《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

背の小さい男の子に手を引かれて進むプロの道。…って、どこかで読んだような(笑)

覆面系ノイズ 2 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま リョウコ)
覆面系ノイズ(ふくめんけいノイズ)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

自分の声ではまだモモに届かない。もっと上手くなりたいと願うニノ。そんな時、桐生桃というモモらしき人物のプロデュースするオーディションが!! 果たしてそこにいるのはモモなのか!? また、ニノ獲得に向けて動き出したイノハリとニノへの想いの狭間で揺れるユズは…!? 恋と音のノイズが渦を巻く、超人気片恋メロディ第2巻!!

簡潔完結感想文

  • モモへの手掛かりを見つける仁乃。モモに会えなければいいと思いながら応援するユズ。
  • 少し明かされる男性陣の過去。仁乃への純粋な気持ちで作曲するユズと不純なモモの対比。
  • 覆面バンドのメンバー交代。声も顔も隠れているからバレないという謎の現象で乗り切れ。

イバルでも本意でなくても、人の背中を押せる優しい人たち、の 2巻。

作者が「片恋バンドもの」と評する本書は、その人をどれ程 狂おしく思っているかを言えない人たちばかりの不器用な物語である。本書は切なかったり痛かったり、人の胸に訴える場面の連続なのだが、そんな ままならない恋を描いていても、嫌な気持ちになるような場面が無いのが素晴らしい。「嫉妬と憧憬と独占欲で身体がちぎれそうにな」っても、その思いを人に押しつけたりしないから本書では ずっと清々しさを感じられる。たとえライバルであっても彼らは相手を称える。そして彼らがつく嘘は優しい嘘で、それは他者にではなく自分を騙すために用いられる。本当は行って欲しくないけど行けよといい、本当は会って欲しくないけど会うための段取りを一緒に考えてあげる。

高校生の まだ未熟な彼らがどうしてそんな態度を取れるのか、と言えば、やはり彼らには音楽があるからではないだろうか。喜びも苦しさも音に変換することで彼らは自分の想いを発散しているように思う。自分の中に生まれた声には出せない感情のエネルギーを、歌に乗せ音に乗せ、彼らは解き放つ。高校生ながらプロのバンド・作曲家として活躍する彼らは、自分を表現し、成長する手段を持っている。ここが通常の少女漫画と違い、「恋愛脳」になりがちな思考に陥ることなく、物語を恋愛・友情・音楽という多方面から引っ張っていく。時に それらの要素がリンクすることで物語の動きは一層ダイナミックになっていく。キャラたちが暴走寸前までいってもしっかりと手綱を握っている作者がいるから安心して読んでいられる。

少しずつ少しずつ6人の高校生たちの素顔が見え始めた『覆面系』。あっという間に彼らの虜で、まだまだ覆われている部分が暴かれる日が来るのが待ち遠しい。一歩一歩、着実に成長している感じが本当に爽快である。
今回の「5月29日」のように作者の作品では短いスパンでの目標や重要な日というのが設定されていることも、物語が動き続けているように見える要因の一つだと思う。やるべきこと、越えるべき壁を可視化しやすくして、読者の没入感を途切れさせない。


『2巻』で上手いなぁ、と思ったのは モモ こと桐生 桃(きりゅう もも)が審査するオーディションの最終審査の模様。
この審査でのモモに会いたくてたまらなかったヒロイン・仁乃(にの)の順番は10番。その審査に向かう仁乃とグータッチをして入れ替わりになったのが同じ高校の深桜(みおう)である。ここで本来は負の感情で仁乃を嫌っても致し方ない深桜が仁乃にエールを送るような場面だけでもグッとくるのだが、それと同等に合格者の匂わせ方が大好きだった。このオーディションの合格者は9番。つまり仁乃の前の受験者だ。ここで名前を出して読者に知らしめることもできるのに、匂わすだけ、というのがオシャレである。

登場人物たちは みんな粋。他者の欠点を見つけるより自己の欠点を見つめ成長し続ける愛すべき人たち。

また、今回のラストで『3巻』でのテレビ生出演で仁乃が暴走されることが予告されるが、これは『1巻』の新歓ライブと同じく、その直前に仁乃がモモとの思い出の曲「きらきらぼし」に触れたからだろう。しかも新歓の時以上にヤバいのが、モモを目の前にして「きらきらぼし」を歌っているという状況。これは暴走が新歓の時よりも酷い事を予感させる。
作者のこういう部分 大好きですね。


ズたち この学校の高校生4人で秘密裏に結成しているプロのバンド「イノハリ(in NO hurry to shout)」は大問題を抱えていた。エアボーカルを務めていたユズ(女装)の影ボーカルを務めていた深桜がイノハリを抜けるという。
これはユズが深桜ではなく アリス=仁乃 をミューズにしているから。深桜は仁乃に敵対心を持つが、仁乃は深桜に自分の歌に足りないものを教えてもらおうとする。仁乃の空気の読めなさは繰り返されると辟易する時もありますが、邪心がないから こうやって人の懐に入りやすいというメリットもある。深桜は、仁乃がモモに対して歌っていることを知り彼女への警戒心を下げる。

足りないのは基礎、という深桜の助言に従い、仁乃は練習を重ねる。これは今後の活動のための仁乃のレベルアップ、そして仁乃と深桜の友情を深めるエピソードとなる。こういう話の持っていき方、自然な交流が本当に巧いですね。少女漫画に蔓延する口ばっかりの表面上の「ズッ友」より、こういうエピソード1つで人を知り友情を知れるものだ。しかも一石二鳥で仁乃の世界を広げているのだから感嘆するしかない。


る日、仁乃は、テレビで流れる曲の作詞家に「桐生 桃(きりゅう もも)」という名を見つける。桐生は桃の母親の旧姓で桃はモモの名である。そして彼のプロデュースするオーディションが開催されることを知る。

同時期、イノハリはテレビ出演を控え、深桜の代役を探していた。仁乃をアリスにするというマネージャーからの提案をユズは突っぱねる。アリス=仁乃は本来の正位置で収まりがいいのだが、ユズは自分のテリトリーに仁乃を入れたくない。ユズは自分の声に関する秘密を仁乃には知られたくないらしいのだが…。

仁乃はユズに「モモ」の手掛かりを見つけたことを報告する。オーディションに受かれば仁乃はモモの曲を歌うかもしれない、その可能性がユズを思わず動かす。「いやだ」。それがユズの本心。だが その理由を話す間もなく、仁乃は自分のせいでユズが歌を失ったことを知ってしまう。

仁乃に歌えないことを知られたくなかったユズは歌えると強がる。だが彼が歌おうとしても空気は震えない。ただ空(くう)を切るだけ。それでもユズは罪悪感を覚えないで欲しいと仁乃に訴える。そして彼は仁乃に歌い続けることを願う。
ユズの口に合わせて、仁乃の歌が響く。仁乃がユズのために歌ってくれる。それはユズの6年間の願望が達成された瞬間だが、なんとも悲しい場面である。仁乃が寂しくて仕方なかった空白の6年の間、ユズも、そしてモモも大きな嵐に見舞われていたのだった。


ズの口から、仁乃と海岸で会っていた6年前の真実が語られる。
喉の病気で入院していたユズは、水曜日だけ病院を抜け出していた。だが その後、仁乃と2人で歌った すぐ後にユズは都内の病院に移り、仁乃との交流は途絶えた。だから仁乃にはユズが泡のように消えたように見えた。
ちなみに その時の病院で同室だったのが、現・軽音部のメンバーの4人である(ユズ以外も何らかの病気だったことは確かだが、それに関しては最後まで明かされないし、高校生になった彼らに不調は一切感じられない。入院は運命的に出会った彼らの絆を演出するために必要だったのだろう)。

その真実を知り、仁乃は歌を止める。もう歌えなくなっているのだ。繰り返し描かれている通り、仁乃の歌は精神の健康が必要不可欠。歌うことに希望を見いだせない仁乃は歌いたいと思えない。

そんな状態の仁乃に、ユズは曲を作る。それは6年前の叫びそうになった時に衝動を抑える曲ではなく、今の仁乃に歌って欲しいと願って作った曲。その曲を聞いた仁乃は自然と歌を歌う。罪悪感も乗り越えさせる、歌いたいという衝動を生む曲。ユズの作曲した曲は確かに仁乃を動かすことが証明された。
それにしてもユズは どうやって作曲して、どうやってデモを作っているのだろうか。パソコンやIT機器1つで何でも出来てしまう時代だが、それを許すとユズにまつわる設定に大きな穴が出来て効果を失ってしまうし。文明の利器の一つなのだが、楽器のいらない音楽、というのも少し寂しい。

いつだってユズの曲は仁乃の歌いたい気持ちに火を点ける。一方でユズには言えない本音がくすぶる。

ズはイノハリのボーカルに仁乃を望んでいた。だがイノハリの生放送出演がある その日、仁乃はモモのオーディションを受ける日と重なってしまう。

仁乃がモモに会える機会となるはずが、桐生桃は仁乃の審査には来ないという。「この程度の歌声では目印にならない」「会うに値しないから行かない」という。だが辛辣な言葉のその裏には、桐生桃がモモである可能性に溢れていた。一縷の希望を見る仁乃だがモモが仁乃に会わないという結論は変わらない。

そんな仁乃をユズは審査に行けと言う。イノハリのボーカルとして歌って欲しいという「ほんとうのこころ」を隠して。こういうユズの武士は食わねど高楊枝的な、少し古風で粋な生き方が堪らない。優しくて不器用で、誰よりも仁乃の幸せを願っている。
しばし躊躇する仁乃だったが今度こそモモの目印になるような声を届けるとオーディションの参加を決意する。

だが『1巻』のiPodが新歓の時に借りた軽音部の先輩のものであることに気づき、そしてその中にイノハリのデモが入っていることから、イノハリのメンバーが軽音部ではないかと疑う。
ちなみにイノハリの曲には声にエフェクトかかっているし、アーティスト写真も顔も殆ど隠れてて判断がつかない。これは この覆面バンド設定は他の学校内の生徒や世間からもバレないという説明でもあるのだろう。そして深桜が抜けた後も、ビジュアルの変化や声の違いが話題にならないという謎の超常現象が起きるのだが、それで説明しているのだろう…。うーん。ここに関しては敢えてスルーしているのが丸わかりだけど、後半でSNSなどを多用する作品で、疑惑の声を一切紹介しないのは不自然か。

ユズの新曲は、メンバーも納得せざるを得ない出来。ミューズと再会したら、メンバーの異見も封じてしまうほどの曲を完成させる。これはバンドの更なる飛躍も期待できる。


うして全ての準備が整い、仁乃を呼び出したユズは仁乃にボーカルを依頼する。ユズはモモに歌を届けるために、イノハリを利用すればいいという。既にプロであるモモに歌を届かせるためには、同じプロの舞台に立つのが最適、というのがユズの説明。これらの説明は仁乃を勧誘するために必要なのだが、ユズにとってはビジネスライクな言葉たちだろう。本当は、もっともっと自分のために歌って欲しいと言いたいだろうに。

一方、後半ではモモの6年間の空白期間が僅かながら語られる。
作曲した曲を弾き語りをしていたこと(音痴だけど)、そして学費や親の借金を返すためにお金を稼ごうとしていること。その彼と手を組んだのが久瀬 月果(くぜ つきか)という現在の彼のビジネスパートナー。モモが作曲した曲の作詞も担当している。

モモは いつか仁乃にうたってほしいと作った曲を仕事で放出し、金に換えた。金銭面で苦労しているようだから仕方がない。だがモモの音楽に純粋な気持ちは既になく、金に汚れた自分を仁乃には見せたくないから彼は身を潜めている。そしてモモは仁乃と再会すると曲が書けないと思っており、仁乃を避ける。これは仁乃と出会ったことで曲が溢れ出したユズとは正反対である。


乃はプロとして不足している部分の多さを実感しつつも練習に励み、そして運命の5月29日を迎える。

事前説明に反して、モモは仁乃の審査に立ち会った。だが彼の口から出たのは失格という言葉。仁乃の声にも届かない部分があったのかもしれないが、何よりもモモが仁乃を受け入れようとしていない。だから6年ぶりの2人の再会は気持ちが重ならないまま終わる。だが仁乃はモモの現在の姿を見た。その姿を覚えていれば、意外に身近にいる(同じ学校)モモを探し出せる確率は これまでよりも ずっと高いはずだ。

そして「仁乃」としての戦いが終わり、今度は「アリス」としてのステージが開幕するのだが、またも彼女の暴走が予告される…。