《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

理系が好きな気持ちを証明してみた。心のコップが溢れると 学年一位の人間もアホになる。

うそカノ【通常版】 11 (花とゆめコミックス)
林 みかせ(はやし みかせ)
うそカノ
第11巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

卒業間際。吉野に頼みごとをするすばる。なぜか写真部に入部してくる入谷。自分の気持ちを形にして伝えたい2人は、お互いに秘密で動きだすが…? 「うそ」から始まった恋、ついにフィナーレ! LaLaDXに掲載された読切(1)入谷、肉体改造して和久井に勝つ! (2)特進科の才媛・西山さんの恋心…。の2本も収録!

簡潔完結感想文

  • これは入谷が他者に寛容になっていく物語。一番 その変化に気づいているのは親友か。
  • 卒業式では、語れなかった&進まなかった関係が動く。どいつもこいつも おめでとう。
  • 彼の誕生日には彼からの逆サプライズが恒例。事前準備も ぬかりなく、逃げ場なし!

脳は学年一、身体は細マッチョ、完璧男子の愛が溢れる 最終11巻。

終わり良ければ総て良し。
途中、話の広げ方や畳み方に疑問が残る部分はあったが、
こんなに晴れやかに未来に旅立っていく彼らを見ると、
そんな小さな不満は雲散霧消して、スッキリとした気持ちだけが残る。

この2人は結局、1回もケンカしなかったなぁ。

ヒロイン・すばる は一度も恋人・入谷(いりや)を好きだという気持ちが揺るがなかったし、
入谷の方は、そんな彼女を上回るほど好きと言う気持ちが滾々と湧き出していた。

彼の「心のコップ」は常に溢れそうなのだ。
もう器も コップどころか、風呂桶になるほど大きくなって、それでも溢れそうな現状。

再読では入谷の心に「好き」が注がれていくのを楽しむのも一興。
すばる が笑顔を見せる度に、彼の心に「好き」が注がれる。
その容量や容積の変化を丁寧に描いてくれたのが良かった。


田(ときた)が幸せになったのは良いことだが、
心残りとしては、すばる の妹・トモが入谷を認める場面が欲しかったかなぁ。
もう態度を軟化させて、入谷へのツンがデレる瞬間を目撃したかった。
言葉じゃなくても、行為で彼に親切にするとか、もうちょっと過去に対する埋め合わせが欲しい。
全体的に、女性は そのままでいれば愛されるという、
このせいで、恋愛も甘いというよりも、甘やかされている雰囲気が蔓延しているような気がした。


谷の大学入試も無事に終わり、
春から彼は一人暮らしをすることになった。

今の家からでも通学は可能なのだが、
その今の家を母が売ってしまったので一人暮らしを余儀なくされたという驚くべき理由が語られる。
入谷一家は父がパリの研究所、兄も海外勤務となったから、母はパリに移るという。

これは、一人暮らし = 誰にも邪魔されない空間を入谷が手に入れることで、
2人の関係が その先に進むということの暗示なのかな。
入谷のためにも、呪いに等しい呪縛がかけられていた あの実家から出る必要があったのか…。

そして入谷が すばる に内緒で彼女の父親と一局、将棋を手合わせするのも、最後の関門の一つか。
すばる父は将棋が弱いとはいえ、男として乗り越えるべき壁だったのかもしれない。
もう結婚の申し込みに近い。
(と思ったら、最終話で本当に そうだったことが判明!)

本書では、男性たちが すばる を巡って、彼女のあずかり知らない所で暗闘しているのが印象的。
すばる を純真に、そして徹底的に無知にすることで、
彼女が どれだけ愛されているか読者だけが知ることになり、その幸福感に浸れる。

吉野は すばる を使って自分の本音を言っている気がする。すばる ー 入谷 ー 吉野の間接的な関係が好き。

谷の引越しのための買い物を、すばる・入谷、
そして2人それぞれの友人・吉野(よしの)と むっちゃん の4人ですることになる。

珍しい組み合わせだが、裏設定的にはダブルデート。
吉野組が一時的に すばる組と別れても会話は普通に成立するのだろう。

家具(主に食器など)を買いに行くときに、
入谷が新しい家に誰かが来ることを強く拒まないことでも彼の成長が見られる。

すばる を入り口にして、他者への寛容が生まれたことは入谷にとって大きな財産ではないか。
そして そんな彼の器の広がりに一番 感動しているのは実は吉野くんなのではないかと思う。
ここも別の意味での男性同士にしか分からない感慨だと思う。

吉野は、自分が卒業後も入谷といる権利を得ていることを内心では喜んでいるはず。
彼が、入谷に対して友情以上のものを感じているのではないかと思った時が私には ありました…。
(すばる が隠し撮りした2ショットに顔を赤らめてるし…)

むっちゃん なんて すばる の親友なのに かなり放置されていたのに、
吉野と入谷の関係は結構じっくりと描いている。
作者は男性同士の関係を描く方が得意なのかな。


2人は卒業までの1か月の間に、高校生の時にしか出来ないことをする。
その一環として、入谷が写真部に入部して、一緒に写真を撮る。

これは本書らしくて良い展開だと思うのだけど、
『4巻』で既に2人は写真撮影しているのが惜しい。
先の展望が見えなかったにしろ、これは卒業間際まで取っておいて欲しかったネタである。

すばる は、この街に引っ越してからの8年間、
常に傍にいてくれた和久井(わくい)とも学校は別になってしまう(女子大だし)。

2人で見た朝日は、これからの新しい関係を示唆しているのだろうか。

ここまで見守ってきた読者には感慨が込み上げる最終話の扉絵。この手が示すのが2人の恋愛の最終地点。

終話は卒業式、そして2回目の入谷の誕生回となる。

息子の卒業式に合わせてパリから入谷父も帰ってきたらしい。
結局、入谷父と すばる は対面することはなかったが、
入谷父は、将来的に息子が彼女を紹介する日が来ると確信している。
物語全体が、そういう未来を示唆している。

ラストは全ての始まり保健室。

入谷の養護教諭・槇村(まきむら)先生への未練が消えてからというもの保健室が話の舞台になることは激減した。
彼の初恋に決着がついてからもダラダラと槇村先生は登場していたのに、
(旅行回で槇村先生を使ったのは ちょっと納得がいかない『6巻』
最終的に排除されていたのが気になるなぁ。
この1年で妊娠・出産でもされたのかと思ったが、まだ勤務しているようだし それはないか。


この卒業式の日、3月8日は入谷の誕生日でもある。
すばる は卒業式後に保健室での2人だけの誕生会を企画していた。

1年前の誕生日(『9巻』)と同じく入谷側からもプレゼントの逆サプライズが用意されていた。
(結局、ネックレスの登場回は あの時だけだったのかな?)

それが婚姻届。
「一生 俺の横で笑っててよ」という彼の願望が形になったもの、らしい…。

すばる の笑顔を見る度に、恋に落ちていった入谷ですが、
この時の彼女の笑顔は泣きながら笑っている。

「かわいい」は入谷の最上級の褒め言葉だろう。
1話と同じように、保健室の仕切りのカーテンから すばる が出てくる構成も良い。
ここで合言葉も使っているのも良い!

婚姻届は、いくら入谷でも ぶっ飛びすぎかな。
アパートの鍵とか、指輪とかで良かったのではないか。

自分が この日 18歳になり 結婚可能年齢になったら、それをチラつかせる。
なかなか怖い思考だ。
将来的な約束を見せることで、読者に安心感と幸福感を与えるという狙いなのかもしれないが、
背筋の凍るような狂気を感じてしまった。

もう十分、2人なら大丈夫という確信が読者の中にあるというのに。
もっと自分の描いたものを信じていい。


「うそカノ 特別編」…
ぴったり同じ身長の和久井と3キロの差があり、彼に筋肉量で劣ることを知った入谷は、筋トレを始める。
ヒョロヒョロの意識してしまった彼は すばる に触られることを拒否する。
これは3キロ太って入谷に触られたくなかった すばる(『6巻』)と、全く逆の話ですね。

目標を達成したら、身体を触られたくてたまらないからセクハラを強要する。
目的のためなら、相手のことを考えない、視野の狭くなっちゃうところが このカップルは似ている。


「それでも恋と呼ぶのなら」…
入谷のクラスメイト泉(いずみ)くん と西山(にしやま)さん の お話。
本編における吉野と むっちゃん みたいな裏設定かと思ったが、
この2人は設定はあるのに、なかなか先に進められなかった関係性らしい。

連載完結は2018年だが、この短編は2014年に雑誌に掲載された。
が、単行本に収録されないままだったので、
「関係を進めるのも ためらい かと言って何も なかった事にはしたくな」い もどかしい状態が続いたという。

読んでみると、ここまで話を進めたのに、
それから卒業までの1年以上、この2人は この関係を保留させられたのか…。
大人の事情に振り回されて、2人は青春を謳歌できなかったのか。
まぁ、泉がリア充になったら、ツッコミも冴えなくなるので結果オーライか。

にしても 泉はデリカシーが無さすぎる気がするが…。