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むかつく二人 (幻冬舎文庫)

むかつく二人 (幻冬舎文庫)

大阪万博での初めてのピザ。カラオケでの自意識問題。土が入ったパスタ。オーラの消し方。劇団仲間の葬儀での弔辞。最近見かけない缶入り練乳。五十九歳でも頑張る「ロッキー」。ワープロとパソコンの違い。…映画、舞台、テレビの話題から、カラオケ、グルメに内輪の話まで。硬軟取り混ぜた、縦横無尽な会話のバトルに、笑いが止まらない。


FMラジオ局・J-WAVEで、平日の夜、日付が変わる直前の15分間に、清水ミチコさんと三谷幸喜さんのお二人がお喋りをしているラジオ番組の単行本。さて、この二人が毎日、何について喋っているかというと、答えは「由無し言(事)」である。つまり意味のないお喋り、とりとめもない事。本書はその放送を文字に書き起こしただけの本。よって本書にも意味は無い。けれど、その(絶妙な)無駄話が漏れ聞こえてくる様な感覚が非常に面白い。世間では芸能人・脚本家(または映画監督)として広く認知されているお二人が、普通の人と同じような感覚で無駄話ををしている、公共電波を使ったラジオ番組なのに…、という状況がおかしみを増幅させる。
文字上からでも伝わる、お二人の距離感が心地良かった。プライベートでも交流があるのにお互い立ち入りすぎず、知り過ぎず、まだちょっと手探りに相手の事を知っていく。相手との共通点を見出したり、信じられないぐらいの生活や習慣の違いを発見したりする過程は、私たちもお二人の事を深く知る良い機会となる。そして何と言ってもお二人ともクレバーである点が好ましい。(議論じゃないけど)侃々諤々、丁々発止、とめどなく交わされる会話には胸がすく思い。お二人をキャスティングした時点でこの番組の成功は約束されたも同然。扱いが(心を開かせるのが)難しいであろう三谷幸喜に対して自然なスタンスで会話させている清水ミチコさんの話術・人柄こそ一番に評価されるべきかもしれない。
何でもない事柄、テーマのない会話にこそ、その人の飾らない本質の部分が見えてくる。本来、人には語るほどでもない日常の出来事や過去の経験談、ちょっとしたエピソードに二人のナビゲーターの顔が浮かび上がる。三谷さんに関しては妻である小林聡美さんが好きなので、三谷さんの口からポロッとこぼれる三谷夫婦の日常風景を楽しく読んだ。誰もプライベートは知りたくないでしょ?と三谷氏は言うが、純粋に知りたい人も多いはず。そして清水さんは基本的にツッコミ役ながら、思わぬ箇所が抜けているのが意外な一面だった(野球知識や言葉など)。お二人に共通しているのが昔の話をよく覚えている点。子供の頃のお菓子や遊び、テレビ番組の主題歌や内容などなど、その記憶力に感心させられた。
エピソードとして一番食いついたのは、今や伝説(?)のカラオケ大会。清水・三谷の両氏に加え、平井堅椎名林檎山口智充一青窈SOFFetスキマスイッチクリスタル・ケイ親子(敬称略)が一堂に会すという豪華な顔触れ。中でもお二人が口をそろえて椎名林檎さんのオーラや気配り・人柄の良さを誉めていた箇所を興味深く読んだ。私も偏見からもっと感じの悪い人だと思ってたから(笑)
書名の「むかつく二人」は演劇「おかしな二人」に由来すると思われる。けれど、お二人は特に何に対しても「むかつ」いてはいない。書名だけはイマイチ。

むかつく二人むかつくふたり   読了日:2008年12月13日