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筋肉だけじゃ好きになりません、と否定し切れない 筋肉(マッス)ルッキズム

棗センパイに迫られる日々(2) (デザートコミックス)
かみのるり
棗センパイに迫られる日々(なつめセンパイにせまられるひび)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

筋肉愛を見込まれ、バスケ部のマネージャーになった日比華帆。棗先輩の筋肉だけでなく、内面の優しさに惹かれていくけど、先輩と因縁アリげな男子・一慶の学校と練習試合することになって……!? 理想の筋肉に、攻められ迫られまくりのムキムキラブコメ第2巻!

簡潔完結感想文

  • 途中参入する最強のバスケ選手 兼 当て馬。…って『筋肉の成長 待つ僕ら』??
  • 1話でキスした棗、見ず知らずの人を助ける一慶。性格を歪める展開優先が疑問。
  • 一慶との比較で判明する、美しい筋肉ではなく優しい心に触れたから心が動く。

肉は好きの入り口であり迷路、の 2巻。

この後の巻の作者の言葉によると当初は2巻分の短期連載だったらしい本書。本来の予定なら、華帆(かほ)と棗(なつめ)の恋は一慶(いっけい)という比較対象を得て、華帆は棗の筋肉ではなく心に触れていることを発見し、彼からの想いを受け入れてハッピーエンドだったのだろうか。それとも結構 早い段階で連載の延長が決まっていて、本来の予定では一慶というキャラすら存在しなかったのだろうか。
一慶という存在によって作品に当て馬が登場し(『2巻』では まだ覚醒していないけど)、棗と一慶の過去や因縁が生まれ物語が多層的になっている。特に今回はチームが敗北することによって、華帆はマネージャーとして一度 落ち込んだ後に出来ることを探し、棗は華帆を悲しませないためにも強くなろうと決意する。敗北は次の勝利の苦い思い出となり そして原動力にもなる。努力する理由がある限り この2人は成長し続けるだろう。

華帆を助けた一慶は確かにヒーローで、彼女の欲しい情報も間接的に渡している

しかし一慶という存在によって本書が ますます同じ掲載誌の過去作 あなしん さん『春待つ僕ら』に酷似してしまった気がする。作品内 最強プレイヤーにして最強の当て馬という立ち位置が そう思わせる部分が大きいだろう。前者は棗のバスケットボールへの情熱や勝利への執念に使われ、後者は華帆の筋肉だけじゃ好きになりません、という比較対象として使われる。最強の存在であるものの、悲しいかな骨の髄まで このカップルに利用されるのが一慶である。


くも『2巻』にして難しいのが作品内の「筋肉」の立ち位置。私は前半の敗戦からの復活と改善点の模索の流れが好きだったので、後半のデート回などの筋肉押しが暑苦しく感じてしまった。作品の売りは筋肉だから筋肉と言い続けなければ あっという間に普通の作品になってしまうのだろう。けど この後の華帆の心の動きも含めて発達し過ぎた筋肉が作品の可動域を狭くしてしまっているような印象を受ける。無理矢理、筋肉の名前を言わなくてもいいんだよ、と華帆にキャラ作りに必死な芸能人へのコメントみたいな言葉を掛けてあげたくなった。

また『2巻』で最も疑問だったのは、華帆が偵察のために一慶の学校に向かった際、その学校の男子生徒たちに囲まれた華帆を一慶が助けるという行動。一慶は華帆と初対面じゃないから助けたのかと思ったが、この場面では ただ女性が困っているから助けただけ。これが疑問。
一慶は良くも悪くも自分にしか興味が無くて だからストイックでいられるけどチームスポーツを独りでやっている。そんな一慶が見知らぬ女性を助けるとは思えなかった。特に完結まで読んで、一慶の性格を知っていくと この時の一慶の行動は彼の性格と一貫性がないと思わざるを得ない。これは作品的に一慶との関わりのためで、その上 一慶もピンチを助けたヒーローの資格を得るためなのだろうけど不自然さが際立つ。一慶のトレーニングの場所に人が群がっていたから退散させたとか、何らかの理由が欲しかった。

これは『1巻』1話の棗の唐突なキスで感じた違和感と似ている。その人が普段しない行動をさせて華帆の中の印象=読者への印象を強く残そうとしているように見えた。フォローするとすれば、一慶に関しては こういう展開でも作らないと華帆のことを視界に入れないまま終わりそうだからなのだろう。偶発的な遭遇を重ねて、他者に興味のない一慶がウザイほど自分の目の前に現れる女性が気になりだす第一歩である。そう考えると2人の純粋な出会いの場面で一慶は自分から華帆に手を差しのべている。困っているのが華帆だから助けた、という見方も出来るのか。一慶は華帆に筋肉ルッキズムを発動していると嫌味を言うが、自分も実は顔だけで好きになるような人間なのかもしれない。


帆が駅でぶつかった理想的な筋肉を持つ男性・響本 一慶(きょうもと いっけい)が棗の顔なじみであることが判明する。

更に強豪の男子校との練習試合に途中から一慶が登場する。この練習試合で華帆は、合宿など自分の作ったメニューによる部員たちの努力に結果が出ることを祈る。一慶が出場するまでは強豪校相手にリードを奪う展開だったのだが、彼が入ると試合の流れが一変。華帆の特殊能力でも一慶の筋肉はバスケに必要な筋肉が細部まで鍛えられているように見えた。

部員の情報により一慶が中学時代から優勝を重ね、舞台となっているらしい東海地方で一番注目されている選手だと設定される。そして棗は一慶と同じ中学出身で小5からミニバスで一緒になり、中2で一慶が引っ越すまでチームメイトとして戦ってきた。

一慶のオーラに呑み込まれて以前の弱小チームに戻りそうな雰囲気を棗がコントロールする。自分が一慶を止めると宣言し仲間の士気を上げる。だが棗以上にバスケに理想的な筋肉を持つ一慶は棗を寄せ付けない。早くも2人のプレースタイルの違いが明かされ、一慶は個人で、そして棗はチームで強くなるバスケを理想としていた。

主力選手同士の実力差が露わになり、結果的にダブルスコアに近い点差が開いてチームは敗北してしまう。


合後、弱小チームという感覚が拭えない部員たちに華帆は練習の成果を発表し、自分も対戦校のデータを収集して対策を練ると大会に向けて目標を掲げる。華帆はマネージャーとして明るく振る舞っているものの、彼女も部員以上に落ち込んでいることを棗は見抜いていた。

筋トレは裏切らないが、それが試合に絶対に勝つことには繋がらないと華帆は実戦の怖さを初めて知ったと言える。そして棗は そんな華帆の苦しみや悲しみを その胸筋の中で発散させようと彼女を抱きしめる。胸の中で涙を流す華帆に見えないところで棗は厳しい表情を浮かべ、華帆を泣かせることのないように自己研鑽を誓う。

棗と華帆は、相手が どれだけ努力してきたかを知る一番の理解者同士である

の苦い練習試合を経て華帆は顧問から うまい人を真似て比較する、という手法を教わる。そこで連想したのが一慶。彼のプレーを参考にするため華帆は単独で男子校に赴く。

だが女性の存在を珍しがられる生徒から囲まれピンチ。そこから華帆を救ったのは一慶だった。一慶は華帆が練習試合の生徒だとか以前 会ったから ではなく単純にピンチの女性を救っただけ。うーん、この一慶の行動は彼の根本的な優しさの表現なんだろうけど彼らしくないように思う。あんまり他者を、それも知らない女性を救うタイプに思えないし、この後の一慶の性格と整合性が取れていない気がする。

強引に知り合うことで華帆は改めて一慶の筋肉を間近で見て、選ばれた人にしか現れない筋肉、通称「アポロンのえくぼ」から彼のことをアポロンと心の中で呼ぶようになる。
そして一慶が個人で練習していることを知り、華帆は部員たちのメニューを一律ではなくカスタマイズする発想に辿り着く。チームが勝利に近づく予感を覚えた華帆は一慶に感謝して立ち去る。

華帆がマネージャーとして努力するように、棗も自主練をして努力していた。そして棗は華帆からパワーを貰うことで無敵になれると自分の中の華帆の存在を伝える。棗もまた華帆と同じように目標を定め、試合と恋愛の勝利に向かって再び始動する。


帆は部員たちの備品の買い出しをするはずが、棗の手回しによって2人きりとなり疑似デート回となる。少女漫画で海回を前にヒロインたちが水着を選ぶ内容は何十回も見てきたが、海回でもないのに男性の水着の試着は初めて見た。

棗は、華帆が私服にこだわりがなく、似合う服も分からないというと彼女に合う服をプレゼントする。棗が華帆を自分の好みに染め上げたいのか、華帆のダサすぎるシャツを少しでも隠したいのか…。

今日のために棗は華帆が好きそうな店をリサーチ済みというマメさを見せる。棗が色々と考えてくれていることが この日をデートっぽく演出する。この日の会話で華帆は、中学時代に揃いで購入したキーホルダーを大切にしている棗と一慶の間に何かしら すれ違いが生まれていることを察する。

遊園地回ではないけれどデート回だからか棗は最後に観覧車に2人で乗りたいと華帆に伝える。観覧車から見える自分が好きな時間帯だけ現れる景色を華帆に見せたい、それは棗の華帆への想いや いつも彼女のことを考えていることを どんな言葉よりも雄弁に語っている気がした。


れ難い棗は華帆を家に送りつつ公園に向かう。そこで棗は華帆にデートの終わりのキスを交わそうとするのだが、その場面に一慶が現れる。華帆は一慶の登場を利用してキスから逃れようとするが、彼女が一慶と以前よりも心理的な距離を近づけて話すのを見て棗が割って入る。そこで華帆の一慶への偵察行為が棗に知られてしまうが、華帆は逃亡して追及を逃れる。

残された2人の会話の中で一慶は、棗が華帆を愛おしく想っていることを知る。ストイックさと かけ離れた棗の姿勢に一慶は失望を隠せないが、棗は華帆のために強くなると自分の勝利を信じている。そんな棗に一慶は、棗と戦うために別々のチームになったことを想起する。


察行為を棗に追及され、次回からの単独行動の禁止と注意される。しかし それよりも棗が関心を覚えたのは どういう経緯であれ一慶が華帆にヒントを見い出すような会話をしたことだった。つまり棗は一慶にとって華帆が特別なのではないかと警戒した。

棗の警戒も虚しく華帆と一慶の交流は続いてしまう。電車内で偶然に再会し、会話が始まる。この時点で一慶の関心は、棗を腑抜けにさせている存在の華帆だろう。間違っても恋愛感情ではない。だから華帆に対して小姑みたいな嫌味を言い続ける。

しかも華帆が筋肉というワードを発したことから一慶は彼女が筋肉 ≒ 外見で人を判断するような人間だと勘違いし、棗個人ではなく美しい筋肉の持ち主だから惹かれていると筋肉ルッキズムが発動していると指摘する。そう指摘されて華帆は一慶を突き飛ばすように拒絶する。
けれど後日、棗に迫られてみて分かったのは、一慶の時とはとは違い動けなくなる自分のこと。棗にだけ反応する自分の心に華帆は戸惑う。