
優木 なち(ゆうき なち)
僕の家においで(ぼくのいえにおいで)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★(4点)
2人の男性との共同生活、進行中。同居している同じ年の男子にも迫られて…!? 毎日がドキドキの刑ですっ!! 真野さん、鈴間くんという2人のイケメンと共同生活することになった美玲。そんな中、鈴間くんが美玲に告白を…!! 生まれて初めての告白に戸惑う美玲。そして、それを見た真野さんは…!? さらにドキドキ度が加速するじれったい同居ストーリー。 【同時収録】僕の家においで 番外編
簡潔完結感想文
- 当て馬・鈴間は真野・美玲双方の気持ちを引き出した優秀な当て馬。今後は相談役に就任。
- プライバシーを守らず相談相手に全てを話す美玲。悪癖は最後まで治らず、好きになれない。
- 告白を予感させてから奈落に落とされる真相。でも結局 容姿で一次審査合格って事だよね…。
俺たちの恋愛は ここからだッ! の 3巻。
この『3巻』で大学生ヒーロー・真野(まの)が どうして高校1年生の美玲(みれい)と同居を開始したのかが発表される。真野が語る真相で ここまでの物語でのエピソードが全く違う内容に一新される。当初の構想が機能する仕掛けの楽しさや内容の充実度の高さは作品の中で一番なのではないか。きっちり読者の気持ちを乱高下させる少女漫画のお手本のように思えた。
『3巻』13話で初めて真野側の同居の理由が明かされているけれど、この理由を明かす前に連載が打ち切りになる可能性だってあったはずだ。ここまで真野側の背景を語らずに済んだのは、初動の人気が高かったからなのだろうか。もしかしたら当て馬・鈴間(すずま)の登場は真相発表を遅らせる余裕が出来たからなのだろうか。少女漫画に限らず漫画家さんは臨機応変に物語を変えられるスキルが求められるから大変だ。
そして私は「少女漫画の3巻は三角関係の始まり説」を信じているので、まさか『3巻』で早くも三角関係が終焉するとは思わなかった。むしろ本書は3巻で ようやく恋愛関係が始まる と言える。ここまでは単なる同居の話で、ここからが恋愛を含めた同棲のニュアンスが近い同居モノへと移行する。真野の美玲という同居人を引き留めるためのスキンシップでドキドキしてきた読者たちは ここからの真野の本気を見逃せるはずがない。序盤が面白い作品は正義である。


鈴間は とても優秀な当て馬で、本来の役割である美玲を慕う仕事だけでなく、真野に美玲への特別な感情を引き出させたり、鈍感ヒロイン・美玲の2人の男性の比較対象になることで真野への優先度の高さを気づかせたりしている。序盤の鈴間の貢献度は高いので、ここからもサブキャラとして度々 物語に登場して欲しいけれど、作者には主役2人とエピソード関係者しか動かすことしか出来ないようでサブキャラのエピソードなど一切 見られない。その辺が長編として惜しいところ。世界が広がって どのキャラも この世界で動いているような感覚が長年 読んできた読者の喜びになるのに、良くも悪くも主役の2人の物語に限定されている。
そして どういう理由でも結局のところ真野のナンパが美玲を顔で選んだことを補強している。可愛い子だったから執着して、面白い性格だと分かったのは その後のことだ。よく考えれば考えるほど真野が いまいちヒーローとして格好良くない。
また ここから幾度も幻滅するのは美玲の事故処理能力やデリカシーの無さ、プライバシー厳守の忘却などなど美玲の相談の仕方。『3巻』で言えば美玲は鈴間のことを真野に相談し、真野のことを鈴間に相談する。前者は鈍感ヒロインだから出来ることだし、実際 真野の好意は確かなものではなかった。けれど後者は鈴間に想いを伝えられ それを拒絶した上での行為で優しさの欠片もない。
このように相談相手に全てを話してしまうのが美玲で、この悪癖は全25巻の中で全く変わらない。まだ高校時代は自分のことを認めてくれた鈴間やクラスメイトの友達だから許せるが、続編では会ったばかりの人に全てを さらけ出したり、真野との性生活の悩みなど彼のプライバシーや名誉を傷つけるようなことを繰り返す。この変わらない相談の仕方は美玲が作中で大人になれなかったと残念に思う部分だ。
同居した鈴間は ともかく、美玲と相談相手の関係値が構築できないまま情報を垂れ流すのは作品上の都合に思える。また そういう関係値を きちんと描けないのが作品の欠点だと思う。それは作品世界の浅さと ほぼ同義で、全25巻になっても少しも人間模様の濃くならない。
告白されたことにより鈴間は美玲を初めて恋愛対象として見てくれる男性となった。そのことに戸惑いながら向き合おうとするが、鈴間は美玲の前に姿を現さなくなった。
真野は美玲の異変に気づいて彼女から話を聞き出す。事情を知った真野は美玲を優しく導き、鈴間捜索を手伝う。個別行動になった真野の前に鈴間が姿を見せ、同居生活のルール違反をしたと謝罪する。更に鈴間は全てのことを無かったことにするため真野の部屋から消えると宣言。そんな鈴間に真野は それが卑怯で美玲を苦しめる行為だと諭す。
それでも踏ん切りの付かない鈴間に対して真野は勝負を挑み、自分が勝ったら美玲と向き合うようにさせる(負けたら鈴間の自由)。鈴間が提案したのは中学2年生までエースとして活躍していた野球での対決(対決場所の狭そうな公園は球技禁止だろうなぁ…)。結果は真野の勝利。てっきり真野は道化師になって鈴間に美玲と向き合う勇気だけを引き出すのかと思っていたら、自分の地位向上に ちゃっかり利用したよ、この人…。
美玲は自分を卑下する鈴間に対し、告白が嬉しかったこと、でも恋愛感情が よく分からないことを正直に告げる。それに対して鈴間は お試し交際を提案する。価値観や人間性が同じ鈴間と一緒にいることは美玲にとって特別な時間になる予感がする。けれど美玲の頭の中に真野の顔が浮かび、彼との契約が先にあり鈴間にまで手が回らないと思い当たる。鈴間は それで美玲の中の優先度が分かり、自主撤退を宣言。自分の言動で傷つけることなく それとなく傷つけていく高等テクニックだろうか。そして鈴間は真野との人間性の差も痛感していた。
こうして当て馬としての役目を終えた鈴間は同居生活から撤退する。それでも彼は不幸にならないフォローが用意されている。これは ここから延々と登場するライバルキャラたちに共通する措置。誰も不幸にしないような気遣いが見られる。
帰宅して、また全てを報告する美玲。不安でいっぱいだった真野は美玲の言葉に安堵し思わずバックハグする。真野の独占欲と家に縛り付ける理由が知りたくて、美玲は真野の施しの理由を聞き出そうとする。真野から溢れるのは真剣な愛の言葉かと思いきや、何かを誤魔化すかのような表層上の言葉だった。
その真野の態度を疑問に思った美玲は今度は鈴間に相談。美玲のデリカシーの無さに呆れる。鈴間は自分では何も考えない美玲に考えるように促す。美玲が思っていたのは真野は家に一人でいるのが さみしい ということ。それが伝わってくるから鈴間ではなく真野の側に いたかったのかもしれない。ちなみに鈴間は金銭的な心配がなくなったからか野球部に入部している。
美玲は真野のパーソナルな情報を入手するために尾行し、まずアルバイト先を知ろうとする(この作品、車の車線と進行方向が ずっと変)。真野が働いているのは オシャレな飲食店。真野目当てに来店する女性客も多く、真野は そんな女性たちに上手く立ち回る。連絡先交換が禁止されているのに果敢に聞き出そうとするモブ女性たち は美玲よりも頭が悪い存在なのだろう。美玲も飲食店に入って何の注文もしようとしないぐらい頭が悪いが。
モブ女性・女性店員に美玲が嘲笑されたところで真野が彼女を特別扱いする。『2巻』の学校登校と同じ姫扱いである。その姫扱いで真野が本当に自分に好意を抱いている可能性を考えポジティブ方向に妄想する。真野が この夜 話があると連絡してきたことで告白されると美玲は緊張する。


大事な話なのにソファで隣同士に座る2人。こういう場合、向き合わない? 真野の話の前に美玲からの質問として真野のパーソナル情報が語られる。8月18日生まれの獅子座のA型。家族構成を聞かれて「ひとりっ子」と答えるのは少々 変。兄弟構成とは聞いていないのに。
いよいよ美玲を拾った核心に迫るが、美玲は逃亡。その逃亡先のキッチンで真野からの告白から逃げるために、ずっと気になっていた2つずつある食器や家具、部屋への疑問を投げかける。
しかし それこそが真野の核心。彼は高校卒業後に住み始めた この部屋で同棲をしていたと発表する。真野は同棲開始から ほどなく理由を告げず出ていった彼女のことを待ち続けていた。1年間 女性に なびかなかったのも その元カノが心にいたから。
元カノが戻らない孤独と寂寞の中にいた真野は あの日 美玲と会った。困っている美玲なら自分の側にいてくれるのではないかと真野は美玲に2人で暮らすという物理的な空間を埋めるためと空虚さの解消に利用した。真野が恐れていたのは、美玲という個人ではなく再び誰かが家から出ていくことだった。
自分への告白かと思いきや元カノへの未練を告げられた美玲はショックを受ける。この真野の個人情報も美玲は鈴間やクラスメイトに勝手に話す。
真野とは変な空気が流れ、彼は家にいない時間が多くなってきた。真野を捜すと鈴間の家出の時と同じく真野も公園の遊具の中にいた。そこで美玲は自分と暮らしてからの真野の心情を知る。真野は美玲との生活を心から楽しんでいた。そして美玲の存在は生活パターンや心境に変化を与え、自分にとって美玲は必須の存在になっていた。その言葉は美玲の虚しさを吹き飛ばしてくれる。そして美玲は なにがあっても側にいることを誓う。
こうして2人は新たな関係性の上で同居を再開する。素直な心を見せたからか、真野が初めて肌を露出している。入浴中の慌てた行動で下着を履いた上でタオルを巻く、という時間をロスする行為は不思議だが(どっちかでいい)。
真野は美玲を同居人ではなく異性の同棲相手として見始め、そして美玲にも異性として意識してもらおうとする。
