
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
泉との距離が少しずつ縮まり、ドキドキの瑞稀(みずき)。一方、瑞稀への想いに悩む中津は…!?
簡潔完結感想文
- 佐野に近づく女性、瑞稀の性別バレの危機、人を変えて同じことの繰り返しになりつつある。
- 自分を好きだと言ってくれる女性よりも男性かもしれない瑞稀を選んで、中津が当て馬覚醒。
- 「男子高校生・瑞稀」に彼女がいる設定を持ち出して佐野の反応を待つが、全知の彼は無反応。
20代以上の大人組は ほぼ校医・梅田の人脈、の 愛蔵版3巻。
愛蔵版『3巻』では、佐野(さの)・中津(なかつ)の それぞれに強い瑞稀(みずき)への愛が印象的だった。これは瑞稀の佐野への気持ちを動かせないのなら、相手からの瑞希の恋心を増幅させようという狙いもあるだろう。
佐野は瑞稀が女性だということを第三者に知られないために、自分が瑞稀を好きだと わざと公言して瑞稀と第三者の接触を断とうとする。相手から自分が同性愛者だと思われても瑞稀を守るためなら自分の評価が どうなっても構わないという姿勢が佐野の愛だ。
そして中津は未だに瑞稀が男性だと思っていて、自分の性的指向も含めて悩みの種になっている。自分がストレートな人間であることに しがみつくなら、今回のように自分を好きと言ってくれる女性と交際し、自分の中にある想いに蓋をすればいい。しかし中津は それをしなかった。出来なかったという面もあるけれど、中津は自分が同性を好きという事実を受け入れてでも瑞稀への恋心に正直になった。
瑞稀と佐野は お互いに性別に関する秘密を話す訳にはいかないから、ここで中津を本格的に当て馬と始動させ、読者の好きな三角関係を正式に成立させるのは悪くない構成だ。男性たちの それぞれの愛を感じられるから、物語が少しも進んでいなくても全く気にならない。単行本にすると5巻6巻相当だろうけど、ここまで面白さは維持されている。問題は この後である…。


本格的に連載が始まってから、人を変えただけの同じような内容なのは否めない。それもこれも男装ヒロインという立場を守るための縛りで、その縛りが物語の進展を許さないのだろう。瑞稀の性別の秘密は何度も暴かれそうになるけれど、結局 知られてはいけない人には知られないし、知られていい人には あっさりと知られる。こう何度も同じことが起きると読者も慣れて緊張感がなくなっていく。そろそろ瑞稀が佐野のベッドで寝る「ホームステイ」も見飽きた。それに瑞稀の警戒心の無さというか、男性である自分を利用した佐野へのスキンシップは あざとさ を感じる。
中性的な容姿や あまりヒロインっぽくない言動もあり、中津と同じように読者も瑞稀の性別が どちらであってもいい、ぐらいのフラットな存在として見ている。でも完全に女性として性別を固定すると、それを共学のクラスの中でやったら同性に嫌われるよ、と思うシーンも少なくない。それだけ瑞稀が男子校ライフ、男子生徒の自分に慣れてきた、という解釈にしておこう…。
「イケメン♂パラダイス」(笑)に慣れ切ってしまった瑞稀を正すためか、同性の友人が登場する。葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』は全分量の半分を超えてから同性の友人が登場がしていたけれど、本書も まぁまぁ遅い。ヒロインを「女性」にするのは恋ではなく女同士の友情なのかもしれない。そういえばホスト部は桜蘭高校(おうらんこうこう)で、本書は桜咲学園(おうさかこうこう)なのか。もう一つぐらい実例があれば、舞台となる高校の名前に桜を入れると売れる、という白泉社のジンクスが成立しそうだ。
そして この頃から目立つのが校医の梅田(うめだ)。最初から目立っていたけれど、梅田は世界の入り口として便利な存在だ。すべての道は梅田に通ず、と言いたくなるほど彼の人脈の広さが物語に新展開をもたらしている。バイト編のオーナーは梅田の実姉だったし、『3巻』の甥・難波が初恋の相手と巡り合ったのも梅田。なぜかスポーツ記者まで梅田の知人。そして これからも梅田を通して世界が広がっていく。少女漫画読者が憧れる一味違う大人像を全部 梅田が背負っているような気もする。佐野なんかより何倍も設定が盛られ過ぎた存在と言えよう。
各寮の対抗意識が招いた瑞稀監禁事件は、瑞稀を救出する際に佐野たちが犯人たちに暴力を振るったこともあり、難波(なんば)が喧嘩両成敗で決着する。ただし犯人側には第一寮の九条(くじょう)がペナルティを課して、それが贖罪となる。
勝敗は最終種目である5人が400mを走る2000mリレーに持ち越される。初日に体育祭をやって、3日目の一般客を入れた日に また体育祭の競技をする謎のスケジュールだ。出場予定の中津が怪我をしたので佐野が出場するのかと思ったら、そんな展開もなく この頃は まだあった瑞稀の俊足設定で逆転優勝を手にする。そして瑞稀たちの暮らすがMVPに選ばれる。MVPのPの意味は…。※ネタバレになるかもしれないけれど結果的に瑞稀にとって1回きりとなった学園祭は最高の思い出になる。そして両片想いが正式に成立する。
「スペシャル番外編 きみと私と5月の庭」…
13歳の瑞希は学校生活に悩みを抱え家出して自分の力を証明しようとした。けれど空腹で行き倒れ、そこで祖母と2人で暮らす年上のギルバートに出会う。第一印象は最悪だったけれど、瑞稀の事情を上手く隠して家に置いてくれるギルと同じ時間を過ごす内に2人の心は通い合う。
話としてはベタだけど、それぞれに事情を抱える男女が悩みを持ち寄り、新しい一歩を踏み出すまでを上手く切り取っている。瑞稀の初恋はギル。けれど おそらく その直後に日本のローカルテレビで佐野に見惚れるのだから、瑞稀の恋心に疑問符が付く…。
学園祭後、競技に復帰してから数か月が経過した佐野はカンを取り戻し、全国レベルの選手になっていた。瑞稀も佐野が跳ぶところを久しぶりに見学して彼に惚れ直す。高跳びをしている限り2人は安泰だろう。佐野も、恋愛感情はともかく瑞稀が自分の高跳びを好きなことは分かっているから、瑞稀に良いところを見せたくて見学に呼んだのか。佐野も普通の恋する男子である。
本書では定期的に佐野に女性の影が現れて、ヒロインを やきもきさせることで危機感を発生させる。今回は女性スポーツ記者・烏丸 絹子(からすま きぬこ)の影が まとわりつく。彼女は熱烈な佐野ファンで、自分が担当から外されても佐野の復帰を聞いて独自の取材を続行する。佐野の下着の種類を特定しようとするのは ただの変態女である。
瑞稀は烏丸に対抗意識を燃やすが、自分がアメリカで得た佐野の知識が烏丸の記事だったことが判明。佐野マニアNo.1は烏丸なのかもしれない。そんな烏丸から見て、瑞稀の前の佐野は これまで見せたことのない表情を見せる。ヒロイン様が特別で読者も満足する。
そして今度の新キャラは女性なので瑞稀を狙うことはないが、瑞稀は恋心を見透かされ遊ばれる。そこで瑞稀は学園祭で知り合った九条から空手は心も鍛えると聞いて烏丸に動じない自分を作ろうとする。ただ動機も不純だし、継続もしない。作中の瑞稀と空手との向き合い方は好きじゃない。部活とまではいかなくても、週一回 継続しているぐらいの頻度であってほしかった。
いつものように烏丸も瑞稀の性別の秘密を見る寸前まで行く。そこへ烏丸の粘着性を よく知る佐野が登場してギリギリで回避。烏丸が男性だったら蒔田や空手部員への制裁と同じように暴力を振るっていたか。でも人を変えて同じことをやっているだけ。佐野が助けてくれてグッと距離を縮める発言をしているから読者は喜んじゃうんだけど。
それでも執拗な烏丸が退散するキッカケになったのは梅田の存在。彼らは大学時代の顔見知りで烏丸が梅田に苦手意識があるという。梅田の交友範囲は広く、この後も20代の大人キャラは大抵 梅田の知人。一番 夢みたいな設定が乗っかっているのは梅田かもしれない。
そして佐野も烏丸に瑞稀への想いを彼女が聞きたがっていることの答えにする。烏丸は同性同士の恋だと思っているけれど、そう誤解されても佐野は瑞稀を守りたいのだろう。佐野の愛が深い。
佐野よりも恋に悩む男子は中津で、瑞稀を女性だと知らない彼は自分が同性愛者なのではないかと悩み続けている。そんな中津はサッカーの試合、それも中津が考えられないミスをした試合の後に告白された。これは中津にとって人生初の告白。どんな自分であっても本当に好いてくれる女性が自分の彼女になってくれる可能性と、男であっても瑞稀を好きな気持ちを天秤にかける。しかし瑞稀から自分への好意を微塵も感じないため、中津は告白してくれた子と交際を決意する。
相手は中津の芯の部分を好んでくれている。でも彼女の居る幸せを感じられても、自分が彼女のことを好きかと問われれば別。瑞稀が中津の熱を測るために おでこ同士をくっつけた時に中津は自分の本当の心を理解してしまう。瑞稀は色々と隙があるというか罪深いというか…。
だから誠実な中津は彼女に別れを告げる。それは彼女側も予感していたこと。そのぐらい中津は自分の方を向いていなかった。中津もまた罪深い。真っ直ぐな中津は瑞稀に自分の想いを大声で伝え、この恋のスタートラインに立つ。瑞稀が男でも好き。中津の愛は広い。
でも考えてみれば瑞稀は中津の告白に困惑はするけれど、罪悪感が薄い気がする。女性という異分子が男子校に入り込んだことで中津は悩んでいるが、中津に本当のことを言う訳にはいかないにしても、瑞稀は中津に対して もう少し罪の意識を覚えるべきなのではないか。中津にとって性別が問題じゃないから いいのかな。ちょっと瑞稀が厚顔無恥に見える気がした。
「スペシャル番外編 LOVERS NAME」…
本編の学園祭編で瑞稀だけが知ることになった難波の初恋。その決着をつける短編。
14歳の難波が相手の女性と知り合ったのは、叔父である梅田が家庭教師として紹介した時。全ての人脈は梅田に通じる。難波の側から見れば年上のお姉さんへの青い恋なのだけど、19か20歳の相手が14歳の少年に いきなり身体を許すのは どうかと思う。白泉社作品で こんなに性描写があるのも珍しい。主人公カップルじゃないから出来る手法なのだろうか。けれど男女が逆転していたら読者の多くは気持ち悪いと感じるのではないか。
何も分かっていない若い男性に手を出した報いは自分に跳ね返っており、相手の女性は難波の人生を滅茶苦茶にしないためにも自分の痕跡を消す。大学まで退学して消息を絶たないと難波は追ってくる。そして追ってきた難波に自分は抗えないと分かっていたのではないか。
じゃあ、そうまでした難波に自分の結婚を告げに行ったのはなぜか?という疑問が湧く。一回り上の人と結婚するよりも今の少し成長した難波との人生を選ぼうとした、と思われても仕方がない。結婚式を経て難波の初恋が本当に終焉するのは分かるけど、相手の女性も随分とヒロインごっこをしていないか、と思ってしまう。
中津に告白されてから数週間。瑞稀は戸惑うけれど、中津は自然に愛を囁き続けてくれる。それでも中津が進展を望まないから現状維持。彼以外は膠着状態なので、複雑な三角関係が出来上がる。
次の学校イベントは修学旅行。行き先は北海道。ここで佐野の地元が北海道であること、佐野は家族の中で自分だけ中学入学を機に この地にやって来たという背景が用意される。佐野は父親と弟と継母がいる。実母は8歳の時に事故でなくなり、佐野が これまで母親だと言っていた人は継母であった。しかし折角 地元の近くに寄っても彼は帰省しないと言い切る。そこには父親との確執があるらしい。いよいよヒーローの家庭事情が用意される白泉社らしい内容に突入する。
修学旅行を前に新キャラが登場する。それが瑞稀のアメリカ時代の親友・ジュリア。1話1ページ目にも登場していた彼女が日本に留学することになったという。米国からの使者という点で瑞稀の兄と同じポジションで、大体 同じような騒動が起きる。ジュリアは中津にとっての仮想敵。瑞稀を男性だと思っている中津は、ジュリアの親密さに腹立たしさを覚えてしまう。


ジュリアは難波から狙われるが、難波は この修旅編だけ執着を見せ、それ以降は思い出しもしない。てっきりフラグかと思っていたのに何も起きない。作者は どういうつもりで2人の騒動を描いたのだろうか。本当は結ばれる予定だったのだろうか。
ジュリアは瑞稀を先手必勝だと焚き付け、そのアシストをすべく自分が瑞稀のガールフレンドという設定を持ち出し、佐野の反応を見ようとする。既に瑞稀が女性だと知っている佐野からすれば、ジュリアが不思議な設定を持ち出した思われるだけなのだが…。そう思っているから瑞稀に彼女がいるウワサが駆け巡っても佐野は気にしないと反応する。これを聞いた瑞稀は撃沈。佐野は よく分からない設定と思っているけど、瑞稀は脈無しと言われたも同然で落ち込む。2人の気持ちは すれ違う。
