
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第XX巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
大ヒット作『花君』“その後”のエピソード満載の第2巻!瑞稀と佐野、中津、難波…桜咲学園の彼らにまた会える!!ソムリエ・萱島が活躍!「皿の上にロマンス」も収録。
簡潔完結感想文
- シリーズ1冊目より総ページ数は減少。更に『花君』の特別編は全体の1/3強。看板に偽りあり!
- 本編終了から12年が経過し作画も変化。でも瑞稀は元に戻って一安心。『花君』最後に相応しい。
- メインディッシュは『花君』ではなくレストラン漫画。萱島が当て馬になる未来が見たかった!
表紙に載っているのは瑞稀ではありません、の 特別編。
1作目の『After School』から6年が経過して出版された2作目。本編終了からは約12年が経過しており、体調の問題などもあったのか漫画家としての活動が減少していた作者の画風も大きく変わっている。瑞稀(みずき)も佐野(さの)もコレジャナイ感があり、中津(なかつ)なんて外国人のような顔になっている。
良かったのは長く愛された『花君』のラストとなってしまった最後の1コマ。この瑞稀は読者が知っている瑞稀の姿そのまんま。髪型の問題だけでなく顔や雰囲気も当時の瑞希を感じられて、読者は瑞稀のイメージを崩さずにページを閉じられる。なんで瑞稀が そういう心境になったのかは説明不足のような気もするけど、ラストを ここに持ってきたのは良かった。縁起でもないことを言うけれど、ラストの瑞稀の写真が在りし日を忍ばせる遺影のように思えてしまう。
良かったのは この1点のみ。他は本当に読者の期待を悉(ことごと)く裏切る構成で、舐めているのではと怒りさえ覚えた。何と言っても全168ページの中で『花君』部分は表紙や目次を含めても68ページぐらいしかない。残りの100ページは別の作品が占めている。シリーズの登場人物・萱島(かやしま)が登場しているから、横の繋がりはあると言えるけれど、これはもう「After School」シリーズでもないのは確かだ。単行本化するために何とか作者の発表した作品を集めて商売をした印象が拭えない。
白泉社は(くすぶっている作家の救済策かと思うほど)2010年代後半に作品の後日談を連発していた。しかし この企画には功罪があって、功は読者がまたシリーズに触れられることだと思うけど、罪の部分は作者の頭の中にある想像と、読者の大事にしているものがズレる瞬間がある点だと思う。特に本書や松月滉さん『幸福喫茶3丁目』などは本編終了から随分と時間が経過していて、作画も変わっているし作者の集中力や熱量、そして考え方が当時と同じにはならないから、(特に私のように本編と特別編を連続して読むと)違和感の方が大きくなる。完結後の「その後」が知りたい読者は多いけど、それが本当に読者の望むものと合致するかは難しいところ。
本書最強の当て馬である中津に特定の彼女は登場させるとファンが暴徒化するかもしれないし、難波(なんば)や中央(なかお)のように新しい恋の相手を設定すると新しい設定に拒否感が出てきたりする。私は余程 優れた作品でない限り「その後」を望まない人なので、本編終了で作品を永久凍結して欲しいと願うばかりだ。
本編後半から作者は急に萱島に愛を注ぎだしたように思え、その偏愛は最後まで続く。そんな萱島が「皿の上にロマンス」では当て馬になりそうな気配を見せたけど、その伏線のような謎の独白は回収されないまま。こういうシリーズの掉尾といえる一冊なのに放置された問題があるのも残念だ。
また萱島オーラ判定法も便利に使い過ぎて辟易とする。萱島自体は嫌いではないけれど、萱島にオーラを判定させて作品のヒロインを善人に設定する手法が安直で嫌い。オーラの色が良いことがヒロインの善性の絶対保証になっている。オーラが見えない他の人は ちゃんとヒロインの言動で彼女を好きになっているのだから、オーラ云々が無くても十分 成立するのに。萱島はドラッグやドーピングみたいに、一度 手を出すと手放すのが難しくなる存在なのか。
シリーズラストは「萱島巻」になっていて作者の偏愛を感じただけだった。


「特別編 可愛いひと」…
モデルとして活動する難波(なんば)が夢中になっているのは秋葉(あきは)の元妻・恵比 寿(えび ことぶき)。本編で虚無だったモデル編の唯一の成果か。本編終わってから難波に特定の人を作って、難波ファンは阿鼻叫喚だったのではないか。こういう後日談は悲喜こもごも。
「特別編 ニコイチのセオリー」…
難波と違って特定の人が現れないのが萱島(かやしま)。愛蔵版『7巻』で知り合った第三寮長・姫島(ひめじま)の双子の弟に懐かれてから早数年、大学院生となった萱島は彼らから慕われ続けている。萱島はオーラで見分けただけで愛情がある訳ではない、とか思ってしまうが…。連載後半から作者の萱島びいきが凄い。
「特別編 きらきらひかる」…
『After School』ではJ2の選手だった中津が、オランダのチームに移籍。それを前に同室の萱島と酒を飲み交わす。中津は多くはないけど交際した女性がいる。けど長続きせずフラれることを繰り返す。中津は本当の意味で両想いになったことがないのか。といっても中津が瑞稀を忘れられない訳ではないのだけど、作中で中津の最愛の人を瑞稀にすることでヒロイン性が保たれる。中津の結婚とか恋愛とか誰も望んでいないから、これが正解なのだろう。
「特別編 花かおる君へ」…
『After School』の関目(せきめ)の結婚式参列のために来日した2人は その足で佐野の実家の札幌に立ち寄る。この佐野の帰省で、これまで素顔が明かされなかった継母が登場する。電話やエピソードから元気な人だと思っていたけれど、そのイメージのまんまの人が現れた。作画の変化で顔が変わった佐野や瑞稀(特に女装は見慣れない)よりも余程しっくりくる。継母のお陰で不器用な男性たちの関係は保たれ家族となっている。
佐野の森(しん)は やはり瑞稀に恋していたみたいだけど、たとえ男性であっても好きだったのか(中津の同類)。そして兄が瑞稀と一緒になる報告を聞いて、森は瑞稀への想いを終わらせる。本編では男装ヒロインだったけど番外編では よりモテモテヒロインになっている。


「特別編 そのままの君だから…」…
結婚を機に日本での暮らしを選んだ瑞稀と佐野。先に来日した瑞稀は今の胸の内を桜咲学園(おうさかがくえん)で梅田に聞いてもらう。本編で何度も見た光景が最後に見られただけでも嬉しい。
その後、瑞稀は中津・萱島・中央・関目・野江(のえ)と再会する。萱島も本編後にスラっと背が伸びていたが、中央も瑞稀よりも背が高くなっている。野江が最小だったりするのだろうか。しかも中央は「彼女」持ち。中央は男性の中では難波だけが好きだったという設定が今更 出てくる(中学時代も彼女がいたとか…)。これは読者に得がない。ゲイであって欲しかったわけではないけど、そうでないとも知りたくなかった。こういう部分で私は後日談に何の得もないと思ってしまう。
瑞稀の悩みは自分が女性であることの違和感のようにも感じられる。男装ヒロインの体験が強烈で それまでの自分に戻れないままなのか。ヒロインが悩んでいると登場するのがヒーロー。瑞稀が飛び出すように出国したのを知って追いかけてきた。中津に居場所を教えてもらい、佐野は瑞稀の気持ちを救う。佐野は高跳び選手になったのだろうか。主役の2人の職業が一番ぼんやりしている…。
最後の一コマは私たちが知る「瑞稀」がそこにいて安心する。残念ながら もう続編を望めない『花君』の最後の1コマになってしまったが、この1コマで終わっていることは とても良かった。
「皿の上にロマンス」…
萱島がソムリエとして働いているカジュアルフレンチの お店に助っ人でバイトに入った大学生の高杉 薫(たかすぎ かおる)。そこのシェフ・悦士(えつし)は褒められると悶絶する変人。
2人は一度 結婚式で会ったことがある関係で、互いに その時の相手のこと覚えていた。たった1回のことを覚えていることが2人の相手への第一印象の強さを感じさせる。
小さい頃から姉よりも背が高くボーイッシュだったため、自分の中の女性性を封印してきた節がある薫だったが、悦士は自分の中の女性を引き出してくれる存在となる。食べる姿≒生き方を肯定的に頭を撫でて褒めてくれる悦士に薫は惹かれていく。ただ彼の個人情報を全く知らないから既婚かどうかから不安になる。一方で萱島によって悦士も薫を特別視していることは早くから明かされる。
本編の瑞稀と同じように おにぎり と作って喜ばれたり、仮想敵が現れてペースを乱したりとヒロインらしい動きがある。萱島の「自分のオーラが見えたら楽」という言葉は薫への気持ちが生まれつつあるということなのだろうか。
最終話に一気に情報を詰め込んで終わる。運に恵まれたら長編化したのだろうか。そして長編になったら萱島が当て馬として動き出したのだろうか。萱島の恋心は是非とも読んでみたかったなぁ。描かれているのは仮想敵が仮想敵じゃなかったところまでで両想いにはなっていない。せめて単行本一冊分になって独立した作品になるまで描いて、この「After School」シリーズに入らなければ良かったのに★
「ずっとみていたものですから」…
手フェチのヒロインが、人は悪そうだけど手だけでなく顔も良い男性に惹かれる話。人が悪い男性に惹かれたから、今後 困らされちゃうこと間違いなし。その手で何をされてしまうのか…。
