
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第11巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
難波先輩に想いを受け入れてもらえなかった中央。その彼に励まされた瑞稀は、意を決して佐野にバレンタインチョコを渡すことに…。だが渡すだけでいっぱいいっぱいの瑞稀に対し、佐野が思いがけない反応を…!! 2人の関係に急展開が!?
簡潔完結感想文
- 本気で好きだった難波に望みがなくても告白し、振られても彼の望む後輩でい続ける中央。
- 瑞稀がチョコを渡したことで恋愛関係が一気に進展。最終回から逆算してのノルマ感がある。
- 佐野にさえ性別を伝えないことが男子校にいる条件なんだけど、そのせいで中途半端な両想い。
愛されヒロインは ただ相手を受け入れるだけ、の 愛蔵版11巻。
両想いは長らく読者を待たせた展開なのに、果たして これで正解なのかという展開が続く。おめでたい回なのに不平・不満ばかりが続くので、感想文を読んで下さる方を不快にしてしまうかもしれません。
まず再読してみると瑞稀(みずき)何もしてなくない?と思う。悩んではいるけど逃げているだけ。逃げても壁ドンやバックハグで追い詰められて観念しているだけ。アメリカから転校してきた行動力の割に、いつの間にかに何もしないヒロインに成り果てている。最後ぐらい瑞稀の方からも動きが欲しかった。瑞稀の答えを出さないために脇道を用意するような内容が目に余った。連載なのだから このクライマック展開を継続させるのが目的になるのは当然だけど、そのせいで瑞稀の株が落ち続けたように思う。
瑞稀がしたのは、中央(なかお)の告白に感化されてバレンタイン回でチョコを渡しただけ。その瑞稀からの行動で、中津(なかつ)の告白から独占欲が再燃していた佐野(さの)の感情の堤防が決壊して、そこから怒涛の愛の言葉が放流される。しかし佐野の自分への好意の匂わせに対して、瑞稀は性別を隠していることもあり逃げてばかり。逃避を繰り返すことで連載を先延ばしにしようという魂胆が見える。
佐野の急な行動に理由をつけるとすれば、父親と弟の家族問題が解決したところで「パーフェクト佐野」は完成していて、そこで恋愛解禁状態になっている。そこに中津との関係を送れて知り、瑞稀から恋心を固めたようなチョコを貰ったから一気に感情が放出したと思われる。


瑞稀の性別問題は恋愛ではなく物語のラストで取り上げられるべきことだから、佐野との間では問題にしない。佐野(と読者)は とっくに瑞稀の性別を知っているから そこを追求しなくても問題はない。しかし瑞稀側からしてみれば自分は「男性」として好意を寄せられているのではないか という不安が拭えず、そして自分が大好きな佐野に嘘を付いている罪悪感が消えない。
性別問題を棚上げしたまま両想いになるから、両想いでも読者のカタルシスは減少してしまう。瑞稀には佐野が不問にするからと自分の嘘や罪を黙っている という打算が働いている。それが連載を長く長く見守っていた読者への作者の答えなのかと首を傾げてしまった。
けれど これは途中で言及したように、瑞稀の性別問題は最後に一気に片を付けようとする構想の問題もあるだろう。
ここが気になるところで、作者は編集部から そろそろ物語を畳みましょうと言われ、最後の騒動に必要な回数を計算、その前に瑞稀と佐野の両想いを成立させようした。つまり唐突に思える告白は構想の逆算によるもので、タイマーによって発動したと思えてしまう。2人の気持ちに決定的な変化がある訳ではなく、急に堰を切ったように物語が流れ始めたのではないか。一応、用意した理由付けも中央の告白や中津の存在など第三者の問題を刺激にする、という弱いものに感じる。物語が大きく動く時の気持ちの切り替えスイッチが見当たらないのが本当に残念。連載が続けば続くほど、作者は漫画の描き方が下手になっているような気さえしてくる。
作品において大切な3年生の卒業に合わせて物語を畳む方針が固まったから、その卒業前に駆け込みで両想いになった(しかも嘘は継続中)、という中途半端な状態になった。
瑞稀は佐野に対して性別を発表しても佐野は当初から知っていることなのだから、この嘘を取っ払えばいいのに、と簡単に思ってしまうが、それだと佐野に学園に対して嘘の片棒を背負わせることになるのだろう。性別に関する嘘はバレない絶対条件で、だからこそ瑞稀一人が責任を負う。このラインを絶対に守るために、瑞稀は嘘つきになったままで、それが両想いに疑問符を残してしまった。
作者だって悩んだと思うけれど、『11巻』全体の瑞希の行動が正しいものだとは思えなかった。最初は作品にも瑞稀にも もっと勢いがあったのに、段々と それが失われて悪い意味のヒロインになってしまったように思う。
ヒロインは新キャラと仲良くなるのが お仕事なので瑞稀は中津母とも親交を深める。何度も女性に間違えられることで(見抜かれていることで)瑞稀は自分の「男装」のタイムリミットが近づいているのではないかと考える。
佐野は、瑞稀の様子が変なことを問い詰めて ようやく中津が瑞稀に告白したことを知る。その答えを佐野は前のめりで聞き、瑞稀が断ったことに安堵する。ライバル宣言をした中津が本気で動いたことに佐野は焦りを覚える。
そこに瑞稀が「女っぽい」ことに悩んでいると知り、佐野は性別関係なく瑞稀が好きだと半分以上 告白する。瑞稀は例え友達としてでも舞い上がるが、瑞稀が「男でも女でも」という佐野の言葉に別の意味でドキリとする。瑞稀が佐野は自分を友達として好きと考えるのは、自分の演技や振る舞いが完璧だと思っているからなのだろう。佐野が何度もヒヤリとさせられた脇の甘さを棚に上げている おめでたいヒロインである。そういう意味でも鈍感で肝が据わっていて図太いヒロインなのだろう。
中津と卒業後、息子を実家に戻そうとする母親の意見の対立は、佐野父子の時と同じ状況。そのことに瑞稀は介入し続け、喫茶店での母子の会話を佐野と盗み聞きする。
長時間の及ぶ話し合いがヒートアップして親子の縁を切ると言ってもプロサッカー選手を目指す気持ちが変わらないかと母親が脅迫に出る。その言葉で瑞稀が顔を出し、帰ろうとする母親を追いかけ、彼女の真意を聞く。佐野父と同じく騒がした割に幕引きが あっさりしている。
3年生の卒業が近く、作中ずっと難波(なんば)に片想いしていた中央(なかお)の先輩と一緒の学校生活のリミットが迫る。学校内では瑞稀と中央は同じようなポジションにいるが、中央は自分の性別が難波への想いの絶対的な障壁となることが分かっている。その意味で瑞稀よりも切ない恋をしているといえる。中央と同じ悩みだった中津も真実は違ったし。
中央は難波が実の母・伊緒(いお)と一緒にいる場面を、年上のお姉さんと一緒にいると勘違いしてショックを受ける。しかし それで諦めるのではなく卒業していく難波にバレンタインにチョコを渡して告白すると決意した。瑞稀はチョコを買う中央に付き合い、自分も佐野用に甘くないチョコを購入する。
当日、中央は この2年間の想いを込めて告白するが、やはり難波には後輩以上に見られなかった。だから中央は告白を冗談にして そのまま関係性を望む。実際、中央は ちゃんと難波を避けたり恨んだりせず、彼を慕う可愛い後輩の役を最後まで演じ続ける。
中央の失恋に瑞稀は何も言えず隣にいることしか出来なかった。当初 瑞稀は逆恨みされてイジメられた中央だが、1年半が経過して こういう関係性に落ち着いた。
中央の勇気に感化され瑞稀も逡巡の末、佐野にチョコを渡す。表面上は男同士のチョコの受け渡しだけど、最早そんなの佐野には関係なくて、瑞稀が自分にチョコを渡したことの意味を探ろうとする。瑞稀が上手く答えられないでいると、そこから寮の飼い犬・裕次郎(ゆうじろう)の話になる。裕次郎は保健所送りの危機だったところを佐野が助けた。その前の飼い主を登場させ、裕次郎とサヨナラ危機の場面となる。最終盤の それぞれの別れの話ではあるものの、瑞稀と佐野の関係性を1話先延ばしにするために用意された話にしか見えない。
この帰り道、2人は自然に手を繋いで帰る。その佐野の行動に瑞稀は彼が自分を好きかもしれない可能性を初めて考える。それ以降、佐野に どう接していいか分からなくなる瑞稀。ルームメイト状態から脱却すると瑞稀の反応は いつも一緒。ボーリングで話を引き延ばした後の帰り道、雨に打たれた2人は雨宿りをする。そこで瑞稀は佐野の言葉についての疑問を口にするが、その返答は先延ばし。何だか そんな展開ばっかりだ。


瑞稀は戸惑いつつも、佐野と いつも通り接しようとする。佐野は それが我慢ならず放課後、瑞稀を屋上に連れ出して壁ドンで逃げ道を塞ぐ。そこで精神的な逃げ道も塞ぎ、瑞稀に自分の気持ちをストレートに告げる。そして返答も聞かず去る。
佐野の言葉は もちろん嬉しい。けれど瑞稀は佐野に全てを見せていないという罪悪感がある。そして佐野は もしかしたら「男性」の瑞希が好きなのかもしれない。だから瑞稀は佐野に真実を言う必要があるのだけど、それを言ったことで性別的な意味で、そして人間として嫌われて恋愛対象外になるのが怖い。だから再び佐野を避け続ける。それでも瑞稀は この問題の答えを梅田に求めたりしない。これは自分で答えを出さなければいけないことだと直感しているのだ。
しかし恐怖心から逃げようとする瑞稀を佐野が再びバックハグすることで確保し、そこで瑞稀は佐野への想いだけ伝える。こうして両想いが成立し、2人は初めて見つめ合ってキスを交わす。
こうして両想いの日々が始まる。だけど瑞稀は真実を話せないまま。物語的には ちゃんと打ち明けることが必要だと思うのだけど、それだと最後の展開に最初から佐野が協力者になってしまう。瑞稀は佐野も騙し切った(と思っている)孤立無援の状態で最後の展開を迎えなければならないのだろう。ただ これだと瑞稀が嘘つきのまま、佐野が男性の瑞希を好きなままで、読者以外がスッキリしないのではないか。
瑞稀も そんな中途半端な状況に迷う。そして迷いが出来ると瑞稀は空手部を利用する。瑞稀の空手の鍛錬は愛憎本にして何巻以来なのだろうか。気まぐれに参加する幽霊部員みたいで あまり この状況は好きじゃない。瑞稀だけ特別扱いされているし。しかし ここで大事なのは瑞稀が空手着に着替えるという動作なのだろう。
この2人の両想い状態を中津は瑞稀の異変から察する。自分で何も説明しなくても勝手に理解してくれて、応援してくれる。行動力がありそうで瑞稀は実は何もしないヒロインであることが ここでも示されてしまっている。
