《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

学校内の小悪党への勧善懲悪が いつの間にか 国家規模の話になるバトル漫画的インフレ現象

電撃デイジー(8) (フラワーコミックス)
最富 キョウスケ(もとみ キョウスケ)
電撃デイジー(でんげきデイジー)
第08巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「僕が君のお兄さんを殺したのは本当です」衝撃の事実を残し、照の前から姿を消した黒崎。照は黒崎の苦しみと向き合おうと、彼の過去の話を聞くことに・・・!?

簡潔完結感想文

  • 1巻丸ごと「僕の考えた最強のトラウマ」を発表する過去編。ヘー ソウナンダーの連続。
  • 家出って心配してもらうためにする甘えだよね、と 照の気持ちを考えない黒崎に思う。
  • 黒崎の能力と過去のインフレと同様に奏一郎の聖人化が止まらない。照は その後継者。

えた設定を漏らさず伝えることに必死な 8巻。

これまで ずっと匂わせるだけ匂わせてきた黒崎(クロサキ)の過去が全て明らかになる。『8巻』は黒崎の過去と向き合うことを覚悟した照(てる)が黒崎以外の人たちから過去を聞く。これによって ようやく黒崎や理子(りこ)が語っていたことが分かり始める。ここまで長かった。もう少し器用に情報を小出しにして、最後に黒崎が照の兄・奏一郎(そういちろう)を殺したという言葉の真実が分かるようになれば良かったのに。長期連載に不慣れで この設定を作り出すことに必死な新人作家さんに そこまでのことは望めないか。

…というか ここまで思わせぶりな台詞を繰り返して時間を稼いでいただけで、ようやく設定が整ったから過去編が描けるようになった という内情だったりして…。

過去編の説明ゼリフのオンパレードから生まれる退屈さを小休止を挿んだりや語り手を変えることで回避しようとする努力の痕跡が認められるけれど、どうしても文字数が多くなってしまう。作者が おそらく担当者と額を寄せ合って考えてきた設定を漏らさずに伝えることに必死で余裕がないような印象を受ける。どうも作者自身も全貌を100%理解しているか怪しく、それらしい単語を並べて読者に雰囲気だけ理解してもらおうとしていないか。

総務省――― え…? そこって どんなところのか想像がつかない…

初読の感想は 取り返しのつかないインフレがはじまった!だった。少女漫画としてヒーロー・黒崎の過去を重くしようという試みは分かるけれど、そのために作品のスケールを一つの学校から国家まで広げてしまったのには唖然とした。そこまで話を大きくする必要があったのだろうか。政府とか政治家、国家機密に『8巻』だけで2つの怪死と序盤からは考えられない単語と展開の連続だ。でも読者の人気を博したのは そこじゃない…


女漫画読者は年齢的なこともあり熱中しやすい。その熱量を獲得することが大変難しく、熱中しやすい状況のために癖の強いヒーローとか1話でキスをされちゃう強引な展開が利用される。一度 熱中してもらって主役カップルの恋の応援団となった少女漫画読者の熱は冷めにくい。熱中してくれる読者は作品を全面的に、もしくは盲目的に支持する。自分は素晴らしい本を読んでいるのだと夢中になってくれる。

作者は連載しながら奥行きを作る難しい作業を丁寧にこなしている。そのお陰で読者の熱狂は冷めない。でもさ もう一度言うけど序盤が好きだった読者は こんな壮大な(ともすれば荒唐無稽な)話を本当に望んでいたのだろうか。やや冷めている私は そこがずっと引っ掛かる。

気になるのは黒崎の能力のインフレと同様に、故人である照の兄・奏一郎の聖人化。最初から悪い人だとは思っていないけれど、ここまで人のために尽くせる人だとは思っていなかった。亡くなっていなければ確実に黒崎よりも人気が出て主役を食っていたのではないか。

そして奏一郎を聖人化するほどに その正統な妹であり後継者である照もまた聖人に近づく。これまでも何度も照は奏一郎のような強さと正しさを発揮してきたけれど、その奏一郎と脳内で会話が出来るほど彼の精神を引き継いでいる照は やがて彼のようなカリスマ性を発揮することが約束されている。奏一郎亡き今、黒崎の罪を許すのは照しかいない

一方で黒崎は本当に弱い。過去編を読むと彼の抱える照に嫌われる恐怖も理解できるけれど、過去の失敗での逃亡はともかく、現在でも照から逃げ出す形になるのは良くない。何のために奏一郎が黒崎のために動いたのか、何を問うていたのかを黒崎が理解していないように見える。
また『5巻』で照に贈るアクセサリは もう餞別ではなくなった と言っておきながら結局 逃亡していて あの言葉は何だったのかと呆れる。豆腐メンタルの黒崎のセンチメンタルは悲劇のヒロイン思考で気持ち悪い。照が自分のことを好きだと分かっていながら放置するのも自己本位だ。

作品に熱中していれば黒崎の弱さも切なさの燃料になると思われる。でも私は弱すぎて幻滅してしまう。DAISYとしての罪、黒崎としての罪、それから どれだけの時間が経過しているのか。そして照と出会ってからも半年以上が経過しているのに その間 少しも覚悟が固まっていない。能力のインフレ同様に黒崎は底なしに弱体化していないか


が危惧していた通り、DAISYの罪を暴露された黒崎は観覧車事件の後に行方をくらます。黒崎は自分の過去の産物に落とし前をつけるために動く。そのために竹田(たけだ)を利用する。以前も書いたけど竹田のポジションが初登場時の感じから かなり変化している。竹田は黒崎の目的を理解して それを理子(りこ)たちに伝える。

黒崎を失った照はメンタルを崩しかける。心配する友人たちの中でも清(きよし)は自分の過ちを赦してくれた照の現状が見ていられず拳で語る。それは照の強さを誰よりも知っているから出来ること。だから照は黒崎の過去を知りたいと強く願う。ページを埋めるような回想やポエムが挿まれて いよいよ照は黒崎の過去を知っていく。


DAISYだった要注意人物の黒崎は現在も監視・保護を受けている。その役割を担っているのが喫茶お花畑のマスター・増田(ますだ)。彼は総務省の機関と繋がっている。へー ソウナンダ…。そして黒崎の産物である暗号ウイルス「Jack’o Frost(ジャックフロスト)」は国家の機密に影響するという。へー ソウナンダ…。

テクノロジーの発達で日に日に暗号の重要性が高まり、その国産化を目指すために作られた暗号が通称「JACK(ジャック)」。喫緊の課題に対し実用化を急いだ政府は一企業に全てのプロセスを任せた。この企業に所属していたのが理子や理事長など現メンバー。

その性急な開発に異議を唱えたのが以前も名前が出てきた緑川(みどりかわ)教授。しかし緑川に同調していた官僚がスパイ行為を行い機密情報が海外に持ち出されるという情報が緑川の名で通報され、その官僚は事故とも自殺とも言えない状況で死亡する。その官僚こそ黒崎の父親だった。


崎がDAISYになったのは父の死の真相を探るためだった。父の死後、黒崎は施設に引き取られ、父の噂で酷い扱いを受け施設を脱走。再び黒崎の名が知られるのはDAISYになった後だった。一官僚の死を噂される施設って何? そもそも国産暗号のプロジェクトは極秘なんでしょ??

緑川教授は照の兄・奏一郎(そういちろう)の大学時代の恩師でもあり、そこで奏一郎は同じゼミ出身の黒崎の父とも交流があった。兄は両親の死によって大学を中退し、照を育てることになった。ここでは照の両親の死の理由や、黒崎の母親のことは触れられない。少しぐらい語ってくれた方が読者もスッキリするのに。もし もっと2人の過去が必要となるなら この辺が鉱脈になるだろう。


一郎は妹との生活のため大学時代の繋がりを断つ道を選ぶ。それは緑川派がいる企業ではないと対外的にアピールするためだった。
その数年後、要注意人物となった黒崎は その企業に配置される。DAISYはそれほど優秀な暗号ウイルスを作っていたのだ。ただ その配置の前に黒崎は父親のスパイ容疑を認めるように強要されていた(どこの組織なのか不明)。そうして心が折られた状態で黒崎は社会人になる。

DAISYとして黒崎が作った暗号ウイルスこそ「Jack’o Frost」。それは国家機密暗号「JACK」を用いたウイルスで感染したPCのデータを暗号化し無効化する。送り主の指示通りの手順でしか修復できないのが このウイルスが完璧と言われる所以。その凶悪性を誰よりも理解しているから黒崎は それを封印した。だから現在 巷で出回っている亜種の存在も許せないから破壊して回る。


会人として働き始めた黒崎に奏一郎は誰よりも冷たく当たる。それは黒崎を仕事に熱中させて自分を遠巻きに見る人間の噂や視線からシャットアウトさせるためだった。そして2人きりの時に奏一郎は黒崎の孤独な戦いに理解を示し、無表情だった彼に涙を流させる。飴と鞭を上手に使い分けているのは初期 黒崎っぽい。つまり その人を好きにならずにはいられない完璧なテクニックに見える。

奏一郎は黒崎をDAISYにして照を託したけれど、同時に照に黒崎を託したのかも

後から理事長こと安藤(あんどう)が研究室から転属され、今に至るチームが完成し優秀な業績を収める。しかし その後 今度は優秀な奏一郎が研究室に配属されることになり、そのタイミングでチームのメンバーもまたセカンドキャリアを形成する。安藤が理事長になったのは親族のコネ。じゃあ養護教諭・森(もり)を雇ったのは安藤の親族なのか? 私の予想では照を守るシフトが組まれたのかと思っていたけれど。あと安藤は理事長になって2年未満みたいな話があったけど ちゃんと計算あってる?

そんな頃、緑川教授が登場する。奏一郎の緑川禁止令は解かれたのか不明。緑川教授は黒崎の父親の名誉回復のために事件の真相の発表と国産暗号の弱点を世間に公表しようと考えていた。真相は語らないまま自分の意向だけ奏一郎たちに語っていた。


崎は大学進学と その先のキャリアを描いており、その一歩を踏み出し始めていたが、奏一郎と緑川教授のPCが「Jack’o Frost」に感染。そして緑川教授は自殺とも他殺ともとれる薬物注射により死亡しており、奏一郎は病気が発覚していた。緑川教授の第一発見者の黒崎は容疑者の第一候補になるが、奏一郎は彼の無実を証明するためにチームを率いる。

黒崎の回想によって ある人物と話した後、自分の手で「Jack’o Frost」を再び作成したことが判明。自分の行動と緑川教授の死が結びついてしまった黒崎は自責の念で存在を消そうとするが その直前に奏一郎が確保。奏一郎が自宅に黒崎を連れ帰ったため この日、黒崎と照が初めて接点を持つ。緑川教授が奏一郎に手渡していた手紙には黒崎宛のものもあったが、肝心なことは書いていない。真実は いつも向こう側に置かれたままだ。

奏一郎の聞き取りで黒崎は罪の意識を利用され洗脳状態になったことが判明する。黒崎を「洗脳」したのは本来 会社にいるはずのない人。これは森と似た状況だ。
黒崎の無実は やがて決まるはずだったが政治家の介入によって黒崎に殺人容疑がかかってしまう。その冤罪を晴らせるのは緑川教授のPCデータだけ。「Jack’o Frost」により暗号化されたデータを引き出し事件の真相を掴むことしか黒崎の無実への道は無くなる。そこで駆り出されるのが奏一郎。彼は文字通り命を燃やして その解読にあたる。それは自分の病気の治療か黒崎の無実化を選ぶということだった。