
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
少しずつ変わりつつある、クズ教師・灰仁と女子高生・扇言の関係。夏を迎えた二人の恋は、次第に火照りを帯びてゆき――。「そんなのにビビってて女子高生に恋なんてできるかよ」炎上手前のキケンなつり橋効果LOVE!
簡潔完結感想文
- 避難訓練に水泳の授業、夏休みの宿題の学校イベントの全てをイチャイチャ回にしてしまう2人。
- 目の前にいる浴衣イケメンを無視して盗聴犯に愛を呟く扇言は友情よりも恋愛を優先するタイプ。
- 「先生」とは先に生きる人。灰葉はボーナスステージに到達させてくれた先人の真似をして生きる。
嘘の中にある真実と、コメディの中にあるシリアス、の 3巻。
本当に本書は様々な要素のバランスが良いと思う。
例えば我慢と衝動のバランスが良い。それが本書の品の良さに繋がっている。ヒロインの扇言(みこと)は教師の灰葉(ハイバ)への気持ちが抑えられないが、抑えないと灰葉の教師人生を終わらせてしまう。死にたかった自分を止めてくれた恩人の社会人としての人生を終わらせる訳にはいかない。だから扇言は灰葉に動きそうな自分を律する。この自制があるから扇言は、教師という教室の支配者に愛される自分に酔うヒロインと一線を画す立ち位置になっている。そもそも灰葉は副担任で支配者じゃないし、彼が この世界で一番 格好良いという立ち位置じゃない。蒼井まもる さん の『さくらと先生』でも思ったけれど、色々と倫理的な問題のある教師モノでは教師にマイナス要素(ナルシスイケメンではない)を付与させ、ヒロインである生徒側にも落ち着きや精神的な成熟があると良い。それがないとヒーロー側が顔の良さを自覚したロリコン男でしかなくなる恐れがある。
そして それは灰葉の側も同じ。扇言が相手の立場に立てる人だから好きになり、その扇言を困らせたくない。だから自制しようと試みるけれど、男性キャラとの接近で その我慢が限界を迎える。そうして衝動で行動して痛い目を見る(物理的に)。2人だけの世界から、2人以外もいる世界が広がることは彼らの関係性の露見に繋がる、という緊張感の拡大も よく出来た世界観だ。
この2人の気持ちのバランスも良い。灰葉が積極的にアプローチするのが基本形だけど『3巻』ラストのように扇言も灰葉と一緒にいる時間を確保しようとしていて不器用に嘘を付く様子に好感と共感を抱く。


コメディの中にシリアスを、日常回の中に縦軸を用意する手腕も素晴らしい。
今回は灰葉の人生を救って、今も彼が生きている状態を続けさせている灰葉の「先生」のことが少し分かる。この先生の存在が無ければ灰葉は自殺を未遂ではなく完遂していたかもしれず、先生が灰葉を教師にさせ、扇言との出会いを繋げてくれたとも言える。
まだまだ断片的な「先生」の情報だけど、ここまででも灰葉は先生を模倣して生きているように思う。わざわざ割高な家賃を払って先生と一緒に暮らした家に住もうとしたり、自分が救われたように扇言を救ったりするところに先生の強い影響を感じる。飼い始めた猫・モンローに対しては乱暴な言葉で愛情を注いでいる。それは先生がそうだったからで、親子のように口調や性格が似た結果なのだと思う。
今回、その先生の墓参りを灰葉がしているけれど、2人の関係性が明確に変化したら この お墓に扇言が手を合わせることがあったりするのだろうか。
灰葉は先生に救われてから生きている時間を「ボーナスステージ」と言っているけれど、その時間の中で扇言に出会い、大切に想うことで死ななかった自分、死なないようにしてくれた先生への感謝が絶えないだろう。きっと扇言も あの時 死ななかったから享受できる素晴らしい世界を痛感する日が来るはずだ。色々な死に方を教えてくれる作品だけど、その裏には生き続けることの喜びが ちゃんと描かれている。そのバランスも本当に秀逸だ。
他の生徒や教師の目が別のところに惹きつけられている間にイチャイチャする2人。冒頭は避難訓練中に怪我の手当てをする名目で保健室の2人となる。学校の中で頻出する場所は保健室だろうか。格好つかない灰葉は何かと怪我が多いような…。
穏やかな人生でも不慮の事故でも2人は一蓮托生であることを確認し合う。『2巻』のラストに続いて灰葉の自制心が試されている。この灰葉側からの衝動に愛を感じて、読者の承認欲求は満たされる。
プール回。だけど水着回ではない。焼死や溺死など人の死に方のバリエーションと その実情を教えてくれる。どちらも一番 苦しいと書かれているが本当は どっちなのかは2つの死を迎えなければ分からない。
前回の火事の話を実践するかのように、灰葉は どんな状況でも扇言を助けようとすることが実証された。色々あって灰葉だけプールの中にいる時は扇言の方が視点が高い。濡れた灰葉との2人の場面は色っぽい。ヒーローでありながらオチ要因にもなれる灰葉は便利なマルチプレイヤーだ。


墓参り回でメメントモリ。
作中で夏休みに突入して扇言は夏休み序盤は実家に帰っていた。扇言は一人暮らし状態なので ついつい親は お亡くなりになっている白泉社が大好きな悲劇ヒロイン仕立てだと思ってしまうけれど両親は健在(出てこないけど)。
それぞれ墓参りをしているのには理由がある。灰葉の方の理由が語られ、これまでも断片的に描かれてきた灰葉の絶望を救った「先生」の存在が語られる。灰葉の親みたいな人。その人は もう亡くなっているようだ。でも灰葉は どんな扱いを受けても、鈍い輝きを放つ思い出であっても忘れないから墓参りに来ている。
扇言が誰の墓参りに来たか灰葉は聞かない。そして同じように死に引き寄せられているであろう扇言と一緒に帰る。誰かと一緒に住んでいた記憶を自分たちが一緒にいる記憶にしていく。飼い猫のその後が描かれ、灰葉は口悪く可愛がっている。増えた猫グッズが その証拠。それは「先生」のような接し方なのだろう。
夏祭り回。扇言は一馬(かずま)と約束していることに対し灰葉は妨害したいけど妨害しないよう努める葛藤がある。以前なら色々と理由をつけて強引に扇言と行動していたけれど、扇言に自殺衝動がなく、むしろ灰葉と生きたいと願うほど灰葉は扇言と どこにも行けない状況となっている。
灰葉に 盗聴され 見守られながら扇言は灰葉に語りかけながら夏祭りを楽しむ(一馬に ちょっと失礼な気がするけれど)。一馬には恋の障害がないことを改めて気づいた灰葉は落ち込む。そこに灰葉の心境を知らないまま扇言が現れる。だから灰葉は扇言を戻したくなくて、ただただ純粋に彼女を束縛する(抱きしめる)。
その決定的な場面を一馬が目撃。修羅場が始まるはずだったが次の回で早々に場面が切り替わる。『2巻』の閉じ込め回でも そうだったけど読者の予想をアッサリと裏切る。過程を飛ばした結末から語られることで何が起きたか と読者の興味を引かせている。一馬の追及に灰葉は全力でシラを切り、扇言も それに乗っかる。灰葉の人としての欠点が多いため扇言の否定に説得力が増す。
上手く切り抜けた灰葉だったけどオチ要員なので墜落教師となる。ただ このヒヤリハット案件は扇言を一層 臆病にさせる。それでも灰葉が放さない姿勢を見せることで扇言の罪悪感や負う責任を自分に移す。
長期休暇の後の学校は憂鬱な危険日。
それに加えて扇言は夏休みの危機一髪の体験から灰葉との接触を避ける。その事態に憔悴した灰葉は扇言との接点を持とうと努め、ちょっとした勉強回が始まる。自分が問題を間違えると灰葉の教師生命が危うくなるような接近があるので扇言は全集中して課題を終わらせる。このセミオープンな空間での灰葉個人塾で勉強したら扇言の学力は更に上がりそう。
今回は扇言の嘘がバレて終わるイレギュラーな展開になっている。どちらも必死に接点を作る言い訳を探しているようだ。
