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目の前に傷ついている男性が居ても、その前に会いたい人がいる。これが愛の証!?

ホットギミック〔小学館文庫〕 (5) (小学館文庫 あH 13)
相原 実貴(あいはら みき)
ホットギミック
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)

お兄ちゃん離れをすることを決意した初(はつみ)。そんなある日、亮輝(リョーキ)は梓(あずさ)の母と以前つきあっていた本当の人物を知ってしまう。初に真実を告げるかどうか悩む亮輝。しかし、初と本当のカレカノになれたばかりで、初を失いたくない亮輝は、なんと…!?話題のご近所ラブゲームは今回も大混戦!?

簡潔完結感想文

  • 社宅内不倫の真相に最初に辿り着いたのは、真相究明に一滴も汗水を垂らしていない男。
  • 妹に恋に落ちた幼き日と似た状況が兄妹の一線を越えさせる。減点のない男が遂に動く。
  • これまで初の被害者だった亮輝が久しぶりに初を傷つける側に回って2人の関係は終焉する。

心地の悪い家庭から家出をする男性3人、の 文庫版5巻。

本書の男性にとって家出をすることは客観的な視点や成長の始まりなのだろうか。
作品に出てきた順番から言うと まず梓(あずさ)が2回家出をしている。(おそらく)中学生の時と高校生の時。1回目の家では母方の実家で人権を奪われたような扱いを受け、母の死で いよいよ居づらくなった梓が家出をして事務所社長と出会った。年上のお姉さんに匿われるのが梓の家出方法で、実父の再婚を受け入れがたい高校生になった梓も社宅内で夫が単身赴任中の妻子だけの家庭に入り浸っていた。2回目の時はヒロインの初(はつみ)が家出の終焉に大きく関わり、彼女のお陰で家庭環境に自分の意思や考えを変えていく少し広い視野を獲得したと言える。梓の場合は2回目の家出から戻ったことで初への気持ちが生まれた訳ではないけれど、最初は復讐相手だった初を もっともっと好きになるキッカケにはなっただろう。

そして次が時系列的には一番最初の家出である凌(しのぐ)。彼は実の親との縁が切れ、初が誕生する前の成田(なりた)家の長男として迎えられる。しかし初が誕生し、凌も成長したことで血の繋がらない親子関係や家庭に疑問を持ったのか、雪の日に家出を決行する。この家出に幼い初がくっついていったことで足手まといになり、すぐに両親によって発見される。そして凌は この時、初から愛情を受けることで自己肯定感を取り戻したと言える。こうして凌は成田家の長男として相応しい言動を心掛けるようになるほど大人になる。そして この時の幼い初の無意識のヒロイン行動が その後15年に亘って凌が「妹」へ持ち続ける特別な感情を生み出す。男性の家出に関わると その男性からの愛情を一身に受けることになるのが初である

ヒロインとは生まれながらの聖女。成長して頭が悪いとか、男たちには関係がない

後に家出をしたのは亮輝(りょうき)。この家出に初は巻き込まれ、半ば駆け落ちのような状態である。亮輝が情けないのは家出が ただの別荘への宿泊でしかないところだ。なんだかんだで箱入り坊ちゃんである亮輝の発想は貧困である。

既に亮輝は初への愛情を自覚して、そして本人的には惜しみない愛を注いでいるつもりだから、変化するのは心情面ではなく身体面。2回目の別荘で遂に性行為を達成したい亮輝はだったけど、自分が初に情報を秘匿していたことと価値観の違いが露わになって またも初は別荘から単独で帰宅する破目になる。ただし前回と同じく今回も凌が車で自宅まで送ってくれる。梓は年齢的な問題で免許を取得できないし、自分の罪のせいで当て馬らしい行動を取れない。別荘に来ると凌の出番である。梓は凌と母親の不倫の調査で結託しているが、対亮輝においても凌とタッグを組んでいて、凌のサポートに回っているように見える。

家出をしたものの初に愛情を与えてもらえず、思い通りに行かない現実に直面した亮輝は精神的に大人になって家庭に折り合いをつけるという前者の2人とは違う行動に出る。それが今の家庭の徹底的な破壊である。亮輝らしい実に子供じみた行動で、物語の後半は彼と一緒になっても決して幸せになることはないと確信するような出来事ばかり起こる。家出をして初に優しく慰められなかったからか、亮輝は幼稚なまま成長しない。

しかも家出を別荘で済ませるように、亮輝は自分が家庭を壊しても自分の身の保証はされると考えている節がある。別に経済的破綻が訪れる訳ではないけれど、両親への絶縁状とも言える行動なのに、彼は自分がエリート街道を歩くことを疑っていないように見える。この辺が他2人の男性と違う甘い部分だ。梓や凌は自分の生き方を自分で決められるだけの職業や労働を選択し お金を稼いでいるのに、亮輝は未だ箱入り息子のまま。他の2人が時間と金銭を費やして辿り着く真相に あっという間に辿り着くのもズルく思えた(身内とはいえ)。

初は亮輝と別れることを選んだものの、戻る余地は残されている。物語の後半は亮輝も初も幾つもの欠点が浮き彫りになるような展開なのが気になる。世間知らずの坊ちゃんと、視野の狭さから自分が悲劇のヒロインだと思い込んでいる女性の物語に見えてしまう。この2人のことを未だに応援している読者はいるのだろうかと心配になる。

凌は初に全く嫌なことをしなかった考えられる最良の相手。これまで ずっと想いを秘めて、蓋をしようとしてきた彼が与えられた最後のチャンス、最後のターンに どのような動きを見せるのか。物語に共感できる部分はないけれど、作品として ずっと面白いことが本書最大の長所だと思う。


輝は家族に対して何の感情を持っていない。家に全く興味がない父親と、息子が完璧であることを望むだけの母親。家庭の温かさを知らないことは俺様ヒーローの誕生条件に当てはまっている。

その亮輝に対して凌は、自分の父親の不倫騒動の真相を追求することで、初の家庭への不信感を拭おうとする。これが「兄」として「妹」に出来る最後の気遣いだとして、凌は初の恋愛は亮輝に託そうとする。この後すぐに亮輝は梓の母親を慕っていたのは自分の父親だということを知る。そして自分の父親が家庭を顧みないのは、自分の愛情が別の女性にあるからだと過去に聞いたことを思い出し、父親に真相を聞き出す。父親は亮輝に愛している女性が梓の母親だと告げる。初の父親は身代わり。亮輝の父の不倫が発覚しないように発見されやすい囮だった。これは両者の間に交わされた契約で梓の父親は知らない。この事実を亮輝は初に告げない。初の恨む対象が自分の父親になって、自分も嫌われることを恐れてだろうか。亮輝は どこまでも利己的な人間だ。

そのまま性行為に及ぼうとするが、初の母親に乗り込まれて中断。亮輝は このまま初との関係に この件を関わらせないようにするが、それを梓が駄目にする。梓は初の父親が不倫に無関係である可能性を教える。初の家族の問題が性行為の障害になることで亮輝は再び不機嫌になる。


一方、亮輝の母親は初の家族の秘密に迫る。社宅に引っ越してきた家族が初の家族と過去に接点があり、長男の凌が養子であることを突き止める。個人情報の漏洩も甚だしいところが、00年代前半との常識のギャップを感じる。息子に完璧を求める亮輝の母親は、養子の件を足掛かりに2人の交際を阻止しようとする。

この事件の直後、初は凌と社宅のエレベーター内に閉じ込められ、お互いに接近しないようにしていた関係性が崩れる。幼い頃、自分が養子であることを気に病んだ凌は家出を決行した。しかし自分の後ろに初がついてきたため、家出は中途半端に終わる。幼い頃からヒロインとしての資質を持っていた初は孤独な凌の魂を救った。凌の家庭に問題があり家を飛び出した経験は梓と似ている。そして2人とも初という聖母に、いるべき場所に戻されたと言える。凌は血が繋がらない関係と知っているから気持ちが抑えられない。そして今回、密室の中で寄り添うことで その距離はゼロになりキスを交わす。行動でしか示されない凌の気持ちは梓によって代弁される。そこで初は本当に兄が自分を愛していることを痛感する。

このキャパオーバーな出来事に亮輝を頼りたいが、親の監視もあり それが出来ない。しかも亮輝の母親が家に乗り込み、凌のことを事情を知らない妹・茜(あかね)がいる前で公にし、それを理由に凌の家庭教師と初との交際を終わらせようとする。それに対して凌は自分は成田(なりた)家と離縁するから家庭問題は消滅すると告げる。初には まるで自分の幸せのために兄が孤独になるように感じられた。実際は凌は妹を愛する自分は家族でいられないと考えてのことだろう。


は兄の大きな愛を感じ、また凌の孤独を痛感する。男性の孤独を救う お仕事をしている初だけど、今回は 御無沙汰になっている亮輝にも会いたい。だから凌に会う前に亮輝に会い、彼に束縛され、その愛が痛くて全ての事情を亮輝に話す。亮輝が人の事情なんて慮るような人間ではないことが分からないところが初の頭の悪さだと思う。

これなら いつも通り、亮輝との約束や連絡を無視して凌の問題を優先する方がマシだ。実際、亮輝は初が自分を置いて凌問題に着手しようとすることに反対する。しかも一人っ子で家族への情が全くない亮輝には初の思考が理解できない。そして今は初が凌から異性として愛されているのを自覚している。だから亮輝は初に自分か凌かの二者択一を迫る。

いくらなんでも初の気持ちが亮輝よりも兄だった凌の方が大きいということはない。けれど初は自分が亮輝と交際することで家庭の秘密を暴露され、家族が苦しんでいる場面に遭遇している。だから凌のところに行って家族を修復したい。それでも自分は凌に会いに行く前に亮輝に会いに来たことで優先度が示されている。そう亮輝に指摘され、彼の言いなりになって家のしがらみから抜け出すために家出を決行する。梓・凌に続いて亮輝の家出である。

亮輝お坊ちゃんは家出も一人で出来ない。3人の中で最下位だと思うんだけど…

は再び亮輝の家の伊豆の別荘に出向く。何だかんだで亮輝は親の所有物に頼るしかないところが情けない。若い2人は頭を抱える問題や明日の予定を無視して性行為に溺れようとする。

亮輝は家出の連絡を母親に入れていたため社宅では騒ぎが起きる。初が凌の家に到着していないことも判明し、凌や梓を巻き込んでの騒動となる。亮輝の母親は相手方を責め立て、それに我慢の限界を迎えた初の母親が橘家に反抗の意を示す。一触即発の場面で亮輝の父親が帰宅。年に数日しか帰らない年に数日が立て続けに起きている。息子から連絡があった父親から2人の居場所が判明し、凌が直行する。性交しようと焦る亮輝に初はシャワーを浴びるなどの万全な準備が欲しいと時間を貰い、そこで兄から何度も連絡が入っていることを知る。更に別荘の机の中から梓の母親と亮輝の父親の写真が見つかり、その写真を見た亮輝から真実が語られる。父親は梓の母親を結婚前から深く愛しており、その女性を一筋に愛した。

初は真相よりも、そのことを亮輝が黙っていたことに不信感を抱く。自分の大事にしている価値観が彼にとって無価値であるかのような行動と、亮輝の父親によって もたらされる多大な悪影響を考え、初は目の前の人を信じられなくなる。その心情を「もう やめときなさいって 神様に言われてるみたいだった」と表現するのは とても嫌。こういう時に神様を持ち出すヒロインを私は好きになれない。逆に思い通りにならない初を「死んじまえ」と言い切る亮輝も嫌いだ。


輝に裏切られて涙を流す初の前に現れるのが、車で伊豆に到着した凌。自宅に戻った初は家族の前で亮輝との交際をしないことを宣言する。気丈に振る舞う初に対して、凌の行動を促すのが梓。これは これまで凌が取ってきたような間接的な愛のように思う。最初に動いた梓は最初に恋をする資格を失った人。しかも今となっては自分の的外れの推理で初を憎しみの対象にしていた恥ずかしい人間である。その黒歴史が梓を当て馬にすら させないようだ。

同じように実家に戻った亮輝は自暴自棄になり、家族を崩壊させる情報を母親に告げる。家族への愛情がないから自分がスッキリするための情報開示を平気で出来るのだろう。亮輝の父親が その情報を素直に認めるのも怖い。ただ一人の人にしか愛情を持てない偏狂な父子である。