くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
片翼のラビリンス(かたよくのラビリンス)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
目の前の大翔は、8年後の未来からタイムリープして来ていた! 都は、蛍以外の人を好きになれず苦しんだという、大翔の未来について聞かされ、自分のタイムリープが大切な人たちの運命をも変えてしまったという事実を受け止める。“自分を救うために何度もタイムリープしてくれた、ずっと“好き”って想っててくれた、今ここにいる城田くんが消えてしまう・・・。” それでも都は、みんなが幸せになる未来のため、大翔と2人でタイムリープをする決意をして・・・!?
くまがい杏子先生の超人気連載シリーズ「片翼のラビリンス」、待望の5巻がついに登場!! 都と司の心が遂に1つになる瞬間・・・。そしてその先2人に待ち受けている運命・・・。切なさと胸キュンの全てが詰まった、この1冊をあなたに!!
簡潔完結感想文
- 片翼のカギのタイムリープ機能も謎だが、人の想いを察知する機能も謎すぎる。
- 両想いが発覚した数分後の別れ。切ないけど、運命とか言い出すのは意味不明。
- 1話で2年の単純な時間経過があることが読者に全く伝わらない不親切さに立腹。
作者が迷宮の出口を探し当てるまで、しばし お待ち下さい、の 5巻。
まず大きな不満から。それが作品の年代表記ミス(※私が読んだのは初版第1刷なので、その後の版では訂正されているかもしれません)。『5巻』の中盤で大翔(ひろと)による単独タイムリープが実行され、大翔以外の記憶はリセットされる。第27話でタイムリープ後の大翔が持っているスマホの表示は20X2年09月で、彼が入っていく教室は1年2組でる。
続く第28話では都(みやこ)の死まで あと2日と頭を抱える司(つかさ)がいるのだが、この時のカレンダーは20X2年05月。だが都の死は20X4年のことだろう。『1巻』1話でも都が高校3年生の年代表記は20X4年である。20X2年05月という時間は、これまで作品内で1回も描かれていない時間で、大翔と都の姉・蛍(ほたる)が出会った高校1年生の文化祭も開催されていない。
タイムリープ作品で この初歩的な間違えをすることも腹立たしいが、もう一つ腹立たしさが乗っかるのは、作品が27話と28話の間で2年間が経過していることを上手く表現できていない点。注意深く読めば、時間経過があることは分かるが、それでも2年が経過していることを1ページの中で表現し切れていない。
そこにきてのカレンダーの誤表記だ。この2つの要素で読者は まだ彼らが高校1年生だと誤認してしまったことだろう。それなのに都の死まで あと2日。だから読者は自分で自分の勘違いを修正しなければ ならない。一見 当たり前のことだが、ここで勘違いさせる作品が悪い(断言)
更に私の心証を悪くしたのは28話からの2話が『1巻』1話の再放送だということ。良く言えば「boy's side」という視点の変更なのだが、どうも作者が次の一手を考え出すための時間稼ぎに思えてならなかった。しかも ちょっと前から不必要に連載の最初の5ページぐらいを その前の回のラスト5ページの繰り返しに使っていることに辟易していた。完全に作者はタイムリープという難題を前に煮詰まっているから、このような現象が起きるのではないか。おそらく作者は司と同じように、何をやっても手詰まりになる自分の思考に焦っていたと思われる。
恋愛面は両想い後の世界崩壊という本書ならではの展開が見られたのが良かった。作画にも力が入っているし、切なくて綺麗な場面が見られた。
ただ作者も気にしていたが、繰り返し述べているように都の心変わりの早さは納得しかねる部分がある。特に本書では片想いの長さ=恋愛の価値のようにしている節があり、例えば都は蛍よりも早く そして長く片想いしているから自分に恋愛の優先権があると考えているように思えた。そして大翔は8年の孤独を耐えてきたから自分は都よりも苦しいという論理展開をしている。
となると、都の気持ちは大翔が2年間、でも司には最長でも この半年余りだけである。単純に時間で負けている。都が何度もタイムリープして「のべ時間」で2年を越えたら心変わりも自然だと納得できるが、あれだけ騒いでいた大翔への気持ちをコロッと無かったことにするのは、よく言われる女性の恋愛「上書き保存」が発動しているように見える。自分にとって都合の良いことしか記憶しないという、都の悪い面が出てはいまいか。
また両想いになった瞬間、司が この恋愛を運命とか言い出すのにも首を傾げた。何十回もチャレンジして唯一の成功例なのに、上手くいったら調子に乗って、過度に価値を上げている感じがして嫌だった。そもそも運命なら、あんなに都に嫌われないよ、と思ってしまう。
大翔への気持ちは完全に消えるのに、司への気持ちは永遠になる原理が私には分からない。ここもまた司が費やしてきた時間が愛の価値に変換されているのだろうか。最初に あれだけ大騒ぎしたんだから、その気持ちを大事にしろよ、と都に言いたくなる。結局、彼女は自分のことしか考えられない恋愛脳だなぁ、とため息を つきたくなる。
自分が犯した罪を引き受け、都は大翔とタイムリープすることを決意する。けれど それは自分の前で泣いた、都を好きだといってくれた、この数か月の司が消えてしまうということ。
その前に司は都と2人きりで最後の会話を望み、大翔も許可する。しかし都による過去改変≒逃亡を阻止するために彼女のカギは預かる。都は そんな人を騙すようなことを考えていなかったが、この状況は結構 危ないのではないか。華ちゃんのカギがあるとはいえ、これで もう二度と都がタイムリープする機会を奪われるかもしれない。この場面、もう少し逡巡があっても良かったのではないか。
司にとって他者のタイムリープによって自分の記憶がリセットされるのは初めての経験。それは自分が消えてなくなるような感覚。司は都にタイムリープ後に過去の自分に全部を話すように指示する。が、目の前の都と自分の感情の独占欲から、すぐに それを撤回。都に想いを告げたのは今の自分だという誇りと、デート出来なかった悲しみを胸に秘め、最後に司は都の頬にキスをする。口ではないのは正式な両想いじゃないという彼の自制心と配慮だろう。
司は今の自分を忘れないでくれと願い、彼らは別の時間に それぞれ別れる、はずだった。
しかし惜別の気持ちを抱えながら、都は扉にカギを差すが、なぜかタイムリープ出来ないのだ。
その理由を大翔は知っているらしい。そして大翔が孤独に過ごした8年間も彼らは大翔の存在を無視したのではなく、タイムリープによる救済が出来なかったからだという。
カギは誰かを強く想う気持ち、つまり片想いの念を感知して発動するらしい(カギまで恋愛脳が過ぎる)。だから両想いになると発動しない。今回のタイムリープ失敗は、都が司に好意を寄せているという雄弁な証拠になっていた。
こうして両想いだとタイムリープが本当に発動しないのを見届けて、大翔は自分だけタイムリープをする。それは都の記憶リセットを意味していて、彼女は過去と同じ苦しみ=死を味わうことになる。それを司は阻止したいが、大翔に振り払われ、彼は友人を裏切ると分かりながら、タイムリープする。
そこからタイムリミットは2分。本書ではパラレルワールドは存在せず、誰かがタイムリープして過去改変に成功すると、パラレルとなった世界は丸ごと2分後に消滅するという。
司は2分間で華ちゃん のカギを使い、自分たちが過去に飛んで過去改変をしようとするが、華ちゃんは応答しない。そこで時間の流れは止まり、ここから1分後に自分たち、そして自分たちの想いが消滅することに互いに涙する。
司は この世界での心残りがないよう、都が自分のために作ったバレンタインチョコを食し、涙する。そして都も司が好きという気持ちを言葉にして伝え、互いに顔を寄せ合いキスをした。両想いになった直後に別れなければならないという辛い展開が待ち受ける。しかも本人たちには その記憶すら残らない。
こうして大翔だけが過去の記憶を持つ、大翔にとって希望の広がる(都にとって)3回目の1年生が始まる。…と思ったら、いきなり3年生に話が飛ぶ。
恋愛が順調で健やかに過ごす大翔と対照的に、司は焦燥していた。カギを紛失し、もう独力では都を助けることが出来ないからだ。
そして いよいよ都の最後の1日が、大翔の視点で描かれる。彼は高校3年生で蛍との結婚話を進めていて、蛍の家に婿入りする未来を描いていた。それなのに都が大翔を好きと蛍に知られ、蛍の聖女パワーが発揮され、破談と破局が待っていた。そして今の大翔は何らかの理由でカギが発動することはないようだ。
破局は、焦りから大翔は都の気持ちを自分が知っていたことを蛍に言ったことも関係している。司が知っていて都の前で自分とイチャついていたことを知り、蛍は大翔のことを受け入れられなくなる。聖女は罪に塗(まみ)れた恋愛なんて出来ないのである。
そして都は、蛍から破局したこと、そして家を出たことを伝えられ、絶望する。