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少女漫画と小説の感想ブログです

蘭だけが 晃という日の光 浴びる一輪の花ではない。そして日の光は心の闇を照らしてみせる

高嶺の蘭さん(5) (別冊フレンドコミックス)
餡蜜(あんみつ)
高嶺の蘭さん(たかねのらんさん)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

2人きりのクリスマスパーティー終わり、晃からほっぺにキスをされてドキドキの蘭。でもその瞬間、蘭のお父さんが帰って来てしまいます。晃が彼氏と知って猛反対するお父さんのある一言から、晃の知らない蘭の過去が判明して…? さらに、お正月デートでは晃からのお願いで蘭、初めてのわがまま発言!? さらにさらに、蘭のライバル(!?)も現れて――!?? 高嶺女子×お花屋男子のピュアラブストーリー、第5巻!

簡潔完結感想文

  • 蘭が学年1位なのは周囲とは本来の学力が違うという根本的な理由があった。トラウマ編。
  • 自信が回復しかけた蘭に、悪意のない女性ライバルを用意して自信喪失と自己嫌悪のコンボ。
  • 天からの光は、高嶺の花だけでなく あまねく世界を照らし輝かせる。簡単に言えばモテる。

死に否定しようとすることの裏に本音は隠されている、の 5巻。

『5巻』はヒロイン・蘭(らん)の闇堕ち回のように思えた。完全に闇堕ちする訳ではないが、蘭は女性ライバル・七美(ななみ)の登場によって心穏やかにいられず、自分の中にある人を妬む心や自己嫌悪を増幅させていく。もし七美と出会うのが晃(あきら)との交際前だったら、蘭は自分の気持ちに蓋をして、勉学に励むことで己の感情と正面から向き合わなかっただろう。
しかし今の蘭は孤高に咲く花ではなく、晃と交際しており、彼の存在が自分に不可欠なものだと感じている。そこに独占欲や嫉妬心が生まれ、生まれて初めて抱く感情に蘭は精一杯 向き合う。

ヒロインの中の暗い感情を描いていて苦しい内容になっているが、全体的に見ると蘭が必死に もがいていることが彼女の前進に思える。それは『5巻』冒頭で中学時代の蘭のトラウマを知ったからだ。中学時代の蘭は周囲の勝手な自意識や嫉妬に揉まれてしまい、余計な雑音を耳にする機会が多くなった。しかし中学時代の蘭は自分を被害者と捉えることで環境の改善を放棄し、自分の世界に逃げ込んだ。それがトラウマのような体験と苦い経験をする要因となった。
だから今の蘭が例え暗い感情でも それを自分の中で消化し、どう対処すればいいか悩んでいる姿は中学時代よりも健全に映る。その姿勢になるのは やはり晃という存在があるからで、彼の手を手放さないという根本的な姿勢があって初めて蘭は闇と対峙する。

類は友を呼ぶ と言うけれど、類がいなければ友も出来ない。そして蘭は高嶺にテレポート

『5巻』で蘭・晃・七美という三角関係が成立するけれど、この3人は それぞれ自分の弱さと必死に闘っているように見えた。そして3人は それぞれに優しい。

蘭は晃に接近する七美を悪く思いたくないけれど、七美を悪く言う同級生の言葉に心が浮つくことも実感している。自分の中に初めて浮かぶアンビバレントな感情に蘭は振り回されている。それでいて蘭ほど七美の長所に気づいている人もいない。そして その長所が晃のそれと似通っているから苦しいという構造も面白かった。蘭の根源を認めてくれた2人は確かに お似合いで、そして だからこそ苦しい。開始当初から蘭は自分のワガママを感知しているが今回も蘭は願望とワガママの線引きに迷っているように見える。

晃は、既に自分のトラウマを克服している身だから実は彼こそ高嶺の花に位置すると言っていい。一段上にいるから余裕が生まれ、それが蘭を抱擁する、はずだったのだが、今回、彼もまた失敗を繰り返す成長途中の10代男性だという一面が発覚する。
『5巻』で最も残念なのは実は晃で、この直前に蘭のトラウマ話を聞いているはずなのに、彼女のトラウマが発生した時と同じようなことを彼が繰り返している。晃が自分の小さなプライドを優先してしまったのが とても悲しかった。そこに蘭のネガティブな感情を増幅する目的があったとしても この小ささは至極 残念。

それでも晃は作品の太陽だから、彼の発する大らかな優しさや温かさが異性からのモテに変換されてしまう事態があることが今回 分かった。七美は晃と一線を引いて友達でいようとし続けたのに、晃が あまりにも魅力的だから好きが止まらなくなる。
そして太陽だからこそ、彼の傍にいると人は自分の影の中にある闇の濃さに悩むような気がする。特に今の晃は「レベチ」状態で彼の大らかな態度に接するからこそ蘭は自分の小ささに悩むのではないか。太陽という陽キャ属性が作品内の闇を濃くしている疑惑が生まれる。

そして七美は上述の通り3年ぶりに再会した晃に彼女(蘭)がいると知って自分の気持ちに蓋をしようとした。けれど晃の優しさに触れて それが無理なことを理解したようだ。これは蘭も同じで、彼女も自分の晃への好意がワガママになると感じても尚、彼への気持ちを抑えられなかった。好きという感情には そういう暴力的な一面もあるのだろう。
これも上述の通り、七美は蘭の良さを晃の次に理解して言葉にしてくれた人である。それは本来なら蘭と大親友になるフラグになるはずなのだが、2人の関係には それ以前に恋愛が絡んでしまったため、そうはなあらない。そしてコミュニケーション強者であるはずの七美も実は遠慮する面があって、言葉として変だけど、彼女はクラスメイトと同じ地平に咲いているバージョンの高嶺の花であることが発覚する。誰とでも仲良くなれるけど誰とも仲良くない。そんな周囲に染まらない一輪の花を太陽である晃は見逃さない。蘭と七美の状況は実は似ているのだ。

分かりやすい悪意のない三角関係だから女性2人は悩んでしまう という作品の姿勢が良かった。願わくば このまま七美が意地悪なライバルにならないまま この三角関係が終わって欲しい。


「Episode 13(高嶺の花)」…
蘭の父親が男女交際を警戒するのは過保護なだけでなく、過去に蘭が実際に男性との苦い思い出があることに由来するらしい。娘の初の彼氏の晃の人となりを直感した母親は、晃に事情を話す。蘭は確かに高嶺の花で、容姿・経歴的に申し分のない両親のもとに生まれ、豪邸とも言える家に住んでいる。妹が生まれた後の寂しさも胸に秘めたまま、蘭は勉学や習い事に精を出した。これは高校生の蘭が周囲の雑音や晃に動き出しそうになる気持ちを勉学によって抑えていたことと同じだろう。

だが蘭の突出した能力は副作用も生む。その華やかな容姿は男子生徒の目を集め、時に迷惑行為を受けることもあった。そして蘭にばかり注目が集まることで女子生徒も やがて蘭を妬み始める。自意識や異性の目を気にする中学生は、周囲の出る杭を打とうとする残酷な年頃でもある。こうして蘭は影を潜めることで自分を目立たなくした。それは孤独と同義だったが自分の傷つける雑音もシャットアウト出来た。誰にも気づかれないよう蘭は家では学校生活が問題ないとする。

やがて進路を決める時に、蘭は自分と同じぐらい努力をする人の集まる、いわゆる進学校を志望する。そこならば自分が異質ではないかもしれない。それは今の境遇からの脱出願望でもあるところが悲しい。
そして蘭は自分と同じ学校を目指す望月(もちづき)という男子生徒の小論文指導を頼まれる。だが望月は小学校時代から蘭に劣等感を覚えていたため、教師に頼まれたとはいえ蘭が自分を指導することが我慢ならない。

だから望月は蘭の処世術が間違っていること、特別扱いされると被害者ぶる身の振り方を糾弾する。これが単純な八つ当たりや暴言ではなく、真実を突いていたことが蘭の心に深い傷を残す。今の現実は自分が逃避した結果であると分かってしまい、受験を失敗。それから高校入学までの間、蘭は塞ぎがちになっていた。自分たちの子で自慢の子、という両親の誇りは娘を苦しめていた。それが分かった時には娘は既に傷を負っていた。

その話を聞いた晃は蘭の現時点での高校生活のことを報告する。今は彼女に垣根がない人がいること、そして晃もまた今の蘭が大好きなことを伝える。その姿勢に母親は感動する。晃は蘭に初詣の約束をして家を辞去する。今の蘭には、小学校にも中学校にもいなかった、高嶺の花を空から照らす太陽の笑顔がある。

「Episode 18(デンファレ 花言葉:わがままな美人・お似合いの二人)」…
新しい年が始まる。晃は蘭の性格の長所と短所を知って、その全てを受け入れようと努める。本書の場合、晃の方がトラウマを先に克服し、レベルMAXに到達しているので彼は揺るがない。初めて恋人繋ぎをして神社の境内を歩く。

この初詣回で出会うのが晃の中学1年生の時の同級生の小島 七美(こじま ななみ)。彼女は新学期から蘭たちの高校に転校してくる新キャラ、そして明白に女性ライバルとなる。当然のように同じクラスになる七美。2人の初詣デートを暴露した七美によって交際が公になり、周囲が ざわつく。その空気を一新するのも七美で彼女は一気にクラスに馴染む。
その後、七美は蘭に自分の無神経な発言で交際をバラしてしまったことを謝罪する。こうして和解し、蘭とも距離を縮める七美だったが、蘭が晃の彼女であることに七美の心中は複雑。そのことは七美が流した涙を見た蘭にも感じ取れた。

これまで想像もしなかった晃を好きな女性が目の前に現れ、蘭は また不器用に悩み始める。

蘭が外見だけだったら七美は簡単に蹴落とせた。お互いの長所を発見したから戦いづらい

「Episode 19(クリスマスローズ 花言葉:私の不安をやわらげて)」…
七美の存在について悩む蘭だったが、今は わがままを聞いてくれる晃という存在がいてくれる。現に七美の歓迎会を先に抜ける蘭の横には晃が居る。蘭は自分の抱える不安を晃の抱擁によって吹き飛ばそうとするが、蘭の本当の心である七美のいる場所に戻らないでという言葉は胸に しまわれる。

翌日、蘭は七美との接し方を迷うが七美は自然体。蘭の前で流した涙に言い訳を用意していた。七美は自爆しておいて それを後から撤回してくる。他のことなら上手く出来るが、自分の恋心に彼女もまた振り回されているのだろう。
そして七美は きっと自分の気持ちが暴走しないように、晃を呼び出し、彼女持ちの男が特定の女性と仲良くするのは彼女にとって不快であることを教える。そこで七美が理解するのは晃が本当に蘭を大事に思っているということ。

蘭の中の心のモヤモヤも晴れ切らない中、スキー合宿が始まる。移動の車内ではクラスのムードメーカーとして晃と七美が車内を盛り上げる。それが また蘭のモヤモヤを増幅させる。
相変わらず蘭は、別のことに集中して自分の心を沈まらせようとする。自分の特性を理解して欲しいものだ。ドラマで見られる、妻が不満を抱えている時にキャベツの千切りを延々と続ける同じ現象だろうか。他の誰かが不機嫌を察してくれるまで続ける割と面倒くさい行為である。

このスキー合宿では晃の友達・山田(やまだ)と蘭の友達・智香(ともか)にゲレンデマジックによるフラグが立った模様。蘭はスキー初心者の晃にレッスンしようと話しかけるが、晃のプライドが それを拒絶する。

「Episode 20(悩みの種)」…
七美に複雑な思いを抱えながら、それでも彼女と距離を縮める蘭。しかし彼女と話すと自分と晃だけの秘密に思われた彼の実家の花屋情報も七美は知っており、またもモヤモヤが噴出する。空気を読める七美は蘭が気を悪くしないように自分の晃への感情は純粋な友情だと伝える。七美に そう言わせているのは蘭である。

蘭が不安になるのは、七美が晃と同じように蘭の魅力に気づいてくれたからではないか。相手をレッテルで見ない、そんな2人の共通点が嬉しいはずなのに、かえって自分を苦しめている。本当に憎らしい人だったら蘭も楽だったのだろうけれど、自分が七美を好きな部分があるから、彼女の魅力を知っているから、晃に相応しいように思ってしまう。そして蘭が七美をフォローするのは、蘭の中のモヤモヤが七美を悪く捉えないようにする八方美人が発動しているからだということを蘭は理解している。

七美は空気が読めるし気を遣える。そこは蘭と正反対。だが それが行き過ぎて我慢してしまうところは蘭に似ているかもしれない。その七美の性格を晃は見抜き、彼女が落とした財布を一緒に探してあげる。おそらく3年前の中学時代にも こういうことがあって、七美は彼に惹かれたのだろう。そして今回も我慢するはずの気持ちが噴出してしまう。

蘭と七美、お互いギリギリの精神状態の時に、蘭は晃と歩く七美と遭遇してしまう。七美は事実を述べ火消しに走るのだが、蘭は晃を繋ぎ止めようと決死の行動に出る…。