
優木 なち(ゆうき なち)
僕の家においで Wedding(ぼくのいえにおいで ウェディング)
第12巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
これからもずっと俺の隣で輝いていて 夏休み中に就活の一環としてアパレルのお店でアルバイトを始めた美玲。凄腕の不動産営業として働く真野さんに釣り合う大人の女性になるためにも頑張るけれど…。
簡潔完結感想文
- 美玲のアパレルバイト奮闘記。結果的に合わないことが分かりましたという結論に1巻分を使う。
- 真野が家事をバックアップしても最終的に倒れる美玲。それだと真野は無力・無意味になりません?
- 実社会での失敗とSNS内でのバズり。後者で承認欲求を満たされたのでセンスだけで生きていきます。
結局 ヒーローはヒロインが自滅するのを待つしかないのか、の 12巻。
薄味だ。真野(まの)が最初に炊いた お米ぐらいシャバシャバしている。
1巻を通して作者が描きたいことは分かる。今回のバイトで美玲(みれい)が社会に出たと想定して真野が自分の家庭内の役割を改めて見つめ直しているし、美玲も失敗がありながら自分の将来を模索している。それぞれが奮闘して その結論には ちゃんと達している。けど その描き方が正解なのかは疑わしい。
だから これだけで1巻終わるの!? と読んでいて味気なさが胸に残る。そう思ってしまうのは今回それぞれ奮闘したことが否定的に扱われているからではないか。いつまでもネガティブを発動する美玲にイラッとくるように、『12巻』全体がネガティブな内容に落とし込まれているから徒労感が残る。
まず美玲の将来像が ああいう形になるならばアパレルバイトの描写は こんなに長くなくて良い。そもそも美玲がアパレル店で働くことに違和感があるのに、美玲が実社会に適応できないという結論のために上手くいかなかった実例として延々とアパレル店での悪戦苦闘が描かれるのは作品が後ろ向きすぎる。
どうも作品は人気の安定と長期連載の弊害か1回分のエピソードが無駄に長くなっている。そこの描写いる??と思うところにページを割きすぎている。美玲のバイトの変に具体的なエピソードもそうだし、真野が家事をする描写も長すぎる。もっと無駄を削ったらスッキリとしたシルエットになるだろうに。しかも今回の経験は自分には合わなかったと否定の方向に利用されるから溜息が出る。
そもそも その直前に転職した真野が仕事に打ち込むあまり夫婦にコミュニケーション不全が起きたばかりなのに、今度は美玲が そうなる。作品も美玲も過去のエピソードを教訓としないところが成長の無さに見えてしまう。


真野は不慣れなことにチャレンジする美玲をバックアップしようと奮闘する。それは夫婦の協力、特に夫の家事参加という新しい夫婦像をもたらす。でも結果として真野が どんなにバックアップしても美玲は自分を追い込んでしまい失敗する。これによって美玲が勝手に自滅するだけでなく、真野の頑張りも無駄になったように見えてしまう。真野がヒーローとして機能していないのは少女漫画的に良くない。最後に美玲を精神的にフォローしているけれど、結局 自滅するまで無力になるのは頑張った真野に失礼な気がする。そもそも真野は転職して長時間労働になった という設定が生まれたばかりなのに…??
描きたいのは真野が美玲を夫婦として思い遣ることなのは分かるけれど、美玲のバイト経験と同じように乗り越えた実績ではなく乗り越えられなかったこととして描かれるから悲しみと虚しさが残る。
描きたいことは分かるんだけど、なんで こういう描き方をするんだろう、という思いが湧き、それが作品と呼吸が合わないということなのだろうと思った。
真野の誕生日を祝うための資金を貯めるため、自分に無理なハードルを課す嫌な予感しかしない美玲。
彼女の頑張りを知る真野は美玲が担っていた家事を分業する。これも夫婦の新たな形なのだろうけど『12巻』で ようやく、というのが真野の愚鈍さが出ている。連載1回分のページ数が多いから真野の家事奮闘で とんでもないページ数を消費している。でも彼の原動力は やっぱり性欲…。ちゃんとした仕事と家庭のバランスの話なのに そう見えてしまうのは残念だ。
作品のメリハリのためなのか、あれだけ日常的に実施されていた性行為が特別なものへと再定義されていく。美玲たちは真野の誕生日に性行為を設定するが、そうやって特別な日に設定しようとすると失敗するのが お約束だ。


美玲は在庫を捌(さば)きたい店側に要望に応える販売員・接客業の難しさを痛感する。それは美玲の目指すデザイナーとも共通するクライアントの要望に沿うことと自分のアイデアを折衷させることに似ているのだけど、美玲も作品も このバイト経験が活かすことはない。
真野の家事同様に美玲の仕事描写もページが多く割かれていて、落ち込んで失敗しての繰り返しが少々長い。具体的と言えば具体的なのだけど、この内容が読みたいんじゃないという思いも湧いてくる。
頑張りすぎて肝心な時に体調不良になる少女漫画ヒロインが描かれる。その落ち込みを真野がフォロー。美玲は中途半端な自分が社会人になれないと落ち込むが、真野は社会に出るだけが生き方じゃないと美玲に専業主婦という仕事を提案する。デザイナーも仕事じゃなくて趣味の範囲でやればいい。それに対して美玲は それは真野に甘えることになると自分を律する。ならば真野は美玲の成長を応援し続けると彼女の才能を肯定し、美玲を支える覚悟を示す。
こうして呼吸を合わせた2人は その後、ゆっくりと夫婦の時間を過ごす。キャンプで美玲が作ったハンモックが真野が投稿したSNSでバズって、美玲は自分のセンスが社会に必要とされていることを嬉しく思う。ハンドメイド職人が美玲の目標になる。アパレル業界でのバイトは不慣れなことを痛感した という経験則になった、ということなのか。それを1巻分 読ませられたという徒労感が湧き上がる。
