颯からの言葉が怖いが、それでも改めて椿は一颯に好き、と初めて手話を使って思いを告げる。椿が桜介や日高と同じステージに立った気がした。

中学時代の一颯と日高の交際は、日高から告白して始まった。だけど一颯も日高の行動が自己満足や偽善でないという認識で好感を持っていたと思われる。長い回想の後、おそらく一颯は椿に向き合った言葉をスマホに入力するけれど、そこに通りかかった身内らしき人の姿を見て、文面を変える。そして改めて椿は交際できないことを告げられる。ただ一颯は ずっと椿を好きか嫌いかに言及していない。そこは椿にとって希望であるのだけど、絶望の中にいる彼女には分からないことかもしれない。


れでも恋は終わらない。本書はエンドレスで椿のターンなのである。
だから椿は ひっそりと草葉の陰から一颯を見つめる(死んではいない)。その観察力で一颯の困りごとを推察し、その暴走力で空転する。そんな健気な椿の働きを一颯は理解する。

そして おそらく桜介の家で会った日に書いて伝えようとした内容を椿に伝える。一颯は好きという感情が分からない。自分が好かれるのがなぜかと思う一方で、好意を断ったら その人との交流が終わることを恐れて交際をした。一颯にとって日高との交際は自分の弱さの象徴で、自分が甘えたことで その後に孤独の影は濃くなった。椿が日高を非難しようと、好きじゃない人と付き合うことへの疑問は、一颯にとって自分が責められている気がした。だから『1巻』4話の あの時は、自分と椿の思いの差を如実に感じてしまった。そして真っ直ぐな恋をしようとする椿だから同じ気持ちでないと付き合えないとハードルが高くなった。

でも やっぱり好かれることは心地いい。そういう恥ずかしさを一颯は抱えている。自分の胸の内を吐き出して一颯は椿の顔が見られない。それでも真っ直ぐに自分を想ってくれる椿を一颯は放したくない。


うして長い別離期間は終わり、友達以上恋人未満の関係が始まる。確かに椿の友人が批評するように、椿の恋心に甘えている一颯は ずるい。スキンシップを含めて椿が喜ぶようなことを してくれるホストみたいな行動をする。

現在の椿の懸案は、一颯の中の日高の存在。心から好きではなかったけれど、自分と本気でコミュニケーションを取れるように手話を覚えてくれた特別な人だと椿は推察する。もう一つの懸案事項である一颯の兄のことも それとなく聞き出す。

写真部員の後輩として先輩にカメラの相談をする買い物デートをするけれど、一颯は付かず離れずの距離を保つ。電車待ちの公園で筆談したノートが、子供との接触でジュースで濡れてしまった。トイレで椿が制服を手入れしている間に一颯は そのノートを勝手に廃棄してしまう。代わりに一颯は新しいノートを用意してくれた。しかし それで済む話ではない。一颯との筆談は どれも椿にとって大切なもの。その思いの格差を改めて思い知る椿だったけれど、一颯にとって前のノートは椿を突き放した言葉に溢れていて黒歴史になっていた。だから新しいノートで仕切り直そうとした。…だからといって大事なノートを椿が諦めるはずがなく、一颯のカバンからノートを奪取するというのが本書らしい展開である。一颯は椿のことをちゃんと後輩女性として見てくれているし、自分との会話は2人だけの秘密にして欲しいと思っていた。


2泊3日の写真部の合宿が金沢で始まる。椿は一颯としたい10のことを作成して準備万端。メインイベントは合宿最終日の7月31日の一颯の誕生日を祝うこと。
そして心配事は写真部の活動や交流に積極的ではない日高の参加。その日高は、かつて自分が居た一颯と桜介との間に椿がいることを認める。そして桜介は椿と違って自分には見下してるような目で見てくることが気になっていた。桜介にとって日高は『1巻』2話で嫌っていた、好きな男のために手話を習ってみたーい、と思う典型な女子なのだろうか。

桜介にとって日高は ずっと続いていた一颯との2人だけの時間に突然 現れた異物か

『1巻』4話で日高を怒らせた椿は、ホテルの風呂場で遭遇した日高に自分の余計な発言を謝罪をする。怖がられている自分に勇気を持って謝罪してきた椿。しかし日高が目を奪われたのは服を脱いだ椿の胸元にある手術痕だった。
日高には それが一颯と同等の証のように思えたのかもしれない。その思いを日高は遭遇した桜介にぶつける。しかし桜介は日高の一颯に対する執着を指摘。日高の交際関係が派手なのも、学校も部活も同じなのも、全て一颯の視界に入りたかったから。それでも日高は返す刀で桜介の一颯への思いも同じ執着だと言い返す。その執着は恋と呼べるものなのかもしれない。『1巻』2話で桜介が一颯を「友達じゃない」と否定したのには別の意味があるような気配が漂う。その時の桜介の強い語気は、友達の範疇でしかいられない自分への苛立ちだったのか。また桜介の母親が恋に生きて家を出て行ったことが、桜介に女性不信を植えつけ、女性ではない人に執着を始めさせたのだろうか。