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少女漫画と小説の感想ブログです

二重契約による同居、そして今回の騒動の発端と結末。俺たちを陰で操っているのは大家さん⁉

グッドモーニング・コール 6 (集英社文庫―コミック版)
高須賀 由枝(たかすか ゆえ)
グッドモーニング・コール
第6巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

上原くんと同居中の菜緒。しかし、この二人、千崎兄弟の悪ふざけに翻弄されてしまってた。そうとも知らず、千崎兄と親しく付き合う上原くんに、菜緒は本当のことが言えずに…。【同時収録】「グッドモーニング・コール番外編」/「グッドモーニング・コールおむすびころりん」

簡潔完結感想文

  • 上原への嫌がらせに上原の友達が関わっていたことを言えない菜緒。犯人の自供に上原は…。
  • 初デートでも一定のテリトリーに菜緒を入れない上原。連休は女二人で気ままな旅のはずが…⁉
  • 大家から退室願いが出て、上原は別居を検討中⁉ この漫画の根本である同居すら解消の危機。

ラストは結婚かと思いきや、お別れの 最終6巻(語弊あり)。

2人の同棲を学校中にバラすという怪文書の件は解決したけれど、
その真犯人が上原(うえはら)と親しいという理由で、上原には事件が解決したことを告げずにいる菜緒(なお)。

またもや上原に大事なことを告げない菜緒ですね。
2人のコミュニケーション不全は一生続きそうですね。一生。

しかも上原想いの彼女を演じながらも、そこにはこの件を未解決のままにして新居に引っ越しをしたいという下心があるのだ。
家具を買いたいとか、引っ越し資金とか、どこからそんな大金が出てくるんだか…。

新居を望むのも新しい服を買うように、新しい環境に身を置きたいという願望ですかね。
本書は私が読んだ少女漫画の中で一番買い物シーンが多い漫画かもしれません。
そして引っ越しやら旅行・買い物で費やした金額がもしかしたら一番多い漫画かもしれませんね。
物を多く持つことに価値が減ってきた2020年現在から見ると色々とムダが多いようにも思えます。


かし真犯人が上原にも自供したので引っ越しの話も流れた。
更には犯人の双子の千崎(せんざき)兄弟の犯行は完全なる逆恨み、しかも恨みの対象は上原ではなかったことが判明。
千崎兄弟の弟・優(ゆう)が好きな桃山(ももやま)が現在つき合っているのは、
なんと同じフロアに住む、お金持ち大学生・哲(てつ)。

そう『3巻』で菜緒たちの通う久保高の英文科(いらない設定)の香織先輩の恋人なのだ。
この顔も出てこない男に、菜緒と上原はどれだけ迷惑を掛けられたことやら…。

ちなみに千崎兄弟と桃山は生まれた時から家が隣同士。
あだち充さんの『タッチ』の設定ですね。
そしてどうやら『タッチ』の南ちゃんが、双子のどちらも好きにならなかったという夢も希望もないパターンらしい。
更には双子が共謀して、彼氏と思われる男性(上原)に嫌がらせをするという爽やかさゼロの物語になってしまった。
尾行やらストーカーやら怪文書やら、やることが女々しい(性差別的?)双子です。

ちなみにこの双子の女々しい方(弟の優)は、単独行動してると上原にしか見えなくて困ります。

そんな優は恋が上手くいかない者同士である阿部っちと親友になります。
なので『6巻』では阿部っちと行動をよく共にしていて、そして本書では便利キャラ・阿部っちは出番多めなので、優も出番が多いという恩恵にあずかる。
至って常識人の兄・秀(しゅう)は上原に激怒され、旅行も連れてってもらえず、ラーメン屋で働かされる可哀想な役どころである。


文書事件も無事終幕し、引っ越しの必要がなくなったある日、
何もしなかった菜緒の誕生日プレゼントとして上原が菜緒に携帯電話(の本体代)をプレゼントする。

プレゼントは実用的な物。でも肌身離さず持ち歩く物。あなたからの連絡は、くるかな…?

薄情者だと思っていた上原に汚名返上のチャンスが到来しましたね。
しかしこの時代、2001-2年の本体のお値段は幾らぐらいなんでしょうか。
2020年時点から読むと、スマホの本体はお高いものなんですが。


まきながら初デート回では、今更ながら上原との共通点の少なさを痛感する菜緒の姿があった。

どうやら上原は、なかなかの映画好きらしい。
コンビニの他にやっている、ビデオ屋のアルバイトも夜遅くまで働けるからだけじゃなく、趣味もあるのかもしれない。
そして見方にもこだわりがあって、必ず一人で見るらしい。
初デートなのに、隣にも座れないし、趣味や趣向が違うことが露になって一層の距離を感じる菜緒。

菜緒はデートが上手くいかなかった腹いせか、ラーメン屋の一星(いっせい・20歳の久保高生という謎設定)のもとに駆けつけ腹ごしらえをする菜緒。
そして上原よりも一星の方が性格的に近いことを感じる。
菜緒の気持ちが一星に傾くかというところで、恋愛未成就組(優と阿部っち)が同じ匂いのする一星を担ぎ上げてある計画を画策する…。

髪型を微調整するために、前の担当さんの浅井(あさい)がいるお店に行くことを決意する親友まりな。
移動に半日かかる場所なので、連休を利用して旅行することに決めた。
ちょうど上原から酷い仕打ちを受けていた菜緒と、そして片想いの一星を手助けするために機会を伺っていた恋愛未成就組。
様々な思惑が重なって結果的に男女5人の旅行が始まります…。

この男女5人旅で上原をまだ快く思っていない優によって、一星と菜緒を近づけて、上原を傷つける目的があります。
優はどこまでも姑息で女々しい男ですね。
そして何となく保管されていた一星の恋心が満を持して登場です。
上原との仲がしっくりきていない菜緒にとっても浮気チャンス?
いや波乱を作るまたとない機会になっています。

ただ菜緒と一星の間には結果的には何も起こらず。
それどころか一星は菜緒への気持ちを別の意味で確定させて、そして違った幸せが訪れている。

考えてみれば交際を始めた『2巻』以降、菜緒にも、そして意外にも上原にも、
言い寄ってくる人は誰もいないんですよね。
後半、そんな役割を担うと思われた一星や桃山さんも本気で奪略するような人ではなかった。
ドロドロな展開を排除したことで作品の雰囲気が損なわれずに、楽しいラブコメを維持できたと言える。

上原は少し時間と距離を置くと優しくなりますね。
少々ツンデレ気味のデレの部分が出てくるというか。
基本的に寂しがり屋っぽいので、離れると彼女を想うタイプなのかもしれません。
そういう部分を菜緒に見せればいいのに、と歯痒くも思いますが。
まぁ同居生活に戻ると、上原の性格も元に戻るし、映画は一緒に見てくれませんが。


語の後半は旅行など非日常のイベントが多いですね。
これは非日常イベントはが読者人気を得るからなんですかね?

色々な設定を創出してまで久保高生ばかりで登場人物を固めた割に、久保高が舞台になることが本当に少ないですよね…。
上原とはクラスが違って学校イベントが進めにくいんだろうけど。
物語的には、高校入学して半年ちょっとで終わってしまうからイベント自体も少ないし。
こんなに久保高にこだわっていた理由を10年後の裏話として聞きたいもんだ。


からさまな最終回への展開として、家の退去を大家から懇願される菜緒たち。

元々、千崎兄弟による怪文書事件をきっかけに引っ越しを考えていた上原。
だが、その時に見つけた物件は既に借り手が見つかっており2人の新居計画は振出しに戻ってしまう。
来月までに家を出なくてはならなくなった時、上原の決断は…。

上原の突然の別居宣言。この後、菜緒の気持ちは乱高下のジェットコースター。

この上原の突然の発表に菜緒は落ち込む。
そしてモノローグで浮かぶ菜緒の本音は…。

「だって あたしたちって 近くにいたから… 一緒に住んでたから つきあい始めたよーなもんじゃん」
「上原くんは 同居の相手が あたしじゃなくて 他のコだったら そのコを好きになってたのかもしれない」

今更それを言うかという内容で驚いた。
それを言っちゃあ、お終いよ。
それは、どちらも「愛情が薄い」と読めてしまう2人の関係性に読者が常々思ってきたことだ。
確かに「テラスハウス」風な世界を限定することで男女に愛を錯覚させているようにも読めるし。
そしてそれ以上の2人の繋がりを描けなかった作者の過失でもある。

冷めた見方をすれば、年齢的に恋愛の真似事をしてみたかった男女の「おままごと」恋愛にも読めてしまう。
中学生ながら働きに出る上原と、専業主婦(学業放棄)の菜緒。
恋人同士の同居・同棲というよりは、旦那と妻の役割を演じた長い おままごとなのだ。
生活費の半分は親に援助してもらいながらの新婚ごっこ
なかなか贅沢な ごっこ遊びだ。

どうやら作者は物語を畳みたくてしょうがなかったみたいだが、
最終回間際で菜緒にこんなことを言わせるのはちょっと可哀想だ。

まぁ、当の菜緒はまた友人の助言で違う見方を教授してもらったら、それに舞い上がっていたんでケアは必要なさそうですが。
それにしたって最後まで薄い愛情しか描けなかったのは残念である。

しかし大家のばーちゃんは結構な遣り手ばばあ ですね。
そして実は自分本位ですね。
お前らの家を孫夫婦のために使いたいから来月までに出ていけ、と高校生カップルを半ば脅迫している。
親に連絡することを含めて弱みは全てばーちゃんが握っている。
更には悪徳不動産の契約書などはこの世に存在しないから、第三者に助けを求めて契約違反で彼女を訴えることも出来ないだろう。
どこまでも用意周到なババアだ(笑)
伊達に資産家じゃあ ありませんね。
もしかしたら中津河(なかつがわ)のジジイに近づいたのも、その資産目当てかもしれない…。
中津河家の遺産相続が骨肉の争いにならないことを願うばかりだ。
『大学生編』で中津河のジジイの生存が確認できなければ、ババアのアリバイを確かめなければいけません(妄想です…)


そんなこんなで大家のばーちゃんの意のままに引っ越しをする羽目になった菜緒たち。
ラストシーンでは何となく大家のばーちゃんたちの厚意によってハッピーエンドを迎えているが、
そもそもババアのワガママが発端であることを忘れてはならない。
いたいけな少女に恩を売るなんて生き馬の目を抜く不動産業をかいくぐってきたババアには簡単なことなのだから。

それに上原の言う自立というのは、そういう意味ではなかったような気がするが…。
浮気とか考えている訳ではないが、物理的な距離を置きたかったのではないか。

そして上述の通り、会えない時間があった方が上原は優しくなる傾向が見られるので、
物理的距離があった方が、結果的には菜緒も幸せになったのではないかと思われる。

これだと、まさにスープの冷めない距離で、菜緒が食事を持って来たり、入り浸ったり。
『6巻』収録の菜緒によるメール連発じゃないけど、物音に耳をそばだて、出入室を監視したりなど面倒くさそうだ。
なぜなら菜緒も不安が膨らんで、被害妄想に走る少女漫画のヒロイン体質だから。

まぁ、人様に口外できないような不謹慎な関係が解消されたことは良かった。
そしてこれなら広義の一つ屋根の下の暮らしでもありますからね。

そういえば高校入学の時に寮に移り住まなかったことといい、今回の引っ越しといい菜緒は両親にどう告げ得ているのだろうか。

本書は親というものを徹底的に排除した物語でもありますね。
上原の両親は死別、菜緒の両親は音信不通状態。
女子中高生にとって親がいないことが夢物語の入り口なのだろうか。
菜緒にとっては親は金さえ出してくれれば居なくても何の不自由もない存在になっていたのが、本書で一番不謹慎な点かもしれません。

私としては二股男・哲が同じマンションのフロアで1DKの部屋に住んでいるという謎の構造なんだから、そこの2部屋に引っ越してもよかった気がするなぁ。

そういえば上原の兄・卓也(たくや)は最後まで登場しませんでしたね。
上原(弟)とは「月とスッポン(百合・談)」という設定にしてしまったため、卓也の顔はハードル上がりまくりで出しづらくなってしまったとか。

まぁ、でもねぇ、作者の画力というか男性の顔のパターンからしたら大体想像はつきますよね。
本書でたくさん出てきた上原の亜種の一つだろう(辛口!)。

さて『大学生編』も ちゃんと買い溜めてありますし、完結したら読みます(上原のようなこだわり)。