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朝霧 (創元推理文庫)

朝霧 (創元推理文庫)

語り手《私》と円紫師匠が登場するシリーズ第5作。 前作『六の宮の姫君』で着手した卒業論文を書き上げ、巣立ちの時を迎えたヒロインは、出版社の編集者として社会人生活のスタートを切る。新たな抒情詩を奏でていく中で、巡りあわせの妙に打たれ暫し呆然とする「私」。その様子に読み手は、従前の物語に織り込まれてきた糸の緊密さに陶然とする自分自身を見る想いがするだろう。幕切れの寥亮たる余韻は次作への橋を懸けずにはいない。


円紫さんと「私」の現時点(05年01月)での出版されている最新の作品。けれど読んでいると最終巻なんじゃないか、と思うぐらいに時が経ち、変化がある。「私」は大学を卒業・就職したら一足飛びに20代の中盤になってしまった。「私」の姉は結婚し子供を産んだ。「私」も叔母さんである。特に思うのが、円紫さんの本の出版である。学生だった「私」が円紫さんと二人三脚で仕事をする。これはシリーズの一つの到達点ではないか?ファンの私としては是非とも続編希望だけども、恋愛によって骨抜きになる「私」は見たいくないかも。一気に母になるのはいいな。

  • 「山眠る」…町の書店で春本を買い占める男。彼は「私」の幼稚園時代の同級生の父親。しかも学校の校長を務め、俳句雑誌の重鎮でもある。何が彼をそうさせたのか?そういえば、西澤保彦さんの「解体諸因」にも春本(奇麗な言い方だ)を買い漁るという短篇がありましたね。前作の流れを汲んでいるので再び文学寄りのミステリです。俳句の事は全く分からなかった…感性か知識の問題だろうか。老いについての障子の例が悲しかった。頭でっかちであった「私」が、学生生活の最後に人を救うために知識を使ったのが印象的。ちなみに箱根に訪れた際の服は「空飛ぶ馬」で父に買ってもらった物である。温かな気配りが北村さんである。
  • 「走り来るもの」…仕事の関係で知り合った女性が書いたリドル・ストーリー。結末を書かないで考えさせるのがリドル・ストーリーだが、女性の中でその結末は決まっているという。時が経つ。20代半ばの「私」。実際に本を作り、姪ができた。「山眠る」もあまり幸せとは言えない作品ですが、こちらも悪意が重い。最後の展開で中和されているけれど、人の気持ちと未来を踏みにじる人の闇がそこにはある。
  • 「朝霧」…「私」の祖父が書いた日記に書かれていた漢字が続く暗号。下宿先の娘が祖父に出した問題であるという。遥か昔の謎を孫である「私」は解けるのか。忠臣蔵を話の中心に置きながらも、恋の話である。同僚の結婚式で再会する仮想デートの男性。ここでも話しかけずに「縁があれば」なんて受け身で幸せを待つ「私」が歯痒かったのです。が、そこは北村さん。時空を超えた謎で「私」に未来への一歩を歩ませる。ラストは美しいの一言。円紫さんが謎の答えを教えずに「私」自身に解かせた心配りも粋である。正ちゃん(江美ちゃん)再登場。またもや、お菓子を「縁あれば」と諦める「私」に、自ら「縁」になる正ちゃんの生き様がいい。

朝霧あさぎり   読了日:2000年10月05日