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さぶ (新潮文庫)

さぶ (新潮文庫)

小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋をさぶが泣きながら渡っていた。その後を追い、いたわり慰める栄二。江戸下町の経師屋芳古堂に住みこむ同い年の職人、男前で器用な栄二と愚鈍だが誠実なさぶの、辛さを噛みしめ、心を分ちあって生きる純粋でひたむきな愛の行動。やがておとずれる無実の罪という試練に立ち向う中で生れたひと筋の真実と友情を通じて、青年の精神史を描く。


瀬尾まいこさんの『図書館の神様』の作中で出てきて、とても興味を惹かれた1冊。面白かった本の中で、面白い本と紹介されてれば読まないわけにいきません。『図書館の神様』の垣内くんが「主人公は栄二じゃなくてさぶだと思う」と言っていたが、私も途中まで不思議でならなかった。物語は栄二が突如、数多の苦難に襲われて人を信じられなくなるが、その苦難の中で出逢った人や事件を通して精神的に成長するというものだから、やっぱり「さぶ」ではなく「栄二」だ。しかし最後の最後まで読み終えた時に分かった。この小説はやっぱり「さぶ」なのだ、「さぶ」以外ではいけない。あのラストの安堵感と広がっていく幸福感、そしてちょっと間抜けなセリフ。そう、さぶの真っ直ぐな思いこそ物語の中心にあるべきものなのだ。
読んでいて単純に面白かった。栄二が教わる事や学ぶ事にも心を動かされるが、それよりも早く先を知りたい、栄二とさぶの行く末が気になるといった単純な動機の方が強かった。それぐらい怒涛の展開と魅力溢れる人物描写だった。特に栄二が人足寄場に行ってからの展開はとても面白い。人足寄場で栄二が出会った人や事、そして離れてしまったさぶや栄二を思う周囲の人々の行動や心情がいい。どの人物にも、それぞれの考えがあって行動がある。各人がしっかりとした人物だからこそ自然と物語が滑らかに、そして魅力的に動くんだろう。その中でも私は特におのぶが気に入った。苦難に立ち向かう芯の強さの一方で、栄二への届かぬ想いに苦悩する女らしさがいい。終盤の栄二への忠告は改めてハッとさせられた。人との繋がり、近すぎて見えないモノへの感謝。忘れているのは栄二だけではあるまい。そして、構成の上手さにとても感心した。大きな所では栄二が盗みを働いたと人々が思う過去の出来事という伏線、人足寄場で栄二の心を解きほぐす事件や栄二の天性のリーダーシップを感じさせる物語の展開、そしてラストの疑惑と真相。特に最後の展開はミステリを読んでいるような緊張感だった。小さな所では、場面が変わるごとに物語が少し飛ぶ所が面白い。ちょっと時間を早めたり、結論から語る事によって、より一層の興味がわくようになっている。
最近、流行りにのって漫画のような表紙に変わった「さぶ」だけれど、私は以前の雨の降る橋が断然いいと思う。あの最初の場面があって「さぶ」の世界が開けるのですから。しかし表紙が変わって中身まで変わるわけではないので、どんな表紙でも手にとって読んで欲しい、と読了して大満足の私は思うのでした。

さぶ   読了日:2005年07月28日