
最富 キョウスケ(もとみ キョウスケ)
電撃デイジー(でんげきデイジー)
第10巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
暗号ウイルス・JF<ジャック・フロスト>を復活させようとしていた組織が壊滅し、JFに関する事件は決着するかと見えていたが、アキラがあらたに黒崎に接近し照を狙うことを匂わせて…!?照の兄・奏一朗と黒崎の若き日の想い出や照の「女」力UP!?エピソードなど、雑誌掲載時話題沸騰の第45話~第49話を収録。
簡潔完結感想文
- 似た者同士だからか黒崎はアキラには照が必要だと直感している。そこが照のポジション。
- アキラらとの第二ラウンドは最終ラウンドの前哨戦。お互いの理解を深めるためにある。
- キスや暴力を撒き散らす恐怖の対象であっても照はきっとアキラを救う。照だけが救える。
若干めんどくさハラハラドキドキな事件のニオイ(作者談)、の 10巻。
『10巻』は再び日常回から新たな事件の導入部といった印象。日常回が やや長いものの作品の基本的な構造は もはや「××殺人事件」が絶え間なく起こるミステリ漫画と同じだろう。作者は色々理由付けを頑張っているけれど黒崎(クロサキ)や照(てる)が関わらなくても いい事件で、本当に行く先々で殺人事件に遭遇する不自然な状況になりつつある。
学校内の事件を解決しているはずが、黒崎は国の意向でアラタに接触したりして もう何が何だか分からない。ハッ もしや一般的な少女漫画作品における修学旅行回とか文化祭回が本書における流血が伴うサイバー犯罪なのだろうか…。イベント → 日常 → イベント という繰り返しの中で愛を育んでいればイベントの形は問わないのが少女漫画の流儀なのかもしれない。


冷めた私の読み方では もう無くても構わない事件なので、作者が頑張って事件を作っているという感想しか浮かばない。本当にトリックを考えるミステリ漫画と同じだ。
全体を通してみると『10巻』は挨拶代わりとなった観覧車事件(『7巻』)から次の豪華客船事件へと続く黒崎とアキラの第二ラウンドの試合前の睨み合いといったところか。
観覧車事件では黒崎のメンタルがバッキバキに折られアキラの思い通りに事が進んでいたけれど、その終盤で照に救済してもらったことで黒崎が復活と成長を見せる。これで精神的な余裕が生まれたため黒崎は対アキラに対して2連勝(ゲーセンとエレベーター)。通算成績で言うと2勝1敗といえる。
そしてアキラという人格を知っていくごとに黒崎は彼の未熟さや幼稚さを感じ取る。それを「精神的に まるっきり子供」と表現しているけれど、そこに黒崎は かつての自分を見たに違いない。だからこそアキラにも照のような絶対に人を見捨てない存在が必要だと直感する。そして照がアキラに暴力・性暴力を振るわれて恐怖を覚えたとしても照はアキラの中に弱さを見つけたら絶対に手を差し伸べると考えている。
黒崎とは違った方向で問題児のアキラのために照が必要なのだろう。アキラの行くところに事件が起こるから照もまた助けるために事件に巻き込まれる。やっぱりハッキリ言って照が事件に関わる必要は薄い。それでも何とか作品は2人を事件に結び付ける。
もしかしたら一番大変なのは事件の考案ではなく、どうやって本来 無関係な民間人を事件に巻き込むかを考えることかもしれない。だから全体的な流れは悪くない。『10巻』で照とアキラの関係性と将来の役割を分からせるのも上手く描けている。でも肝心の事件への興味がない。
そういえば一般的な少女漫画作品に比べて文字量が多いけれど、これは その文字量で事件の深刻さを読者に伝える新たな表現技法なのか。または文字量の多さに慣れていない若い読者の頭をパンクさせ思考力を奪い、実は浅い事件の概要だと気づかせないためなのかもしれない。
アキラと接触してみて黒崎は彼の性格や精神状態を冷静に見極める。そしてアキラたちの組織が黒崎に何をさせたかったのかを理解する。ただ『7巻』の観覧車事件の時はDAISYの正体を知りたがっていたように思うけど、目の前のDAISYという人物が黒崎という名前だと分かっているのだろうか。
この1話は照の考え方や姿勢を描く。照は簡単に脅迫に屈しない強さを持つと同時に目の前の人を助ける優しさを持つ。だから黒崎とのデートの約束を反故にしても事情のある人の面倒を優先する。その姿勢は黒崎が惹かれる長所であり、今度はアキラにまで優しさを発揮するのではという不安材料にもなる。


ヒロインが女友達の口車に乗って失敗する少女漫画あるある の回。更には教師たちが校務員・黒崎と女子生徒・照の仲を疑い黒崎が強く否定する言葉を聞いてしまう。そこに照は黒崎の大人としての線引きを見る。でも同時に照も接近しすぎないように、自分たちの関係性に名前が付かないように注意している。それが2人のルール。少女漫画あるある を駆使して分かりやすい すれ違いと胸キュンをネタにしながら、その先をいく照の成熟した思考を描いている。
黒崎は『7巻』観覧車事件の時に すり替えられた照の携帯電話にデータや仕掛けがないか専門的に調べようとする。それは携帯電話の破損のリスクもあるけれど照は携帯電話という物体への執着を見せない。黒崎を始め今の自分を庇護してくれる人たちこそ兄・奏一郎(そういちろう)が遺してくれたものだと考えていた。
奏一郎の墓参りに行ったこともあり再び黒崎のセンチメンタルが爆発するけれど、前のように罪の意識に呑み込まれることはない。黒崎の思考は その先に行き、自分が救済されたようにアキラもまた救われるべき存在だと黒崎は考えているようだ。
いい気になって饒舌になって失敗した上に黒崎に精神的優位に立たれたアキラは荒れていた。この時にはアキラは黒崎=DAISYだと分かっている。アキラの面倒を見ているチハルの情報によるものか。森はアキラを連れて新しい仕事を始める。
お嬢様の生徒会長・玲奈(れな)が婚約をすることになった。相手は父親の仕事の取引相手の若社長。イケメンセレブの26歳。黒崎のロリコン仲間として召喚されたのか。玲奈は婚約者とデートを重ねているが細かい価値観が違い相手との相性の悪さを感じている。しかし逆に男運がないから自分が食いつかないことが悪い結果にならないのではないかと考えていた。でも何も言い合えない仲は健全ではないと、玲奈に反論する清(きよし)と対等な議論をしている(フラグ)。
照の携帯電話に工作された形跡はなく、逆にカラクリ大好きな安藤(あんどう)により探偵の秘密道具のように様々な機能が施される。その一つとして照の位置情報を黒崎が詳細に把握できるようになる。早速、照とアキラが遭遇する緊急事態が起き、黒崎は照の救出に動く。秘密道具以上に黒崎の身体能力が非現実的になってしまっているけれど…。
照のピンチに頭が血が上った黒崎はアキラに容赦ない。これで精神的と物理的、アキラの連敗である。そのアキラの救出のためチハルが再度2人の前に姿を現す。チハルにとってアキラの奪還は最優先。なんとか黒崎が引き下がる方に条件を提示して この場を収拾する。
アキラは黒崎の敵じゃないが、照にとってのアキラはキス、そして暴力と恐怖の対象になりつつある。自分の非力を噛みしめる照に涙を流させる黒崎。罪の意識との向き合い方を覚えてから黒崎も少しは成長しているらしい。理子(りこ)の黒崎への指導のお陰かもしれないけれど。
