
優木 なち(ゆうき なち)
僕の家においで(ぼくのいえにおいで)
第01巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
チョー貧乏ネガティブ純情少女×美男子×同居=ドキドキMAX!! ちょー貧乏ネガティブ純情少女の美玲は、人並の高校生活を送るため、アルバイトに励む日々。そんな中、美玲は不注意から、国宝級美男子・真野さんにケガをさせてしまい…!? 女の子のアコガレがいっぱい詰まった、とびっきりのドキドキストーリー第1巻! 【同時収録】おまけまんが 2人で夜のハミガキ
簡潔完結感想文
- 約12年の長期連載で成長したのは画力のみ。無垢 ≒ 幼稚な「りぼんヒロイン」のまま成長できず。
- リアルティ(不動産)の御曹司の金銭面は驚くほどリアリティがない。家柄と顔の良さで世を渡る。
- 彼が国宝級イケメンで生活が保障されているから好きになったのではない、という言い訳に必死。
ケガを負う。そして女子高生を拾う、の 1巻。
もしかして男性の顔面に「国宝級」という言葉を採り入れた最初の少女漫画だろうか。調べるまで私は「国宝級イケメン」という世間の流行語を少女漫画に落とし込んだ安直な作品だと思っていたけれど、雑誌「ViVi」で「国宝級イケメンランキング」が発表されるのは2015年から。けれど本書は2013年の1月号(実質2012年末)でヒーローの優れた容姿に「国宝級」という冠を用いていた。「国宝級イケメン」という複合語は「ViVi」の専売特許かもしれないが、少女漫画で最初に採用したのは本書かもしれない。
でもヒロインの美玲(みれい)は性格的に男性の容姿を「国宝級」と評したりしないんじゃないか という疑問が本書のチグハグなところ。男性の顔を容姿で判断した上にランク付けするような言葉を用いることでヒロインにはルッキズムが発動していると判明する。国宝指定は美玲個人の見解という逃げ道もあったはずだけど、女性キャラは全員ヒーローをイケメンだと認定する。
また問題なのは「国宝級」のヒーローが序盤は それほどイケメンに見えないこと。むしろ目が離れすぎていて顔面の両端にあって魚顔というより宇宙人感がある。後々 画力が向上することによって誰が見ても「国宝級美男子」になるが、当初は少々癖のある顔をしている。


見た目から入るのはヒーローの真野(まの)の方も同じで彼は美玲を一目見て気に入って、どうにか彼女との関わりを持とうとする。それは ただのナンパの手口なんだけど、幼く自己評価が低い美玲には相手の大らかな優しさに見える。国宝級イケメンが自分に優しいことを美玲は奇跡に思っているけれど、読み方によっては19歳の大学生が15歳の中学生(4月1日から高校生)の経済的困窮を知って施すことで彼女をグルーミングしているように見える。掲載誌「りぼん」の読者層からは大学生は大人に見えるかもしれないが、大人だからこそロリコンの仮面を上手に隠して自分を慕うように手懐けるのは造作もないことだろう。
少女漫画の「同居モノ」は偶然が重なったりトラブルに見舞われたりする強制力が働くことで成立することが多いが、本書の場合は完全に真野の善意(下心とも言う)での同居開始。主導権が真野にあるのもロリコン犯罪にしか見えない欠点だろう。
そして結局、男女とも最初に見た目を好きになった という つまらない愛の始まりに見えて、それを後半や続編で いくら運命的にドラマティックに変換しようとしても遅きに失した感がある。
ヒーロー・真野の最大にして唯一の長所は自分に見合う容姿や経済レベルを気にしないことだろう。住む家すらない美玲は自然体でいれば それで好かれる一方、真野は小綺麗な格好をして豊かな暮らしをしている。互いに相手に何かを要求したりしない美しい関係性なのだけど、絶対的に美玲の方が得をしている。分かりやすいシンデレラストーリーは女性に都合の良い物語でしかない。
逆に美玲は貧乏に支配された心の貧しさを感じる。心無いイジメ・イジリによって度を越したネガティブになった というキャラ付けは分かるけれど、美玲自身が貧乏を悪と考えているように見えてしまう。貧乏は不潔、裕福は清潔という世界の見方は歪んでいて、美玲は広い部屋に住む真野の世界を色眼鏡で見ている気がしてならない。結局 上述の通り、真野の見た目が良く憧れていた部屋に住む人だから好意を寄せているように見える。作品は無自覚なシンデレラが王子に本人が気づかない魅力を認められる、という構図を描きたいのだろう。けれど作品が提示しているのは、結局 女性は男性の地位と財産を、男性は女性の美貌と若さを求める生き物、という本音を助長するような内容に思えてしまった。
本書は主に「りぼん」に掲載されていた高校生編にあたる全10巻の「無印」と、「Cookie」で連載した結婚生活編の全15巻の「Wedding」からなる作品。まぁ続編の「Wedding」が酷い。私の評価は「無印」が10点中5点だとしたら「Wedding」は3点。総合して4点にしている。当初から その気配はあったけれど、ヒロイン・美玲とヒーローの真野の前に次々 新キャラが現れて そして去っていくだけ。少年漫画のバトル作品における戦う理由のない戦いと成長の無い物語の連続と同様に その場限りの物語が続く。
「りぼん」時代は まだ低年齢読者が憧れる要素が見られるが、読者の年齢がヒロインと同じ もしくは年下になった「Cookie」時代のヒロインは悪い意味で不変で、年齢による成長がない。こんなに長い間 描かせてもらってヒロインの成長を描けないことに幻滅した。特に「Wedding」は物語最初のトラブルと最後のトラブルで同じ失敗を繰り返しており、誰も作中で成長しなかったのだと読んでいて虚無感に襲われた。本書は読者を増やすことはなく減らす一方だったのではと脱落者の多さが簡単に想像できる内容だ。
やっぱり結婚は少女漫画の終戦宣言でなくてはならない。本当に気持ちが揺らがせたりするようなヒロインを汚す覚悟もないのに表面上のトラブルだけを繰り返すことに辟易とするばかり。幸せな物語なんて「めでたし めでたし」という言葉で割愛されるべきなのだ。
この結婚後の徒労感と既視感は 上田美和さん『Oh!myダーリン』だと思い当たる。あちらが平成初期の賛否両論の結婚生活なら、本書は令和初期のそれだろう。
作者は本書の連載中に画力を格段に上げたが、物語の作り方とか描き方が成長しなかったように思う。ヒロインの美玲が人として成長する大事な5年間に ちゃんと成長させてもらえなくて不憫だ。元々が幼く描かれていたからこそ成長の余地があったのに それを描けないままライバル襲来物語に終始する。全25巻もあって お互い以外の人間関係が全く構築できないって どういうことなんだ…。ヒーロー・真野も中途半端な お坊ちゃんのまま終わる。誰の成長も描けていないから、物語を見届けたという達成感がない。
そして作品の継続と共に登場キャラが増えていくけど、主役を含めて誰も好きになれないのも本書の欠点だろう。男女ライバルたちは主役の地位を守るために欠点や愚行が用意されているし、大切に守りたい主役たちも上述の通り成長しないまま。探偵が賢いのではなくて、周りの知性に著しく問題のあるミステリのような状況になってしまっている。全員 中途半端に良い人 or 悪い人に描いていて煮え切らない。
作品もキャラクタも全体的に ちょっとずつ気持ちが悪くて、作品が長くなるほど それが積み重なっていく感覚があった。これはもう私と作品の波長のようなものだろう。それが合わなかった。
高校入学を控えた15歳の春休み、帰山 美玲(きやま みれい)は新聞配達に勤しんでいた。中学時代 貧乏キャラで嘲笑されていた美玲は、自分のバイト代で人並みの学校生活を送りたい。それにしても美玲は特例として中学生でバイトしているということなのか…?(その割に中学生時代にずっとバイトしておらず今回が初給料)。貧乏キャラでイジられ続けていたため美玲は著しく自己評価が低い。だから自分の美しさに気づかない。


しかしバイト帰りに赤信号なのに気づかず直進し、バイクの前に飛び出して、美玲を避けようとした相手が転倒してしまう事故が発生する。人工呼吸を求める相手のヘルメットを取ると そこには「国宝級の男子」がいた。これは美玲の顔を確認してからの相手のナンパの手段。更にナンパは続き、男性は美玲が新聞配達をしていると知ると購読と配達を希望する。夕刊だけという謎の要望は、日中の配達で美玲に会うためだろう。しかも この人の知性や性格的に新聞なんて絶対読まない。
別れ際、相手の男性から名前と住所が書かれたメモを貰う(筆記用具持ってたのかしら…)。名前は真野 典哉(まの ふみや)。なぜ最初から この漢字でフミヤと読めるのか…?
自己評価の低い美玲は真野のナンパに気づかないまま、新聞代 他にしては高すぎる渡された1万円を返すために美玲は真野と接触を試みる。真野の住まいは新築デザイナーズマンション。
当初 真野は自分が怪我を負ったことを隠そうとして美玲との接触を拒否するが すぐに自分から美玲の前に現れる。これは気を遣っているように見えて美玲に罪悪感を与えるためのテクニックに見えてしまう。そして その罪悪感を利用して美玲に料理を お願いする。今度は美玲が靴下に穴があいていることを理由に拒否。美玲の方は優しさよりも体面を気にするのか…。自分が出来ることとして美玲は 持参していた おにぎり を提供。真野の喜びを見て今度は美玲が明日から料理を作ると宣言。真野も それを受け入れる。
しかし いよいよ生活が困窮した両親が母の実家で暮らすと急な引っ越しを伝える。そのことにショックを受け真野との約束を破った美玲。美玲が引っ越しを拒否する理由は真野だけしか描かれない。もっと憧れの高校だったとか別の理由が欲しい。真野と出会った場所で雨に打たれる美玲の前に真野が姿を現した。美玲の現状を知った渡りに船とばかりに真野は部屋が余っていると同居を提案。自己肯定感の低さから提案を拒否する美玲を真野は罪悪感で誘導する。「おととい出会ったばかり」だと言う真野と「十分な時間を過ごさせてもらった」と思う美玲。矛盾した言葉は それぞれの受け取り方の違いなのか。
両親にも治療費や慰謝料の免除と引き換えに娘を差し出すように仕向ける。どこかの物語の悪徳領主が美しい娘を ほしいままにする手口にそっくり で笑えない。その後もバイト先の新聞屋の夫婦も、夫が真野の行動の異常性を指摘しようとしたのを妻が封じて真野の歪んだ価値観が露わになることはない。女性はイケメンを全肯定する浅ましい生き物だということが繰り返し描かれる(笑)
美玲は人並みの生活を望んでいるけれど両親、特に父親に対する恨み言を言ったり思ったりしない。それでいて両親を簡単に切り捨てて真野と生きるのがチグハグに思える。美玲の中の両親のポジションが全く分からない。逆に自分を簡単に他者に預けることをショックに思わないのか。夢の同居よりも強引すぎる展開に呆れる。
真野は約束通り真野は美怜の おにぎり を この日も食べ、彼女を手に入れる(ラップで巻かれたおにぎり の匂いとは…?)。


美玲は めでたく真野の家政婦 兼 奴隷になる。
真野の部屋は父親が経営しているマンションの一室。真野の父は(真野に箔を付ける後付け設定のように出てくる)不動産会社社長という設定なので広義では このマンションも経営しているのかもしれないが、不動産業とマンションの経営は また別だろう。この時は御曹司設定じゃなかったのかもしれない。真野は家賃の半分を出しているらしいが、バイトも そこそこの真野が家賃の半分も稼げているのか謎。リアルティ(不動産)の御曹司の金銭面は驚くほどリアリティがない。
真野は この4月で大学2年生になる19歳。まだ高校にも入学していない美玲には相当 大人に見えるから真野は美玲の全てを肯定的に捉える。一方で真野は時々 美玲は理解しないセクハラしながら同居を楽しむ。こんな真野を「世界一優しい」というのだから無知は怖い、という話なのかもしれない。

美玲は真野の下心に気づかないまま、自分のドキドキを不純だと考える。家政婦としての仕事を優先しようとすることで一線を設けようとするが、真野は家政婦として拾ったわけじゃないと下心を発表する。
しかし無知で鈍感な美玲には伝わらず曲解する。真野は反応が見たくて からかったことを認めながら、美玲に普通の生活を望む。それは これから始まる学校生活も同じ。何の用途で2台 持っているのか不明なケータイの1台を美玲に渡す。グルーミングが成功して美玲は真野への感謝を深める。美玲の性格からして こんなにスカートを短くして履く訳がないのに、変身後の姿として読者にインパクトを与えたかったのか。こういう部分があって作者を信用できない。真野が制服を買い与えたりしないのが せめてものバランス感覚か。
