《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

日本の夏は、時間旅行の夏。世界線を変えるサマータイムマシン・ドリーム。

神様のえこひいき 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
小村 あゆみ(こむら あゆみ)
神様のえこひいき(かみさまのえこひいき)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

なあケンタ やっぱりお前の願い 叶えてみたくなった ケンタと恋をするために、“神様のえこひいき”で女の子・神楽に生まれ変わった弥白。元の自分の体が生きている(意識不明で入院中…)ことを知って、戻ろうとするのですが、神様が出した元に戻る条件というのが「ケンタが神楽を心から好きになって口付けすること」で!? 元の体に戻そうと迫るケンタを受け入れられず、神楽は逃げだしてしまいます。そこでケンタが神様に促され、口にした願いとは!?

簡潔完結感想文

  • 愛は人のどこに宿るのか。女の子の前だけで見せる顔を見せてアイツが俺に迫る。
  • 2度目の神様のえこひいき。ケンタは弥白が自分を好きにならない世界を望むが…。
  • 世界の分岐点を乗り越え 新しい世界線に進むケンタ。自分の本当に望むものは何か。

手に気づかれることなく恋心を消滅させる 3巻。

『3巻』では2回目の「神様のえこひいき」が実施される。
どうやら「えこひいき」される条件は2つ。
1つは神様の祀られる神社への百度参りを達成すること、
そして、その達成者が神様に面白い人格だと認められること。
神様の興味を引かないと、願いは叶えられない、というのが「えこひいき」たる理由だろう。

そして 2回の「えこひいき」を通して判明するのは神様は、
現実世界に大きな影響を与えない願いしか叶えないということ。

1回目の主人公・弥白(やしろ)の件でも、
『2巻』で結局、神様は人を転生させたりするなど生死にかかわる事象を操作していないことが分かった。
神様がしたのは、ちょっと位相を変えただけ。

そして2回目である今回もまた、現実世界に影響を及ぼさない範囲での願いを叶えた。
これは2回とも、神様が見込んだ人物の性格が誠実であることも影響している。
というか誠実であると分かったから、神様は「えこひいき」をしたのだろう。
だから彼らが祈る願いは他者を無駄に巻き込まないで成立する。

2度の「えこひいき」によって、恋愛の問題がどこにあるのかが鮮明になっていく。
そして それぞれが相手と どのような関係を望むのか、それが分かった『3巻』のラスト。
『4巻』では どんな状態になっているのか、今からワクワクが止まらない。

もしかして この神様は縁結びの神様なのではないだろうか。
相手に近づく/相手を遠ざけることを選んでも、結局、元の木阿弥のような現象が起きる。

人に答えを自分で導かさせるための超常現象、それが「えこひいき」なのである。

また2度の「えこひいき」を行う条件を成立させるために、弥白が神楽になるまでに時間がかかったことも分かる。
ここで季節が変わるだけの時間が経過しているため(具体的には3か月以上)、
2度目の「えこひいき」が1回目から待たずに行えている。
この見事な構成に舌を巻いた。


女漫画のお約束、勉強回で2人きりになった弥白とケンタ。
だが今の弥白は、弥白の意識が入った女性の身体・神楽(かぐら)でもある。
性行為の中にこそ情が生まれるという実践主義のケンタは、神楽の身体を求める。
弥白にとっても それは自分の身体に戻るための近道である。

しかし弥白はケンタが好きだけど、性的な関係は全く考えていないし考えたこともない。
これは愚直な弥白がそういうんだから、強がりや言い訳ではなく本当なのだろう。
ケンタとは心が深く繋がればそれでいい。

そして ここでケンタが女性の肉体の神楽と情を交わし、情が生まれてしまうと、
弥白を無視した形でケンタが神楽を好きになってしまう。
そのことを弥白は恐れている。

何より神楽という女性に見せるケンタの顔は、自分が一番見たくない女の子と一緒にいるケンタなのである。
その嫌悪感の中でケンタに抱かれても、虚しさが募るだけ。
自分から望んだケンタ好みの最強の外見が、自分のケンタとの理想的な関係から自分たちを遠ざけるだけ。

どんどん話が哲学的ともいえるような ややこしさを帯び始める。
私の理解力が不足していることもあるだろうが、この辺の文章は上手く繋げられない箇所が幾つかあった。
何を指しているのか、作者の思考の飛び方に追いつけなくて迷子になった。

また、合コンに参加した鈴(りん)は、以前から自分のことが好きな男性に出会うが、
彼女は自分が好きなのは弥白ではなく神楽だと気づく。
本来、鈴の恋愛ハントの対象である男性を前にしても、女性の神楽の優先度が高いこと、
そして彼女は、弥生ではなく消滅必至の神楽の心身が好きだと気づいた。
世界から見ると神楽は即席の存在であるが、鈴には替えのきかない存在だと分かる。
鈴と神楽の別れがどう描かれるのか、怖くもあり楽しみでもある。

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この弥白の考え方をケンタは知らない。だが「えこひいき」によってケンタはその境地に自力で たどり着く。

ンタに性の対象として見られることへの弥白の葛藤を しっかり見抜くケンタ。
彼が向かったのは、神様のいる神社。
どうやらケンタは弥生の事故後、病院にも通いながら神社にも毎日 足を運んでいたと分かる。
『1巻』でもケンタが神社にいる描写があったり、
彼が賽銭をすることで、賽銭が落ちる音を察知した神様が何度も神社に戻ったりしている。
こういう細かい描写、しっかりした構成が本書を支えている。

この神社は事故に遭うまでの弥白が百度参った場所だから、
同じことをして弥白の気持ちをトレースするのがケンタの目的。

弥白の心配ばかりで、自分の願望について話さないケンタに神様は水を向ける。
自分の優先順位が一位の弥白である事実と向き合う覚悟を決めたら、弥白の意識を本来の肉体に戻す。
だから「弥白と恋愛として向き合ってみる気はないのか?」と。

だがケンタの答えは女好きだから、絶対浮気する。
ケンタは実践主義、愛情を伝える手段(=性行為)を取れないなら、それは恋愛とは言えない、という考え方。

これがある限り、例え弥白側がケンタと一緒にいるために自分が女性と交わるのを一生避けても、ケンタ側の自由までは束縛できない。
これからも女性にだけ見せる顔をして、ケンタは女性と交流を続けるだろう。

だからこそケンタにとって弥白とは友人関係が一番 適切な距離なのだろう。
つかず離れず、相手を悲しませることなく そばにいてくれる/いられる関係性が保てるから。


故からずっと足繁く神社に通っていたケンタのために、彼の願いを神様は聞く。
これは二度目のえこひいき。

きっと、弥白が神楽として目覚めるまでに季節が変わるぐらいに時間が必要だったのは、
この時点(3年生のゴールデンウイーク前)までに弥白の事故から百日経過してなければならないからでもあるのだろう。

物語は、ケンタが神様に願えば願いが叶う状態からスタートしているのだ。
そしてケンタが犬に咬まれてから100日以上後が弥白のケンタへの告白となる。
要するに、弥白の恋の起点からは200日以上が経過しており、作中では結構な時間が経過していることが分かる。


ケンタの願いを聞き入れた神様は、ケンタを彼が望む世界へと誘(いざなう)う。

それは1年弱前の、2年生の夏休み前の7月。
弥白が弥白として存在する世界で、弥白がケンタを好きになる前の世界である。

神楽の姿になった弥白では見られなくなった彼のドジが復活していて、それがケンタの かつての日常であることを実感する。


の世界でのケンタの目的は、
弥白がケンタを意識し始めた、犬にまつわる騒動を回避すること。
そして「弥白が自分に惚れるのを絶対に阻止する」こと。

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弥白に普通の幸せを獲得して欲しいという、ケンタの願い。その成就のための夢の時間旅行。

世界の書き換え。
いかにも神様の仕事っぽいことをケンタは邁進する。

問題の犬は飼い犬であることが判明し、あの日はリードが外れて、その犬のシッポを弥白が踏んでしまった。
そこでケンタは、まず騒動が起きる一週間後までに自分に懐かせようとするが、その犬はオスであった。
ケンタは女性を愛し、女性に愛される男だが、男(やオス)には好かれないことを承知している。

その事実を目の当たりにして改めて、その中で弥白だけは自分を好いてくれた事実に思い当たる。
ケンタの中で唯一、自分を好きでいてくれる男、それが弥白なのだ。

犬を手懐けることを諦めたケンタだが、代わりに飼い主の高齢女性と仲良くなり、
首輪やリードを新しくし、あの日の状況の再現を物理的に阻止する。

だが、世界の復元力はすさまじく、当日、犬は外に出ていた。
そんな多少のアクシデントはあったものの、ケンタの努力の甲斐あって元いた世界とは違う世界線に移動できた。


こからがケンタにとって未知の世界が始まる。
ケンタを好きだという思いを抱えなかった弥白の夏休みは、以前 転校が理由で別れた元カノと会う約束をする。
夏休みを元カノと過ごして、よりが戻っていく弥白。
そして夏休みが終わる頃には、弥白は卒業後、彼女の転校先の近くに住もうとまで決めていた。
ケンタにとって、弥白を好きになる女性は絶対に良い子。
そんな子と普通の幸せを手に入れること、それがケンタが弥白に願うことであったはずだが…。

その世界線で唐突に突きつけられるのは、自分の目の前から弥白が消える現実。
これは事故でも味わった恐怖だろうが、その時は意識は戻らなくても、肉体は近くにいた。
だが、今度は弥白が弥白のまま全部 自分の手の届かないところに行こうとしている。

その思いに突き動かされたケンタは、思わず弥白の服を掴む。
まるで、行かないで、傍にいて、というように。

これまでのケンタは自分は女性に軽薄で、
「弥白に好かれる資格はないし 多分 好きになる資格も(ない)」と考えていた。
最初っから自分の心に蓋をすることで、何も考えないようにしているように見える。

弥白は良心で聖域。

これまでは弥白に関する自分の感情に踏み込まないことで、自分を守ってきた。
だが、今はもう弥白を失うぐらいなら、女性との性交渉もなくていい、とまで思うケンタ。

性衝動とは別種の、相手を深く思う心。
それを確認して、ケンタは元の世界に戻る。

これは神様との事前の了承があったこと。
ケンタが願ったのは「弥白が自分を好きになる前の世界を 夢でいいから体験したい」という内容。
全ては夢であるから、覚めなければならない。

弥白もケンタも、神様に願って人の気持ちを強制的に変えるのではなく、
こうありたい自分、こうあってほしい夢を願うところが、他力本願じゃなくて気持ちいい。


から覚める前にケンタは一つの行動に出る。
それは この世界の弥白への告白。
気付いてしまった恋心を言わずにはいられない。
それは男たちの宿命なのかもしれない。
そして彼らの誠実さでもあろう。

時間的には弥白の告白の約半年前。
まだ半袖で過ごせる季節に、今度はケンタから弥白に告白する。

だが、この世界の弥白は自分を好きにならない。
彼女のために生きると決めている。
だから今度はケンタがフラれる。
そうして、弥白に別れを告げ、元の世界に戻る。

自分を好きにならせるために女性として生きることを願った弥白に対して、
ケンタは、弥白が自分を好きにならないでいる、彼が普通の幸せを獲得する世界を望んだ。

2度の告白では、する側とされる側が入れ替わっており、 その季節は(おおよそ)夏と冬と正反対。
この対称性が良いですね。
どちらの世界でも相手を好きになった男性は告白して フラれてしまう結末は一緒。
でもケンタと違って、弥白はグイグイ迫れば、その内 折れるような気がするけど…(笑)

この夏の日の夢を通して、弥白とケンタの恋愛観や価値観が同じになったと言える。
さて、元の世界に戻ったケンタが弥白に何をつたえるのか、それは『4巻』の話。