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覆面作家は二人いる (角川文庫)

覆面作家は二人いる (角川文庫)

姓は・覆面、名は・作家。弱冠19歳、天国的美貌の新人推理作家・新妻千秋は大富豪令嬢。若手編集者・岡部を混乱させながら鮮やかに解き明かされる日常世界の謎。誕生! お嬢様名探偵、シリーズ開始。


5年近く経って再読です。いや、面白い。初読時は謎解きの部分にばかり注目していましたが、2回目は「物語」を中心に。大まかなトリックやこのシリーズの結末まで知っているので、最初はこうだったのか、などと思いながら読みました。何と言っても、まず設定が面白い。内弁慶ならぬ外弁慶の2重人格のような覆面作家の新妻千秋。その作家の担当は岡部良介。良介の双子の兄・優介は刑事。この設定の中で起きる会話・誤解・事件がどれも面白いのだ。「眠る覆面作家」の優介と事情を知る良介の会話は何度読んでも笑える。千秋さんもいいが、この兄弟もなかなか抜けていていい味を出している。双子の性格分担がよく描かれていると私は思う。そして元・覆面作家であった北村さんの文章の美しさ。例えば動作を書かなくても、会話で「気分が悪いのか」と書く事によって相手の動作が目に浮かぶ、そんな絶妙の上手さが北村さんにはある。他にも同じ言葉でも1回目は普通の意味だけれど、2回目は絶妙な味わいを出す言葉なども。「ドイツ語で担当のことをリョースケというんだぞ」。いい!これは本の一例なので、是非読んでみて下さい。

  • 覆面作家のクリスマス」…全寮制の女子高で起こった殺人事件。事件現場には本来あるはずの物が無くなっていた。お嬢様が見抜いた真実とは…。北村さんなのに1回目から殺人事件です。まだ登場人物に慣れていないので色々な事が突飛に思えますが、再読すると1回目でもう世界が出来上がってると思う。千秋さんの内側に潜む激しい感情が見られる作品。良介、早くも千秋さんにゾッコン!?
  • 「眠る覆面作家」…兄・優介が捜査に加わった誘拐事件。身代金の少なさ・引渡し場所に現れた女の奇妙な発言が事件を不可解なものにしていく…。上の文章にも書きましたが設定が活きている話。誤解の上乗せがとても面白い。この本の事件の裏にある物事の本質が結構つらい。もがいている人たちの叫びが聞こえてくるようだ。良介はいい奴だと初めて思った回。目白と鶯の話だけでも、いい話だ。
  • 覆面作家は二人いる」…万引きの絶えないデパートの売り場で鳴った警報装置。しかし出ていった客は万引きをしていないと実証されて…。良介の先輩・左近先輩絡みの話と、もう1つの疑惑。なるほど、だから「二人いる」なのか。千秋さん初めて岡部家へ。そして歌う。彼女の全てを知ろうとする良介(ストーカー気質あり)。兄・優介との恋の鞘当てもちょっと見てみたい。ピアノ・水槽と回ごとに現れては無くなる物たち。ちょっと甘すぎるけど良介ってツボを押さえる男である。

覆面作家は二人いるふくめんさっかはふたりいる   読了日:2000年08月中旬