
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第XX巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
ドラマ化もされた大ヒット作「花君」の連載終了後に描かれた特別編が一冊に! 今まで語られなかったエピソードや、瑞稀が去った後の桜咲学園でのハプニング、佐野や中津らの卒業式など、色とりどりのストーリー集です!!
簡潔完結感想文
- 最初から瑞稀の性別を分かっていた萱島と、最後まで分からなままの男装2号の ひばり。
- 中津は難波のようにカリスマ性での牽引ではなく、寮生の力を底上げする寮長になるだろう。
- 自主退学しても瑞稀は皆の心の中心にいる。卒業式は そんな自分のポジションを再確認。
放課後の活動内容に不満があるけど、それでも2巻よりまし、の 特別編1巻。
瑞稀(みずき)が誰にも触れられない、アンタッチャブルでインビジブルな存在になっているから読者は本編と同じような面白さを見い出せない。その当惑は私も感じた。
考えてみれば当たり前なのだけど、この特別編のエピソードには主人公・瑞稀がいない。瑞稀視点で瑞稀が動く物語が本編であって、特別編は瑞稀がいないことを描くことを目的にしている。唯一、自分たちの代の卒業式を瑞稀が こっそり覗きに来ているが、ここでも佐野(さの)や中津(なかつ)といった恋人や友達との交流は一切ない。それが瑞稀の、そして作品のケジメなのだろう。
そこに物足りなさを感じるけれど、残念なことに「After School」シリーズは『1巻』がマシで、『2巻』は もっと読者の需要を捉えていない。『2巻』は この学校の放課後でもなくなる。覚悟しなさい!


生と死に大きな違いがあることは分かっているけど、もはや瑞稀は幽霊のようである。人生の花ざかりの時期に その短い生涯を終えた瑞稀は、友達の心の中で いつまでも生き続ける。瑞稀は死後、大きな心残りだった実現しなかった卒業式を前に姿を現し、学校関係者の部外者といえる梅田(うめだ)の前に現れた、というファンタジー展開でも説明できそうな内容だった。卒業式のスライドで写るのは自分の生前の姿、卒業式で語りかけられるのは かつて この学校にいた人への追悼に聞こえた。録画された卒業式の模様に女性のすすり泣く声が聞こえた、というオチになっているが、これも そのまま幽霊譚になる。佐野たちが瑞稀に最接近した際に霊感少年・萱島(かやしま)がいないのは、瑞稀(幽霊)が いくら隠れても彼の目からは逃れられないからかもしれない。妄想が長くなりましたね。
そんな萱島の瑞希への見方の変化や、中津と佐野の出会いなど語られなかったエピソードが語られるのも特別編ならでは。ただ どちらの話も読者の想像の範囲内。それだけキャラクタが固まっていて、読者も想像しやすいからなんだろうけど、予想外の展開がなかったように思う。
最も意外な事実は佐野が「画伯」ということかも。特別編で初めて知った事実だ。
「特別編 萱島くんの憂鬱」…
本編の最終盤で最初から瑞稀が女性だと分かっていたという爆弾発言をした萱島視点での瑞希との出会い。女性が男子校に転入してくることに驚愕と当惑を覚える萱島。本編でも萱島が瑞稀と仲良くなるのは時間がかかり、萱島は佐野・中津の第一陣、関目(せきめ)・野江(のえ)そして ぶつかってから仲良くなった中央(なかお)の第二陣よりも遅い第三陣と言える。萱島側は距離を置きながらも、それでも瑞稀という人間に好感を抱いていく。中津といい自分のオーラのことを茶化したりしない人が萱島の友達の条件になっている。便利な友達判定法だけど、それは萱島好みの人間を集めていく作業に見えて、価値観が広がらなさそう。
「特別編 ひばり大作戦」…
最終回前の話を花屋敷 ひばり(はなやしき ひばり)視点で描いた話。瑞稀の性別バレの発端となった噂の出どころは聖ブロッサム学園だったけど、その後は桜咲学園(おうさかがくえん)内のことしか描かれなかった。瑞稀の退学を知ったけれど、その動機や理由がわからない ひばり は「男装ヒロイン」として新入生の学園案内に潜入する。まさか男装2号が登場するとは。


瑞稀が退学して3日後の話なので、本編では描かれなかった部分である。卒業式を終えた難波(なんば)たち3年生も新入生の案内係として駆り出されて、桜咲学園での日々がリスタートした印象で嬉しい。これは難波の後任寮長のはずだった瑞稀が退学になった弊害でもある。
ひばり は在校生に瑞稀の噂を聞くが口が堅く、真相が見えないため何人もの生徒に執拗に質問したため不審者扱いされる。怪しい人物の手配書を作成する際に佐野が「画伯」であることが判明。彼にも欠点があったのか。
瑞稀が登場しない話だけど皆の心の中に瑞稀がいて間違いなくヒロインポジションである。そして ひばり は実践してみて女性が男子校で暮らすことが難しいと結論付ける。ひばり の不審な動きや佐野のようなフォロー役がいなかったことが原因だけど、ひばり の中で瑞稀は男性のまま固定される。
「特別編 ボーイズ・ビィ・アンビシャス」…
瑞稀の転入前の前日譚。入学後に会った中津と佐野。中津は強くないサッカー部で自分とチームを強くすることを目標にする。一方で佐野は高跳びで有名ながら部活動の勧誘を断り続ける。佐野の意見を尊重しながら距離を縮めていく2人は、やがてライバル関係になる。
「特別編 夏の来訪者」…
このメンバーなら恋愛なしで巷のあれこれをグダグダ話す、男子高校生の日常的な8ページ漫画を ずっと続けられそう。
「特別編 寮長ノススメ」…
瑞稀の退学によって空白になっていた次期寮長に中津が選出される。その引継ぎ作業で難波が どれだけ寮長として勤しんできたか、逆に寮長になる前の素行の悪さも語られる。お人好しの中津は寮長に適任。それを見届けて難波寮長の最後の仕事が終わる。そして中津には足りない部分をフォローしてくれる仲間たちがいる。
「特別編 桜 咲け」…
佐野たちの代の卒業式の前日、瑞稀は極秘来日し、学園内に潜入していた。それを知るのは梅田(うめだ)だけ。瑞稀は騒ぎを避けるために元同級生たちに会わないと約束して両親の許可を得た。卒業式では中津が答辞を読むことになり、その添削をした梅田のもとを中津や佐野が訪れ、瑞稀は急いで隠れることになるが彼らの声や気配を間近に感じられて嬉しくなる。
他人の家に寄生することを考えていた瑞稀は梅田の家での宿泊を懇願する。この夜、本編では描かれなかった関係性の濃かった瑞稀が退学時に梅田に送った別れの手紙が明かされる。
卒業式、瑞稀は講堂(?)を見渡せる映写室で卒業式を見守る。本編は難波たちの卒業式前に終わったので初の卒業式シーンとなる。瑞稀は退学間際に卒業式で流すスライドの写真を選定していたが、自分たちの代の その写真には瑞稀の姿がいくつもあった(この学校の慣習では写真の選定は後輩が行うので、同級生たちの意思でないような気がするが…)。
原稿を無視した中津の答辞の中でも瑞稀の存在を匂わせていて、瑞稀は皆と一緒に卒業する気分を味わうことが出来た。
