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症候群シリーズ最終作。殺人の動機は人を救うため…。

殺人症候群 (双葉文庫)

殺人症候群 (双葉文庫)

警視庁内には、捜査課が表立って動けない事件を処理する特殊チームが存在した。そのリーダーである環敬吾は、部下の原田柾一郎、武藤隆、倉持真栄に、一見無関係と見える複数の殺人事件の繋がりを探るように命じる。「大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?」「この世の正義とは何か?」という大きなテーマと抜群のエンターテインメント性を融合させた怒涛のノンストップ1100枚。


三部作の掉尾。第1弾の症候群は若者の突然の失踪、第2弾は対象の選び方が斬新な誘拐、そして第3弾は誰かを救うための殺人であった…。
現在の警察の捜査方法では暴き切れない悪を裁くのが環敬吾をリーダーとするチームの目的だが、今回は捜査対象もまた現代の法制度では裁き切れない悪を独自に裁く者だった。それを知り倉持はチームを去る。対象者も悪を断ずる者ならばその者は正義なのか? 悪を裁き切れない現代社会のシステムは果たして正義に値するのか? 法治国家の法制度の限界を示しつつ、私刑の是非を問う。
今回の「症候群」である殺人は「(特定の)誰かを救いたい」という慈悲とも言える感情から起こる。これが新たな殺人、現代社会が生み出した新たな「症候群」。
少年法精神障害による不起訴などで早期に社会から赦されてしまう殺人がある。自らも少年犯罪に巻き込まれ婚約者を失った響子、そしてその友人・渉はその事実に愕然とする。そして同じように社会的な赦しを許せない者たちの心の救済を目的に殺人を重ねる事を決意する。響子は交渉役、渉は実行犯、自らの行為を「正義」と信じて…。一方、心臓移植しか息子の助かる道はないと知った母・和子は息子に相応しい心臓を持つ"標的"を探し、黙々と殺す。どちらの殺人者も苦しみの除去と大切な人の「心」の平安を求めて…。
この「症候群」の設定が斬新だ。少年たちの理不尽な殺人と、「症候群」としての殺人、どちらも殺人には変わりなく本来なら厳重に罰せられるべき犯罪である。なのに私は前者に憤慨する一方で、後者には彼らの動機には同情の余地があると常に感じていた。例えば私が「症候群」裁判の陪審員なら心情的に加害者の減刑を強く求めてしまうだろう。しかしそれは「症候群」殺人の被害者の関係者からすれば、また勝手な論理であり、それを認めれば復讐の連鎖は止められなくなる。登場人物たちだけでなく読者もまた懊悩する事になる。
欲を言えば、もう少しテーマに踏み込んで欲しかったかな(説明過多で冗長になり、このシリーズが持つスピード感や緊張感が損なわれる恐れはあるが)。また和子と"(引きこもりの)標的"の出会わせ方は少し強引かな("標的"の行動が不自然)。ミステリ的な「あるトリック」に関してはあからさまで、作者が貫井さんなので割と早めに看破出来てしまった。本書ではトリックは「おまけ」みたいなものだが。
シリーズを通して読んできた読者にとっての一番の読み所は、味方VS味方という対立の構図だろう。環の部下として動いてきた原田・武藤・倉持は事件の背景を知る事によって、自らの行動理念・正義が揺らぎ始める。倉持は離反し、武藤は環の正義を疑い、原田は疑問を持ちながら妻子と生活のためにその疑問を黙殺する。これまでのシリーズで描かれた個々人の過去や事件の背景を踏まえた三者三様の行動が興味深いところ。ラストの展開でシリーズを通した3人の部下たちの素顔が見えたような気がしたが、結局アノ人は「正義」の仮面を被り続け、自分の素顔を曝さなかった。しかし見せない事によって彼の覚悟や凄みを感じられたようでもあった。そしてラストのラストがとても格好良いのです!!

殺人症候群さつじんしょうこうぐん   読了日:2008年10月10日