- 作者: 村山由佳,村上龍
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1996/06/20
- メディア: 文庫
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そのひとの横顔はあまりにも清洌で、凛としたたたずまいに満ちていた。19歳の予備校生の"僕"は、8歳年上の精神科医にひと目惚れ。高校時代のガールフレンド夏姫に後ろめたい気持はあったが、"僕"の心はもう誰にも止められない。第6回「小説すばる」新人賞受賞作品。みずみずしい感性で描かれた純愛小説として選考委員も絶賛した大型新人のデビュー作。
あらすじにあるように、「みずみずしい感性」が随所に見られる。主人公の19歳の男のがむしゃらさがよく描かれていると思う。けれども、話はベタベタだ。作者が凡庸さに徹した作品らしいですが、話の展開が見えすぎるのはいかなるものか。おかげで早く読めたけどね…。私が一番戸惑ってしまった点は、"僕"と春妃さんの出会いの場面。満員電車で押しつぶされそうな春妃さんを守る"僕"。降りる段になって春妃さんの言うセリフ「A・RI・GA・TO」。これは、寒い寒すぎる! ってか、囁いた言葉がローマ字に変換されるってどういう仕組みだ!? うーん、なんだか独特すぎる、私にはちょっと古過ぎる感性だ(80年代の匂いがする)。これが十数ページ目にきたもんだから、後は冷めた視線になってしまった。しかし変に気取った表現が無く、淀みのない文章は一種の文才なのかも。
あのラストに関しては大嫌いです。確かに凡庸コースの物語を一気に感動の物語に変える力技を使うと見えるゴールはあの作為的で唐突なラストなんでしょう。けど、それでは読者は非日常の中にある、究極で永遠の愛を見てしまうではないか。読みやすい雰囲気の文章が紡ぐ、彼らなりの精一杯な姿に浸っていたはずなのに、それを一瞬で壊された気分。ある意味で(少女漫画や民放ドラマにおいて)凡庸な手段でしか描けなかった所に作者の凡庸さが出てしまった。