
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ)
神様はじめました(かみさまはじめました)
第09巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
ミカゲに再会した波乱の神議りも終わり、平和な日常が戻って来た奈々生。ようやく穏やかな高校生活が再開する…かと思いきや、下校途中に小天狗と遭遇! 訊けば、十七年前に下界へ出奔した“真寿郎”という天狗を探しているというのだが!? 天狗の里・鞍馬編、ついに開幕!
簡潔完結感想文
- 神様が頭を下げたり、神様の暴力被害は問題だからか割愛。香夜子が立ち直り出雲編終了。
- 両片想いを早々に両想いにさせる訳にはいかないのでサブキャラによるサブストーリー開始。
- お花を摘みで単独行動。好きな人と離れた僅かな隙に男性から好きになられるヒロイン様。
サポート役に回りはじめました、の 9巻。
『8巻』まででヒロイン・奈々生(ななみ)の土地神としての成長を見せ、その成長に合わせるかのように奈々生を拒否していた巴衛(ともえ)の中に奈々生への特別な恋心が芽生えた。
両片想いは少女漫画読者が強く望む期間なのだけど、今度は両片想いという際どいバランスで関係性が停留する理由を作らなければならなくなる。本書の場合は巴衛には人間との歩みの差が違うことを痛感する過去があって、その過去のトラウマのようなものを払拭しない限り2人の真の幸福はないという障害が用意されている。
それでも四六時中一緒の男女で、しかも奈々生は前のめりの生き方だから一緒にいると勢いで告白しそうなタイプである。きっと作者も奈々生の行動力は頼もしくもあり恐ろしくもあるだろう。だから2人が一緒にいるけれど、恋愛どころじゃない展開を用意した。それが芸能人妖怪であるクラマのエピソードである。今まで微塵も感じさせなかったクラマが天狗のエリートであるという設定を後付けし、彼の実家問題を助けることで奈々生はサポート役に回る。そうすることで奈々生は恋愛脳で巴衛問題にリソースを使うのではなく、人助けをするヒロインとして行動する。この恋愛を二の次にする手法が上手い。


更に作者が巧みなのは、明らかなサブキャラのサブエピソードを本筋と絡ませる手法を採用している点である。本書の本筋とは絶対悪の悪羅王(あくらおう)問題。ただ悪羅王=霧仁(きりひと)は直前の出雲編でも登場していたのでお休みさせて、今回は悪羅王の右腕として名乗りを上げた新キャラがクラマたち天狗を かき乱す。これによってクラマ編が完全な独立したエピソードとならず、読み飛ばすような内容ではなくなる。奈々生と巴衛が介入する必要性は薄い話なのだけど、単発エピソードにしたくないという強い意志と それを可能にする作者の高い構成力が見えたのが良かった。そして これまで奈々生と巴衛がクラマに関わってきたからこそ、クラマが最後に ある行動を取るところは感動するポイントとなっている。関わり続けることで変化していく人間関係を上手く掬い取っている。
巴衛との関係は保留にしつつも、新たな男性キャラとの出会いで奈々生は文字通りヒロイン(もしくはマドンナ)になる。こうすることで作中の奈々生への恋心の総量は失われず読者の承認欲求も満たされる。こういう部分も実に上手い。
一つ残念だったのは香夜子に対する無礼を神が謝らない点。香夜子が ちゃんと回復している様子を見せることで読者の心配は解消しているので、それでいいのだけど、奈々生が出雲に乗り込んだ理由は中途半端になってしまった。
けれど それは「神様」というデリケートな存在を扱う上では仕方のないことなのだろう。例えば奈々生が香夜子を惨めな気持ちにさせた主犯である神様の首根っこを掴んで謝罪させたら色々と問題が起こる。1つは奈々生が神に対して無礼となりヒロインとして相応しくなくなる。そして香夜子も神に頭を下げられたら一時的にせよ神よりも上位存在になりかねず作中で人間でなくなる。そして実在する(?)神様を扱う以上、神として相応しくない行動を取らせると神社関係者などから余計なクレームを受ける可能性が出てしまうのだろう。
この配慮は『8巻』で巴衛が戦神(いくさがみ)を のした時にも垣間見える。巴衛は戦神に一撃を加えたとされ、その結果は描かれるが、その様子は描かれない。これも巴衛が神を本当に殴打したら問題になるからではないか。
個性豊かな神たちが新米土地神である奈々生や人間に迷惑を掛けることはあっても、彼らは それを悪びれてはいけない。そして奈々生たち作品側は神のすることは黙って受け入れるしかない。間違っても神が罪の罰を受けることなどあってはいけないのだろう。
ミカゲとの話で2つの種族の寿命の違いによる想いの強さや長さの違いを知った奈々生は、先に死ぬ自分が巴衛に愛を求めるのは無責任ではないかと感じる。
主宰神である大国主(おおくにぬし)にも認められて、奈々生は帰路に就く。大国主は香夜子(かやこ)がデートするようだけど、もっと直接的な謝罪を求めるんじゃなかったのか。奈々生が余りに偉そうでも不遜な感じになってしまうけど、香夜子の無念や傷を託されて出雲に乗り込む当初の勢いが失われている。
その香夜子に会うために奈々生は帰路の途中で京都に降り立つ。奈々生との再会は香夜子にとって良い息抜きになり、奈々生にとって香夜子にしか相談できないことを相談する機会となった。香夜子は奈々生にない視点をくれる。そして奈々生は香夜子に霧仁(きりひと)情報を与えるが、出雲から無事に帰った霧仁は家で人が変わったようになっているらしい。ちなみに霧仁の家は鎌倉の華道の名家。人間の名は毛利 霧仁(もうり きりひと)のようだ。香夜子は霧仁から切り捨てられても彼を追い続ける。その姿勢に奈々生も良い刺激を貰う。奈々生は神様たちに謝罪を引き出せていないが、香夜子が回復しているから これでいいのだろうか。でも本来は謝罪目的だったので納得できない部分もある。上述の通り神様が人間に謝る場面を作品上 描く訳にはいかなかったのだろうか。


出雲編が終わり日常回が戻ってくる。奈々生はリカの強引さに巻き込まれ合コンに参加する(『4巻』の海回での無断外出の貸しが作用している)。この合コン会場の隣で巴衛・クラマ・瑞希のイケメン妖怪3人が監視する。奈々生に恋をする巴衛には見過ごせない状況。でも奈々生は自分が合コンに参加していても巴衛には無関係という態度を取られて落ち込む。そうして落ち込んで合コン相手から迫られてから巴衛が登場する。分かりやすい胸キュン展開だ。奈々生は巴衛の態度の中に希望を見い出す。
霧仁の補佐として夜鳥(やとり)という妖怪が名乗り出る。この夜鳥は悪羅王復活による おこぼれを狙っているのか。忠義の証として夜鳥は鞍馬山(くらまやま)の天狗を掌握するという。夜鳥は本人以外に初めて霧仁の中に悪羅王がいることに気づく。それでいて気づかない振りをしているところに一筋縄ではいかない存在感を見せる。
争いの舞台となる前に奈々生たちの前に鞍馬山の天狗・牡丹丸(ぼたんまる)が現れる。飛行できない幼い天狗である牡丹丸は鞍馬山を治める僧正坊(そうじょうぼうの)嫡男・真寿郎(しんじゅろう)を捜索しに来たという。その騒動に奈々生は介入する。
牡丹丸は同じように成長の遅かったという真寿郎を自分の理想像にしていた。だから会いたくて人間界に やってきた。そこで見つけた真寿郎の姿はクラマであった。なので奈々生は牡丹丸をクラマに会わせてあげる。牡丹丸はクラマに僧正坊が倒れ鞍馬山に瘴気が漂い、急遽 次代が選ばれたが反対も多く山全体が落ち着かない。そこで先代の嫡男であるクラマが戻れば御山は元に戻ると牡丹丸は考えた。しかし御山を下り俗世に染まった天狗は脱落者だとクラマは拒否。しかし疲弊した牡丹丸を見てクラマは多くの禁と多くのリスクを抱えながら牡丹丸が必死に行動したことを知る。だから里帰りだけは果たすことにする。
クラマは僧正坊の息子として生まれたが、成長は遅く、そのことで疎まれるばかり。かといって立場を捨てることも出来ず周囲と馴染むことも出来ない。そんな幼少期のクラマに優しかったのが翠郎(すいろう)という年長の天狗だった。牡丹丸がクラマに次代を継いでほしいと願うように、かつてクラマは翠郎が自分の代わりに適当だと思っていたこともあった。
当然のように奈々生は同行し、彼女(の貞操)を心配して巴衛も付いてくる。神々の世界の次は天狗たちの世界に足を踏み入れる。しかしクラマたち天狗と奈々生たちは結界によって離れ離れになる。クラマは自分のせいで翠郎が天狗の翼を失った過去のトラウマを見せられ、幻に その命を差し出そうとまでする。しかし憧れの天狗は今もクラマを導いてくれて、クラマは自分を取り戻す。その幻を経たお陰もあり、クラマは翠郎との再会も滞りなく終わる。しかし翠郎は奈々生には冷淡。
その理由は鞍馬山に女性がいない、女人禁制の地だからだった。今の奈々生は男子校にいる唯一の女子のような状態なのだろう。そして奈々生が「お花を摘み」に行くことで彼女の単独行動が始まり、そこで奈々生は独自に天狗の子供たちと交流を深める。クラマが奈々生を同行させたことを見て翠郎はクラマが御山の理で生きていないことを知る。
現在、鞍馬山を治める二郎(じろう)は厳格な性格。その二郎に夜鳥が近づく。顔見知りだからこそ夜鳥は鞍馬山を掌握できると考えたのか。二郎の性格をよく知っているから夜鳥は彼の強さを求める心を刺激している。数日後には継承の儀によって二郎が力を得る。その二郎を夜鳥が傀儡にすることで鞍馬山は掌握されてしまうのだろう。
その二郎も奈々生に遭遇する。二郎は翠郎の冷淡とは違う厳しい態度で奈々生に接して、奈々生に暴力も厭わない。そのピンチを式神によって自力で脱し、二郎は奈々生の腕の細さに胸をトキめかせる。霧仁に続いて奈々生は異界の地でイケメン男性と交流するパターンである。
クラマは奈々生が出雲で入手した霊薬・桃丹(ももたん)を使って父親の病を治し、それで御山を元通りにしようと考えていた。これが二郎への対抗策。しかし僧正坊は二郎によって厳重な警備のもとにあり、この薬を届けることは叶わないと翠郎は予測する。ならば自分が直接 二郎と話すとクラマは嫡男の立場を使おうとするが翠郎は それも今は叶わないと告げる。
二郎の就任に反対する者たちはクラマを次代に担ぎ出そうと画策する。里帰りのはずが跡目問題に巻き込まれることになりクラマは混乱する。だから翠郎は早期にクラマ(と奈々生)を山から下りさせようと考える。それは翠郎がクラマを幼い頃から目にかけ、そして彼の性格を熟知しているからだった。クラマは何でも背負い込む性格なのに助けを求められない。その態度は翠郎にも同じ。もし跡目になってしまえば彼の苦労は計り知れない。だから翠郎はクラマが下界に戻れるうちに戻して、今の彼が背負っているものを背負って生きて欲しい。
しかしクラマは誰かに頼ってでも自分の願いを叶えようとしている。そんな対照性が美しいラストシーンだった。
