《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

序盤で女性から お金を巻き上げてた男性が、最後は1人の女性に お金を返済していく物語…?

永田町ストロベリィ 5 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
酒井 まゆ(さかい まゆ)
永田町ストロベリィ(ながたちょう )
第05巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

父が総理の妃芽とクラスメイトの夏野は、スキャンダルを乗りこえ今はいいカンジ。そんななか、入院中の夏野のお母さんの容態が急変!? ついに感動の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 最後までヒーロー以外にモテない珍しいヒロイン。派手な設定だが一途な愛が貫かれる。
  • 互いの親の設定をフル活用してクライマックス演出。金銭的な問題の解決法に不満が残る。
  • 読切短編の1つ、ヘタレ男性主人公の話を長編化できてたら時代を先取りしたかも。2D俺!

年ぶりの頼みごとで 父から5千万(推定)を融資してもらう、浮世離れの 最終5巻。

これまで書いてきた通り、本書には男性ライバルがいない。
これは三角関係や当て馬を利用して物語を盛り上げることの多い少女漫画において、非常に特殊なことで その点を高く評価している。イケメン男性は次々に登場するが、彼らはヒロイン・妃芽(ひめ)とヒーロー・夏野(なつの)の関係を深めるためだけ使われ、ヒロインが あらゆる男性からモテることで読者の承認欲求を満たそうとはしない。
…が、最終巻において、その制約があるからこそ起きる問題が発生した。それがクライマックスの欠如である。例えば最終盤で いよいよ秘書山こと秘書の広山(ひろやま)が、最初で最後の男性ライバルとなれば、同時に最高の男性ライバルとなって、妃芽を巡って争い、その戦いの末に2人の絆が一層 強くなれば話は綺麗に終わっただろう。だが徹頭徹尾 妃芽は夏野しか見ておらず、それ故 三角関係を成立させることすら出来ない。
そこで作者は やや唐突な展開を用意する。それがカップル双方の親の設定の最大限の活用であった。それによって総理の娘である妃芽が、家族、特に父親と和解する場面となり、あれほど嫌がっていた総理の娘という立場を妃芽が受け入れるキッカケとなる、という話の流れは分かる。
だが ここで金銭的な問題を出してきたことで、物語からカタルシスが消失したように思う。私が感じた問題点は2つ。
1つは妃芽が結局、お金持ちの お嬢さんになってしまったこと。設定を最大限に活かしたと言えなくもないが、家族の愛の欠落を お金で補填しているように見えてしまった。色々とヒューマニズムに訴える内容にして、どうにか人情噺にしようとする工夫は見える。しかし、冷めた目で見れば、総理の娘の数年ぶりのワガママ=数千万円という甘えた構図が浮かび上がるような気がしてならない。
そして2つ目は夏野の生活態度に疑問が生まれてしまった点。ラストで いきなり急変する入院中の夏野の母の容態。根本的な快癒には手術しかない、という初耳の話にも驚くが、どうやら夏野は それを知っていた模様。ではなぜ彼は、ずっと金の工面をしなかったのだろうか。序盤のホスト業は母の入院費に補填する お金を生むためだったことは分かる。善悪は別にして、彼の動機は理解できるものだ(ただしホスト廃業後、その お金をどうしたのかは描いて欲しかった)。中盤以降、足を洗った夏野だが、将来的に手術費用が必要なことが分かっているなら、それと同時にバイトを始めなければならなかった。しかし本書では そんな様子もなく、毎日のように妃芽と一緒に下校しているような生活を送っている(と思われる)。最後にどうしても夏野では用意できない金額が必要になるのならば、そこまでに夏野が最大限 努力する様子を描かなければならなかったのではないか。そうではないから、夏野が高校を辞めると宣言すること=『1巻』で「オレ毎日 妃芽に会いに学校に来るよ」という約束が守れない、という彼らの悲痛な別れの危機が中途半端になってしまった。そこがとても残念。
最終的に、序盤で女性からお金を巻き上げていたヒーローが、最後には女性にお金を貸してもらい、その返済をしていく因果応報の話のようにも見えなくはないが…。

確かに夏野の母は数年前に認可された薬を飲んでも入院生活が続いていたが、手術(&費用)の話は唐突すぎる。

語は、妃芽・夏野 双方の親を巻き込んだ話へと進んでいく。
妃芽を庇って秘書山は全治1か月の怪我で、当分は安静にするため入院。秘書山が自分が好きでも秘書山の気持ちには応えられないよ、という妃芽は面会を躊躇う。が、本書においてヒロインはモテないので、それは壮大な勘違いに終わる。
秘書山が妃芽に尽くすのは、妃芽の母親に彼女を見守るよう頼まれたからだった。
これまで妃芽の母親は一切登場してこなかったが死別しており、どうやら妃芽は誕生日も祝ってもらえなかった両親に思う所があり、中でも亡くなった母親には複雑な気持ちがあるらしい。多忙を理由に会話すらした覚えがない妃芽は、母が自分を慮るようなことを言うのが信じることが出来なかった。
そんな風に考える妃芽を、正しく導いてくれるのは夏野。秘書山が今も その約束を守ろうとするぐらい、妃芽の母の願いは切実だったはず、と推測を述べて妃芽の心を落ち着ける。

そんな時に、秘書山と同じ病院に入院中の夏野の母の容態が悪化してしまう。医師 曰く、どうやら「昔から言ってた通り お母さんの病気は手術しないと根本的には治らない」らしい。過去に妃芽の父・一ノ瀬(いちのせ)議員が厚労大臣時代に認可した薬は、症状を最小限に抑えるだけだという。妃芽の寂しさはともかく、夏野側の情報は ここにきて初耳情報ばかり。頭が追いつけないなぁ。
手術の最大の壁は、その費用。どうやら高額なため、夏野には用意できないらしい。上述の通り、夏野が手術に莫大な費用が必要と知っているのなら、母の願いに従って、高校にちゃんと通いながらも空いた時間にバイトをするべきだった。最終巻で わざわざ夏野の株を落とすような展開になってしまったのが残念だ。


ヒーローのピンチに妃芽は動く。最終的にヒロインがヒーローよりも強くなるのは少女漫画あるあるです。彼女が頼るのは父である一ノ瀬首相。もしかしたら秘書山の入院も、彼を遠ざけることで妃芽が単独で父親を頼る、頭を下げるということをさせるための前置きだったのかもしれない。

夏野が必要なのは「郊外だったら一戸建てが買える額」。同席した兄は「一時的な感情=恋愛感情」で そんな莫大な金額を出せないという。そして兄は もう一つ重大な疑惑を口にする。それが夏野が妃芽に近づいた目的が、手術費用を賄えるだけの金が用意できる数少ない人物だから、というもの。これは目的は違えど、妃芽に狡猾に近づいてきた第1のイケメン・滝川(たきがわ)と同じ動機である。兄の言う事はもっともで、夏野に裏の思惑がないという証明は悪魔の証明になってしまう。
窮地に陥る妃芽の味方をするのは秘書山。全面的に妃芽の味方として登場する彼は真のヒーローかもしれない。そして彼は、これまで妃芽を放置してきた一ノ瀬家に対して怒りをもって応じる。秘書山は実家が裕福なので自分が出すと言い出す始末。だが彼は総理に向かって「自分の娘1人 幸せに出来ない人間に この国を幸せに出来るとは思えません」と一ノ瀬家の出資を求める。相手の急所を突いて、自分の施策を通そうとするのは やはり政治家の息子といったところか。(ただ秘書山は5年前に母親が亡くなった時も誰も気にかけてやらなかった、と証言しているが、26歳の彼が21歳前後でも妃芽の傍にいたのか。学生バイトだったのだろうか。やっぱり秘書山と妃芽の距離感が色々と不明だ)。
妃芽が夏野のために動くのは、「もっと一緒にいたかったのに 何もできなかった」という母への後悔を夏野には させたくないから。これもまた自分の悲劇を相手の人情に訴えることで、人を動かそうとしているように見える。ただ、総理も夏野が借りを作ったことで 今まで通りの つきあいが出来なくなる可能性も示唆する。それに対しての妃芽の答えは「変なプライドで お母さん死なすより ずっとマシよ!」。
秘書山もまた過去のイケメン枠たちと同じように妃芽にちっとも恋心を抱かないが、秘書山は、他のイケメンたちと違って2人の仲にピンチを招く役割ではなく、2人を信じる支援者になるという展開は胸が熱くなる。

この一件は久しぶりの親子の対話、そして お互いの理解への第一歩となったか。ただ これまで妃芽が父親の仕事を見直すような流れだったので、ここは政治家としての一ノ瀬の働きを描いて欲しかったなぁ。秘書山による首相=国民全員を救うという変なイメージ戦略で動いたが、結局は お金持ちの娘の場合でも通じる話なんだもの。最後まで夏野と一ノ瀬首相の直接的な対面は一度もありませんでしたね。さすがの夏野も、一国の首相と対面すると子供に見えてしまい、ヒーローの風格が損なわれるからでしょうか。

家族よりも家族だった秘書山。妃芽も阿吽の呼吸で畳みかけるように人情に訴え、数千万円GETだぜ!

3月24日の妃芽の誕生回。
手術は無事成功し、夏野は お金の返済のためかバイトを始めた模様(夏野は一ノ瀬首相に お金を返しているのだろうか)。
この日は、病院で夏野母の見舞いをした後、初めて夏野の家に上がる。そこで夏野は用意していたプレゼントの指輪を妃芽に渡し、自分の手で妃芽の左手の薬指に はめる。「これからも一緒のしるし」だそうだ(こんな物を買ってしまって一体、彼は数千万円(推定)を どうやって返すつもりなのか)。やっぱり金銭面での貸し借りがあると、ハッピーエンドもあまり楽しめなくなりますね。せっかく将来を約束するハッピーエンドの話なのに。

ラストは、2年生になった彼らが、新1年生の入学式を見守る場面で終わる。これは1話から丸1年が経過したことを意味し、そして この1年で色々なことが変わったという時間の流れを強く感じる場面となる。
総理の娘と噂され、女子生徒の憧れの的である夏野の彼女という上がったハードルがあっても、もう妃芽は学校から逃げ出したりしない。なぜなら彼女には この1年で得た関係があり、自分を見守ってくれる人々がいることを知っているからである。


「ぼくは魔法が使えない」…
三浦 直希(みうら なおき)は高校生作家。ファンタジー小説は書けるが、好きな人には近づけない。そして その女性が彼氏からDVを受けていると分かっても、自分の足は動かない…。
彼の小説(ラノベ?)内での俺TUEEEに対して、現実では自分の脆弱性を感じるという対称性が良いですね。
ボコボコになっても立ち上がり続けて、嫌がらせに勝つのは 那波マオさん『3D彼女』っぽいですね(『3D彼女』は この短編の6年後に連載開始なので順序が変な感想ですが)。
この短編を上手く膨らませることが出来たら「りぼん」の中で異色作となり、結構 話題になったのではないだろうか。

「ベイビー、フェイク*ファー」…
密かに好きな堅物な男友達・安倍と出掛けたいがためにヒロイン・みる は、嘘の理由をこしらえて彼と一緒にいようとするが…。
冒頭から嘘を重ねるのが良いですね。
ただ、自分の嘘の罪悪感に圧し潰されそうになり、更には自分の浮かれ気分に現実が水を差したからといって、逃げ出したり泣き出したりする彼女は、ちょっとヒロインに酔っている気がしてならない。
また、前の短編もそうだったが、伏線があまりない中で いきなり両想いになるのが ご都合主義感があるなぁ。