
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第08巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
誤解からとはいえ、佐野にキスされそうになった瑞稀。それ以来、些細なことでも佐野を意識してしまう瑞稀はドキドキしっぱなしだが…!?
簡潔完結感想文
- 1/3はクロスオーバーBL作品で作者のファンしか楽しめない。全体的に内容が薄すぎる…。
- 三角関係の決着の前に男同士の友情安全保障が成立。どんな関係も崩壊することはない。
- 兄が1年以上かかったブランクからの復活を弟は あっという間に果たす。その復活の裏には…。
大きな展開の前の準備段階は何も起きない虚無と紙一重、の 愛蔵版8巻。
今回で佐野(さの)の瑞稀(みずき)への想いを確定した愛蔵版『4巻』から ようやく物語が動いた印象を受ける。つまり5・6・7巻は連載継続を目的とした重要性の低い内容だったと言えよう。
しかし『8巻』は冒頭から約1/3がBL。作者の自己満足の臭いで鼻がもげそうだった。「After School」2巻の後半もそうだけど、こういうスピンオフ的な作品は別作品として置いて欲しいものだ。
ただでさえページ数が奪われた上に、『8巻』は全体が物語を動かす準備に使われている。これまでのような舞台を移した新キャラと悪意、瑞稀との交流などのパターン化した展開は一切なく、ずっと寮を含めた学園生活が描かれる。新しい展開に投入したという実感があるものの、その新しい内容が薄味。
佐野と中津(なかつ)の瑞希を巡る三角関係において、いよいよ瑞稀以外の男性2人がライバル関係であることを認め、そして どんな結果になっても男の友情が壊れることはないことを確認している。この友情の安全保障は、三角関係に決着がついても当て馬がヒロインのそばにいるための大事なプロセス。


ただ それを単行本ほぼ1冊分の約150ページもかけて描く意図的な展開の遅さは あまり評価できない。この男の友情の再確認のために、瑞稀は蚊帳の外で何の動きも見られないし、男性2人が恋愛問題でギクシャクしていると分かっているのに、それを自分の問題と微塵も思わない鈍感ヒロイン設定に わざとらしさを感じた。瑞稀は佐野と出会うために海を越えてきたのに、男子校で出会ったため身動きが取れない。新天地で出会う新キャラに対しては積極的に動けるが、学園生活では身動きを封じられていることが舞台が固定されると浮き上がってしまう。ヒロインが動かない物語は面白さが半減してしまう。
どうせなら中津が動くところまで一気に描いてしまえばいいのに、そのカードは大事に手元に残される。長期連載コースに入れることは作家さんにとって この上ない幸運だと思うけれど、長期連載に突入すると作品の質は落ちる。終わりたい時に終わることも出来ず、内容がマンネリ化し、作品の濃度が希釈されていく。これは白泉社作品のジレンマと呼べるものだろう。
それでも今回は三角関係に加えて、ヒーロー・佐野の家庭問題を再度 取り上げることでクライマックスの準備が整っていく。ここまでずっと仕込んでいたネタを作者が どう使い、それが恋愛成就にどう関わっていくのかを見届けたい。
「スペシャル番外編 秘密」…
校医・梅田(うめだ)が長期間 匂わさせている片想いの相手との高校時代の思い出。完全にBL、完全に番外編、完全に自己満足。しかも無駄に病んだ内容。『花君』ブランドで これを読まされる読者の気持ちを作者は考えているのだろうか。調べて見ると作者の過去作とのクロスオーバー作品なのか。だから読者に優しくないと感じたのか。後年の作者はBLを発表しようと思わなかったのだろうか。『花君』の同性愛要素を好んだ読者を引っ張れると思うけど。それともBLは『花君』連鎖時の一時的な熱狂だったのか。同性愛を作中で便利に使う割に、同性愛への差別的表現が見受けられるのが気になる。
瑞稀のわきの甘さを指摘する佐野との言い争いが なぜかキスするしないの話になって、佐野から迫られたことで瑞稀は佐野への対応を見失う。それでも体育の授業中に転んだところを佐野に助けられて、瑞稀は佐野への愛情を再確認する。佐野側が何を考えていたのか梅田に相談するが、梅田は いつものように答えをくれない。これは いよいよ2人の関係性に出口が見えたからだろう。そこには瑞稀の力のみで辿り着かなかればならないことが教師として梅田には見えている。
2人の異変に中津は気付いており、佐野の瑞希に対する感情が気になる。これはジュリアが佐野の真意を確かめようとした時(愛蔵版『3巻』)に似たような構図だろう。その時と同じく、佐野の中で答えが出ているので佐野は中津に正直に瑞稀への好意を口にする。中津は友人と同じ人を好きになったことに衝撃を受け動揺する。瑞稀の佐野への態度が変だったように、今度は中津が普段の態度を見失う。
三角関係と同時進行するのが、高跳びを通じた佐野の家庭問題。そこで久々に神楽坂(かぐらざか)が再登場。ページ数の多い愛蔵版換算でも数巻 キャラや犬を放置する厳しい世界である。
そこで神楽坂から佐野の弟・森(しん)が高跳びに戻り、頭角を現していると教えられる。佐野兄弟は有望視されながらも高校進学前に競技から離れ、それぞれに競技に復帰したということか。復帰してから記録を伸ばすまでは森の方が早いと思われる。佐野のようにトラウマがないからか。最大のライバルは神楽坂ではなく森なのかも??
読者に佐野家の問題を再確認させるためにも佐野が自分語りを始める。佐野は中学進学を気に実家を飛び出し、継母の実家で お世話になった。佐野に それだけ父親への反発心があったのだろう。継母も その実家も佐野を実の子(孫)と扱ってくれ、佐野も ある意味で彼らに甘えている。良い関係なのだろう。父親は再婚を妻の死から どのくらいで決めたかは不明だが、再婚相手の継母は佐野との親子関係が浅い中で よく動いている。
佐野の家庭の背景は、完全に連載が継続してから考案した後付けのものだけど、佐野の性格は こうやって形成されたのだと納得できる内容になっている。これは全寮制の学校という設定が実家と疎遠という背景との親和性が高かったのと、佐野が高跳びから離れたことと父子問題を上手くリンクさせられたからだろう。1話の佐野の頑固で冷淡だった性格の背景として成立している。
中津の異変は周囲に知られるほど あからさまになる。重要なのは中津が気にしているのは瑞稀ではなく佐野との関係。細かいことを言わなくても事情を分かってくれる同室の霊感少年・萱島(かやしま)に心を整理してもらって中津は心を決める。そして佐野も瑞稀が中津の異変のために何か出来ないかと悩んでいるのを見て、瑞稀の心を軽くするために行動を決める。
そんな2人は自分の気持ちを言葉にしなくても分かり合う。それが約2年一緒に過ごしてきた男同士の友情なのだろう。その後に連れ立った戦闘で、改めて中津は心身共に裸を見せる。自分の瑞希への気持ち、佐野への友情、その2つは両立するもので どちらかを選ぶものではない。中津の率直な言葉に照れながらも佐野も同じ心境だと告げる。
こうして恋愛の決着が どうなっても友情は壊れない安全保障が成立した。しかし それは三角関係の崩壊、どちらかに勝敗がつくことを意味している。
瑞稀には男性同士の心の動きが不思議でならない。しかし梅田も指摘している通り、2人の男性が恋の病でギクシャクしていて、その一方の中津は瑞稀のことが好きと告白済みならば、佐野も同様という証明を瑞稀は思い付きもしない。鈍感ヒロインは頭が悪い!


神楽坂のいる高校で、各地から有望選手を招いた親睦会という名の競技会が行われる。参加者は佐野、そして北海道から高校同士の繋がりで森が招かれていた。そして招かれていないのに瑞稀は中津と一緒に会場となる高校に潜入していた。瑞稀たちの潜入は神楽坂、佐野と順々に発覚する。
この会場で佐野は弟と久々に まともに会話を交わし、自分の父親への反発心だけで行動し、森のことを考えていなかったことを5年越しに謝罪する。こうして兄弟仲は修復されたが、2人はライバルで…。
