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少女漫画と小説の感想ブログです

クライマックスの気配と瑞稀と佐野の隙間風で動き出す、空気を読む当て馬・中津

愛蔵版 花ざかりの君たちへ 9 (花とゆめコミックス)
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第09巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★★(6点)
 

親睦会で派手に衝突した佐野と弟の森。心配する瑞稀だが、さらに佐野の父も現れて一触即発のムードに…!?

簡潔完結感想文

  • 愛蔵版 約350ページ12話の内容は、森は友達・父帰る・父倒れる の実質3話で終わる。
  • 嫉妬深さに定評のある佐野だけど、何度も感情を爆発させ、父によく似た性質が見える。
  • 佐野に冷たくされて瑞稀は不安よな。中津 動きます。佐野株 暴落、中津株ストップ高

流会、何日やっとんねん! の 愛蔵版9巻。

驚くことに この『9巻』は交流会の様子しか描かれない。これまでの学園祭や修学旅行でも ここまでページを割かなかったのに、正式な大会でもない今回の交流会は作品史上最長のイベントになっている。
そして驚くほど退屈。ここまで作品の内容を希釈して連載を続ける意味はあるのか と思うほど、どーでもいいことにページを割いている。作品の質の低下が甚だしい。これまでもエピソードが新しくなる度に、前のエピソードとの重複部分が見られたりしていたが、今回は同一エピソードでの再放送が目に余る。佐野家の問題はデリケートで瑞稀も気軽に首を突っ込めないという葛藤や逡巡を何回 描いているんだよ。

『9巻』の瑞稀は周辺をウロウロして少しずつ家族1人1人から情報を集めている。そんな情報収集の様子の何が楽しいのか。そして佐野は交流会と家族問題、そして中津の台頭という3つのプレッシャーに押し潰されて、瑞稀にまで荒れてしまう。これが続いたことで これまで佐野のファンだった読者も一定数 離れていっただろう。

これは少しは作者が意図的に仕組んだことで、佐野と生まれた距離に中津が入り込み、佐野の余裕のない性格に比べて中津は どんな時でも大らかである という当て馬の地位を上げる最後の機会になっている。中津は自分も部活動に励み、大変な毎日の中、瑞稀を気遣ってくれる。そんな最高の男性を振っても瑞稀は佐野への想いを捨てない。そんな瑞稀の踏み台にまでなってくれる中津は当て馬の鑑(かがみ)である。愛蔵版『9巻』は中津の動きがなかったら本当に虚無。うっかり『9巻』を読み飛ばした人がいても おそらく話が通じるだろう。

残念なのは作者が作品を「三角関係モノ」として ちゃんと成立させなかったことだろう。佐野は愛蔵版『4巻』から ようやく重い腰を上げて動き出したが、中津に関しては『3巻』の告白から特に動いていない。
中津が瑞稀の性別関係なく瑞稀を好きと覚悟を決めたならば、もっともっと瑞稀へのアプローチをして欲しかったけれど、ずっと良い友達のまま恋愛感情を持って触れてこなかった。こんなに長期連載になるのならば、中津からの好意も何度も取り上げて欲しかった。瑞稀が もっともっと早く中津の良さに気づいていれば、男装ヒロインの看板だけでなく三角関係モノとしても名作になったのではないか。中津は『9巻』の救世主であるが、急に動き出した唐突さも感じた。

心が揺らがないまでも、瑞稀が中津の良さに気づくような話が もっと前からあれば…

た佐野も中津も部活に頑張っている姿を見ると、瑞稀が何もやっていないことが悪目立ちしている。序盤にあった俊足設定も忘れ去られ、佐野と一緒に高跳びをしたいという目標も忘却。最初から男装ヒロイン一本で やってきたツケが回ってきたようで、瑞稀の魅力の限界が見えていまい、作品を支え切れていない。作中での成長が感じられず、ここにきて差し入れを持っていく平凡ヒロインみたいな役割をするとは思わなかった。これは作中で「イケメン♂パラダイス」を謳歌していた作者の責任だろう。瑞稀にも早い内から卒業後の進路や、学校生活での目標を用意してあげれば良かった。これでは ただの男の尻を追いかけて男子校に潜り込んだ恋愛脳ヒロインではないか。最初から痛い人間だったけど、作品自体の魅力が減じたことで、その痛さが際立ち始めた。芸能界と一緒でヒロインもチヤホヤされる時期は短い。

『花君』読者の中でも、最初と最後は覚えているけれど途中を覚えていない人は少なくないだろう。だって単純に つまらないんだもの…。


野は交流会に出ている間、授業に出られない。瑞稀は彼のためにノートをきちんと取り、彼の助けになろうとする。
そして放課後は会場となる学校に出向き佐野の応援をする。この期間に瑞稀は更生した森と改めて交流を深め、そしてハートを盗んでいく。お互いに不器用な兄弟が交流できるのは瑞稀という潤滑油あってのこと。

瑞稀はスポーツ記者の烏丸(からすま)から森のコーチが彼ら兄弟の父親であることを知る。瑞稀は佐野に話した方がいいか逡巡するが、佐野は森の跳び方を見て彼が誰からコーチングを受けてるかを一発で見抜く。佐野は記録重視の父親へ反発して家を出ていった部分もあるから、弟が父の方針に巻き込まれることに穏やかでいられなくなる。ただ森は森の考えがあり、兄弟は再び反発してしまう。
佐野は このままでは森の身体に無理をさせ選手として潰れてしまうと考えている。森を守るためにも瑞稀が父子の鎹(かすがい)になる必要があるのだろう。


稀が佐野に どう声をかけていいか悩んでいる際に中津は瑞稀を励ます。学校に顔を出さない佐野の代わりに、中津が瑞稀の学校生活で頼れる存在になっていく。彼も部活動で身体を傷だらけにしながらも瑞稀のことを気遣える愛と器の大きさを持っている。中津は自分の目標通りに成長して瑞稀をドキッとさせるだけの男に成長している。逆に ここにきて瑞稀は部活動や熱中するものがない青春浪費野郎に見えてくる。

佐野に声を掛けられないなら森方面に進むしかない。瑞稀は これまでのゲストキャラのように何かと森と交流があり、そこで森の本心を引き出す。ついでに彼の心を盗んでしまう罪なヒロインとなる。こうして瑞稀のお陰で佐野と森は元に戻るかと思われたが、そこに家族がバラバラになった原因の一つである父親が到来する。


野は森が父親の指導を受けることを認める気持ちになっていたけれど、父親を目の前にすると どうしても反発してしまう。この3人の男性の中では森が父兄それぞれに気を遣う立場になっているのが面白い。
ただ佐野の中では父親への反発心が年月の経過によって和らいでいるのが見受けられる。これは父子の関係の修復の一助になるだろう。佐野が思春期丸出しで父親に反発する限り仲直りは実現しないが、佐野の怒りがピークアウトしているならチャンスはある。

しかし親睦を深めるはずの交流会が佐野の父親の提案で選手同士を競う疑似的な大会へと変貌してしまう。父親が打ち出した方針を聞いて佐野は反発。父親の目の前でジャンプを跳ぶと、父親には佐野の欠点、そして抱える体調不良までもお見通し。それらを指摘されて佐野は また熱くなってしまう。それに加えて佐野は自分のいない学校・寮生活で中津が瑞稀の隣にいる光景を見てメンタル面でも問題を抱える。焦りの余り瑞稀に八つ当たりする自分を反省し、佐野は冷静さを取り戻す。

そんな佐野に差し入れを持っていった会場の高校で佐野父と交流が生まれる。瑞稀のヒロイン性の効力なのか、差し入れの品が佐野父にとっても佐野にとっても思い出の品だったからか、あの佐野父が自分の悩みを突然 話し始める。そこで瑞稀は あっという間に佐野父への印象を変える。愛蔵版『2巻』の性暴力男・蒔田(まきた)の頃から変わらない単純さである。

クライマックスなので部活・恋愛・家族問題と佐野にプレッシャーを畳みかける

が女性にモテることを演出してから、その森が瑞稀に一目置くことで読者の承認欲求を満たす。瑞稀は森から彼視点の家族の話を聞く。森は実母のことを あまり覚えていないというけれど、彼が7歳前後の時に母親は父親の運転する車で事故死している。覚えていないという年齢には無理がある。どうも実母の事故の件は設定が作者の中で固まっていない気がしてならない。そして森は、妻の事故死から変わった父親は長男の家出によって また変わったと見解を述べる。

だから瑞稀は佐野に父親と改めて関わって欲しかったけれど、中津の瑞希への接近も焦燥の理由になっている佐野に また怒鳴られてしまう。昔から佐野は短気で自分ばっかりの人間である本質が見え隠れする。つまり父親と似た者同士なのではないか。

佐野に怒鳴られて落ち込む瑞稀を中津が慰める。そこで中津は瑞稀の佐野への特別な想いを知りながらも自分は瑞稀を想っていることを告げる。当て馬の見せ場だ。しかし瑞稀は どん底の気持ちでも揺るがない。こうして中津は玉砕する。瑞稀は佐野に声を掛けづらく、中津とも距離を置くべき状況になってしまった。
中津は、何も言わなくても何でも見通してくれる萱島(かやしま)に付き合ってもらうことで表面上は回復する。それが彼の強さで優しさなのだ。そういう中津を信じろと萱島は瑞稀に教えてくれる。

佐野は父親の言動の中に自分への気遣いを感じ始める。しかし会話のキッカケを掴めないまま、ある一報が入る…。