《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

今はまだ弱くて未熟な自分に涙を流す2人を労うのは、彼らの優しさに救われた小さき命。

君のコトなど絶対に 3 (花とゆめコミックス)
田中 メカ(たなか メカ)
君のコトなど絶対に(きみのコトなどぜったいに)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

恨んでいたはずの相手・天真への感情が実は恋だったと自覚した礼央。以来、礼央は天真への接し方がわからなくなってしまうが、そんな中、天真は礼央の家を出て親戚の家に住む事に。状況や気持ちはめまぐるしく変化していき、気になるふたりの関係は――!?リリカル★復讐ロマンス第3巻!

簡潔完結感想文

  • あの日、本当に誓ったのは君への復讐ではなく、君を守れる力の獲得だった。
  • 精神年齢5歳の恋を知らない僕たちだったから同居できたけど、15歳はNG。
  • 人を呪わば穴二つ。君にかけたはずの呪いが僕の恋を墓穴に誘い込む。

Sの俺様ヒーローが反省しても その罪は残る 3巻。

そうか本書は、意地悪な魔法使いに呪いをかけられた お姫様を、魔女と一人二役を演じる王子が救い出す自作自演の おとぎ話なのか。
『2巻』までは礼央(れお)は意地悪な魔法使いとして、天真(てんま)に呪いをかけ続けたが、『3巻』から王子になろうとして自分でかけた呪いに自分も苦しめらている。でも呪いをかけたのが自分なら、その呪いの輪郭は見えるはず。それを丁寧に除去していくのが王子になる資格を得た礼央の役目だろう。そして呪いを解いて向き合った時、2人は出会いから初めて等しい立場で心を通わせることが出来るのだろう。この10年で礼央がすっかり こじらせ男子になってしまったことが問題を複雑にさせている。そんな自分の面倒くささと向き合って礼央は もがきながら王子に なっていく。

自分がかけた呪いの発動のたびに浮かび上がる茨。自分の呪いせいで礼央は茨の道を進む。

ここまでの2巻、主人公・礼央は天真への復讐のために動いていた。彼女を困らせる資格があるのは、家柄や伝統、セレブ校でのイジメでもなく、天真にトラウマを植えつけられた自分だけに許された特権だと思っていた。だから時には礼央は天真のヒーローのような行動を取っていた。それは彼女が自分以外の事柄で苦痛を受けないための先回りである。だから住む場所を失った彼女を籠の中の鳥にして自分の家に住まわせ、世話係として こきつかった。


真のことを罵倒しながら調教する姿はドSの俺様ヒーローと言えなくもない。ただし全ての俺様ヒーローが恋愛を通じて丸くなるように、礼央もまた腹黒ドSという自分のキャラクタが自分が武装するための鎧であることに気づき、丸裸になり、本来の優しい本質を露出していく。
礼央の不幸は、他の俺様ヒーローが読者に気づかれない程度の速度で丸くなっていくのに対し、彼の性格の反転は一瞬で起こることだろう。これによって他の俺様ヒーローは背負わないような罪の意識を礼央は背負う。腹黒キャラで天真に接していた頃の記憶は丸々 黒歴史となる。
そして もう一つ不幸なのは彼が天真との恋愛の結末を先に用意してしまったことだろう。これには2つの副作用があった。1つ目は自分。天真に復讐の意図と目的がバレてしまった今となっては、礼央の言葉は全て復讐のためのものと天真に思われてしまう。だから礼央は今更 天真に好意を伝えられる訳もなく、伝えても本気にされない。天真への復讐心は結果的に自分で自分の首を絞めることとなった。まさに人を呪わば穴二つ、である。
そして2つ目の副作用が天真に対してである。彼女は礼央に徐々に好意を抱いていくのだが、礼央の復讐の意図を知っているため、彼女が礼央に約束通り好きになったと伝えることは、こっぴどく振られる未来が絶対に到来するということなのである。

これにより2人は それぞれに相手に好きと言ったら破滅が待つ未来しか描けない。互いに袋小路に入って身動きが取れなくなるまでを描いたのが『3巻』である。『1巻』の感想でも書いたが、この辺の礼央の自縄自縛や、自分の過去の行動に苦しめられる様子に彼の当て馬属性を感じる。


ヒーローであり当て馬、魔法使いであり王子、ドSであり溺愛。そんなキャラぶれっぶれの礼央に対して、天真は いつも凛と咲いている。

そんな天真が涙を流すシーンに今回 涙腺を刺激された。自分の決断が これから周囲の人々に迷惑をかけるかもしれないと天真は葛藤する。そんな彼女の流す涙を舐めとってくれるのは礼央の飼い犬・バルゴ。犬猿の仲の彼らが心を通わせるシーンにグッとくるのだが、そのバルゴは10年前に礼央が流す、自分が守ると決めた少女に情けないところを見られた悔しさと悲しみの涙も舐めているという時を経て重なるシーンが本当に良かった。彼らが涙を流すのは、自分の道を進もうとする時である。今回 天真は家の存続や格よりも自己の目標を優先することを選んだ時だし、礼央は今度こそ本当に天真を守れる自分になることを誓った時だった。2人それぞれの未来が開ける時、バルゴが寄り添ってくれたというシーンは感動的と言うしかない。そして これはバルゴの、自分を拾ってくれた/育ててくれた彼らへの恩返しでもあるのだろう。そう思うと また泣ける。

また天真が自分の人生を歩むこと=石蕗(つわぶき)家を選ばないことを選択して初めて、礼央は天真に追いつくという対等性の表現がいい。天真が石蕗家のために生きてしまうと5歳の時に感じたように「育ち」の面で彼女との差が生まれてしまう。だから天真の家は没落してくれなきゃ困るし、天真は家のために生きてはいけない。彼女は自分で選んだ人生を、自分で選んだパートナーと共に歩かなければならない。そうしなければ幼き日の礼央が誓った願いは本当の意味で成就しないのだろう。

バルゴの行動は困難な目標を進む人へのエール。つらい涙を流すのは ここまでにしよう。

真への恋情を自覚した礼央は、脳内の情報処理が追いつかずオーバーヒートして寝込む。彼の気持ちを整理するのは、脳内での10年前の自分との対話。それは10年前の亀事件後に彼が改ざん していた記憶の修正作業でもあった。初対面、どうして天真と一緒にいたのか、その裏にあった どうして自分たちは対等な関係じゃないのか、という気持ちが次々にオリジナルの感情に戻される。そして亀事件は天真への怒りではなく、天真に無様な姿を見られた悲しみが根幹にあった。だから そこから逃避するために天真を恨むことで自分の情けなさをカバーした。本当は あの日 誓ったのは復讐ではなく礼央は天真のために強くなること。今度は天真を守る自分になるため、だ。

恋心を自覚して礼央の視界に入る天真は輝き出す。おそらく これがGG先輩や他生徒が「石蕗の君」として天真を崇める気持ちになってしまう彼女の美しさなのだろう。礼央は復讐という曇ったメガネで彼女を見ていたが、一気に視界がクリアになった。

そうなって初めて自分が好きな女性を「下僕」として働かせるという状況に気づく。だから天真の世話係の任を解こうとするのだが、天真は自分に生活力が身に付くことに喜びを覚え、そして礼央への恩返しと位置付けていた。

しかも礼央は2人の関係の行き着く先を破局と設定している。そこに未来はない。そして礼央が今の歪んだ関係では例え礼央が好きだと言っても天真は同じ気持ちを返してくれない。礼央は自分を騙して生き続け、その偽りの怒りを天真にぶつけ続けた罪の代償として、天真への負い目が生まれ、告白さえ許されないという自縄自縛の自傷で傷つき続ける。天真だけでなく、礼央もまた加害者であり償いの最中であるのだった…。


央の復活と同時に、薔薇園も復活する。そして彼の差配によって天真に住む場所が確保される。叔母夫婦が帰国したため、天真の面倒を見られることになった。

この別居騒動は精神的に5歳児ではなく15歳となった礼央との同居は過ちが起きかねないから、安全装置が働いたとも言えるだろう。それに これ以上、天真が世話係として働く姿を見るのは、ただの恋する少年となった礼央にはストレスになる。だから互いの距離を離して、貸し借りのない本来の関係性に戻そうとする。
礼央への恩義や復讐を果たせるようにと天真は礼央との生活の継続を考えるが、礼央は復讐は同居ではなく学校生活の中でも可能だと天真を説得して別離を選ばせる。そうしないと礼央が壊れてしまう。

天真と暮らす叔母は『1巻』の親戚と同じく「石蕗」の名を重視する人。礼央は それが見え隠れしても その叔母に天真を託す。それは天真の名誉を守るためでもあろう。

荷物をまとめた天真が玄関から出て行く際、礼央はたまらずに彼女にバックハグをしてしまう。すぐに彼女を解放するが、礼央は自制できなかった自分を反省し、天真もまた突然の事態に赤面していた。


とり暮らしとなった礼央は即座に自分のトラウマに向き合う。それが亀との同居。自分が亀を苦手でいることは天真に罪悪感を抱かせることと考えた礼央は、その克服を目指し、それを果たして天真との歪んだ関係をリセットしようとする。

一方、叔母の家で暮らすことになった天真は石蕗の令嬢に戻る。生活の諸事全般はするべきではないと教えられ、そして『1巻』で礼央と一緒に選んだ弁当箱は重箱へと変わる。食べきれない物を持たされるのが令嬢なのだ。でも叔母の言動は厚意というより選民意識の表れ。没落令嬢になって初めて自分の人生を歩んだ天真にとって、それはセレブ校の雰囲気と変わらない窮屈さに感じられる。何の苦労もない人生は果たして幸福な生き方なのか、という『1巻』と同じテーマが提示される。

天真は変わらずに その心根の美しさで周囲を動かし、礼央は彼女の願いに少しだけ力を加えて現実的な方策を提案する。変わったのは礼央の方。これまでは復讐と打算で動いていたが、今は自分の能力を活用し、天真と対等な立場になって隣に歩きたいという5歳の時の願いを抱いて動いている。それは彼の本心であり、その真正さは確かに天真の心に響くのであった。元々、変化の兆しを見せていた2人の関係だが、初めての別居になって いよいよ2人は互いを意識し出す。


かし天真が行方不明になる。級友たちも天真を捜すが、彼女を見つけるのは礼央の役目。彼女は かつての実家、石蕗の家にいた。といっても『1巻』1話では存在した屋敷は既になく そこは更地になっていた。礼央は天真の無茶な行動に怒りを見せるが、彼女の無事を確認して安堵を見せる。そこに本物を見つける天真は照れる。

今回の叔母との同居で失くした生活や地位・品位を取り戻せる機会を得ても天真は自分の生き方を選ぶ。没落令嬢になることは彼女の不幸ではない。
だから天真は将来の決意を新たにする。色々な人に迷惑をかけても自分の意思を貫こうとする天真の姿は、礼央が『2巻』で倒れ込むほどの醜態を晒してまで亀への苦手意識を見せながら前進を選んだ姿と似ている気がする。

天真の叔母との同居を彼女の両親は与り知らなかった。だから改めて今後の生活基盤について両親と話す必要がある。そこで現れるのが礼央の父親。礼央の力では天真との同居を再開することぐらいしか出来ないが、それでは元の木阿弥。だから礼央の父が登場し、大人が介入することで事態の進展を図る。


央の父親は今は離島で働く天真の両親をヘリで招集する。そこで始まる親族会議。叔母(しかも他家からの嫁)は石蕗の名を重視するが、天真の両親は娘の生き方を尊重する。窮屈な世界の中で、それでも あまり向いているとは言えない獣医になりたい天真のことを心から礼央は心から応援する。改めて両親が直接 自分の選択を支持してくれたことで、天真の覚悟は決まる。
そして親に無断で同居したり転校したりする奔放な息子の成長を見て、礼央の父親も彼の生き方を許す。どんな道を選んでも それが自分の考えと少し違っても それを許容してくれる彼らの親の姿が眩しかった。

この両親との再会で、天真は ひとり暮らしを許され、そして最低限の援助も見込めることになった。もしかしたら天真が礼央の家で家事全般を修行していたのも この独り立ちの日のためだったのかもしれない。


真の新居は見るからにボロアパート。礼央も出来る限りの援助をするし、天真を それを無闇に固辞したりしない。彼には嫌われても迷惑をかけても助けてもらえるところは助けてもらうと天真は決めている。

アパートには千客万来。クラスメイトや薔薇園(ばらぞの)が訪問し、彼女の新居を確かめる。そして薔薇園は自分が仲介した叔母夫婦で天真が家出するほどの窮屈さを味わったと知って、自分の軽率な紹介を謝罪する。礼央の恋心を指摘するという作品内での役割を果たしたからか薔薇園の行動は大人しい(やることのスケールは大きいが)。

そして礼央は膨らみ続ける天真への気持ちでスキンシップが多くなる。そして天真も彼との接触で確かに気持ちが動くのを感じる。だが天真もまた気づいてしまう。自分の中に芽生え始めた この気持ちの終着点は、礼央からの拒絶だということを。呪いは発動した。それは礼央のかつての復讐の目的に近い。だが今の彼は それを望んでいないのだが…。