
最富 キョウスケ(もとみ キョウスケ)
電撃デイジー(でんげきデイジー)
第16巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
アキラをそして大事なものの全てを救うために、命がけで力を尽くす照と黒崎! しかし「Mの遺言」システムがついに発動して…!? 大好評連載ついに完結です。そして完結16巻には、ベツコミ本誌の別冊付録や増刊デラコミに掲載された作品など長短の番外編あわせて4本を収録。
簡潔完結感想文
- 黒崎たちは実質 機関の下請け。後処理のことは下請けが知らなくていい というご都合主義の割愛。
- トラウマを乗り越えたからか照はアキラに恐怖がなくなる。アキラ共々 漂白され過ぎた感がある。
- 連載継続で過去を作ったら奏一郎が神レベルの予言者に昇格。死後でも黒崎を食いかねない存在。
作品に恋した読者は盲目、の 最終16巻。
人は一度 恋をしたら相手のことを全肯定して、自分の熱が短期間で冷めないようにプログラムされていると思う。SNSなどで芸能人の一挙手一投足を褒め続けるのは拡散意図の他に自己暗示の部分もあるだろう。
作品に関しても同じで一度 夢中になった読者は作品を全肯定する。…たとえ おかしい部分があっても。客観的な視点や論理的な思考を奪うのが盲目的な恋の恐ろしさだと思う。
本書で言えば雰囲気を楽しんで細部の粗を無視できるのが少女漫画脳を利用(悪用)してるように思えた。複雑な用語を並べて読者の頭をパンクさせて何も考えなくさせる、そんな詐欺師みたいな手段を使いませんでした?と言いたくなる。緊迫した雰囲気を演出することで煙にまき、実は物語が穴だらけのハリボテであることを上手くスルーしてもらう。そんな魂胆が見えた気がした。
「壮大な物語」の「壮大な部分」に一つも触れずに単純な少女漫画のハッピーエンドだけを描く最終巻。それは都合の悪いことからの逃亡でしかない。
まず第一に言いたいのは たった一人の人間を殺害するための計画「Mの遺言」で、その計画の途中で何人もの人間を暗殺している矛盾。暗殺されたのは高名な教授など殺害リスクが高い人も含んでいるのに、身寄りのいない人間は殺すのに何重の手間を掛ける意味が分からない。そもそも対象であるアキラは深刻な病気を抱えている。痛み止めの注射を打つ振りをして殺害する機会は毎日あったはずだ。
作品がアキラを生存させるルートを作りたくて、そこに照(てる)と黒崎(クロサキ)を関与させたくて遠大で稚拙で回りくどい「Mの遺言」というプログラムを用意したのだろう。同時に読者に対しても「Mの遺言」が奏一郎(そういちろう)の予言の一部になることで、その発動が正しいように思い込ませている。本当は計画自体が作品にとって不必要なものなのに死んだことで神格化した奏一郎が言うなら浮かんだ疑問をなかったことにしよう という恋の盲目システムが発動している気がしてならない。
また最終回後の番外編でアントラが奏一郎の「目」になる状況が生まれ、全てはアントラ(≒奏一郎)が仕組んだことという構図が生まれ、「Mの遺言」は発動されなければいけなかったと思えてしまう。そんなことないのに。未熟で蛇足な展開を神(奏一郎)の言葉で上書きしようとする作品側の狡猾さを私は好きになれない。


『16巻』は本編が1話だけ。島の爆発の後は唐突な最終回だ。そんな事実はないだろうけど、打ち切りのような物語の畳み方である。
事件の処理も雑。雑というより描けないから描かなかったと言っていいだろう。やっぱり本書は少女漫画だから照と黒崎の活躍が描けてハッピーエンドになれば それでいい。事件の後処理なんて作品には関係ないとばかりに機関や大人たちの役割だとバッサリとカットする。
緑川(みどりかわ)教授は黒崎の父親の名誉の回復を願っていた気がするけど、そこに至るまでの関係各所の調整など描く気がないから黒崎の父親は不名誉を被ったまま。風呂敷を大きく広げ過ぎた結果 大事な物も取りこぼす、そんな自業自得で お粗末な結末になってしまった。
都合の悪いことは徹底的に描かない。それがハッピーエンドに水を注さないことなのだろう。気になるのはアキラの「超演算能力」は残ったのか残ってないのか。入院以来 暗号を解いたりしていないから粗暴な気性と共に消失した可能性が高い。
意地の悪い少女漫画読者としてはヒーロー・黒崎よりも高い能力には消えてもらった、と思ってしまう。照のためにアキラは生存させるけど、その生存は作品の意向に沿うことで約束されたか。またアキラが最初で最後の当て馬になることで照のモテモテヒロインの演出にもなっている。アキラは最後の最後で主役たちの引き立て役になっている可哀想な扱いである。
1話分しか時間がないので あれだけ犬猿の仲だった照とアキラの距離感も いきなりゼロになっている。照はトラウマを克服したし、アキラも自暴自棄から脱したのだから自然な流れだけど、その前の照がいい子になり切れない部分にオリジナリティを感じていたので、この単純なヒロイン性の描き方は残念に思う。
ラスボス的アントラも虚無を利用して何も語らないで終わる。そしてアキラと同じように作品にとって便利な部分は都合よく使う。
アントラは自分が認めた人の仕事しかしない。その仕事の途中で暗殺対象だった奏一郎を認め、彼の見られない未来を見届けようとする。それは何事も自分の思い通りに動かせるアントラの、予想外の未来が到来するかどうかの興味でもあった。そして奏一郎の予言通りにアキラは救われ、その ご褒美のように奏一郎から託された「Mの遺言(または約束)」を照の手に渡す。
照や黒崎・理子(りこ)には奏一郎から遺言が届き、アキラには緑川教授の約束が届く。それなら黒崎の父親のメッセージも欲しかった。最後の最後で父親との思い出が危機回避の鍵になっているから それでいいのだろうか。そういえば黒崎の母親は生死不明で謎のまま。
連載を続けながら構築していったのは読者の切なさを増幅させる装置だったように思う。黒崎の過去、奏一郎の死、アキラの不幸、それらを盲目的な読者の心で美談に変換させる。申し訳ないけれど一歩引いた私は何が読者を夢中にさせる部分なのか分からなかった。せめて後処理という落とし前ぐらい丸投げせず ちゃんと自分でつけて欲しかった。
それぞれ自分のトラウマや弱さ・過去と向き合った照と黒崎の働きによってアキラは暴れることなく一緒に帰る道を模索する。「Mの遺言」を止めるプログラムはないが、逆に言えば それ以上の計画はないということ。そして爆発直前の15分間にだけ受け付ける隠しコマンドが用意されていた。それが計画の推進に反対だった亡き責任者のアキラに対する せめてもの温情だった。
コマンド入力後の暗号を解くのは「超演算能力」を持つアキラ。能力を使って疲弊したアキラを黒崎が抱え、照は強制作動させて脱出ルートを進む。黒崎は そこにあった船を作動させることに夢中だったが照はアントラの登場を認め、彼が投げて寄越したUSBメモリを受け取る。アントラは島に残った描写だが彼もまた きっと脱出ルートも確保していることだろう。
それから2か月、平和な日々を過ごす。事件の処理は大人たちの仕事。大々的に報道されることもなくアキラの存在も表沙汰にならない。


そのアキラは蝕んでいたのは脳腫瘍で手術により除去して入院中。研究室は超演算能力の喪失を恐れて実験終了まで手術を後回しにしていた。同じく次にアキラを拉致した組織も腫瘍を放置し対症療法だけしか施さなかった。嘘の診断を教え、アキラは自分の病気が治ることすら知らなかった。時間の経過の分だけ手術は難しくなったが成功して経過も順調。
照はアントラから貰い受けたことを隠してUSBメモリをアキラに渡す。その中身はアキラが求めていた緑川教授との「約束」が入っていた。それはアキラが教授から愛されていた証そのもの。
3年生になって清は生徒会副会長になっていた(どういうタイミングの代替わりなんだ…)。そして黒崎は校務員を辞める噂が流れる。ただし それは照の卒業と同じ頃。物語の先に2人の新しい関係が構築されることが予感される。
「番外編~爪の先編~」…
『9巻』の家出から戻ってきた黒崎が自分とDAISYと照の距離感に悩んでいる頃の話。色々問題があるから別居した2人だけど結局 半同棲状態と言えよう。
「番外編~お正月編~」…
不変の愛かBLか意見が分かれる初夢オチ。
「番外編~Daisy Special Episodeその1~」…
EPISODE 1―――黒崎<憧憬>
黒崎が理子と出会った頃、尖ったナイフだった黒崎は自分に優しい年上の理子に実は惚れていた。でも憧れの奏一郎の恋人だと分かり納得した。そして黒崎の運命の人は別にいた。
過去の回想からの現在の お祭り回に場面が転換。黒崎と似ているアキラは同じように一番親身になってくれた照に惚れたようだ。でも黒崎の恋人である照のことが好きだと思う。最終回後に当て馬が爆誕した。
EPISODE 2―――アントラ<深淵>
『14巻』で奏一郎が「口封じを見逃してしてもらった」と言っているのはアントラとの対面があったからだった。奏一郎はアントラを からっぽの「便利屋」と呼ぶ。仕事を完璧にこなす能力があるアントラが仕事を受けるのは自身が認めた人だけ。
奏一郎は数年後に向けて自分が仕掛けを施したことを自白している。アントラが奏一郎を認めなければ握りつぶされていたのだろう。そしてアントラは奏一郎の予言を見届けるために あの島にいた。アントラが所持していたUSBメモリは奏一郎がアントラに渡していたものだった。顛末を見届けることがアントラが認めた奏一郎からの仕事だったのだろう。
EPISODE 3―――理子<とくべつ>
死を前にして奏一郎は理子に別れを切り出すが、それを理子は全身で拒否する。これが『13巻』の疑似的な再会で言っていた大ゲンカの内容だろうか。そんな理子だから奏一郎は彼女にだけ本音を吐き出す。理想的ではない一人の人間としての奏一郎を理子だけが知っていて、理子は彼の死後に受け取った物を肌身離さず、永遠の愛の証として身につける。
「番外編~Daisy Special Episodeその2~」…
高校3年生の夏休み。照は進路を心理学方面に考えている。
アキラは緑川 秋良(みどりかわ アキラ)という名前でマスターの営む喫茶お花畑を手伝っている。この頃、清と玲奈が交際を始める。
そこへ「Mの遺言」の報告書作成のための現地調査という名の慰安旅行の話が舞い込む。しかし出発当日、玄関前に赤ちゃんを乗せたベビーカーが置かれ、黒崎へのメッセージが残されていた。それでも黒崎は潔白。大人のキスをするけど純潔を守った25歳なのか。
警察が取り合わないという謎の流れで子育て回が始まる。既視感があると思ったら竹田(たけだ)の飼い犬となった薫子(かおるこ)の時だった(『6巻』)。
子育て回の良いところは現時点の年齢で疑似夫婦生活が描けるところだろう。粉末ミルクの作り方とか育児書レベルで詳細に書いてあるけれど読者の将来に役立つ可能性のある知識だからだろうか。黒崎は赤ちゃんを過剰に怖がる。こういう赤ちゃんに こわごわ接するのはアキラの役目かと思っていたけれど疑似夫婦生活なので黒崎の方なのか。2日目にして黒崎は抱くことが出来て3日目に疲労の限界が来る。赤ちゃんの母親は体調不良とテンパった精神状態で黒崎を頼ってしまった。
騒動が終わって南国に行く。そこで黒崎は本当の自分たちの子供の時は最初から戦力になることを誓う。
「へたくそキューピッド」…
本編と全く関係のない作者のデビュー作。弓道部員の松田 澪(まつだ みお)は副部長の相模(サガミ)先輩から徹底指導を受ける。主従関係のような描写が作者は好きで得意なのだろう。澪は失敗を重ね挫け、気づかない内に女性ライバルからのギブアップへの誘導を受けながらも決して折れることはなかった。ヒーロー側も訳ありで それを乗り越えているところに格好良さが宿っている。両片想いの維持も本編と共通している。
