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少女漫画と小説の感想ブログです

榊原姉妹が理由なく転入して関係者大集合。もしやポンペイに続いて学校全滅のフラグ!?

NGライフ 4 (花とゆめコミックス)
草凪 みずほ(くさなぎ みずほ)
NGライフ(エヌジーライフ)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

前世の記憶を持つ冴木敬大は、前世と現世の間で今日も苦悩! セレナ似の少女・麗奈が転校して来たうえ、今度は行き倒れの女性・朱奈に出会う。前世での仲間だと分かり喜ぶ敬大だったが、麗奈から衝撃の事実を知らされて!?

簡潔完結感想文

  • 前世の記憶が消失する実例で敬大が ますます前世に傾倒。だから恋愛は厳禁。
  • 新キャラ増加で ポンペイの世界観が崩壊する前に打ち止めにする作者は賢明。
  • 険悪になりそうな現世の男性2人の初対面は すれ違いコントによるコメディに。

世の記憶保持の おおよその傾向が分かってくる 4巻。

『4巻』では前世の関係者が一気に2人追加されて、これで関係者は敬大(けいだい)一家3人、裕真(ゆうま)、芹沢(せりざわ)、凌(しのぐ)、榊原(さかきばら)姉妹、そして深影(みかげ)の9人となった。
作者が賢明なのは ここで前世関係者の追加を打ち止めにした点だ。新キャラが増えることで世界は広がるし、登場回や個人回など連載のネタに困らなくなるが、増やすことで使い捨てになるキャラも増えていくのが白泉社漫画の功罪と言えよう。

もし本書が単純な学園モノならば登場人物が増え続けることに それほど問題は無いのだが、この作品は前世と現世の2つの人生が1人の登場人物に込められており、新キャラには前世での敬大との関係を作らなければ ならない。そうであるから新キャラを10人も20人も増やすと敬大との関わりが希薄になる一方で、もはや他人のような新キャラは読者にとっても嬉しくない。
そういう作品の抱える問題を作者は分かっているから、ここで打ち止めにしたのだろう。世界観を壊さないまま後付けで関係者を増やすのは本当に この辺が限界だったはずだ。

追加キャラの人数を制限していることに加え、ただ前世関係者を増やすだけじゃない点に作者の卓越した構成力を感じた。裕真と芹沢という前世での最重要人物を最初に配置し、凌は初の前世の記憶保持者。そして謎の残る麗奈(れいな)を架け橋にして、その姉・朱奈(しゅな)には初の前世の記憶喪失という役割を与える。その記憶喪失の謎の鍵を握りそうなのが深影で、彼らの関係性を見た敬大が間違えたり、不安に襲われたりと間接的に大きな衝撃を受けている。朱奈の話は『3巻』の麗奈の家出騒動の時から仕込まれていた話で、今回 その伏線が回収されていく。読切から短期、長期と連載の形態が変わっているのに、その中で物語を再構築し、大きな流れを生み出していることは感嘆に値する。こうやって連載の自然な繋がりを生み出せるのは本当にスゴい。
そして敬大が朱奈の記憶喪失に衝撃を受けることで、彼が どんどん前世に傾倒し、固執していく。こうして敬大が頑なになることで、現世における裕真か芹沢かという恋愛問題が自然と保留されるという点を含めて、本当に素晴らしい人物配置だと思う。

榊原姉妹は それぞれ、周囲の人が自分の後ろにいる誰かを見ている苦しみを味わう。

この辺が連載継続のために新キャラ頼りになったり、特に理由もなく恋愛が保留されるだけの白泉社作品と質の違いを見せている。この後で作者が人気作家になるのも当然だと思える、初の長編連載の出来栄えである。総じて作者は賢いのだろう、と思う箇所が幾つもあることが読書の喜びに なっている。

そして この9人の記憶保持の傾向を分析すると分かってきたこともある。現段階で言えるのは、敬大の前世を中心に因縁があるかどうか、ではないか。裕真や芹沢が記憶を持たないのは敬大の前世と良好な関係にあったから。逆に凌や深影は前世で敬大との関係は良くなかった。敬大を含めて そういう負の状態が残っているから記憶も残る。もしかしたら根底にあるのは「恨」の心かもしれない。ただ その理論で行くと朱奈の記憶保持は当てはまりそうもない。まだ秘匿された情報があるのか、前提自体が間違っているのか。その答え合わせも これからの楽しみである。


の教育実習は終わったが、裕真の家での居候は継続し、彼は物語に留まり続ける。

そして凌と入れ替わるように、麗奈が裕真のクラスに転入してくる。麗奈の転入騒動で1話が出来上がっている。裕真と麗奈は男女の双子のようである。麗奈の暴走を阻止するために裕真がいて、麗奈に ちょっかいを出されて、裕真に守られる敬大は なかなか幸せそうである。

そして麗奈は やはり敬大の前世関係を熟知しているらしく新しい前世関係者の名前を告げる。けれど麗奈自身は前世の記憶を持っていない。小さい頃から前世の記憶を持っている者にセレナと呼ばれたが、自分はセレナではない。その人にとっても敬大にとっても自分はセレナに似て非なる存在であることが麗奈は辛い。この後の朱奈の話もそうだが、彼女たち榊原姉妹は前世の記憶がある人たちの視線に苦しめられる傾向がある。


して麗奈が家出するキッカケとなった前世関係者の男性と、敬大が道で遭遇した魂の色で前世関係者だと分かる女性の2人が新キャラとして加入する。女性の方は前世の記憶がない。名前は榊原 朱奈(さかきばら しゅな)。麗奈の姉である。

少し天然なところがある朱奈は微熱で敬大の家の前で倒れており、敬大によって家に連れていかれ そのまま宿泊した。榊原家の姉妹は まず敬大の家に泊まる習性があるらしい。翌朝、裕真と芹沢が敬大の家を訪問したことで彼らは初対面を果たす。

敬大は、敬愛する前世の朱奈が記憶を持っていないことを寂しいと態度に出してしまう。朱奈も期待に応えられない罪悪感を少し抱えてしまうが、敬大は今の朱奈と友達になることから始める。そして敬大は心の中で自分の かつての主人と一緒にいられる喜びを覚える。

こうして凌の時に続いて、敬大は自分の前世が拡張され、本来の姿に戻っていく感覚を覚える。隣家の裕真の家に凌が入ろうとする場面を目撃した敬愛は、かつて親友同士だった凌と朱奈の対面も果たす。口に手を当てて驚く凌に前世の姿(女性)が見える。
そこに麗奈が朱奈を迎えに来て、関係者が勢揃い。そして朱奈も敬大の学校に同級生として転入するらしい。転入の理由は全く分からないが、多分ツッコんでは いけない。今回のタイトルにもしたが、前世関係者が一つの学校に揃うと、作者がポンペイの再現でも狙っているのではないかと勘繰ってしまう。この学校だけ火山灰に埋もれるのだろうか。


が敬大は麗奈から朱奈は2週間前まで前世の記憶保持者だったが、その記憶が完全に消えたと教えられる。

詳しい経緯を聞くために舞台は榊原家に移る。榊原家は資産家らしく豪邸である。
話を聞く前に芹沢は朱奈が前世関係者であること、そして彼女の前世にまつわる記憶で敬大が不安を抱えていることを敬大の様子から見抜く。敬大は これまでのように芹沢に何もかも相談していない。それは親友だった彼女の前世と、芹沢自身が敬大の中で別存在になりつつあるからなのだろう。つまり敬大は芹沢を女性として惹かれているから。
そんな隙間を芹沢は埋めるべく自分を敬大の親友ポジションに戻す。そこで凌が前世関係者だということがバレてしまい芹沢は ほぼ全ての前世情報を共有していく。

何でも芹沢に話さなくなったのは 前世の話が出来る凌の登場と、芹沢自身を意識し始めたから。

その屋敷に榊原姉妹とは幼なじみの大学生・深影 蒼一(みかげ そういち)が現れる。彼もまた前世の記憶保持者で、前世の記憶のまま周囲と接するから敬大が困る事態になっている。凌とは違う形で敬大が振り回されているが、そういう立ち位置なので仕方がない。そして深影は朱奈が記憶を失ったことに苛立っているように見える。


い争いが発生し、朱奈が退席、それを追って麗奈が裕真を連れて退席する。
残ったのは前世を知っている前提の敬大・芹沢・深影の3人で、彼らは腹を割って話すのだが、敬大は深影の前世を危険視していて言葉に棘がある。敬大らしくない剣呑さを芹沢がフォローする。このために芹沢が前世の記憶が一気に共有され親友役に戻したのだろう。

朱奈は前触れもなく記憶が消えた。彼女の記憶が不安定だったということもなく、完璧にあったものが消失と聞き、敬大は足元が歪んでいく感覚を覚える。それが自分にも起きるかもしれないという可能性に思い当たったからだ。
絶望しかける敬大に光を見せるのは芹沢の役割。突然 記憶を失ったのなら記憶が戻る可能性があると彼に伝え、朱奈に記憶回復を試みる。

対して深影は非協力的。そして敬大に利己的な動機があると見抜く。


の日、榊原家ではパーティーが開かれる。この一家の主である姉妹の父親も変人。本書には まともな大人がいない…。

敬大の側に芹沢が復活したことは、裕真に再び疎外感が芽生えることでもあった。そんな彼を救うのは麗奈。双子の姉弟のように彼と一緒に行動することで裕真が落ち込まないようにしてあげている。そういう意味では麗奈は裕真のソウルメイト。前世の繋がりは不明だが、彼の悲しみや苦しみを低減させる親友役なのだろう。

深影は興味がない振りをして実は朱奈の記憶喪失に一番 傷ついている人だと思われる。そして この問題には深影の朱奈へのキスや想いが根底にあることが匂わされる。

そして朱奈は敬大や深影の、記憶を忘れたらしい自分を責めるような瞳(め)が辛いという。何らかの理由で記憶を放棄したのに、それを復活させようとすることは やはりエゴだった。敬大は自分の浅はかな行動に落ち込み、そこをまた芹沢にフォローされる。
自分が前世を忘れる恐怖する敬大に対して、芹沢はセレナへの愛は本物で強烈だから忘れるはずがない、そして忘れたとしても自分が敬大から聞いた話を語り続けると芹沢は言う。確かに芹沢は記憶保持者じゃないから、今の芹沢が覚えたことは基本的に消えない。そういう意味では芹沢は敬大の外部記憶装置と言えなくもないのか。

そういう彼女の芯の強さや考え方に敬大は惹かれるのだが、その気持ちを拡張させると自分の前世の記憶が危うくなる予感がするので、敢えて芹沢を かつての親友の名前で呼ぶ。その名前は彼の心のブレーキでもあるのだろう。


奈は転校先の敬大の学校で容姿端麗かつ真面目で温和な性格で男子生徒を中心に人気を集める。一方で敬大は朱奈に対する行動や記憶を喪失する恐怖、そして芹沢に動き出しそうな気持ちのコントロールに集中して本来の無駄な元気を失っている。

朱奈と違って麗奈は苦手な科目があり、その双子とも言うべき裕真もまた同じ。そこで成績優秀な敬大による勉強回が始まる。敬大は裕真の中にセレナを見い出し、彼女に惹かれる気持ちで心の安定を取り戻していく。
そんな敬大の気持ちを察した芹沢は自分が親友でしかないことを思い知る。それは彼女が願ったことだが、敬大の気持ちが接近したと思ったら遠ざかるから傷つくのだろう。まことに敬大は罪深い。

そういう時は裕真にアシストされて3人は また いつも通りに戻っていく。

最後は水着回。ここで凌と深影の初対面があるのだが、深影は前世の記憶の中にある性別で人を見る傾向があるので、凌が前世関係者だとは分からない。そこから始まるすれ違いコントで、本来は険悪なムードが流れる2人の邂逅なのに、しっかりとコメディ回になっていて大いに笑わせてもらった。
そして敬大は裕真・凌の前世の姉妹に対しては結構ヒーローで、彼らの前では器の大きい人間になれる(勘違いから大失敗もしているけど…)。