
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ)
神様はじめました(かみさまはじめました)
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
霧仁と共に黄泉国に落ちてしまった奈々生。地上への出口を探して、危険な二人旅が始まり…? 一方、ミカゲ社で留守番をしていた巴衛のもとに「奈々生が黄泉で行方不明」という知らせが届く。その時、巴衛の意識に大変化が起きて!? 神修行も恋も急展開★出雲編第8巻!!
簡潔完結感想文
- ラスボスと知らず霧仁を庇護し続ける奈々生。聖女は自覚せずに世界を救う伏線を張る。
- 何度目かの神使契約再更新だけれど、今回は巴衛の意思と恋心が入って両片想いが成立。
- 死者認定された霧仁が黄泉国から出られたり、ミカゲが神の領域に入れたり謎だらけ。
そんなルールありました!? の 8巻。
ヒロイン・奈々生(ななみ)が土地神として神議り(かみはかり)に出席する大役に緊張していたはずが、異世界・黄泉国(よみのくに)での冒険譚となった『8巻』。物語が予想外の深部に突入すると同時に、作品として大きな背景を構築しつつ、少女漫画として恋愛要素の進歩も見せていて1巻で こんなに充実した内容になるのかと驚くばかりだった。
特に奈々生と巴衛(ともえ)の縁は、ミカゲという縁結びの神様(元職?)によって結ばれているという大きな仕掛けが見えたのが良かった。告白した水族館デート(『4巻』)、出発前の遊園地デート(『7巻』)と似ているようで まるで心境の違う今回の出雲デートは素直になれない巴衛の心情が見え隠れして厳しい言葉の中に温かさを感じられる。作品に新しい読み方が追加されて読者としては喜ばしい。
この出雲編が始まるまではワガママ放題生きてきた奈々生だったけれど、この頃から神としてのスキルが上がり、同時に人間として優しくなった気がする。自分よりも誰かを優先できる性格になり、困っている人を見捨てられない。奈々生って こんなに人格者だっけ??と初期の暴れ馬だった頃の奈々生と違和感を覚えるほどである。まさに神ヒロインになっており、これが巴衛の一度は失ってしまった人間への想いを回復させるのあろうか。神様としての能力も上がっており、その能力と豪胆さで神を騙すような行動までとっている。


そして奈々生が今回、黄泉国で霧仁(きりひと)という作品のキーパーソン、ラスボスと行動することによって物語の根幹に介入する権利を得た。そして上述の通り神ヒロインになった奈々生は霧仁=悪羅王(あくらおう)という存在に一目置かれ、絶対悪に対峙する絶対善としての立場を手に入れた。この段階で奈々生は世界を救う聖女になったと言えよう。奈々生も、そして過去に悪羅王と因縁がある巴衛も霧仁の正体に気づいてはいないけれど、彼らが霧仁と再度 対峙するのは不可避の展開だろう。
奈々生の出雲行きだけでなく予想外の黄泉国行きを聞いて巴衛の心境に変化が訪れる。出雲との遠距離状態に加え、アクシデントが起きたことで巴衛にとっての奈々生が再定義されて、ようやく巴衛が自分が思っている以上に奈々生を想っていることを自覚する。土地神と神使という離れ難い関係性の中で、唯一 神議りだけが2人が遠距離状態になる機会だったのだろう。
更に巴衛は奈々生を助けるために制限されていた能力を解放してビジュアルのチェンジするなど、離れていた分、ヒーローの活躍場面は派手になっている。
重要なのは今回の神使契約は巴衛の意思、であること。これまでは奈々生側から、巴衛のミカゲ社を大切にする気持ちなどで契約が結ばれてきたけれど、今回 巴衛は奈々生を好きな自分を自覚しながら神使となった。これはラストでミカゲが心配していた過去の絶望を乗り越えようとする無自覚な気持ちでもあるような気がする。恋愛的には巴衛の過去の記憶の封印が解かれる時が両想いの到来になるのだろうか。今は この読者と巴衛だけが知っている両片想いを楽しむ時期のようだ。
全体的に面白かったけれど、毎度のことながら この世界のルールや設定が謎過ぎる。
1つは打出の小槌で巴衛が過去の姿に戻っていること。神使契約を一方的に破棄できることも含め、そういう設定だったっけ??と首を傾げた。よく読めば そんな設定になっているのかもしれないけれど、読者に その設定を理解させる描写が欲しかった。
そして私が最も分からないのはミカゲの地位。奈々生に土地神の座を禅譲したミカゲがどうして今も神として振る舞い、神の領域に入れるのかが全く分からない。まるで店長と店長代理みたいに いつでもミカゲは神に戻れるような状況になっているのが不思議でならない。奈々生が土地神として自覚と能力を付けていくほどミカゲは人々から忘れさられ能力と存在感を失うのが自然だと思うけど、浮遊霊状態のミカゲは影響を受けていない。入国審査が厳しい描写があった神の領域に入っているのは、神をも騙す能力があるということなのか。
再読するとミカゲの中途半端な立ち位置はラストの展開に必要なのだろうけど、今のところは設定が曖昧すぎて そこが引っ掛かる。
霧仁と共に黄泉国(よみのくに)に落ちた奈々生。危険の多い黄泉を駆け巡っていた奈々生たちに黄泉国の主祭神であるイザナミが使いを寄越す。奈々生は地上に戻る道を尋ねるが、その前にイザナミは神ではない霧仁の存在を消す。イザナミが奈々生の中のイメージを具現化して香夜子(かやこ)の姿をしていたこともあり、奈々生は霧仁が香夜子の想い人であることを思い出す。神の目から見ると、誰かの魂が入っていようと霧仁は死者。だから黄泉国から出す訳にはいかないようだ。
その理を教えられた奈々生だったけれど霧仁を切り捨てることは出来ず、危険な黄泉国の物を食すことで自分も この国の住人になる。この場面、奈々生が通力で黄泉国の物を現世の物に変化させて、神を欺瞞しているのが痛快。自分の空腹では危ない橋を渡れないけど、誰かのためなら大胆な行動も出来るという肝の座ったヒロインだと証明している。でも奈々生が ここで情を働かせなければ世界に危機が訪れたりしなかっただろう。それでもヒロインとして正しい行動。土壇場の行動力を気に入られた奈々生は、お札を通じた自分の通力が この場所でも通用することにも自信を深めていた。
霧仁の中に悪羅王(あくらおう)が宿ったのは、雪山で雪崩に巻き込まれて自分の死を悟った霧仁が身体を譲ったからだった。彼は生前の未練として、家を出る際に母親と口論をしたことを挙げ、その謝罪の代行を悪羅王に願った。その代償が自分の身体だった。実際、霧仁の身体を得て何百年振りに復活した悪羅王は まず霧仁との約束を遂行している。記憶の混濁や欠落があるにせよ、悪羅王は意外に優しい人物のようだ。
そして悪羅王は霧仁として生きて爪を研ぎ澄ましていた。黄泉国にある自分の肉体の奪取のために霧仁は香夜子を利用し、彼女が奈々生に負けると自分で肉体を奪還しにいった。そこで奈々生と知り合い、神から消滅させられそうになるところを彼女に救われる。霧仁にとって命の恩人になり、母と同じような温かさを持つ女性となる。奈々生は、悪羅王にとって自分に身体を譲ったオリジナルの霧仁同様に不可解で それでいて救われる存在として認識される。
隙を見て奈々生は霧仁を連れてイザナミ邸から抜け出す。霧仁が弱い身体を何とか酷使しながら、奈々生の通力で出口まで進む。しかし妖怪たちによって破壊された出口を奈々生が黄泉国に入ったと知りながら、戦神・建速(たけはや)が新たに岩で塞いでいた。
そこに乙比古(おとひこ)からのメッセージで奈々生が黄泉国で行方不明になったと知った巴衛が到着する。戦神は奈々生に資質があるのなら自力で出られると岩から動かない。巴衛は不利と知りながら神に挑むが惨敗。それは巴衛がミカゲ社に縛られた神使だったから。そこで『2巻』でも出てきた打出の小槌(うちでのこづち)を使って巴衛は神使契約を破棄する。小槌にそんな能力があるって設定ありましたっけ?? 完璧な妖となった巴衛は初登場だろうか。
黄泉国の奈々生は岩を動かすことが出来ず、間もなく追っ手に追いつかれる。そこで自分が犠牲になって霧仁を助ける。その奈々生の優しさに触れた霧仁は自分だけが助かる道を選べない。人間の善性に対して揺らぐのが今の霧仁らしい。
奈々生が独力では どうすることも出来ない状況になって初めて巴衛と合流する。奈々生の成長やヒロイン性を演出しつつ、巴衛をヒーローにする展開である。瑞希のお陰で巴衛の到着も遅くなっている一方で、途中で瑞希を排除することで巴衛が活躍している。
地上に戻った奈々生は疲労困憊で昏睡する。残されたのは霧仁と巴衛という過去に因縁のある大妖怪なのだけど、巴衛は霧仁の中にある悪羅王を感知しない。ちなみに巴衛は戦神の頭を割って、奈々生を救出しに来たようだ。


次に奈々生が目を覚ました時には神議りの4日目。その間に妖に戻った巴衛は牢に入れられて処分を待つ身になっていた。それを知った奈々生は神使契約を再度 結ぶために牢へ一目散に走る。巴衛は牢の中で、神使ではない本来の自分も奈々生に心を縛られていることを自覚する。
それでも巴衛は自分が神使に戻るかは自分が決めると奈々生を遠ざける。これは自分が否定していた人間と妖の恋について悩むからなのだけど、奈々生にとっては拒絶に受け取れてしまう。
それでも奈々生は自分の神としての仕事に集中することで、巴衛の選択を受け入れられる自分でいようとする。そして傷を負った巴衛のために薬を間接的に渡す。それは奈々生にとって巴衛への餞別だったのかもしれない。だが巴衛は自分が奈々生と別れ難いことを自覚し、自分から眠っている奈々生に神使契約のキスを交わす。奈々生の意思はそこになく、今回の契約であるのは100%の巴衛の意思だ。
それでも巴衛はツンデレな態度を改めない。すぐには素直になれないようだ。ただ奈々生に誘われると2人でデートのような時間を楽しむ。そして奈々生に自分への気持ちを確かめ嬉しくなる。けれど奈々生の方が巴衛を困らせたくないと何も望まないと宣言したことで、巴衛は気持ちの持って行き所を失う。白泉社作品では両想いはクライマックスイベントなのである。
自分の気持ちに気づいた巴衛は奈々生の隙の多い言動が気になり始める。だから彼女に忠告するつもりが苛立ちをぶつけたようになってしまう。それでも巴衛は奈々生に自覚を持たせるために わざと嫌われるような困らせるような行動をする。そういう言動でしか まだ自分の気持ちを伝えられないようだ。
紆余曲折のあった神議りも最終日を迎え、奈々生は出雲に来て自分が神様になったことを実感する。
そして初日に自分を導いてくれたミカゲの姿を見る。2人の対面は『1巻』1話ぶりだろうか。ミカゲから奈々生は この日までの神としての仕事を認められる。奈々生は巴衛がミカゲを気にしていることを知っているから対面させたいが、ミカゲは巴衛が自分を必要としなくなる日まで会うつもりはないという。
ここでミカゲは短い生涯だからこそ幾つもの恋をする必要性のある人間と違い、妖は長い時間を生きるからこそ一つの想いを抱き続けると その違いを説明する。そして巴衛は雪路(ゆきじ)を想った。あっという間に世を去る人間への想いは妖にとってリスクが高い。だからミカゲは巴衛の中の雪路への記憶を忘却させている。そしてミカゲは その間に巴衛が人(奈々生)と関わり、人の強さを間近で見て再び人間と関わる縁を結ぶことを願っていた。全てはミカゲという縁結びの神様の言う通り、なのだろう。
しかし なぜミカゲが この場所に居られるのかが私には分からない。彼が土地神ではないはずなのだけど、その地位を奪われていないということのなのか。
