《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

神様のネタばらし。あの日の私の言動に嘘は全く無いんだよ。神様の言うことは 絶っ対~!!

神様のえこひいき 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
小村 あゆみ(こむら あゆみ)
神様のえこひいき(かみさまのえこひいき)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

だったらやることは同じだろうが 全力でオレを惚れさせてみろよ 男友達ケンタと恋愛をするために、神様の暇つぶしで、女の子に生まれ変わった主人公・弥白。いざ、ケンタをオトす!と意気込んだものの、それまで普通に女子好きだった弥白が女の子になりきるなんて、うあぁ!の連続で。しかも、昔好きだった女子・鈴に告白される(え!?)事態に!! 好きになっちゃったんだからしょうがない! この複雑すぎる三角関係の行く先は…!?

簡潔完結感想文

  • 自分を好きな人、自分が好きな人を騙し続けることは出来ない。展開が目まぐるしい。
  • 自分に関する意外な真相を知る弥白は、即座に自分の真相を知らせる。愚かなほど実直。
  • 同性同士だと想像が難しい関係も、異性だったら自然の摂理。ピンチ⁉ or チャンス!?

中の人を罠に はめるはずが、自分も罠に はまっていた 2巻。

読者の予想を大幅に上回る速い展開が続くのが『2巻』。
『2巻』では告白大合戦が巻き起こる。

そもそもが主人公の男子高生の意識が、女子高生の肉体に宿っても、驚くほど平常運転だった本書。
少女漫画誌の連載だということもあるが、
主人公・弥白(やしろ)は女性の肉体に接したことのあるタイプの男子高生なので、
自分が神楽(かぐら)という女性として生きることは初めてでも、女体への過度な興奮は描かれない。

彼の興味は、男だった自分が好きな幼なじみ(男)ケンタへの果たせなかった恋心を成就させることだけ。
目的に対して一直線であることが、混乱などの余計な描写の割愛に繋がり、物語をスッキリ見せる。

勿論、男性が女性として生活する悩みがない訳ではない。
弥白の意識は完全に男性のままなので、例えば下着を身に着ける時、男がブラジャーをする感覚が生じて苦悩が生じる。
そして今回で言えば、女性用トイレを使うのも、男性の意識的に躊躇われる。
だからトイレを使わないようにするためだけに学校では水分を控えていたり、と真面目で律儀な男性なのである。

肉体そのものではなく、こういう日常の些事に苦悩を感じるのが本書ならでは。
好きな人に好かれる可能性が高いために、女性という性別を選んだが、
自分が心から女性になりきれない苦悩は、性同一障害や、性転換後の心身の不一致といった問題っぽい。

女性として生きることは自分が願った状況だけれど、自分も騙せない弥白。
そんな彼が今回、自分に関する「ある秘密」を知ることで、彼の一直線な行動が加速していく。

物語の展開が早いのは、嘘のない世界を望む弥白の実直さのお陰である。
そして用意していたネタを惜しげもなく使っていく作品の神様=作者の手腕に敬服する。
このままの速度で最後まで突っ走って欲しい。


イレ問題に悩む弥白は、男子トイレを使用することで自分の難を逃れる。
だが、その現場をケンタに目撃され、
更には後から入ってきた他の男子生徒の目から逃れるためにケンタと個室で壁ドン状態。
一風変わった胸キュンシーンとなりました。

そのお礼にケンタと放課後に出掛けることを提案するが、断られてしまう。

そんな、ケンタと神楽=弥白の会話に割って入るクラスメイトの鈴(りん)。
弥白は、鈴がケンタの元カノで、ケンタのことがまだ好きなのかと誤解するが、
彼女が気に入らないのは神楽がケンタと仲良くしていることだと知る。

鈴は、自身が神楽に抱く感情は友情的な独占欲ではなく、その先に性的関係も含めた恋愛であると断言。
本書の主要な登場人物3人(弥白・ケンタ・鈴)は、それぞれに異性との交際経験、そして性体験が結構あるタイプの人々。
だから性に対してフラットでフランク。
性行為に対しても保守的に後生大事に扱うのではなく、人が生きる中での一要素と考えている。
この柔軟さが本書の軽やかさにも繋がっている。

2人の出会いが運命であることを強調し過ぎたりせず、
多くの魅力的な人の中で好きになったのが、たまたま同性であった、という感覚が好ましい。
もちろん作者は そもそもBL的なものが好きなのだろうが、
男性だけで世界を構築したり、重苦しい雰囲気に自分が酔いしれたりしていない点が良い。
主人公たち3人が全員、異性との性体験があるのも、性的な指向を固めないためだろう。

なので鈴は自分の同性への好意に戸惑う訳でもなく、
これまでのメソッドが通用しない初めての相手をどう籠絡するかに興奮する。
あるがままの自分を素直に認め、否定せずに その成就に燃える鈴の姿勢は たくましい。

ただ 神楽=弥白は、考え方が柔軟な鈴とは弥白時代に出会って、良き相談相手として自分の悩みを聞いて欲しかったと思ってしまう。
でもそれが、鈴の自分(神楽)への好意を無視する、自分に都合の良いだけの関係性であると、弥白は気づく。
そして自分が そう思って初めて、弥白の告白の後、友達でいることを確認したケンタの気持ちを知る。
ずっと友達でいたい、その気持ちは相手に恋心を持てない時の正直な気持ちなのだ。


分を好きと言ってくれる人を騙し続ける訳にはいかない。
だから弥白は、神楽=弥白であると鈴に打ち明けようとする。
その優しさ、実直さこそが弥白の心根なのである。

だが、自分が死んだ弥白だと告白すると鈴は神楽=弥白の顔を引っ叩いた。
タチ悪すぎるウソは軽蔑する、と彼女は叫ぶ。
「だって弥白くんはまだ生きてるんだから」

これは弥白だけでなく、読者にとっても意外な事実。
もっと引っ張ってもいい規模の真相ですが、物語の序盤といってもいい、この段階で明かされた。
作者の中では、弥白の心が問題であって、どの肉体にホームステイしているかは大きな問題ではないのだろう。

そうして駆け付けた病室に眠る自分の姿を見つける弥白。

それによって神様は弥白を「転生」させたのではなく、
弥白が考えた最強のケンタ好みの女性(神楽)の肉体を用意して、弥白の意識を神楽に入れただけに過ぎないことが判明する。

病室には弥白の母が見舞いに来ていた。
本来、自分が死んだのなら気になる現世に残してきた家族の話が出ないのは、
神楽=弥白が自宅に様子を窺うと、自分が死んでいないことがすぐに判明してしまうからであろう。

そして弥白は、死んだことが申し訳なく、母や家族に努めて会わないようにしていた(勘違いだったが)。
だが今度は自分が違う意味で色々な人に心配をかけていると知り弥白は号泣する。

女体を得て、家族を顧みない恋愛脳に見えた弥白だが、彼なりの葛藤があったようだ。
弥白が生きていると分かって、どういう状態で物語に決着がつくのか一段と分からなくなった。

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神楽になってから恋愛一直線だったのは、家族のことなどから目を逸らして逃げ続けていたからなのか。

の弥白の涙を見て、神楽=弥白説を受け入れる鈴。
ここで鈴を交えて、これまでの経緯が正確に語られる。

なぜ弥白が女性になったか、
そして なぜ神様は弥白に自分の生存を伝えなかったのか。

これに対して神様は、死んだとも一言も言ってない、と返答。
神はフェアであった。
一部、誤解を招く描写(天使の輪)も、一応の種明かしがされる。

そして弥白は、今後について、
周りに迷惑かけてまで続けることじゃない、と神楽としての人生を終える決意をする。

だが、弥白の存在を一つにする方法は多少ややこしくて、すぐには戻れないらしい。
そこで鈴は、すぐに戻れないのならばケンタに事情を説明するべきだと提案する。
その理由は、弥白の入院以降の彼の行動にあった。

あの日以来、ケンタは毎日 弥白が眠る病院に通っている。
これまでのように女子と遊ぶのもやめて。

そんなケンタの行動に感動した弥白は、何の策もなく神楽=弥白をケンタに報告しようとする。
鈴の時も、彼女に嫌な思いをさせたというのに。
そう考えると、ケンタへの告白に百度参りして、一呼吸(百呼吸)置いたのは、
弥白にしては珍しく、彼が想いを伝えるのに とても躊躇していたということが分かる。

だが、そんな愚直な弥白を神様は一層 気に入る。

神様が見えるようになった鈴は、神様が、弥白の名前を神楽にしたのは、神様が楽しむって意味だと見抜く。
また、弥白が しばらく元に戻れないと分かると、鈴が弥白にケンタのことを すぐに気にかけるのも、
彼女の聡明さと優しさをしっかり表していて良い。
鈴にとってケンタは一種の恋敵ではあるが、人としての道理を優先している。


分こそが弥白だと神楽の姿で訴えるが、
案の定、ケンタは、それが神楽が自分の気を引くためのウソだと彼女の行動を蔑む。

飽くまでも真っ直ぐにケンタに信じてもらおうとする弥白は、
自分が知る17年間のケンタの記憶を話し、そして彼の腕に残る傷の経緯を話し、それを証明とする。

自分たち以外は改ざんされた情報しか知らないはずの真実を神楽=弥白が話している。
そのことでケンタも納得し、姿形こそ違えど弥白が生きていることを実感し、安堵から号泣する。

そして それは自分を庇って優しい言葉を投げかけるケンタに、弥白は惚れた大切な思い出だった。

その後に神様は、ケンタの前にも姿を現す。
神様が男だと判断したケンタは、瞬時に態度を変える。
根っからの女好きなんですね。
ケンタはイタリア人のような性格だ。
そして 同時に、弥白が弥白のままケンタに好かれる難しさを表している。
自分が返るべき肉体があることは弥白にとって嬉しいことなのか価値観が こんがらがる。

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『2巻』は重大な告白が続く。弥白の告白は内容もタイミングも唐突で いつも人を驚かせる。

かしケンタは、弥白の帰還を待ちわびる彼の家族と自分がいるから、元に戻れと言う。

そこで神様は帰還の条件として、ケンタが神楽=弥白を心から好きになって口付けしたら、という条件を出す。
これは、神様が今 考えた帰還のルール。
面白がっているようだが、それは弥白の最初の願いを叶えるためでもあった。
全てを元に戻すのは それをクリアしてからだと言う。

でも神楽としてケンタを惚れさせても、その段階で神楽は消滅してしまう。
そこに疑問を感じる弥白だが、ケンタは神楽は弥白なのだから同じだという。
ケンタもまた外見や性別ではなく、心で人を好きになろうとしているのかもしれない。


全てをカミングアウトした神楽=弥白は翌朝から髪を切って登校した。
もう「自分の考えた最強のケンタ好みの女子」でいる必要性はない。
肉体こそ神楽(女性)だが、ほぼ弥白としてケンタと関わる。

ここから奇妙な三角関係が始まる。
鈴は神楽として女性同士の関係で恋愛関係を望んでいる。
だが神楽は将来的に消滅が運命づけられている。
この三角関係で、将来的に傷つくのは鈴なのではないか。

鈴は軽々と乗り越えられた同性同士の性行為を含めた恋愛だが、
ケンタも、そして弥白でさえも、男性同士の行為には想像が及ばないみたい。
2人の間にある意識的なハードルは高い。

そこで鈴は、弥白の気持ちを知った上で一緒にいることを提案する。
それはケンタへの告白直後に事故に遭い、神楽として生活していた弥白にとって、
恋心を互いに認識した後での 初めての2人だけの時間となる。

皆で遊びに行こうと提案する弥白だが、ケンタは その前にテスト勉強をすべきと提案する。
さらに鈴は合コンに誘われて、狩りに向かってしまい不参加。
彼女は この段階で彼らの恋愛の協力者になっているような気がするなぁ。

そうして2人だけの勉強回。
いかにも少女漫画らしい展開になってきました。

密室で若い男女が2人きりでいると何も起きない訳がなく…。
ましてやケンタは実践主義らしい。
いきなり貞操の危機⁉
これはピンチなの、チャンスなの⁉