《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

俺の恋路を邪魔する俺は 神輿が倒れて死んじまえ。二度の死を経て本当のライフ始動。

NGライフ 9 (花とゆめコミックス)
草凪 みずほ(くさなぎ みずほ)
NGライフ(エヌジーライフ)
第09巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

芹沢への想いと引き換えに前世の記憶が消えてしまうことに気付いた敬大は、芹沢への想いを封印しようと、ポンペイ最期の日を反芻する。セレナやロレイウス、大切な仲間たちを守れず力尽きたシリクスの記憶を捨てられない敬大。そんな敬大に裕真が「前世を忘れろ」と告げて!?

簡潔完結感想文

  • 敬大の身勝手な よそよそしさ を前にしても「プロ親友」の芹沢は揺るがない。
  • 重大事故で触れられなかった前世に初めて干渉するが、2つの人生の答えは同じ。
  • ヘタレの原因だった2つの記憶は折り合いがつき、意外に責め責めなKちゃん爆誕

死に一生を得ることで、オリジナルライフが始まる、の 最終9巻。

少女漫画のクライマックスと言えばヒーロー側のトラウマや家族問題なのだが、本書における それは前世にあるという点が面白い。トラウマはポンペイ崩壊の一日の敬大(けいだい)の前世での行動、家族問題とは最愛の妻・セレナ。その二つを乗り越えないと敬大に未来はない。

ヒーローのトラウマだったら、ヒロインが介入することによって解決に導くのが常道だが、前世が絡む本書では、誰も過去には手出しが出来ない。その解決策として選ばれたのが敬大の臨死体験である。前世を大切にするあまり、現世、つまり生の執着すら捨てかねない精神状態になった敬大。そこに事故が重なり、敬大の意識は昏睡状態になる。

こうして敬大は自分の前世に意識を飛ばす。事故による昏睡という初めての今回のルートでは、敬大は神の視点を持つ。これまでは敬大は前世の自分を通した記憶と情報しか持ち得なかったが、今回は自分の関与しない問題も見通せ、ポンペイ崩壊という各人の最期を見通すことが出来た。しかも その上、一時的に敬大は過去の自分の中に入り、過去改変も可能な立場を得る。それは何度も願った前世での悔いを消滅させる絶好の機会。そこに干渉できるという特別な時間が、敬大に納得を感じさせることとなる。

また大変 工夫されているなと感心したのは、この前世の敬大とも切り離された視点によって、前世の彼の死の その後まで敬大は見通すことが出来た。そこで見るのは自分や最愛のセレナの死であることには変わりないのだが、それでも敬大が これまで抱えてきた絶望や悔恨が軽減される新たな場面が見られ、彼は自分と前世を結んでいた負の感情から解放されていく。

物語の構造上、最終盤は敬大の独り相撲にならざるを得ない面があり、芹沢(せりざわ)は傷つけられるだけだし、敬大の中で裕真(ゆうま)の前世の地位が下がるとともに裕真自身も物語から出番を奪われた気がする。裕真は最後に敬大を奮い立たせる役目を担っているが、三角関係の一角を担っていた序盤からすると落ち着いた立ち位置でのエンディングとなっている。裕真ファンは どんどん出番の少なる展開に やきもき したのではないか。

でも前世との対称性は美しいと思った。最愛のセレナが現世では最高の親友になって、最高の親友だった芹沢が現世では最愛の人になる。その2つの人生での結末によって3人の関係性は より強固で完璧なものに なったように思う。芹沢を祝福する裕真も見てみたかったかも。全体的に もうちょっと後日談があると読者的には嬉しかったかもしれない。

そういえば独り相撲≒身勝手とも言える終盤の敬大の行動だが、それを悪目立ちさせないのは芹沢のプロ親友としての働きがあるからだろう。もし芹沢が一般的な少女漫画ヒロインだったら、彼に傷つけられたことで深く落ち込み、泣いたりしたのだろうが、芹沢は敬大の前では普通の態度を貫く。彼女が強いから、敬大が人でなしに見えない、という部分は大きいと思う。ホント 芹沢には感謝したまえ。

敬大の事情を分かっているから、けり がつくまでプロ親友を貫く芹沢の強さが際立つ。

の敬大は前世と現世という二重の人生により彼の性格が歪んでしまった。ヘタレとか挙動不審とか敬大が周囲から温かい目で愛される要素は全て前世の記憶があるから。

前世での悔恨から これまで絶対に自分の主導権を自分に握らせなかった敬大だったが、最終的に その割合をグッと自分に高める。こうして人生で初めて敬大は敬大の意思で人生の歩みを進めていく。これが本当の敬大で、多少「様子のおかしいイケメン」という風味は残っているが、意外にも彼は恋愛に積極的な面が見られる。

これまで敬大に散々 振り回されてきた芹沢だが、これからは違う方向で敬大に振り回されるドキドキの日々が始まる予感がする。もしかしたら芹沢は長年、敬大の親友ポジションを演じてきたから彼女は自分が作り上げた役割と実際の役割の乖離に戸惑っているのかもしれない。それは前世と現世の違いに悩んでいた敬大に近いのかもしれない。

ここからは芹沢は敬大の親友ではなく恋人という自分の新しい生き方に順応しなければならない。今は敬大主導の恋愛模様だが、芹沢がペースを掴めば2人の関係性は変わるかもしれない。そういう交際の主導権の変化を考えるのも読後の楽しみだろう。

本来は干渉できない前世への干渉方法や、敬大の心の決着など、込み入りそうで破綻しそうな部分の解決策をシンプルに提示してくれたことが嬉しかった。話の拡張の仕方、畳み方、登場人物の配置など、随所に作者の賢明さが見えたのが嬉しかった。次回作が人気作、大長編となるのも納得で、巧みな構成力が光っていた。はじめまして でしたが、一気に作者を好きになりました。


き続き敬大が視るポンペイ最後の日
前世の敬大はポンペイが崩壊すると言われても、最愛の妻・セレナではなく無辜の罪で囚われている主人の救出に向かった。それが自分の正しい選択だと信じて、彼は前に進む。
それでも道中で自宅の近くを通った際に、セレナと再会し、戻りを待つという彼女を抱擁してから家を出る。この辺は作中の敬大の回想で何回か出てきた。敬大の認識では この約束は守れず、2人の今生の別れとなった場面である。

また敬大は深影(みかげ)が芹沢の前世を殺したと言っていたが、それは事実と少し異なることも分かる。深影の前世への恨みから敬大は認識を歪めていたようだ。それは作中で深影を悪者にしないための方策でもあるのだろう。でも考えてみれば、前世の深影が何をしたとしても、現世とは全く関係がない。前世での罪が現世にも引き継がれてしまうのなら、それは間違っている。ここは切り離されなくてはならないのだが、当の深影自身が自分の罪を引き受けている節がある。

でも朱奈(しゅな)の前世も深影の前世の所業だとして彼を恨み続けている。だから朱奈は前世の記憶を持ち続けていたのだろう。その記憶は前世ではなく深影に愛情を覚えるようになって不必要になっていくことは描かれた通りである。

朱奈、そして芹沢の前世を立て続けに失ってしまう。誰かを救おうとして誰も救えなかった自分への怒りが、彼らの想いを忘れたくないという強烈な意思が、転生先となった敬大の中に強く残った。前世も現世も敬大の中の人は責任感が強すぎる。


大は芹沢への接し方に悩むが、長年 親友役を務めてきた芹沢は このぐらいの試練は平気。しかし敬大は前世を忘れたくないがために芹沢を遠ざけ、そして自分の輪郭すら失い始める。

そんな異常を察した裕真は敬大と2人きりで話す。自分について おおよその予想がついた裕真は麗奈(れいな)を通して前世の情報を話してもらっており、ここで裕真は前世込みの話を初めて敬大と交わす。
そして裕真は現世のセレナとして敬大に前世を忘れることを許可する。だが それが出来ない敬大は裕真に「お前はセレナじゃないだろう!!」と激昂する。それは かなり前からの敬大の認識だろう。もう彼の中で裕真はセレナではない。そして裕真をセレナだと固執し続けることは、現世での裕真との友情を偽物にしてしまう。

どこまでも頑なな敬大に背を向けた裕真が事故に巻き込まれそうになり、敬大は彼を守るために動き、大怪我を負う。


こから敬大は2日も昏睡状態となる。怪我自体は重くないが、彼の意識が帰ることを望んでいないのだろう。なぜなら今の彼は現世への執着や生のエネルギーが足りない。

裕真は事故直前の自分の発言も含めて責任を感じていた。だが見舞いに来た凌(しのぐ)は、大きな事故から裕真を守ったことは敬大の本懐だと考えているようだ。

昏睡状態の中で敬大は、これまでの夢とは違い自分の意識を持ちながら、神のような視点で前世の光景を見る。その視点を通して前世の自分が知り得なかった凌の前世の最期、深影の最期の行動、そして自分と別れた後のセレナの想いを知る。だから敬大は前世の自分にセレナを最優先にしろと叫ぶ。前世での最期の選択が、現世の敬大に重くのしかかっているから敬大は自分の人生を歩めない。

過去の改変が未来の自分に影響するという敬大の強い思いが、前世と彼を一体化させる。ポンペイ最後の日に戻って、敬大は新たな選択肢を与えられたのだ。

敬大がトラウマを根本から除去する千載一遇の機会は、敬大の絶叫によって生まれた。

うして敬大は初めて前世に干渉する力を持つ。「NGチョイス」をした前世からNoを取れる絶好の機会である。しかし目の前に提示されたのは友と主人を助けるか、それともセレナを助けるかの究極の二択。
岐路に立った敬大は悩んだ末、前世の自分の選択を尊重する。彼の身体の中に入って、敬大は前世の自分と今の自分が違うことをハッキリと理解したようだ。前世の自分の決断を今の自分が変更するべきではない。

敬大本人はセレナに会わない代わりに、出会ったセレナの友達である少女に彼女のそばにいてくれと セレナの孤独を救う道を模索する。そして その少女こそ麗奈の前世。彼女もまた前世関係者だったのである。この事実が麗奈に伝わったという描写は本編にはないが、これは伝えた方がいいことなのか、それとも麗奈もまた自分の人生を進んでいるから前世は知りたくないのだろうか。

前世の自分と同じ選択だけして、敬大は身体から出る。結局 同じことが繰り返されるが敬大自身が意を決したことは非常に大きな意味を持つ。

更に前世の自分の死後の、彼が絶対に知り得ない場面に敬大は遭遇する。前世の肉体から離れたのは、彼の死も意味していたのだろう。こうして主観から再び神の視点へと戻る。

そして判明した事実は、セレナが少女に導かれて敬大の前世と再び巡り合えていたということ。彼女が再会したのは呼吸の止まった夫だったが、セレナは敬大や芹沢の前世、そして麗奈の前世と一緒で決して孤独な死を迎えたわけではなかった。この場面を敬大と一緒に、霊体となった前世の彼も見て、2人は抱えていた後悔や自責の念から解放される。

そして今の敬大の心配である前世の記憶は、必要とするなら消えることはないと教えられる。


うして過去のトラウマや不安が除去されて敬大は目を覚ます。その目覚めは冴木敬大としての初めての目覚めで、その時 ベッドサイドには芹沢がいた。トラウマの解消は恋愛の解禁の合図。だから敬大は芹沢に想いを伝える。しかし想いを伝えたはずなのに、彼女は敬大を避ける。

やがて始まる学園の創立祭には凌や深影も参加。敬大は深影の前世での行動を改めて知り、彼への恨みを持たない。だが深影は前世での後悔を抱えながら生きるようだ。そうすることが深影の罰なのだろう。そういう生き方もあることを誰も否定できない。
敬大は凌に、自分の前世を忘れてはいないが、距離が生まれたことを告白する。凌は裕真と芹沢の笑顔があれば それでいいと敬大が前世と乖離していくことを責めない。これで相手に抱く恨みや憎しみは綺麗に除去されたのだろう。

そうして記憶が整理され、敬大は裕真に初めて芹沢への好意を胸を張って報告する。敬大が芹沢を意識し始めたのは裕真が現れてから。セレナという最愛の人が降臨して、比較対象が出来てから敬大は芹沢への気持ちの輪郭を明確にしていった。

ようやく芹沢と向き合う勇気を持った敬大は、彼女を追い続け、そして自分と前世が違う人間である という当たり前の結論を出したことを伝える。セレナに惹かれるのは前世、でも今の自分が惹かれるのは芹沢だと、彼女に伝える。芹沢が恥ずかしさで委縮していても、今の敬大はグイグイと迫る。これが前世に引っ張られない敬大の本当の性格らしい。

創立祭は桜の季節の頃に行われ、それはアーモンドの花が咲き乱れるポンペイの光景に よく似ていた。敬大の人生は、前世の仲間に囲まれながら、新しい日々が始まっていく…。

「番外編~ガーネットが見る夢~」…
男嫌いの凌の前世(女性)の唯一の例外が敬大の前世だった という最終回の何回か前に公表された衝撃の事実。
前世でも現世でも川に飛び込むことに躊躇のない敬大。この後に風邪を引かなければいいが。その前に相手のツンデレに巻き込まれて殴り殺されてしまうか…。

「番外編~終わりの記憶~」…
前世の深影が朱奈に惹かれるまでを描く。最期に どうして深影が あのような行動を取ったのかという動機の解明の一助になる話。

「番外編~Nice Goingライフ~」…
両想いになったけど、交際はしているか していないか微妙な時期の敬大と芹沢を描く。友達の期間が長かったから変化についていけない芹沢。特に敬大のように人格が安定したとかトラウマを乗り越えたとか劇的な経験がないままの芹沢には、敬大の変わりように瞠目するばかりなのだろう。だから芹沢は学校では今まで通りにして気持ちを安定させたいのかもしれない。