《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

未来は誰にも分らないから面白いのに、ヒロインだけは自分の恋の絶対成就を知っている。

片翼のラビリンス(8) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
片翼のラビリンス(かたよくのラビリンス)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

自分の力でみんなを幸せな方向に導こうと決心して「両翼の鍵」を使って入学式前にやってきた都。誤解されるようなことあっても勇気をふりしぼって司に告白する。気持ちは司にも伝わり、まずは一歩前進!今度は大翔と蛍を結びつけようと奮闘するが、なんと蛍には別に好きな人が…、そんなの聞いてないよ~という都だけどどうにかふたりを結びつけるしかない。そんな様子をみて司も協力するといってくれて…。

簡潔完結感想文

  • 過去がやり直せないのは当たり前のこと。その普通を大変そうにする演技派ヒロイン。
  • 今のところの最大の敵は、司の無自覚な嫉妬深さ。タイムリープなしの彼は幼稚すぎる。
  • 最適なスケジュールを考えない愚かな都の失敗は早くも2回目。大翔の闇堕ちは不可避?

口入学者が語る苦労、ぐらい説得力に乏しい 8巻。

どうにも人の敷いたレールの上を歩いている感覚が拭えない。
出口の見えなかった前半のダークさとに比べると、とても順調に物語が進み、ヒロイン・都(みやこ)の積極的な恋や、両片想いのスキンシップやイチャラブが読めて楽しい。絶対ハッピーエンドという結論が分かっているから俺TUEEEE状態の無双が味わえると言えよう。

この状態こそ楽しいのだけど、この状態こそ先が見えているから つまらないとも思う。『7巻』で都と司(つかさ)は3年後の地続きの未来で幸せになっており、一層2人の恋が「運命の恋」になることが確定している。だから今の都はイージーな人生を歩んでいると思えてしまうのだ。
一応、今 持っているカギは過去には飛べず、失敗しても やり直すことは出来ないという新たな設定を付与して、そこが物語に緊迫感を増しているように思えるが、実は それって普通のことなのである。

今の都は絶対に合格することが分かっている裏口入学を確約されている状態。しかも このループにおいては彼女だけタイムリープ経験者で同級生たちよりも多くの人生経験と知識がある浪人生状態。

最後のループで都は頑張っているとは思うけど、その頑張りの原動力となる自信は自分の恋や人生が上手くいくイメージが描けるからである。その自信をつけてくれたのは、物語の前半で都のために動いてくれた司と華(はな)ちゃん の お陰。そして どうしても今がダメになりそうな時は未来に逃避できるし、その場合 メンターとして「彼氏」となっている司がいる。司に関する問題に直面したら、司本人に答えを聞ける、こんな裏口は普通はない。

その普通じゃない状態が今の都で、作品全体の彼女に対する過保護さに気づいてしまうと鼻白む気持ちになる。作者は色々と悩んだみたいだけど、この展開でも都の主体性は乏しいのではないだろうか。


がイージーモードに突入していることを気づかさないために、ではないだろうけど、作者は両想いまでに様々なアクシデントを用意する。それが『7巻』であった華ちゃんの横恋慕疑惑だったり、『8巻』で描かれる都の姉・蛍(ほたる)の秘めた恋なのだろう。一直線に描いてはドラマがないから、都でも予期しない出来事を用意する。

好きな人からの誤解は一刻も早く解きたいのは分かるが、全体の流れを考えない都。

でも私が気になったのは、この2つのアクシデントの発生は都の気の緩みや理解力の不足に由来するというダメな共通項が見いだせる点。都は自他の恋の結末や未来を知っているからこそ、前のめりでイベントをこなそうと してしまう。そもそも華ちゃんと出会うのは2年生からなのに1年生の入学式直後から仲良くなるし、蛍と大翔(ひろと)の出会いも(自分のために)早く済まそうとする。

この性急さによる失敗の2連続。しかも司との関係を深めようとして失敗している感じが都の浅慮なところで、好きになれない。彼女が慎重では物語が詰まらなくなるのは分かるけど、記憶を持っているのに活用しない様子に苛立つ。

そして どのループにおいても闇堕ち手前になる大翔が不憫でならない。彼が一番 面倒臭い性格をしているということは都も知っているだろうに、自分の恋愛に浮かれて彼へのケアが足りない。華ちゃんが大翔を毛嫌いするのも分かる自己中心的な大翔の性格だが、都もまた同じレベルで困った性格をしている。

初読では ただただハッピーな後半だと思ったが、よく出来た作品とは思い難い。


ちゃんが都の好きな人を誤解したことで始まった騒動は一件落着する。司の都に対する怒りも大部分が嫉妬みたいなもの。それを見抜いた大翔は司と都の関係に協力的。これは ここまでの物語で闇堕ちしてしまった大翔を善人化するためでもあろう。

また華ちゃんは自分の暴走と失態を反省し、司に握られた自分の弱みの腐女子属性を公にすることで、弱点を克服する。華ちゃんが高校入学当時に華やかだったのは、趣味を嘲笑された過去があり、もう周囲に嫌われたくなくて見た目に気を遣っていたから。だけど今は都がいるから、ありのままの自分でいられる(本来のルートでは いつから 何がキッカケで華ちゃんはメガネを かけたのだろうか)。


の都にとって一番の問題は「運命の恋」の相手であるはずの司。高校1年生の初心(ウブ)な司は都に素直になれない。

そこで都は、司の心に引っ掛かっている大翔への誤解を晴らすために、姉・蛍と大翔を引き合わせるイベントを企画する。そこで都の直感としている彼らの恋が始まったことを司に理解してもらおうとする。そんな時、丁度 姉が都に用事があり来校し、大翔に蛍を会わせることで、彼の表情が一変したことを司に認めさせることが出来た。

彼らを引き合わせ、大翔が赤面する様子を今の都は涙を流して喜ぶことが出来る。以前は出来なかった聖女の表情に司は惹かれていく。こうして都は司を名前呼びする権利をゲットし、都から名前で呼ばれた司は動揺する。


た蛍に学校内で聞かれてしまう恋バナは、相手が大翔ではなく司となる。それを喜ぶ姉は、妹のために旅行券をプレゼントする。最大4人まで参加できるため、都は姉と大翔を より深く交流させる良い機会だと思い、この4人での旅行を企画する。

ここから始まる5月の雪山旅行回。けれど華ちゃんとのダブルデートのように都の想定とは違う2人組に分かれてしまう。過保護な姉は滑れない妹に付きっきりで、運動神経抜群の男性2人は華麗に雪山を滑走する。
けれど大翔の恋をアシストしたい気持ちもある司が戻ってきたため、将来のカップルの組み合わせで行動する。その中で都は司が自分に惹かれているのでは という予感を覚え、司も戸惑いながら、都に惹かれている部分があることを認めていく。

このループで2回目のダブルデート。大翔の一目惚れは絶望への序曲でしかないのか…。

かし旅行中に大翔が蛍に告白した結果、蛍は好きな人がいると大翔を お断りしてしまう。絶対に上手くいくはずの恋愛が何らかの事情で上手くいかない。

蛍に好きな人がいることは都も知らなかったのだが、大翔は都が振られると分かっていて紹介したと激昂する。こういう部分が大翔の独善的と言うか器が小さい部分で、華ちゃんが好きになれない部分なんだろう。

都の記憶では1年生の冬休みでは、大翔の同じ告白に蛍は友達から始めた。しかし今はまだ1年生の5月。自分の早計が また人の運命を変えたことを都は認める。

謝罪する都だったが、今回の失態は大翔のコンプレックスを刺激したようで、彼はネガティブになってしまう。それに司も引きずられそうになるが、都が司を前向きにして、大翔と蛍の間にある問題の除去を2人で達成しようと提案する。これは8年間 大翔の失恋を放置した都と司の2人の、ある意味でリベンジ企画とも言えよう(特に司に その意図はないが)。