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淋しい狩人 (新潮文庫)

淋しい狩人 (新潮文庫)

東京下町、荒川土手下にある小さな共同ビルの一階に店を構える田辺書店。店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた古書店だ。しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挾まれていた名刺。父親の遺品の中から出てきた数百冊の同じ本。本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。ブッキッシュな連作短編集。


書店にしろ古書店にしろ、その店舗の利用者が書籍に絡んだ事件に巻き込まれる、という設定は本好き・ミステリ好きの心はくすぐるが不自然さは否めない。しかも本書の場合、人の死が多く関わるから、従業員も並んでいる本も理想の古書店として描かれているはずの田辺書店が不吉な古書店にも思えてくる。
やはり下町の古書店と事件の両立は無理があるのか、物語に不自然さや無骨さが散見される。事件の方もかなり強引な展開のものが多く、ミステリ的な楽しみという点ではいまいち。いっそ「うそつき喇叭」のように、人の死を絡めずに日常的な謎をメインの事件として扱った方が良かったかも。けれども宮部さんらしい味のある人物の描き方や、彼らが繰り広げるテンポの良い会話、そして文章力・描写力は天下一品で何度も「巧い!」と唸ってしまった。あとは口の減らない稔がどうしても私には「サザエさん」のカツオくんとダブってしまい、後半の稔の「春の到来」もカツオくんがあぁぁ…、とこちら側が恥ずかしくなった(苦笑)
余談ですが文庫解説の大森望さんは郊外型古本屋で宮部さんの文庫を収集したらしいけど、そんな事したら田辺書店のような店が閉店の危機に…、と思った。

  • 「六月は名ばかりの月」…六月の花嫁に付き纏う一人の男性。花嫁は彼こそが引き出物に悪戯をし、姉の失踪にも関係していると告発する…。失踪事件と書籍の結び付け方は強引だが、引き出物の書籍の謎は上手い方法だと膝を打った。あと冒頭の宗教本に関する商売はかなりアクドイと思うのだが…。
  • 「黙って逝った」…心臓発作で逝った独り暮らしの父のアパートには自費出版本が300冊並んでいた。しかも作者は殺人事件に巻き込まれていて…。本書は全体的に事件と田辺書店の結びつきが弱い。また事件の動機も身勝手なものが多くて結構、滅入る。ノンフィクション作品の暴力性を描いているのかも。
  • 「詫びない年月」…幽霊が出るという噂の終戦直後から建つ家。その家が遂に改築される際、防空壕跡と中から2体の遺骨が発見され…。ますます古書とは関係が薄く、今回はほぼご近所の謎である。ただし話としては重い。何十年経っても、いや何十年も生き続けてきたからこそ苦しむ事もあるのではないか。
  • 「うそつき喇叭」…田辺書店で万引きをした少年の身体には無数の痣が点在していた。少年が万引きした本に事件の真相がある見たイワさんは…。学校と家庭との関係はいつの世も難しい。今(08年)は親の方が怖いか。誰が犯人にしろ、子供にこんな無言の手段を取らせる事しか出来ない理不尽な暴力の怖さを感じた。
  • 「歪んだ鏡」…平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挾まれていた名刺。その本にいたく感銘した彼女は名刺の人物に会おうと決意するが…。ますます事件だけが異質である。無理矢理、事件にしなくても、とミステリとしては本末転倒な事を考えてしまった。稔の恋愛模様『僕は勉強ができない』みたいである。
  • 「淋しい狩人」…12年前、海で行方不明になった「最後の探偵小説作家」の未完の絶筆『淋しい狩人』。そして今、作中の殺人をなぞるような事件が現実に発生し…。宮部作品というより「新本格」の作家さんっぽい作風だなぁ。考えてみるとフィクションにすがる愚かな犯人像で物語が終わるって少しブラックである。稔の恋愛の行く末といい、現実的な物の見方を示して物語は終幕し、本の夢は覚める。

淋しい狩人さびしいかりゅうど   読了日:2008年05月05日