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少女漫画と小説の感想ブログです

例え俺が怪我をする未来よりも、お前の言葉を受け入れる未来の方が ずっと受け入れ難い。

目隠しの国 3 (白泉社文庫)
筑波 さくら(つくば さくら)
目隠しの国(めかくしのくに)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

触れた人の未来が見えるかなでと並木。逆に過去が見えるあろう。友人や家族にも敬遠されがちな力を持つ3人だが、それでも誰かの為に頑張る事をやめられない…温かな絆を描く青春ロマンス第3巻。

簡潔完結感想文

  • キスしたら かえってギクシャクしたり、お泊り回があったりと普通の少女漫画っぽい内容も。
  • その一方で あろう は強すぎる自分の能力に振り回される。かなで が介入しないのが特徴的。
  • 並木が自分のトラウマと向き合い始める文化祭。男性たちの成長・変化を楽しむのが少女漫画。

築を重ねた家なのに、まるで一つの家のような一体感のある 3巻。

今回、改めて思うのは、作者の作品世界への強固な想像力。
私は続けて読んでいるから、この学校や作品世界の連続性を当たり前だと思っているが、
何度も書いている通り、本書は読切短編から始まって、4か月間隔、2か月間隔の読切、
そして3回連載、5回連載と、延命に延命を重ねている作品である。

何度も現実の時間は跳躍しているのに、続けて読んでも
まるで毎月連載を重ねていたかのような、連続性を感じられる。
それが可能なのは作品に向き合う作者の集中力の維持があったからだろう。
生物室が学校の怪談となっている設定を大事にしている所に、
作者の中に確実に この学校は存在するんだな、と好感を持つ。

そんな連載の形態があるにもかかわらず どこを切り取っても良い空気感が流れている所も、
本書の隠れた長所ではないかと思う。


回、最も好きなのは、
初登場となる並木(なみき)の弟・淳也(じゅんや)のバスケットボールの試合中の怪我にまつわる、
かなで の未来視と それに対する周囲の反応(特に淳也)の場面である。

バスケ部関連では、以前、生徒会長の弟でもある染谷(そめや)の事故を 回避した(『2巻』)。
その時は並木は かなで の前向きさに影響されて、忠告、もしくは脅迫という形で彼の未来を変えた。

だが、今回は並木の側にも積極的に助ける理由が見つからず、
そして何よりも、怪我を負う本人も その未来が絶対に来ることを知りながらも回避しないという構図が新しい。

受け入れられないのは不幸の予言ではなく、自分とは世界の見方が違う兄との断絶かもしれない。

弟の淳也は兄の能力を知っており、それと同じ能力を持つ かなで の忠告の意味も分かっていた。
それでも彼は自分の意志によって未来を了承し、怪我を受け入れる。
それは淳也の兄への、兄たちの能力への反発心であった。
敢えて怪我をすることが彼らを否定することになるのだろう。

特に弟にとっては『目隠しの国』の中で「見える」人たちと笑い合う兄の姿を見て、
自分は人として種類が違うことを痛感したことが、今回の反発の大きな理由になるのだろう。

かなで は出来る限りの事はしたし、本人も未来を受け入れている。
こういう未来の決定もあるのかという、物事の配置と、染谷(弟)との対比が素晴らしい。
勿論、この後の兄弟の行動も好きだ。

回を重ねて、彼らの能力が変化することはない。
だが その強弱や、能力に対する人の反応の濃淡が物語を形作っていく。

当たり前かもしれないが、作者の物語への理解度の高さが うかがえるから一層 作品を好きになる。


スをしたことで、あろうを これまで以上に意識する かなで。
夏が到来し、友人たちとのお泊り旅行が計画されるが、その前に待ち受けているのが定期テスト
そこから勉強回になる。

先生役は、1学年上で、転校前は有名校の首席だった並木。
ちなみに並木は現在 高校3年生で、『3巻』からは夏休みに突入していくのだが、
教師から面談で「どこの大学でも問題なく入れる」とのお墨付きをもらっているので、
受験生という行動制限はない。
これは、これ以降 彼がフラフラしていても大丈夫、という作者側の布石だろう。

今回 あろう は参加していない。
そこそこ賢いという理由もあるが、
物語上は、キスしたことで2人が同じ空間にいることが気まずくなってしまうから いない。
そんな状態の時に並木の前に出たら、勘の良い彼は何かに気づき、そして傷ついてしまうだろう。

2人のフワフワした状態の時に、
2人が能力を使って恋のキューピッド役を務めるという関連性が良い。

嬉しさと恥ずかしさで距離感が掴めなくなった2人が、
自分たちの距離を確かめてから、並木との3人の勉強回が始まるという構成も見事。


して予告された海回。
裸(特に男性の)に定評があるらしい作者の本領発揮と言ったところか。

世の中を斜に見ている並木さんは、スケコマシ・女たらし が定位置かと思いきや、純情なのが可愛いところ。
私は男性陣の照れ、の描写が好きですね。

夜の海に、並木の飼い犬を探しに行った並木と かなで。
だが暗い足元で かなで が転倒し海に転落し、助けに入った並木ともども流されてしまう。

遭難回ですね。
暗い海を前に炙り出されるのは、並木の過去での家族からの拒絶のトラウマ。
そんな彼のトラウマを温かく包み込むのが かなで。
男性のトラウマには聖母の存在が必要なのです。

2人を待ちくたびれた あろう は救出するため、岩に触れて過去を見る。
そこで彼は かなで が海に落ちたことを知り、焦る。
潜るだけでは手掛かりさえない状態で、彼は海の水の過去を見るために、力を解き放つ。

これまで以上に力を強く願う あろう の身体は、定形を保てず、溶け始める。
そんな彼の願いを受信するのが かなで。
海の中から自分の名を呼ぶ声に反応し、水を掬い、あろうの名を呼ぶ。

そうして形を無くした あろう は あろう に戻ることが出来たのだが、
力を使い果たした彼は少し不定形で、そして過労から倒れてしまった。

男性2人に迷惑をかけたと かなで は落ち込む。
だが、そんな彼女に、今日 多くの存在に助けられた あろう は、
助けてもらう、という行為は自分が一人じゃから出来ることだと励ます。

あろう の能力は、過去視というよりも、その人や物と同化し、意識を共有することなのだろうか。
今回は海水に触れ、彼らと限りなく同化することで、かなで の現在地を知った。
かなで が呼ばれ、彼の名を呼ぶまで、あろう は海水となって漂うばかりなのだろう。

ということは、あろうが誰かになりたいと心の底から願えば、その人の記憶も持ったクローンになってしまうのか。
もはやドッペルゲンガーが妖怪の類である。
考えれば考えるほど あろうが怖くなる、というのも本書の怪しい魅力かもしれない。


いては あろう の中学校の時の同級生・本間 栄一郎(ほんま えいいちろう)が登場する。
政治家を父に持つ彼は、あろうの能力で「必殺仕事人」みたいな働きをしようとする。

これまでも あろう は探偵のような働きをしていたが、
その範囲が学校内から社会へと広がっていく。

本間は あろう の能力を選ばれた力と位置づけ、それを活用することこそが果たすべき役目だと考えている。
そして権力者である父親には、大きな問題が舞い込んでくる。

ここ、青少年をメインに据えているから仕方ないけど、
政治家の息子ではあるものの、今は何者でもない本間が社会問題に熱心で、今 あろう の力を必要とする意味は薄い。
自分が政治家になる、もしくは父の秘書になり、選挙を手伝う頃に現れるならまだしも。
父に憧れ、彼に認められたい一心で あろう の力を利用するとか、もうちょっと動機づけが欲しかったなぁ。

そんな本間の計画を文字通り一蹴するのは並木。

1人残された本間は かなえ と話す。
彼が話すのは中学校の頃の 恐ろしく無口で独特の雰囲気があった頃の あろう。
この名残が1話には感じられる、ような気がする(後付けだが)。

本間は、あの あろう の彼女である かなで の普通さに驚く。
だが彼女が本間の危機を「見て」、それを回避したことでかなでの能力に気づく。

本間はあろうの能力を知っているから、能力者に対する感覚や理解は人より優れているのだろう。
だから、一つの事象を偶然だと捉えず、かなで の能力を見破った。
その下地は理解できるのだが、あろう とは種類の違う能力を そんなに瞬時に見抜けるかなぁ、という疑問はある。
まぁ あろう が交際する女性だから、何かある、という補強材料はたくさんあるんだろうけど。
(後に かなで が自分からペラペラ喋ったみたいだが)

夏休み中なので本間は毎日のようにあろうに近づく。
そして あろう の元に通う かなで とも接触し続けることが脅迫材料となり、
あろうは、本間に かなで の能力を使われないように自分が犠牲になる。


事にしていた畑の手入れも放棄して、あろうは本間に協力する。

そういえば あろう の見える過去はランダムなのか、それとも意識的に選別できるのか気になる所。
学校や海での人探しなどでは、その直前の記憶を見ればいいが、
今回のように政治家の汚職事件など時間が経過した過去をどう見ているのかは説明されていません。

かなでは本間を信頼していることもあるが、疑わない。
これは『2巻』の時の保健医の時と同じだろうか。

本書の大きな特徴として、
かなで は人の持つ悪意に対して近づかないように設計されていることが挙げられるだろう。

男性たちは色々抱える問題があるが、
他の少女漫画のように、ヒロインが家庭の事情やトラウマに お節介に深入りして解決するという展開ではない。
彼女は男性たちの心の支えであり、この世の温かさの象徴であるだけ。
実は かなで は あんまり動かないヒロインなのである。

本間の登場前とラストで、かなで と あろう が互いにホースで畑に水をやる彼/彼女に見とれる場面が印象的。
その姿こそ、自分が好きになった人の自然体で、守りたいと思う人なのだろう。

最後に あろう は久々に会ったかなでに本心を話す。
そして強い能力が自分の身の丈を越えてしまっていることを自覚する。

だが かなで の存在で そんな自分をリセットできた。
そして彼女は自分の愛する場所、畑を守ってくれた。
世界の広さは それだけで あろう は十分なのだろう。

本間のような大きい正義感、社会悪に立ち向かうことも必要なのかもしれないが、
あろう は自分の等身大の今だけを生きることを望む。

本間は彼なりに あろう のことが好きだから手を引いたのだろうが、
かなで のことを引き合いに出せば、まだ あろうを利用し続けられただろう。
悪人がいない世界だからこそ成り立つラストだが、
本間が脅迫したら、あろう が かなで の事を どう守ろうとしたのか気になるところ。

荒廃した あろう の畑=彼の精神を綺麗に保つのは豊穣の女神。畑の充実は彼の学校生活の充実。

ろう編が終わって続いては並木編となる。
バスケ部の親善試合に参加する他校の生徒が怪我をする未来を見たかなでは、怪我を未然に防ごうとする。
その生徒が並木の弟であった。
並木が家を出たため、今は離ればなれに暮らす兄弟の話となる。

互いに複雑な気持ちを抱える2人だが、並木は結局 弟を助ける。
それは いつも並木の中にある ギリギリの性善説なのかもしれないし、
温かな手で触れてくれる かなで を悲しませる自分でありたくないという並木の願いなのかもしれない。
もしくは単純に家族への愛情かもしれない。

そんな中で文化祭回となる。
転校生の並木や あろう にとっては、初めての学校行事。
しかも以前の学校とは違って、穏やかな気持ちで参加できる初の文化祭なのではないか。
それは精神安定剤の かなで がいるからだろう。

だが、お化け屋敷の暗闇の中、声も発さなかった女性が落とした財布を、
あろう が迷いなく その女性に届けたことから、騒動が起きる。
確かに論理を飛躍した状況には恐怖を覚えるだろう。
彼女にとっては、あろうは 本当のお化けに見えたはず。


並木は文化祭に来た弟と話を始める。
だが 弟は、家族から離れても何不自由なく笑って暮らしている兄の姿に一抹の寂しさを感じていた。

並木にとっては拒絶かもしれないが、
家族にとっては当惑というのが並木への感情の正体であろう。

あろう の恐怖や疎外感は かなで という存在が身も心も受け止めてくれるが、
並木にとって、かなで は精神的な支柱でしかない。
実は彼の方がトラウマの治療が難しいのではないかと思う次第。

5回連載の途中で、巻が途切れる。
巻を跨いでの話は文庫版では初めてではないか。