
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第10巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
ようやく佐野兄弟の仲も戻り、桃郷学院陸上部主催の親睦会も大詰めに。そんな二人を応援する瑞稀。本領発揮の佐野はとうとう神楽坂との決勝に進出するが…!?
簡潔完結感想文
- ダラダラとエピソードを続けた割に幕引きが一瞬。作品の花ざかりは とうに過ぎている。
- 親友同士の三角関係の次は兄弟同士。森は瑞稀を男性としてトキメいてるってこと…??
- モラトリアムの出口を探す動きは連載の出口を目指すこと。まずはクラスメイトたちの進路。
瑞稀が男装ヒロインでなければ恋愛解禁だったはず、の 愛蔵版10巻。
愛蔵版『8巻』の冒頭がBLだったのも酷かったけれど、『10巻』の冒頭は前巻の続きではなく唐突な別エピソード。読者をガッカリさせる この謎の構成は何がしたいのか理解に苦しむ。
その無駄な90ページを経た佐野(さの)の父子の関係の修復は拙速に思えた。これまで長い長い時間をかけて描いてきた父子の衝突は、父が気弱になったことで すぐに謝罪し丸く収まる。これは佐野も父親から離れた5年間があり、その中で人生経験を踏むことで父親側の思いを理解できたのだろう。そう分かっていても交流会の500ページを一気に収束させる展開は読者の気持ちが付いていかない。これでは佐野の父親に信念がないように見えてしまう。毎回 敵役・悪役を用意するのなら、その人たちに しっかり動機を用意して欲しい。ヒーロー側の家庭問題という最後の恋愛のハードルだったのに、ハードルが勝手に倒れて一気に視界が開けて呆気なさを感じた。消費したページ数に対してエンディングが軽すぎる。
モデル編なども そうだけど、作者は1つのエピソードを長引かせる割に、飽きたのだろうかと邪推するほどエンディングは短い。この構成の難は最後まで克服することの出来ない悪癖だ。エピソード中にキャラたちが悩む部分が大半になっていて、その悩みを抜ける出来事はあっという間である。
佐野家の問題がクリアになることは通常ならば恋愛解禁の合図になるはずだけど、本書の場合は瑞稀(みずき)が自分の性別を隠し通そうとする限り現状維持が続く。佐野は長年 抱えていた悩みが解決したのだから、瑞稀に もう少し想いを伝えるような踏み込んだ発言が欲しかった。長かった割に何も起きないまま日常回に戻っていくから肩透かしを食らった気分だ。佐野が神楽坂(かぐらざか)を超えたことが父子関係の葛藤をクリアしたを示唆しているということなのか。
今回 気になったのが佐野の弟・森(しん)の恋心。今回の上京で何度も瑞稀と交流することで森は瑞稀に心を奪われたのだけど、森は瑞稀の性別を疑ったり、同性を好きになることへの葛藤が一切ないまま、瑞稀を好きという感情だけが表現される。通常あるべき葛藤を割愛して、モテモテヒロインを演出する手法に首を傾げた。これらの思いは中津(なかつ)で やっているから重複を避けたという理由も考えられるが、瑞稀たちの部屋へのホームステイなど同じことを平気で繰り返す作者に その言い訳は通用しない。
1ページ1コマでいいから森が瑞稀の性別について悩むシーンを挿入してくれれば、それで済む話なのに、作者は結果しか描かない。自分をチヤホヤしてくれる現地ファンの女性よりも、男性である瑞稀を一直線に選ぶことで森の恋愛指向が そうであるかのように読者に読まれてしまうだろう。作者が少しも葛藤を描かないことで、作者が望まない読まれ方をするリスクを全く考えていない。
序盤は間違いなく面白かったけれど、長編になると白泉社らしい息切れを感じる。作品としての「花ざかり」は過ぎて、もう晩年を迎えていると思うような内容だ。男装ヒロインである売りも物語の進展を阻む要素でしかなくなっている。完結後に読んでいる私はゴールが見えてきたから頑張れるが、リアルタイムで読んでいた読者は質の低下を痛感しながらも最後まで見届けることが読書のモチベーションだったのだろうか。


佐野父が倒れた一報が入ったはずなのに100話は時間を遡って冬休み最終日の話。読者が読みたいのは この話じゃない。そして この頃の作者は萱島(かやしま)が お気に入り。白泉社の長編人気作品の7巻辺りで個性的なキャラを出して連載を継続させようとするオカルト編。それをなぜ100話で!? 大事な場面で!? 作者のお考えは私には理解できない。ふつうなアメリカ編が終わった後の日常回として寮イベントを描けば良かったのに。佐野家の問題に行き詰まったから息抜きとして描いたのだろうか。
3話を浪費して、ようやく本編開始。父の報せを聞いても動こうとしない佐野に瑞稀は痺れを切らして自分が出ていく。佐野も父との思い出を回想してから動き出すと、寮の門の前に瑞稀が待っていた。佐野に病院の住所を教え送り出す。すぐに素直になれない彼の操縦法を瑞稀はマスターしつつある。
父はストレスを溜めると病気がちになるようで、森が荒れていた時に続いて佐野との交流に悩んで倒れた節がある。実は繊細な人なのだ。病床で目を覚ました父親と佐野は手探りで会話を始める。本書のキャラは すぐに改心するのが特徴で、あれだけ厳しい態度だった佐野父も すぐに折れる。こうして佐野は兄弟、父子関係を修復して瑞稀の元に戻ってくる。家庭問題の終了は恋愛の開始と表裏一体であるはずだが、これから どうなるのか。
佐野父が倒れた後も交流会で実施された対戦方式は続き、ベスト4に勝ち残った森は神楽坂と対戦。もちろん佐野もいる。瑞稀は すっかり差し入れ係で作った食事は、佐野や森、神楽坂の胃に収まる。
決勝は佐野と神楽坂の高校生での初の対決。挑戦は1回きりなのか すぐに勝敗がつく。作中で1回きりの直接対決となったのだから もう少し盛り上げて欲しい。作品としても ここまで500ページぐらい使ったのにラストがアッサリし過ぎている。これは どのエピソードでも言える作者の悪癖といっていいだろう。
ラストで瑞稀は森から父親がトーナメント制を採用したのは佐野の現在地を見極めるためだったことが明かされる。思いっきり私的な発想でドン引き。あんまり良い指導者じゃないのかもしれない。森は最後に瑞稀に芽生えた恋心を抱擁にして表す。上述の通り、森にとって瑞稀は男性として認識されているのかどうか、その辺を深堀せず、ただただモテモテヒロインにするための話になっている。
大きなプレッシャーから解放されて佐野は瑞稀に この期間の態度を謝罪する。怒鳴られた心の傷は消えないよ☆ そして ようやく視野が開けたからか佐野は、瑞稀と中津の間の微妙な空気を察知する。


以前から瑞稀が直面していた進路問題に ぶつかる。ちなみに この回で地獄だったモデル編で登場した意地悪女性モデルとアレックスの近況が語られる。秋葉(あきは)の会話中でアレックスの現状が処理され、それはそれで物足りない。アレックスぐらい再登場させてあげればいいのに。女性モデルへの秋葉の辛辣な態度も自分のトラウマが発端で何だかなぁと思う。私は秋葉を あまり好きになれず、梅田の周りにいるのも鬱陶しい。この2人の関係性が どうなるのかも全く気にならない。
連載が長期にわたり、90年代から00年代になったからか、寮での飲酒が出てこなくなる。進路問題の亜種として、佐野と同じ陸上部員のクラスメイトの競技転向と それに伴う恋人との関係が語られる。ここの彼女の手術設定は必要だったのだろうか。瑞稀の初恋の相手・ギルバートと悩みが被っている。引き出しが少なくて、大体 同じような話になっていないか。
佐野は交流会にかかりっきりで、瑞稀が中津に告白されて断って、それを乗り越えて以前の関係に戻ったことを知らない。だから中津はずっと仮想敵のままで、彼らの仲の良さが未だに引っ掛かる。逆に告白を経て中津は2人が両片想いであることを理解していて、それでも進展しない2人を見て未練とじれったさで胸に痛みを感じる。
瑞稀は この学校から巣立つこと、仲間たちと離れることにネガティブになっていたけれど、いつものように梅田にスクールカウンセラーのような役割を担ってもらって、高校時代が終わることの覚悟を持つ。ここでは素の瑞希だからか一人称が あたし になっている。
もう終盤だというのにキャラの親族を投入する。今回は中津の母親が大阪から上京。まさか恋愛で敗退後に中津の個人回があるなんて。このところ話の順番が何か変だ。
中津の母親がサイフを落として宿泊代がないと自己申告をし(嘘と判明)、特例で中津の部屋に一泊することになる。押し出される形で萱島が瑞稀たちの部屋に来る。んー、愛蔵版『7巻』での門真(かどま)のホームステイと同じ展開だ。門真は第一寮にはベッドがないので自前の布団一式を持参してきたけれど、萱島は布団がない。そこで瑞稀と佐野が一つのベッドを使うことになる。ドキドキの展開だけど、以前に何度も こういう状況があったので読者も慣れてしまった。
母親の襲来は中津の将来と繋がっており、高校卒業後に実家に帰り、商売をしている家を継ぐことを母親は望んでいた。しかし中津には、かつて一緒にサッカーをしていた友達と引っ越しで離れ離れになってもサッカーの世界で再会するという約束があった。だか実家には帰らない。ここで中津の金髪が夢を叶える第一歩として染めていることが明かされる。
3日後に母親は結論を聞くと言って寮を後にする。親に連れ戻される可能性があるのは瑞稀も同じ。ここから瑞稀の話に繋がっていくのだろうか。
