《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインの高校生当時の初恋の無念を千葉兄弟は同時進行で叶えてくれる、二方向成仏。

私の町の千葉くんは。(2) (Kissコミックス)
おかもととかさ
私の町の千葉くんは。(わたしのまちのちばくんは。)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

小野寺マチ、27歳高校教師。ある日クラスに転入してきたイケメンは、マチの高校時代の初恋(片思い)の相手、千葉悠一の弟・悠人。高校時代の彼に瓜二つで、視野に入るたびにトキメキが蘇る。悠人もマチへの好意を隠さない。一方、合コンで出会ったのは、なんとその弟の兄…、つまり本物の初恋相手・千葉悠一! エリートサラリーマンになっていた彼と、いい感じになって…。イケメン兄弟に挟まれる系ラブコメ、第2弾!

簡潔完結感想文

  • 高スペック男性に愛される理由は、彼にとって自分は理想化しない等身大だから?
  • 初めて3人が同じ場に立つ。おそらく この複雑な関係性を認知していないのは兄だけ。
  • 身体を重ねる兄、視線で射貫く弟。昼も夜も、職場でもプライベートでも欲情三昧。

者にとって夢のような展開 かつ 主人公へのヘイトが始まる 2巻。

三角関係モノにおいて、ヒロインには2人の男性の間を優柔不断に右往左往する大事な お仕事がある。本書の主人公・マチも その仕事をしっかり果たしているだけなので読者から非難される謂(いわ)れはない。だが彼女が問題なのは その一方と身体の関係を持ち、そして交際しているという点だろう。美形兄弟の どちらからも(なぜか)愛されるという読者の夢を体現しつつ、彼女の優柔不断さは読者に嫌われていく。ヒロインという お仕事も色々大変そうである。

『2巻』はこの千葉(ちば)兄弟のアプローチの違いが鮮明になっていた。兄・悠一(ゆういち)は上述の通り、マチとキスをし、身体の関係を持ち、彼女との交際を正式にスタートさせる。これによって10年前から抱き、そして こじらせてきた初恋は成就する。千葉の弟・悠人(ゆうと)の存在が無ければ間違いなくハッピーエンドである。弟・悠人の存在でマチは優柔不断になってしまうのだが、その悠人のお陰でマチは この交際に前のめりになり過ぎないのではないか、とも考えられる。
10年ずっと忘れられなかった初恋である。それが叶った後は、絶対に手放したくないという気持ちが強くなるだろう。間もなく それはマチの中で独占欲や結婚願望に変容し、悠一を束縛しただろう。でもマチは交際に浮かれはするものの、悠一を困惑させるほどの強すぎる執念を見せないでいられる。それは不誠実ではあるが心が100%悠一に向いていないから起こる現象なのではないか。

『2巻』でマチが悠一のような高スペックな男性から選ばれる理由が語られるが「一緒にいて楽なとこ」らしい。嘔吐するほど飲んだり言いたい事を言い合える関係が悠一には良い。これは結婚生活の半生と反動なのか。実際、悠一の同僚からすると彼のマチへの頻繁な連絡は過去の失敗からの教訓らしいし。悠一の元妻は自分の理想を詰め込んだ人だったのかもしれない。それが破綻したことで悠一は次の彼女に等身大の人を望んだ。そこに現れたのがマチという丁度良い人だったのかもしれない。同級生で当時の彼女や離婚歴など話しにくいことを最初から理解しているのも丁度良い、というか都合が良かったように考えられる。

そして悠一がマチとの時間を楽だと感じるのは、彼女の想いが強すぎないことも影響しているのではないか。マチは悠人の存在で後ろ髪を引かれ、それが後方へのベクトルになり、悠一への想いのベクトルを丁度いいところで相殺している。それが悠一の中でマチの心地良さに変換される。ある意味で この奇跡の交際が成立するのは三角関係のバランスが現状で信じられないぐらい安定しているからだろう。ということはマチの中で少しでもバランスを崩したら、それは終わってしまうのか。ここは悠一との関係の不安材料である。


チの欲情を性行為で満たす兄と違い、弟・悠人の方は非接触でマチを欲情させ続ける。

いや、今すごい思考が身体を駆け巡った。これは気づきたくなかった。
マチが悠一と身体の関係になったのは体育祭の夜。そして その体育祭でマチは悠人によって欲情を かきたてられた。思えば『1巻』でマチが合コン相手の下心を受け入れたのは、悠人に欲情した自分を解放したかったからだった。つまりマチが、この体育祭の日に悠一のアプローチを受け入れたのは、彼への初恋だけではなく、合コン相手との再現でもあるのだ。欲望に火が点いてしまったマチの目の前に悠一がいた。初恋の成就のようでいて、実は顔も覚えていない合コン相手と悠一は ≒ で結ばれてしまう存在でもあるのだ。

生徒と教師という立場の制約も2人にとって実は互いに欲情を たぎらせる装置であるのかもしれない。彼らはキスをしない。でも視線一つ、間接的な会話、ピアスをつける動作、そのどれもが実は肉体関係よりもエロティックに描かれる。

考えようによっては この世の全ては何でもエロい。悠人は それを再確認させてくれる。

『2巻』から一層 悠人は小悪魔的になるが、悪魔の中でもインキュバスといった感じなのかもしれない。悠人の存在がマチを10年前に戻し、悠人との時間はマチに叶えられなかった過去を叶えさせる夢のような時間となる。悠人が小悪魔的なのではなく、実はマチの欲望を体現してくれるのが この悪魔なのではないか。

本書がマチ≒女性にとって アホみたいに都合の良い物語であるのは、マチが自分の欲望をインキュバスに叶えてもらっているからなのかもしれない…。


人が自分のことを好きなのでは、という疑惑でマチの態度は不自然になる。

一方でマチは兄の悠一と恋の始まる予感を覚え、それだけで浮足立つ。悠一との未来を考えながらも、悠人の顔を見ると心が反応する。それほどまでに初恋の呪縛が強い、ということにしておこう。

近づく体育祭に向けての準備をする悠人と不足した材料を買いに行く。これはマチが千葉くんと10年前にしたかったことの一つだろう。それを一つ一つ叶えてくれるからマチにとって悠人は都合が良い。
しかも悠人はマチへの好意を隠さなくなる。口説くような、恥ずかしい台詞を連発してマチは彼への熱を感じる。悠人がイジワル男子に豹変している。どうにか理性を発動させ抗うが、間違いなく迫られることは快感だろう。

この時の悠人の告白に動揺したマチは彼と2人乗りをしていた自転車から落ちる。それを悠人が庇うことで彼の顔に傷がついてしまう。


育祭当日、悠人は教室内でサボっている。それを見つけたマチは彼のいる教室に行く。頭部の一部が見えるだけで彼を彼と認識できるマチは、来校する悠一を探す振りをして悠人を探していたのではと思わされる場面だ。

10年前の体育祭は千葉くんに見とれていた。体育祭での彼の活躍を見て、マチは その時 千葉くんが巻いていたハチマキを回収する振りして窃盗していた。ちょいちょい行動がストーカー、というか変態ラインに足を踏み入れている愉快なマチ先生である。

教室で悠人は、その10年前と同じ色のハチマキでマチの腕と窓際の手摺を結ぶ。そして困るマチと自分をカーテンで覆う。それはマチが千葉くんに恋に落ちた状況と酷似。だからマチは悠人からのキスを連想し、唾を飲み込む。その様子を確認した悠人はカーテンから出て、残されたマチを観察する。見つめられて露わになる欲望。マチはハチマキを外して欲しいのではなくて、本当はキスをして欲しい。その欲望を剥き出しにされてマチは羞恥で顔を赤くする(そして悠人は その顔が見たかったのだろう)。


の非接触のエロティックを打開するのは悠一の登場。悠一は弟の児戯を発見して即 平手打ち。なかなか過激な兄弟である。

この場面で初めて関係者3人が揃う。気になるのは悠一が登場してもマチは悠人の視線や存在を気にしているところ。心が反応しているのは弟の方に、である。悠一はマチの欲情に気づかないから、彼女が弟に巻き込まれただけだと考えている。

現在のマチには悠人との出会いが先で 悠一は遅れての登場。悠一の登場前にマチは心理的に裸だ。

悠人は競技に参加するため校庭に出て、マチは彼の様子を悠一と並んで校舎から見る。マチの心配は悠人が競技で走っている姿と千葉くんが重なり、高校時代のトキメキで悠人に気持ちが引っ張られることなのだろう。

借り物競争で眼鏡という お題を引いた悠人は、女子生徒に声を掛け、彼女を お姫様抱っこして走り出す。少女漫画でいえば、ヒーローとヒロインだけに許されたシチュエーションだ。そしてマチは女子生徒との密着より、やはり千葉くんを悠人に重ねてしまい放心する。

この時、千葉くんが疲弊しているのは体力がないからではなく、マチに見られていることを想定して無理をしていたからだと判明する。彼は体育祭準備の夜、自転車で転倒したマチを庇った時、肋骨が折れたらしい。それでも無茶をしたのは、マチがスポーツ万能な悠一を褒めていたのを見てしまったから。彼女の視界に入るために悠人は無茶をしたのだ。いつも余裕があるようで、するべき努力はする人みたいだ。


人の努力の一方で、この夜、27歳の男女の同級生はキスをする。それどころか身体を重ねる。マチ曰く「完ぺきな夜」だったそうだ。そして翌朝、悠一はマチに交際を申し込む。マチは初恋が時を経て成就したことに鼻息を荒くして、悠一から会社の先輩にマチを紹介したいと言われて、彼も本気で交際してくれていることを確信する。

それによりマチの中での悠人は恋人の弟になり、悠人からの恋心は重荷になる。だが自分を庇って彼が怪我をしたことを知り、それは負い目になる。体育祭での お姫様抱っこにより悠人の人気は高まる。彼がモテた先には恋人が待っている。そのことを考えるとマチの胸は痛む。

悠一が紹介したい会社の先輩は、既にマチは2回会っていた。そして身体の関係もあった(『1巻』)。自分が身体を重ねた2人の男に囲まれての食事。千葉兄弟とは違う、大人の三角関係ともいえる修羅場が幕を開ける。

「私の町の千葉くんは。 番外編」…
掲載誌とは別の雑誌への出張版だと思われる。そのため総集編のような部分があり、ページの制約上 兄・悠一は登場しない。なので完璧にマチが弟・悠人に振り回されながら、ときめくという完全な弟ルートになっている。修羅場の続きが読めると思ってページをめくったら番外編でガッカリしたのは私だけではあるまい。