
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第07巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
自分の「将来の夢」が無いことに気付いて焦り始めた瑞稀は、手始めにカメラマン・秋葉の元でバイトを始める。だがそこで超タカビーなメンズモデルと出会って…!?
簡潔完結感想文
- 親には自分の男子校の在籍、友達には女性であることを隠して過ごす綱渡りヒロイン。
- 1回目で懲りずに2回目のモデル編。逆に瑞稀がカメラ方面に進路を取らないことが謎。
- 寮内転校生を受け入れて久々に性別バレの大ピンチ。佐野の我慢も限界で喧嘩が始まる。
年頃の男女のドキドキ同居漫画『L♥DK』ならぬ1R(ワンルーム)、の 愛蔵版7巻。
ここ数巻 本当に人を入れ替えただけで同じことの繰り返し。佐野(さの)の瑞希(みずき)への恋心が明確になった時から お話自体は少しも動いていない。だから舞台となる場所を動かして読者に楽しんでもらおうとするのが白泉社の手法。この『7巻』でいえば瑞稀の故郷であるアメリカ、2度目のモデルの世界、そして最後が2人きりの寮生活に異分子を投入するというアイデアだった。
この男女3人(女1男2)の共同生活に既視感があると思ったら、渡辺あゆ さん『L♥DK』の玲苑(れおん)編だった。よくある行き詰まりの打開策だけど、当然 本書の方が発表は先である。
このアイデアはマンネリ化した作品に新たな人間関係をもたらし、当て馬に恋心を変化させることで少女漫画が死なない。…が本書の場合、同居人となった門真(かどま)は当て馬にならないので本書は何も変わらない。どうせなら中津を召喚すれば良かったのに と思う。


ただ この第三者との同居によって、一度 作品が仕切り直された印象を受けた。瑞稀も読者も当たり前になってしまっていた男女が狭い部屋で同居することの危険性を もう一度 定義している。また同じ頃に次の大きなエピソードとなる佐野家の親子問題も提示され、物語が動く予感がした。
また これまでは瑞稀の黙ってフォローをしてきた佐野が不用意な瑞稀にキレる、というのも新展開だろう。これは ここまでの時間の経過や、瑞稀の初恋の相手であるギルからの挑発が利いている。佐野は高跳びにおいても結構 自分を過信したり、焦りに呑まれたり感情をコントロール出来ない面も見られるので、2人の衝突も必然だったのかもしれない。
この衝突は佐野が一線を超えようという意思が見え隠れし、いよいよ佐野側の気持ちが溢れる気配がある。瑞稀は佐野が自分にキスしようとしてきたことで2つの悩みを抱えるはずなのだけど、それが描かれていない。1つは性別がバレたことへの疑惑。そもそも佐野が自分にキスをしようとすること自体が変なのだが、そこを深く悩まない。その思考の結果、2つ目の悩みとして佐野が同性愛者じゃないかという疑惑と悩みが出てくるはずなのだけど、そこにも至らない。自分のことで いっぱいいっぱいなのは分かるけど、もう少し悩んで当然のことにも触れてほしい。
それらは次巻い続くのだろうか。佐野家の話といい、ここから話が動いてくれればいいのだけど、募った思いすらも平気でリセットするのが白泉社作品だから次巻で どうなっているのかが怖い。
アメリカで予期せぬ遭遇をする瑞稀と佐野・中津。2人とも運動部での実績があるから学校主催の社会見学に選ばれアメリカの大学を訪問していた。佐野は最初から渡米予定があったのに、瑞稀の前では何も言わなかったのは帰省しないつもりだった瑞稀に気を遣ってのことらしい。ジュリアの時と違って、ギルバート(ギル)は日本語が全く理解できないので瑞稀以外の人間とのコミュニケーションには難がある。
瑞稀は家族と佐野たちの鉢合わせが新たな厄介事を生むと何とか回避を試みるが無駄に終わる。そこで瑞稀は佐野たちが英語に堪能でないことを利用して、父親に語学体験実習だから積極的に英語で話すように訴える。佐野たちには父親は日本語を忘れていると嘘を付く。嘘に嘘を重ねる瑞稀に天罰が落ち、父親は佐野たちを離さず自宅に招待する。
テンパる瑞稀の様子を不審に思ったギルが詰問し、瑞稀は自分が男子校に通っていることを白状する。これで瑞稀の性別バレや男子校バレは通算何人目だろか。その秘密の会話を佐野が目撃し、嫉妬を隠せない。学園祭編の難波(なんば)のような状況で既視感がある。
瑞稀が危ない橋を渡る時には いつも味方がいる。学園生活では佐野だけど、瑞稀の視点では今回は その佐野を騙す必要がありギルがサポートに回る。男を頼るヒロインである。そしてゲストキャラの男性と佐野は大抵ライバル関係になる。今回も佐野はギルをライバル視する。それを瑞稀が感知しないのも少女漫画の伝統芸だ。
隠し事がバレないかハラハラしながらも瑞稀は自分の父親と佐野が喋っている光景に満たされる。中津のことは視界にも入っていないのが残酷だ。このまま2人は家に宿泊することになり、翌朝 一足先に佐野たちは帰国する。その際に佐野はギルから瑞稀のファーストキスの相手が自分だと告げられる。


新学期、2年生の冬ということもあり それぞれに進路を定める時期に入る。明確な夢のない瑞稀は周囲に置いていかれたと焦るが、佐野が瑞稀に自分のペースを守らせる。
いきなり瑞稀が金欠を訴え、カメラマン・秋葉(あきは)の紹介で撮影現場の雑用を紹介される。そこで出会ったのがメンズスーパーモデル・ALEX(アレックス)。再びモデル編が始まる。いつも通りゲストキャラと瑞稀が衝突しながらも交流する。いつしか瑞稀がアレックスの個人的な事情にも踏み込むのも定番の展開で何の驚きもない。
以前も書いたけど、モデル編が瑞稀の夢に直結するなら こういう回り道も必要と思えるのだけど、そうではない。なぜ将来の夢問題の後に出てきた写真の世界が無意味な展開になったのか作者を問い質したい。この世界の厳しさを知っても尚、瑞稀が その道を選ぶという展開にもってこいだと思うのに。ちなみに今回は瑞稀のバイトに佐野はノータッチ。何を言っても瑞稀は結局 暴走するのは目に見えているから。
アレックスの話は愛蔵版『6巻』の萱島(かやしま)も参加した別荘の幽霊と共通する部分が多い。引き出しは少ないし、アレックス編も変なところで終わるし、一体どうしたいんだ、と言いたくなる迷走っぷり。モデル関係の話は全部いらない。
続いては日常回。学園で食料品の盗難事件が相次ぎ、犯人探しが始まる。既存のキャラの兄弟を出して更に賑やかにするのは白泉社らしい手法である。ここで大事なのは萱島が犯人の見分けが付くことで、この設定と関係性は本編終了後も続いていく。複数の話を同時進行するのはこの1話完結の話でも適用されていて、実は体操服盗難パートの方が面白いかもしれない。九条(くじょう)の溺愛は一線を越えていまいか。
その次も萱島回と言える内容。入学前後に中津と同室になった萱島視点の話。萱島はオーラが見られるので中津や瑞稀は彼に良い人間だと判断される。萱島は佐野のオーラの色を見たことがあるのだろうか。どういう感想を持つのか知りたかった。
萱島は霊能力があると茶化されたり否定されるばかりだったから人と距離を取りがちだった。しかし中津をはじめ、この学園の生徒たちは それを個性だと特別視せず、普通に仲良くしてくれる。しかし萱島が登場すると それだけ人死にが出てしまうという弊害があるような…。
以前、愛蔵版『1巻』ラストで第二寮の改修工事があったが、今回は第一寮の改修工事が始まり、そこの生徒たちを第二寮で面倒を見ることになる。個室の3年生以外の瑞稀たち2人部屋に もう一人住人が増える事態に、瑞稀が性別バレのリスクが高まると青ざめる。
ここで3年生が個室であること、佐野が学力面の奨学生であるという設定が急に登場。以前も書いたけど序盤の佐野は成績が それほど良くなかったけれど奨学生ったら奨学生のようだ。ここにきてヒーローの価値を高めようという魂胆なのかと思ったけれど、それが佐野家の問題の第二章に繋がるようだ。第一章は弟の森(しん)の一件、第二章は父親との確執がテーマになる。森は家出から帰った後、高跳びを再開したようだ。というか森が高校1年生で佐野と年子であることに驚いた。以前 出てきた母親が生きていた頃のミニ佐野兄弟は2~3歳ぐらい年齢差があるように見えたけど…。
瑞稀と佐野の部屋に来たのは、瑞稀より背の小さい1年生の門真 将太郎(かどま しょうたろう)。中津・萱島部屋に3年生なのに来た九条(くじょう)だったら毎日 神経を磨り減らすことになっただろう。
佐野が寮の犬・裕次郎(ゆうじろう)の散歩に行った後、瑞稀が入浴。そこに門真が後輩気質を発揮して背中を流すと言い出して瑞稀が久々にピンチを迎える。瑞稀は梅田に指摘された通り、警戒心が緩いのでユニットバスの鍵を掛け忘れて自業自得。そこに瑞稀のピンチを察した佐野がエスパー能力を発揮して戻ってきて難を逃れる。やはり佐野の気苦労が絶えない。
ちなみに佐野にとって門真は瑞稀と姉妹に見えてライバルにならない。門真に対して随分 失礼な見方だけど、この狭い空間の中でライバル心を出されても空気が悪くなるだけだろう。
ただし門真が来たことで瑞稀の警戒心の無さに佐野が苛立ち、そこから珍しく2人の言い争いが始まる。佐野としては瑞稀が この学園にいられるかどうか心配しストレスが多いから、心配をかけている瑞稀がミスを連発するのに怒りを覚えるのも仕方がない。
そして この言い争いで佐野はアメリカに行った際のギルとのキスの件を持ち出してしまい、瑞稀から誰とだってすると返答され、じゃあ佐野は俺がキスすると その言葉を拾う。キスの直前に瑞稀が泣き出し、佐野も冷静さを取り戻す。瑞稀は事態の急展開に付いていけず涙を流したのだけど、その涙の意味を佐野が正確に理解したかは分からない。ギルの挑発は愛蔵版でも冒頭と巻末、単行本だと2巻ぐらい先のロングパスとなっていることに驚く。
瑞稀は佐野の言うキスと自分が思っているキスの種類が違うことに後から気づき、佐野を避けるようになる。佐野は自分の暴走を反省中だから瑞稀を追えない。2人の間に距離が生まれる日々が続くが、佐野が その関係の修復に動き、瑞稀も弁解するところはして一件落着となる。
