草凪 みずほ(くさなぎ みずほ)
NGライフ(エヌジーライフ)
第07巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
前世と現世の間で今日も敬大は苦悩中! 前世に縛られず結ばれた深影と朱奈。失恋した麗奈を励ます敬大たちだったが、前世組3人の関係も少しずつ変わり始めていて…。そんな中、母・蓮香が家出!? 父親と一緒に探す中、芹沢が片思い中だと偶然聞いてしまった敬大は…!?
簡潔完結感想文
- 自分がどんな状態であれ、敬大が傷ついている人を救うのは前世も現世も同じ。
- 明らかに芹沢に傾き出した敬大の天秤だったけど、彼の想いの先は いつも破滅。
- しっかり好意を抱かせてから世界を崩壊させる。作者こそ最強の敬大イジメっ子。
選ばれし前世関係者は善人化するけど、現世の人なら悪魔もOK、の 7巻。
衝撃のラストと呼ぶのに相応しい事件で終わる『7巻』。普通に考えれば この役目は裕真(ゆうま)なのだが、彼が同じことをすると友情をはじめ敬大(けいだい)のメンタルに多大な影響を与え、人格が崩壊しかねないので、新キャラに任せられたのだろうか。
新キャラとはいうものの物語上は4年以上前から存在していた人。けれど前世関係者ではないというのが重要なのだろう。本書において前世関係者は白泉社特有の「選ばれた人々」。彼らを悪く描くことは読者の心象が良くないので、前世で問題が多かった深影(みかげ)も現世では漂白された状態になっている。逆に言えば現世キャラは、前世キャラに出来ないことを させられる。途中退場したり、いつの間にかに見なくなっても読者の ほとんどは文句を言わないだろう。
ラストの光景は現世におけるポンペイの噴火と同じ衝撃。この光景が「噴火」であることは芹沢(せりざわ)が行ったタロットカード占いに出ている。描かれている3枚のカードの真ん中は「塔」。そして この塔の正位置が意味することに噴火も含まれているらしい。作中では崩壊になっているが、おそらく噴火の方が作中での意味合いは強いだろう。
作者が意地悪なのは、敬大の気持ちが芹沢に傾いていることを丁寧に描きながら、同時に虎視眈々と敬大を不幸にする準備を整えているところだ。
前世でもセレナとの結婚生活を謳歌していた まだ若い頃に敬大は命を落としている。以前に深影が朱奈(しゅな)を2回 死なせたみたいな発言をしていたと思うが(『6巻』)、敬大もまた絶望の中、2回死んだようなものだ。
ただし朱奈が記憶喪失という現世における前世の死を経験した後、朱奈として生きたように、敬大もまた ここから自分の2つの人生を切り離すことになるのではないか。
セレナへの愛、そして悔恨が強すぎて現代の敬大も その気持ちとガッチリと密着してきたが、今回のショック療法で その前世と現世の接着面が少し剥がれていけばいいと思う。
今回の劇薬の投入で、安定していた2人(または裕真も含めた3人)の関係に化学反応が起こるはずだ。それはNGライフと自ら言ってしまう敬大の人生の大きな転換点となる。新キャラのしたことは許されないものだと思うが、クライマックスに向けての働きはGJと言っていいだろう。
冒頭は麗奈(れいな)が失恋に けり をつける回で、敬大は気遣いが空回りしながらも彼女を思いやる。そうして麗奈は敬大の底なしの優しさに触れて、彼を見直す。敬大には初期の2人はもちろん、凌(しのぐ)や深影、そして麗奈に人格を認められる展開が ちゃんと用意されている。前世の主人であるからか朱奈との個人的な絡みと現代の敬大の人柄を彼女が理解するような くだり は まだなかったような気がする。
今回は敬大と芹沢に加えて麗奈もいるからか裕真も遊びに参加する。敬大と裕真の会話が久々のように思える。そのぐらい距離が出来ている。
敬大は川に入ったため熱があるのだが、朱奈と深影が上手くいったことで傷ついた麗奈のために体調不良をおして遊びに興じる。もしかしたら裕真も麗奈のために輪に入ったのかもしれない。ただし敬大が自分の中のセレナを追いかけてくることに裕真は思うところがあるようだ。敬大は底なしに優しい反面、それと同じぐらい人を無自覚に傷つけている悪いヤツである。このNGポイントは物語が終盤に入って変わっていない。
人助けをしてから倒れて敬大の風邪回の始まりである。
保護者である両親が自分たちの都合を優先し見捨てられた敬大を、裕真が見舞いに来てくれる。基本的にギャグ回で見舞いに来たはずの人たちが敬大を苦しめて、死線を彷徨う。その繰り返しが面白い。
その中で敬大は芹沢が見舞いに来てくれないことが気にかかっていた。ようやく父親に足止めされていた芹沢が遅れてきてくれた時、敬大は「会いたかった」と彼女を待ちわびていたことを素直に吐露する。てっきり高熱によって記憶リセットがされて、芹沢だけがドキドキするパターンかと思ったら、発言後 敬大も照れている。この辺から もう敬大の気持ちは固まっている(最初からとも言えるけど)。
続いては敬大の両親の話。母親が家出をして敬大と父親が捜索するという内容。2人とも前世の関係者ながら世代が違うため登場回数が少なし、基本的に敬大の両親という役割で登場する人たちに、前世関連の話を付与している印象を受けた。
前世での朱奈と深影の関係に続き、両親の関係も勘付いてなかった前世の敬大は恋愛方面に関してポンコツなのかもしれない。そうなると親友だった芹沢の前世の恋心も本当は誰かに向かっていたのではと改めて疑惑が湧く。
今回、敬大の父親と芹沢の両親が顔合わせをして、少女漫画的には婚約成立といった感じか。
父親に前世の記憶はないが、魂に前世が刻まれているように見え、そして父親は その感覚と適切な距離を取っている。最後に敬大は母親と芹沢の会話を聞いてしまい、そこで芹沢が片想い中であることを知る。名前が明かされないからこそ、敬大は それが気になって仕方がない。やはり どんどん敬大の中のセレナ登場回数は減っている。
そんな芹沢との中学時代の出会いを描いたエピソードゼロが始まる。これは芹沢ヒロインルートが ほぼ確定したことで描ける内容なのだろうか。
彼らの出会いは裕真との初対面に似ている。まず魂の色で前世関係者だと分かり、そして性別に驚いている。
この過去回想で現世の新キャラが登場する。それが芹沢の幼なじみ・琴宮 清彦(ことみや きよひこ)。芹沢は何でも琴宮に相談できる間柄で、敬大の情報も彼から聞いている。
客観的には挙動不審で怪しさ満載の敬大だが、芹沢は持ち前の好奇心と魂レベルで安心する敬大と友情を結ぶ。敬大は男性である裕真の中にセレナを見てトキメいていたが、女性である芹沢は男性に思えるからスキンシップが過剰。女性側が勘違いしてしまうパターンである。やがて芹沢は敬大の この世界を見ていないような感覚に気づき、そこに寂しさを覚える。それは他の人も感じていた、自分の背後ばかりを見られる感覚で、敬大に恋をし始めたばかりの芹沢には納得がいかない。
だから芹沢は一度 敬大を遠ざける。これを「敬遠」という(オヤジギャグ)。
しかし敬遠されたぐらいで敬大は諦めない。なぜなら芹沢は この世界で出会えた親友だから。敬大が芹沢が友達に選ぶのは好きだから。その言葉は芹沢を傷つけるが、芹沢を救う。だから彼女は友達として この5年間ずっと敬大の横にいるのだ。
過去回想で登場した琴宮が現在にも登場する。彼は中一の終わりに引っ越したのだが、今回 再び この地に戻って来たのだ。
敬大は再会直後に琴宮のメガネを破壊してしまい、弁償を申し出るも冷静に断られる。元々 疎遠だった琴宮だが、彼との関係は上手くいかないことばかり。割と人たらしな性格の敬大が ここまで拒絶されるのは初めてだ。
しかし その仲違いは彼らの言語の違いによるものだった。そこで翻訳機として登場するのが琴宮の幼なじみの芹沢。彼は言葉で気持ちを伝えるのが苦手なタイプ。むしろ琴宮はスペックの高い敬大に好感を抱いていたことが判明する。
こうして敬大に現世での友達が増えた。けれど琴宮は再会できた幼なじみに以前より強い感情を抱いており…。
「NGライフ 前世編 願いのカケラ」…
本編では敬大と芹沢の中学時代の出会いが描かれていたが、この話では前世における2人の出会いが描かれている。そして2人の出会いがセレナとの結婚への第一歩にもなっている。
感想文では前世での各人の名前を たくさん出すと説明も長くなるからと思って、セレナ以外は現世での名前で統一しているのだけれど、それは単に私が前世の彼らに あまり興味がなかったからかもしれない。現世では新キャラが増える意味が分かるし、そのお陰で世界観に厚みが出たと思うけれど、前世でエピソードが加えられると後付けだと強く感じてしまった。やっぱり個人として前世キャラには思い入れを持てないみたいだ。